005 結晶
晩飯後、囲炉裏に当たりながら爺さん秘蔵のバーボンを飲みながら、出汁をとりきった鶏ガラを消石灰をはじめとする物に分解していた。
頭を粉にしている時に、薄く光る玉が灰に落ちた。拾い上げてみると直径3mm程度で色々と分解してみようとするか、なんら変化がない。
「先生、これなんだ?」
久々に聞いてみる。
《生体中に取り込まれたナノマシンが結石化して濃縮を重ねる事により結晶化した物だ。脊椎動物等は海馬の下辺りに出来る事が多いようだから、頭蓋骨の中から出てきたのだろう》
「結石ということは、年齢と共に大きくなるの?」
《然り》
「で、これ、何かに使えるのかな?」
《その程度の大きさなら簡単な命令を実行し続けるだけの機能を焼き込む事ぐらいだな。大きくなれば複雑な機能を組み込んだり大出力のエネルギーを供給することが出来る》
ふーむ。とりあえず灯りが欲しいので、手のひらにその結晶を乗せて60w位の白熱球の光をイメージしてみる。
すると、薄暗い光っていた玉が強く光を発する様になった。スイッチを切る様に消えるイメージすると、元の薄暗い玉に戻った。これは便利だ。だけど、これのエネルギーって何処からきてるんだろう……
《ナノマシンの結晶はその大きさに応じてエネルギーを蓄える性質がある。また、最大限のエネルギー容量になるまで周囲のナノマシンからエネルギーを吸収する性質がある》
とりあえず囲炉裏の上に吊り下げて、他のまだ煮ている鶏ガラも頭だけ切り落として分解してみると同様に3mm程度の結晶が出てきた。一つ一つは単機能かも知れないけど、組み合わせればイロイロと作れるかも知れない。あ、それにこれがあれば竹林を切り拓けるかも。
一つつまみ上げて、手のひらで回る様にイメージする。クルクルと周り始める。加速減速を繰り返して自在に動くことを確認して、枯れた竹を掴んで奥の石切場に向かう。
竹の直径が15cm以上あるようだから、半径20cm、直径40cmの丸鋸をシリコンカーバイトで作ってやれば、バッサバッサと斬れるハズだ。ということで、回転軸の中心に結晶を組み込み、薄い円盤を作り周囲を互い違いに切り込みを入れてノコギリ状にする。それを挟む様にシリコンナイトライドで保持して回転させてみる当初多少のふらつきがあったが、数分で全くブレない軌跡となった。あまり重くしたくないので、2m程のアルミニウムの棒を角度を着けて、草刈り機の様な物を作り上げる。
これで道を拓く目処がたった。よし、寝よう。
朝はナナの声で起こされた。生の鶏の半身を与えたら、バクバク食って、あっという間に食い終わった。そして、ナナ用の扉から駆け出していった。相変わらずテンション高いわ。
こちらは鶏ガラスープでお粥を作ってゆっくりとした朝。とりあえず里に降りる道を作りながら、ナノマシンの結晶探しだな。滝壺の主とか大きな結晶を持っているかも知れないので、機会があったら狙ってみたいな。
でも、とりあえず冷蔵庫作らないと。
業務用冷蔵庫並の真空断熱のシリコンナイトライドの入れ物にアンモニアガスを冷媒として配管を巡らせ圧縮機と圧力解放弁の二箇所に結晶を使ってみる。
パッキンとか全然使ってないから冷気が抜けると思ったが、予想以上によく冷える。とりあえず成功ということにしよう。
トイレも便座やその他揃えて照明以外は、完成。
風呂も残り一つの結晶でバイパスで加熱するようににして、排水の最終段階で浄化槽というか沈殿槽を作っておいた。結晶に予備が出たら分解するようにしよう。優先度は低いけども。
さて、竹林を開拓しよう。と、よく考えたら竹林に道を作ろうと思ったら、根っ子から根絶しないとダメか。結構気の長い作業になりそうだ。
昨晩作った丸鋸草刈り機を片手に下草をスパッと切る。何の抵抗もない。竹を切るが、チェーンソー以上にあっさりと切れる。林の中に倒れていくのに任せて数本まとめて切り倒す。ズルズルと引き出して50cmの長さに丸鋸だけ使い切りそろえていく。
ただ切り倒すのも勿体無いのと、これからシリコンカーバイトとか大量に作る時に炭素が必要だし爺さんの残した乾いた竹も少なくなってきたので竹炭を作ってしまおう。
切り出した石で4m*4m*4mの窯を作り、内面をシリコンカーバイトでコーティングして補強する。ドアに窒素だけを入れて圧縮して脱酸素で加熱する方法。上部にT字コックを圧力弁としてつけてある程度の温度が保てたら良いなという適当な設計。
入り口を締めて、空気取り入れ口から窒素だけをどんどん入れて内圧と温度を上昇させていく。竹の中の空気が破裂し少し燃焼したりしているが、概ね白熱した状態になったので、空気取り入れ口を締めた所でナナがまた鶏咥えてきた。肉もだけど、今となってはその頭の中にある結晶が欲しい。
同じ様に内臓をナナの餌皿に落として、残りは頭を落としたガラをスープの寸胴に投入して、残りの身は冷蔵庫に入れて、ご飯を炊きつつ、鶏肉の残りをガラスープで炊き上げる。少し野菜が食いたくなってきた。
飯を食ってから窯の上部のコックを開き圧力をゆっくりと抜く。ピーとうるさいが仕方ない。
午後からも竹林を開拓する。初日に出会った巨大な蟻も出てきたが、丸鋸で瞬殺。これは後で使うから家の前に準備。竹を数本切り出した所で、窯の圧力解放音が消えたので、入り口を開けてみた。
打ち鳴らすと高音のする良い炭が出来たようだ。囲炉裏に投入しても煙も出ないので、概ね成功と言っていいだろうか。ホンの数時間で竹炭が出来るとか、この世界ならではの方法だろう。
次回分の竹をセットして同様に窒素のみを送り込んで圧縮加熱する。
さて、初日に蟻を投げ入れたら飛びついた大魚。返しのついた銛を準備して滝壺の境界ギリギリに蟻の残骸を投げ入れる。
来る所が浅瀬で場所がわかっているなら、刺せるのは当たり前だ。というか数匹居たのに、銛が一本だったので一匹しか捕れなかった。ただ数匹居るというのは、その分の結晶を採れると言う事だ。これは期待が持てるし、白骨化した所にも残っている可能性もあるのか。
で、この大魚は一体何だろう。何かマスとかにもみえるが……。とりあえず捌いてみるか。
小さな鱗をとって腹を割ってみる。この位小さいならとらなくても良いかもと思わなくもない。あ、黄色いイクラ状の卵巣の塊が出てきた。マスなのかな。それにしては異様にデカいですが。三枚におろして、冷蔵庫に入れておく。頭も割って中の結晶を取り出してみる。
ピンポン玉サイズの結晶が出てきた。それなりの事が出来る様になるハズだ。
《そのサイズがあれば私のようなインターフェイスを作る事も可能だ》
えっ、先生も同じ様なナノマシンの結晶なの?
《私がナノマシンの結晶であることには間違いないのだが、その発生は記憶されていない》
ま、まだそういった物が必要になる段階ではあるまい。
白熱した炭窯の圧力を解放している時にナナが前足をひょこひょことさせながら帰ってきた。
《いたいー蟻に食われたー》
左前足が結構大きく割かれているが、全身に噛み傷まみれ。急いで細胞を賦活させるイメージで傷を治す。が、やられた精神的なダメージが大きく寝床で小さく丸まってしまった。水を汲んで目の前に置いてやると首だけ向けて少し水を飲んで、寝てしまった。
自由奔放で天衣無縫なイメージがあったナナだが、やはりあの蟻は集団で襲ってくる可能性があって、あの大きさだ。脅威は排除せねばならない。それも徹底的にだ。




