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曽祖父の遺産に惑星一つ  作者: ゴート
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009 思いの外沢山集まった

 皆にお茶が行き渡ったが誰も手をつける様子が無く沈黙に包まれる室内。もしかして「お茶」という物が存在が無いのかな?一口お茶に口をつけてみせてから話し掛ける。

 「さて、ネネちゃん。なんか人が増えてるけど、どういう事かな?」

 「えっとね……」

 「あの賢者様すいま」ウサギの人が割って入るのを遮る。

 「俺は賢者じゃない。曽祖父が賢者と呼ばれていたかも知れないけども、俺はここの事は全然知らないし、賢者と呼ばれる様な事もしていない。だから賢者と呼ばずに名前の徹と呼んでくれ。で、こちらもネネちゃん以外の名前を知らないので、教えてくれるかな」

 「「「はい、トール様」」」

 三人の声が重なるが、何故か揃いも揃って発音がおかしい。

 「里のウサギの民のまとめをさせてもらってるササです」

 「里の猫の民の頭をしている白露です」

 「里の牛の民の長の左之助です」

 「えーっと、ただの徹です」

 妙な沈黙が流れていく。ちょい辛い。あ、この香りは米が炊き上がる。蒸らしに入らないと。少し中座する感じで竈から土鍋をずらしてネネちゃんに話を振る。

 「あーネネちゃん。この前お願いした石、どのくらい集まったかな」

 すると、ネネちゃんはリュックサックを、他の三人は大きな皮で出来た風呂敷状の物を差し出す。何か全部ずっしりと入っている感じがスゴい。

 「「「お納め下さい」」」

 あ、なんか悪代官にでもなった気分……。悪い事している気になってしまう。

 「あー、ちょっと確認させてもらうね」

 まずネネちゃんのリュックサックから。鶏と同じぐらいの3mm程度の小粒な物が多いけども、うっすらと光る石が詰まっている。

 「何処で集めたのかな、こんなにも」

 「河原で集めたの。小さいのならもっとたくさんあったの」

 「へぇー、小さいのが必要になったら、またお願いするね」

 「うん!」

 じゃ次はウサギのオッサンのササさんのを。ネネちゃんよりも5mmから1cmぐらいとバラツキはあるけど、ほぼ全部うっすらと光っている。これも使えそうだ。

 「こちらは何処で」

 「川底を探しました。まだ探してない場所もあるので、まだあるかと」

 「いや、まだ水が冷たいでしょうし、農作業もありますでしょうし、これだけあれば当分大丈夫です」

 次は白猫の白露さん。名前からして女性なんだろうか。ネコ耳ネコ尻尾だけど、顔まで猫で受け入れる程のケモナーじゃないので、萌えない……。美猫さんだと思うけど、等身大の猫って多分無茶苦茶身体能力高そうだから、ちょっと怖い。

 「じゃあ、こちらを拝見……」

 ゴロリとソフトボールより大きいのが三つ出てきた。一つは少し曇っているけど、残り二つはピカピカ。その他にもピンポン玉より大きな物ばかりがゴロゴロと。

 「こちらは何処で……」

 「その少し白く曇った物を以前、里の南の沼にいる大きな亀から出てきたという話が伝えられていたので、今回二匹狩りに行って参りました。残りの玉は猪やトカゲや普段獲っている物の骨の山から拾って参りました」

 「ああ、ご苦労さまです。こんなにも大きいのがあるんですね……」

 《それは大きいな。大出力の機能が組み込めるだろう》

 この世界で大出力を要求するような事があるんだろうか。害虫害獣駆除で大出力レーザーとかだろうか。

 さて、最後。牛の人。

 「じゃ、最後に……」

 少し白く濁っているけども、大体テニスボールよりも少し小さい感じで大きさが揃っている。

 「こちらは何処で」

 「うちの民の祖先の玉だ」

 「へっ?」

 「うちの民は死んだ時に肉や骨は猫の民に提供するが、その玉だけを子孫に残す」

 「……これは受け取れません。それぞれ子孫の方に返して下さい」

 「それでは牛の民は賢じ……トール様の恩恵に預かれないのか?」

 「いや、もうその気持ちだけで十分です。ちょうどご飯も蒸し上がった様なので朝ご飯食べましょう」

 

 白飯にガラスープにキャベツ突っ込んだだけの汁に薄味のヤマメモドキの串焼き。串はそのまま喰いかねないので抜いたけども。調理という概念が無かったような世界の住人だったけど、先日の塩むすびを食べているのか聞いているのか向こうから問い掛ける事がない。

 俺は箸を使うが、彼らには匙で食べて貰う。皆一度はチャレンジしようとするが、ご飯がこぼれたのを自覚して諦めたようだ。が、そこから食う速度がすごかった。特に牛の人。鯨飲馬食というが、体の大きさに合わせたつもりの器と盛りのご飯に汁が瞬殺された。残りの人のを恨めしそうにみているので、土鍋の残り分のご飯と、寸胴の汁をそのまま上げた。

 他の面々も無言で飯を掻き込み、汁を飲み、ヤマメモドキをバリバリと頭から食っていた。ウサギの頭で魚食うとか違和感あるだろ。というかウサギの表情はわかりにくいな。猫は飼っていた事があるから、なんとなくわかるというか、瞳孔開いてるし。私以外は食べきり呆然としている中、私も食い終わりお茶を再び淹れ、里の生活について話を聞く。

 

 牛が土を耕しウサギが種を植え、牛が水を撒き猫が畑と村を守り、ウサギが採取と収穫する。

 川の近くに水田があって、隣に麦や野菜があって、その外に蕎麦や粟等の雑穀が栽培されていると。南には森が広がりその少し先に先程の沼があると。森には猪や狼もいる。木を斬って里を広げたい。偶に他の獣人も来たことがあるけど、言葉が通じなくて定住することなく消えていったと。

 で、ウサギや牛の人は出来た作物を調理することなく食ってると。猫の人は生野菜は食べていたけど、基本生肉や生で虫を食ってたと。

 えーっと、言葉があって農耕文化があるのに、火を使ってないんですか。先祖を敬って大事にする信仰に近い文化も出始めていて火を使っていない。何処が弥生時代じゃ!一応木鍬や石ナイフに革袋があるようだけど、何故、火が無い。当然土器も無い。種籾とかは、竹筒や革袋で保存ですか。うーん、爺さん何を考えてたんだろうか。

 ま、日本語が通じるというレベルとこちらに殺意を向けないという点だけで良いと思うべきか。実際、言葉の通じない獣同然の連中に、爺さんは日本語が通じるようにして、農耕文化を根付かせた訳だし。

 

 とりあえず前向きに現状を把握しよう。

 まず、俺のわかっている範囲が狭過ぎるので、先日の紙とペンでこの家と滝壺と川を描いて、その外を四人の意見を合わせながら里のわかっている範囲まで埋めていく。

 竹林をあと倍ほど切り拓いたぐらいを抜けると、彼らにとって不可侵領域で"賢者の園"があり、真っ直ぐな川沿いに田んぼや畑があり、更にその左右に色々と果物の木が植えてある。

 田んぼの大きさは里と同じ"一反"が五枚ずつだから……とか会話をしていて、イヤな予感がしたので、

 「えーっと、ちょっと待って。ネネちゃんちょっとそこで真っ直ぐ立って」

 「はい!」

 「さて、このネネちゃんの背の高さはどのくらいですか」

 「四尺になったと思いますが……」

 「耳まで入れれば四尺六寸ほどでしょうか」

 「ウサギの民は大体四尺であろう」

 おう……尺貫法だ。一尺が30.3cmだっけ。で、一反は300坪だから、あー江戸間とかなんかあったなぁ、どっちなんだ。まず一坪180*180cmとすると、972m^2。正方形として約31mか。酒呑みとして日本酒の一升とか一合は許せるけど、その他の尺貫法やヤードポンド法は許せないので近いうちにこれは是正せねばならない。その為にもこちらの信用を先に植え付けるしかない。

 「あ、いい。わかった。元の地図の話に戻って」

 皆の不思議そうな顔を受けつつ地図を埋めていく。盆地状の川の両側で森も含めて150m*300mぐらいが爺さんの畑か。でも耕作放棄地を余らせておく意味も無いよな。

 そこで一度、盆地の一箇所から川が流れて、少し急流が続いて里に到着と。急流も150mぐらいあると……。いや、道作るの長いな。山肌砕いて道を作るレベルになるかも知れないな。

 里の田んぼと畑に関しては無計画過ぎる混沌さ。これで牛の人が100人、ウサギの人が100人、猫の人が50人。これはアカンですわ。餓死者や共食いが起きてもおかしくないじゃない。水回りから全部やり直さないと効率悪すぎる。畜産も養殖も無いと。

 「あー大体わかった。で、前回ネネちゃんから食べ物が足りてないとか云われたけども、その爺さんが開拓したその君らが"賢者の園"と云ってる所使っていいから。なっている果物にしろ野菜にしろ手付かずになって何年も経っているからどうなっているか知らないけど、どうぞ使って下さい。でも、将来、そこは溜池にするからそこを借りる程度で、里の外を開発しましょう。そして今の里もキチンと整備しましょう。その為にも今の作業効率を上げる為に道具を変えましょう」

 猫の人の瞳がネネちゃんも持つ槍に向けられた。や、確かに欲しいんだろうな。

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