027 無人偵察機ver1
ちょうど昼ぐらいと思ったら、ナナが鶏咥えてドヤ顔で小屋まで駆けてきた。獲物が大きすぎて少し脚を引き摺っているが気にもしない。
《獲った!》
頭を撫でてやり、いつもの様に鶏を捌いて内臓と血を餌皿にぶちまける。毎度の事ながら口元を血で染めて食う姿はとても飼い犬にはみえない。
鶏ガラは別に冷凍庫に保存して適当に腿肉を照り焼き風に仕上げて、昼飯とする。
で、ナナが再び出掛ける前に先生に訊きながら、ナナの首輪に嵌った結晶を参考に、結晶を用いたナノマシン光通信の仕組みを教えてもらう。
訊けば訊くほど光デジタル通信?暗号化とかはされてないので、これからの課題だけど暗号化とか公開鍵とかその辺りの知識も必要になってくるんだろうな。そんな知識無いので、何かしらの方法で勉強しないとダメなのか。ま、当分はいらないでしょ。
機体の制御と映像のログ転送を組み込んで、更には途中にbotを挟む事によって、投影せずに脳内で映像が再生出来るのと、集中力が切れても安全に帰還するようなセーフティーを設けておく。
とりあえず小屋の中で浮かしてみるとブレずに浮び、サイドのエンジンでその場で方向転換させても安定しているようなので、外装を整えてから屋外に。
公衆浴場の掃除組が中に入って行く所だったけど、ササラとかちゃんと作れたんだろうかと思うが、もう少し様子を見てから訊いてみるか。
さて、こちらはこちらで機体を小屋の前に置いて、縁側に座り試験飛行と行ってみようか。
全長50cm全幅30cmほどのモチーフのブラックバードとは似ても似つかぬ形状に縮尺比になってしまったが、軽いSD化といえばいいんだろうか、そんな感じになってしまった。そんな代物をゆっくりと上昇させて、前方と下方の映像を脳内に投影させる。目の前の風景とその二つが重なり、何か変な感じがする。が、高さ150mぐらいまで上昇させてもみても眼下の風景にも機体の制御も失わない。ナノマシン光通信というものが機能している証拠か。その場でグルグル回して周囲を確認。150mぐらいだとまだまだ周囲の山の方が高い。空いている滝の上も興味があるが、とりあえず大きく拓けている里の方に向かって機体を向けて、胴体中心のメインエンジンをゆっくりと起動させる。
軽い音を立てながら、次第に速度を上げて南の方角に飛んでいく無人偵察機。脳内に映る景色も目まぐるしく変わり予想以上の速度が出ているとは思うが、速度計を積んでないのでイマイチわからない。二割程度の出力で十分な速度が出ているので、次に作る時はもう少し抑え目に作ろう。
とそんな事を考えているうちに、里の南端に。機体を旋回させながらスピードを落として、上空で待機させながら様子を見てみる。南方二面の土塁工事は既に終了間近で、堀は既に東西の堀を掘っている状態か。下手な重機を入れるよりも本当に仕事が早いな。
さてと、例の巨大な亀のいる沼の位置を確認する為に川沿いをゆるゆると南下。大体里の南端から2.5km辺りから葦っぽい植物が生えている所をみるとあの辺りが湿地帯か。それが約直径1kmで猪や色んな動物の水場になっている模様。
沼地か……。亀の巨大な結晶も魅力的だが、畜産が確立する前に猪等々の住処を潰すのは不味い。何処かで鶏と豚の畜産はやろう。
沼地の上空で旋回しながら、周囲を見渡すが南の方角に多少の蛇行はあるが、川が流れているのはよくわかるが、何km先かわからないが東西に両方の川があり、この滝から沼地と繋がっている川と南の方で合流しているのがわかる。周囲はほぼ落葉樹の森が延々と続いている。
とりあえず合流地点まで行ってみるが大体80km前後か。それと同じぐらい先に海らしき大きな蒼い水が見えるので、飛ばしてみる。
大きく旋回してみる。成分は不明だが、これはどうみても海だ。水面下には何か巨大な生物の影も見えるのであまり近づけない。今度、サンプルを回収する装置を取付けて確認しないとダメだが、希望的観測で塩の獲得まで160kmか。人間より身体能力の優れだ彼らの徒歩の速度を考えても、一日40km毎に街を設けるとして、間に三つ作ってやらないと宿場町も作らないとダメか。騎乗用動物や荷物搬入動物を飼育出来るまでは中々辛い物があるな。
街を増やすにしても人口が増えないと意味がないと云えばそうなんだが。
帰りは少しパワーを上げて、飛ばしてみる。実際には慣性のフィードバックなど無いのだが、映像の流れる余りの速度に脳が加速Gを擬似的に感じるほどの速度で小屋の上空まで来たので旋回しながら速度を落として、十分停止状態になってから垂直降下して着陸。音速を超えた訳でもないので機体全体が熱くなっている訳ではないが、意外にもメインエンジンの部分が少々加熱していた。
予想以上に集中していたようで、妙に頭が痛い。まだ東西の川の様子も確認したいが、それほど急ぐ事じゃないので、夕暮れ前に爺さんの畑で適当に野菜を採って、手ぶらで帰ってきたナナに鶏の半身を与えて、自分の分は温野菜に味噌マヨネーズで酒をチビチビ飲みながら、今日の実験結果をbotの記録を参考に里の拡張計画の青写真を描く。
今の里の形が六角形を川が縦断している。それでいて、沼地の辺りの湿地帯は活かしたい。となると、一辺が六角形の水路と土塁を組み合わせて行くと収まりが良さそうだ。戦略シミュレーションゲームのHEXのようでますますゲームっぽいなと自嘲する。
開拓するとしても木を伐る牛の民と護衛の猫の民がセットになって、巨木を伐り倒してそれを製材して、木の種類というか性質次第で基礎杭にして倉庫や住宅の改善か。木の中に虫とかいそうだなぁ。乾燥するまで待つのは良いが何処に置くんだ?初めは割れてもいいから住宅で経験値を積ませて、翌年乾いた木材で倉庫を作らせるという方向もいいな。ノコギリや手斧、鉋、ノミ等々の大工道具とかも作った方がいいのかな。少なくともログハウス程度の住宅ぐらいは出来るようにしてしまえば、あとは同じ物の繰り返しでなんとかなるか。あ、身体のサイズが違うから相変わらず面倒くさいか。
製材所を作ってしまうと云うのが一番早そう。バンドソーだと刃の鋼の部分でメンテナンスの問題が出てきそうだから、バカでかいシリコンカーバイトの丸鋸と水平な台、あとは安全装置や作業手順の徹底か。
どちらにせよ、木を乾燥させてからじゃないと割れるだけだから、早くても来年か。といっても、地球時間で一ヶ月。資料集めて形にするだけの時間としては短い。まあ、誰に対して責任をとる必要性も無いんだけど、言葉を交わせて意志の疎通が出来る彼らを無碍に扱いたくはない。
蟻やトンボが10倍以上の大きさになっているということは、収穫時期に巨大なイナゴの大発生とか起きたら、田畑の全滅どころか里が全滅してしまう。ただ10倍の大きさで飛べるとか跳ねる距離は如何ほどかと、水堀と土塁で全ては防げないだろうなぁ……。一部の出入り口を除いて誘蛾灯で呼び寄せるというのはあると思うけど、昼間行動するイナゴには通用しないか。
スリングショットでブチ抜けるとは限らない。動きも速い。銃器というのも頭に浮かんだが、ここはおとなしく弓かと思うが、毎度毎度の繊維がネックになる。猪の毛を一本の糸にしたが、複数回三つ編みにして強度を上げて小型で非力な人でも扱えるコンパウンドボウで巻き上げ式ボウガンなら、連射は効かないが間違いなく撃ち抜けそうだ。
が、槍にしろスリングショットにしろアウトレンジから一方的に殺る事で里の民の安全を図っているが、コンパウンドボウは流石に飛距離も長く殺傷力が強すぎる。人に向けない事と個人認証つけないと面白半分に狙われて殺されてはたまらん。ナノマテリアル結晶を用いたドッグタグが必要か。