025 蛇は無いわ……
風呂掃除組はいつもの四人組と二人ついてきた。黒猫とまだ人サイズの牛の民。要するに子供という事か。
「九郎って言います。でも、皆クロっていうんでよろしくお願いします」
「与六です。お願いします」
「あー、トールです。こちらこそ風呂掃除お願いします」
四人組よりも明らかに年齢が下っぽい言葉遣いなので、恐怖心を煽らないように、少し心掛ける。
「えーっと、沢山の人が使った跡は掃除をしないと汚れたままです。せっかく風呂で綺麗になろうとしても、風呂が汚くてはどうしようもありません。だから、交代で掃除をするようにお願いしますね」
「はい」
理解していそうなのは三菜ぐらいか。まあ、良いや。
「それで、灰でもいいんだけど、今日は汚れが強いので、この竹に詰めた消石灰という粉を使います。目に入ったり吸い込むと危ないので注意してください。で、直接触れないから、ササラというものを作ってもらいます。これは消耗品なので、みんなに渡してあるナイフで毎回作ったり直してください。じゃあ、みててね」
と、切ったばかりの生の竹を細く割っていく。全部で一握り程の太さになったら、割った竹の数本の皮を薄く剥いて縛り上げて完成。
「さあ、やってみて」
こういう手先の器用さはネネちゃんが抜群か。ついでノノ、ムムと続き、三菜と。クロと与六はネネに教えて貰いながらやっていたけど、その間にノノとムムが二人の分を作ってしまったので、二人は後日練習という事で、掃除にかかる。
排水口に毛が溜まっているわ……。それに床が古びた中華屋じゃねぇんだからというぐらいに脂が浮いてる。
「えーっと、手でとれる毛は集めて捨てて。後は濡らして石灰を撒いて、さっき作ったササラでゴシゴシ擦ってお湯で流しての繰り返しで、お願いします。石灰は直接触ったらすぐに洗い流してね。それであとは男子は男風呂、女子は女風呂担当で。はい頑張る」
といって、俺はUターン。
と、思った所で、レンガを焼いている炉の温度が十分に下がったようなので、開けて確認。
予想以上に縮んでいる。収縮のブレの為か一割近くにヒビが入っているなぁ。練り混ぜを人力でやるのは、こういうムラが出来るのは仕方ないか。水を上からかけてみると十分に間隙が開いているようで、水がレンガの下からダラダラと流れ落ちる。
ホントはレンガ舗装したかったけども、左之助右之助コンビのパワーで土と岩を固く叩いて締められた道路が余りにも出来が良かったので、宙に浮いてしまったこのレンガ。レンガ組みの住宅とは云わないけど、里の食料庫とかをこれで作るぐらい?収穫量がわからないので、今考えても意味がないか。俺の里での拠点を作るにも微妙に足りない。家の周りに敷くぐらいか。無駄になってしまったが、まあ、焼き物の練習と思うしかないか。全部取り出して入れ替えるにしても、重すぎるし、力仕事は牛の人達の仕事。ま、暇な時に入れ替えてもらって次を焼くだけは焼いてみよう。彼らが使ってみたいという案を持ってくるかも知れないし。
縁側でJAの方に頂いた資料を読み込んで、各植物の基本的なスケジュールをbotの中に書き込んでいく。実際には目を通しているだけで、外部記憶されていくだけだが。写真記憶とOCRとスケジュール管理ソフトウェアが、無意識化で出来るというのは良い。
日本での失敗は結構痛いけど、こちらの失敗はその1/12という感覚が無いとは言えない。とはいえ、まだ蜂の巣退治の時以外には火を使わないという歪んだ状態なら、正直な所、いきなり生食ばかりだった生活を変えて大丈夫かという懸念や料理した場合、塩分量が人間と同じなのかどうかが全くわからん。
血液検査や尿検査って成分分析だと思うけど、基準値が同じかどうかがわからないから、まずは現状の平均値と人間の基準値を参考にするとの、成分分析のやり方を調べずに、食生活を変えて、毎日塩を降った肉や魚を食ってたら腎臓壊しましたとか、野菜を食べてるのにビタミン不足とかになりかねない。
でも、旨いとは感じている様なので、多少は期待が持てるかな、と前向きな予測はしているけども。
どちらにせよ、塩を摂取している感覚が無いという事は、野菜や穀類、動物等々の生食で補っている可能性が高い。というか、塩が生産されていない。岩塩を掘っている様な事もない。
……、もしかして川の水に微量の塩が含まれているのか?だから、田んぼや畑の生産性が落ちて、食料事情の悪化に繋がっていると。
濾過した水が結構おいしかったし、シャンプーとかで泡をたったから気にしてなかったけど、濾過装置じゃなくて純水を取り出して、それ以外を取り出して確認する必要があるか。
純水製造装置とかだと、濾過装置に中空糸膜とかで、そんなに生産量が多い訳じゃないし、中空糸膜が何で出来てるかどうやって作るかなんて知らない。
という事で大人しく結晶の力を借りて、川の水を取り込んでいる所の濾過装置の代わりに過剰に流れていく配管から水、H2Oのみを正規のラインに流しつつ取り込めなかった濃い川の水を三段回で水を絞りつつ、最終的に絞りカスを溜め込む。
公衆浴場の方で掃除をしているので、多少は流れているだけなので、少しずつ何かが溜まっていくが極微量なので、もう少し待ってから判別しよう。
さて、風呂掃除もいい加減終わったかなと、覗きに行く。
十分に終わって、洗い流したあとに、大きな浴槽で大の字になって浮かんでる面々を見付けた。
二回目三回目以上入っているからか、さほど影響は無いようだけど、多少の抜け毛はやはり新たに排水口に引っ掛かっていた。
各部族の長に毎日昼から風呂掃除をやる人数の手配と交代でやらせるようにと言う事を伝言を頼み、あまり介入しないようにして、おく。そうじゃないと日本に帰っている6日間でどうなっているか怖いわ。
夕暮れ時なので、爺さんの畑を巡り、いい感じの野菜を適当にもぎり、蟻の巣跡池でほとんど無限Popしているんじゃないかと思われるほど沢山いるヤマメモドキを数匹引っ掛け針で釣り上げて、ナナとほぼ同時の帰宅。
何時もと少し違うのは、鶏じゃなくて蛇を咥えていた所だ。それも結構な大きさがあるんですが。
いや、日本でも蜥蜴とか平気で捕まえてきてたから、わかるけども、わかりたくない。
《トール、捌いて》
ああ、そうですか……。蛇の捌き方なんて知りませんし、見たことない蛇の毒性なんて見当もつかない。というか、日本なら普通にバリバリ食ってた記憶があるんですが。
《こいつ、ウロコ大きい。食べにくい》
あー、捕まえたのはいいけど……と言う事ですか。でも、鶏肉と違って捌くイメージが想起出来ないので、手作業になるのか。毒持っている蛇かどうかの確認の為にも捌くか。
一般的に蛇の毒は確か神経毒だった様な記憶がある。で、毒線は頭の部分に含まれている。だから、口を開けて絞るとガラスのコップで流れるとか、何処かで聞いたような違う様な。でも、ここは違う惑星で異なる生態系。あくまで爺さんが持ち込んだ野菜や鶏が多いだけでこれが蛇と同じ様な生き物かわからない。
ええい、考えてもわからん。とりあえず蛇と思って捌いてみましょう。
ナナの牙が刺さって、致命傷になった頭から少し下の辺りの傷跡で一旦頭と胴体以下をゴリッという音と共に断ち切る。腹の部分に切れ目を入れて、ひっくり返すように皮を引っ張って一気に剥く。
内臓の辺りはどうなっているかわからないので、ちょっと別にして三枚おろしにして、肉の部分だけにした。見た目は長い白身だなぁ……と思うけど、ちょっと怖いのでやはり既に血を舐めているナナに全て献上致しましょう。
60cm長の白身を二本、餌皿にあげて、台所の水場でまな板や包丁を綺麗にしながら、ナナの様子を観察するが、一切の躊躇なくガツガツ食っていく。
一応手袋をしてから、残した頭を開いていくと、鋭く並んだ牙に穴のあいた牙が左右に一対。シリコンカーバイトのメスを作って、慎重に切開していくと頬に毒線らしき牙に繋がる黄色い臓器を発見。どうみても毒蛇だよなぁ。
おい、ナナ、今度同じ蛇見付けても自分から捕まえに行くなよ、これ毒蛇だからな。
《おいしかった》
ああ、ハイそうですか……。明日、何かで毒線調べる為に、石英ガラスのボトルに入れて冷蔵保存して、もう一度洗い流してから自分の晩飯というか晩酌の肴を作り始める。と言っても味噌マヨネーズでゆで野菜とヤマメモドキを囲炉裏で塩焼きだから、そんなに手間もかけてない。
バーボン片手に色々と考えようとするが、蛇のインパクトが強過ぎて思考がまとまらないので、風呂入って寝る。