そうそう上手はくいかないもので (どちらの側も)
ナオはリベッチオに向かって指を3本立てる。突入のタイミングである。
リベッチオが小さく頷く。
3
2
1
0で二人は一気に階段を降りて室内に突入する。
ぶん
空気を裂く鈍い音と共にふたりの脛に鈍痛が走る。
「夜番が勝手に外に出る訳ないだろ。バカか?…ってエルフか」
禿頭は木刀を構えたまま卑下た笑いを浮かべる。
「いいね売り物が飛び込んで来た」
禿頭は床にうずくまるナオの顔をクイッと持ち上げる。
「うん?紐付きか?」
ナオの首に嵌っている奴隷の首輪をみて舌打ちをする。
「ミカワヤの旦那。こっちもエルフで首輪付きだ」
禿頭の向かいにいた虎人がリベッチオの顔を持ち上げて報告する。
「首輪の色からして経済奴隷か」
ミカワヤはふむと顎に手を当て考える。
奴隷の犯罪は持ち主の罪であり相当の額の賠償金が取れる。
また上手くいけばこのふたりのエルフの身柄を譲渡してもらえるかもしれない。
奴隷6人。上手く捌けば大金持ちである。
「児痴。このエルフを縛っとけ。朝になったら番所に引き渡すぞ」
ミカワヤが虎人に指示を出す。
「了解しました。おい羅美。縄をもってこい」
児痴が女の猫人に命令を出すと猫人はノロノロと動き出し部屋の隅にあった縄を手に取り児痴に渡す。
児痴は器用にリベッチオを亀甲縛りに縛り上げていく。その手際は職人の領域である。
「クッ殺せ」
「クッコロとか。大事な売り物は口を慎め」
ナオのつぶやきにミカワヤは笑いながらナオの背中に蹴りを見舞う。
「旦那。それ以上はいけない」
児痴が止める。
「そうだったな…下手に痛めつけて呪われても困るな」
ミカワヤは顔を歪める。
「興が削がれた。児痴。お前は上のを片付けておけ。俺はこいつらを固定しておく」
「へい」
児痴は階段を上がっていく。
「おいおい…マジかよ」
児痴は床に転がっている元仲間の死体を見てほぼ一撃で仕留められているのを見て感嘆のため息を漏らす。
そして足早に店の壁にある棚に置いてあった人ひとりが余裕で入る麻のズタ袋を取り出す。
この麻のズタ袋、攫ってきた人間を入れるのが主な用途である。
「性奴隷より戦闘奴隷のほうがいいんじゃないか?暗殺専門でやっていけるだろ」
グチグチ言ってる児痴の背後で男の死体に近寄る黒いものがあった。
黒いものは男の死体の空いた首の傷から男の体内へと潜り込む。
ずざ
何かを引き摺る低い音。
「あん?」
児痴は音のした方を見る。
そこには喉を掻き切られ真っ青な顔の男が立っていた。
「なんだぁ」
混乱しつつも児痴は生きた死体に蹴りを入れる。
どご
派手な音と共に生きた死体は壁際まで吹っ飛ぶ
が、生きた死体は何でもなかったよう…いや首が取れかかった状態で立ち上がった。
「あ、たらしい死体…うごか、しや、すい」
どういう仕組みか生きた死体は女の声で喋る。
児痴は右肩を前にして大きく息を吸い込む。
「猛虎棘破!」
叫び声とともにぼこんと児痴の肩が大きくなり、児痴はその状態で突進する。
ぐしゃ
生きた死体が壁と児痴のショルダータックルに挟まれて潰される。
「おい。何事だ」
派手な音に地下からミカワヤが急いで上がってくる。
「いえ、死んだはずのドンがいきなり起き上がって襲ってきたんです」
「おいおい。生きた死体とか洒落にならんだろ」
ミカワヤは顔を顰める。
鉱山事故など悲惨な死が多いためか、ここは生きた死体などは比較的発生しやすいのだ。
「念のためだ。残った死体は縛って動けないようにしておけよ」
「はい」
児痴は肩を竦めて残った死体に近づく。
がっ
いきなり男の死体が児痴の足に噛みついた。
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