024 公衆浴場2
晩酌をしながら、自動巻き時計から推察される時間をbotに刻み、同時に日本の推定時間も刻んでおく。当初先生がやっていた様に視界内に表示させる。これは日本に帰ってピッタリ合わせるのと、こちらの時間は日時計で一度しっかりと南の方角と正午を確定させる必要がある。それによって、少なくとも朝7:00前に起こされる事を防ぎたい。鐘が鳴るまでは寝てるから起こすなとか。
今までに書き連ねたtodoリストを視界内に表示させたり、日本でのカレンダーを表示させたりの操作が意識するだけで出来る。うーんスマホ要らずだ。通話相手が居ないけど。あ、こちらの暦がまだ決まってないのか。とりあえず一年間観察する結晶を作って冬至を正月にしてしまおう。こちらでは一年でも日本なら一ヶ月。これから関わる時間の長さを考えれば大した差ではない。
風呂に入りながら、タイヤまで買ってしまったが、爺さんの畑から里にかけての坂は急過ぎてちょっとキツイ。里に拠点が完成したあとに作ろう。だから、今度戻る時に持って帰って劣化を防いでおこう。
あ、衣類、というか繊維とか織物。この世界の人たちは毛皮着ているからと云って、革の袖無しチョッキと腰巻きしか無いのはどうかと思うので、麻や綿ぐらいと織機は作りたい。まあ、カーボンナノチューブを作っていながら、誘蛾灯で虫を切断しているだけという状態は情けないので、何とか有効利用したい。
布団に入っても色んな事が浮かんでは消えの繰り返しているうちに寝落ちた。
朝からガヤガヤうるさいと思ったら、風呂に入る為の行列が出来てた。一過性の物かも知れないけども、公衆衛生的にも、風呂や上下水道は必須だと思うので、その一歩として定着するかなぁ。あー、それぞれの民のトップから里での公衆浴場の建設とその予定地選定を任せたいから、川の近くで選んでおいて欲しいと伝えたいと思うが見知った顔が居ない。と言っても、身体の大きさと毛の模様の違いぐらいしかわからないんだけど。後ろの方に四人組が居て、入り方の説明をしていたので、誰か一人にササさんかギギさん、白露さん、左之助さんを見付けたら連れてきて欲しいと伝えた。
ちょっと心配で排水口から繋がる沈殿槽を見ると、抜け毛でドロドロになってた。濁った水が沈殿せずに川に流れ出してた。うーん、この人数になると沈殿槽だけじゃなくてろ過装置でこまめに手を入れないと水が汚れるなぁ。体毛、毛を溶かすとなるとアルカリか。ただアルカリブチ込んで溶かすのは簡単だけどその後の処理を考えると別の方法考えたいな。
髪の毛の分解となるとケラチンの分解か。あと大量の皮脂もか。ケラチンは中々酵素で分解しないよなぁ。んー、ナノマシンで分解するしかないか。あ、水素が出るのは燃やせばいいけど、硫黄が出るか。絶対に自分は使わないけど、後々足りなくなる塩分も抽出しといた方がいいかな。分解と抽出、と網の目状に配置して沈殿槽の出口に配置。
軽く火がついて燃え続けているけど、脇に白い結晶と黄色い塊に炭素の粉が溜まっていく。ちょっと刺激臭のある燃えたあとのガスだったので、とりあえず左岸の竹を切ってきて節を抜いて、簡易的な煙突として逃げた。
下流を見ると、毛が絡まって藻掻いているヤマメモドキが数匹いたが、とりあえず普通に動いているように見える。要観察だけど、どうも心配だ。今度リトマス試験紙とか買ってこよう。
沈殿槽が既に飽和しているので、その前にも同じ様な設備を作り、二段階で排水を何とか綺麗にした。が、場当たり過ぎてダメだ。
はー腹減ったなぁ。こんな汚れた水が流れてくる風呂って誰が掃除するんだよと思いながらも朝飯。
明日はここまで汚くないと思いたいが、どちらにせよ彼らに洗浄させないとアカンな。というか、何で朝風呂なんだろ。夜に水浴びをすると寒いという先入観か?
どちらにせよ、風呂を洗う洗剤というか灰をぶちまけながら擦って貰えば十分か。俺はやらないけど、やらせないとな。
縁側で一服しながら短くなってきた行列を眺めていると、左之助、ギギさん、白露さんが順にやってきて、お風呂の感想を口にする。特に汗をかく左之助や女性だからか猫の癖に白露さんが絶賛していた。
「まあ、好評なのは良いし、使ってもらう分には構わないんだけど、里からわざわざここまで来るの面倒でしょ。里にあったら良いと思わないかな」
「はい!」
綺麗に声が揃ったなぁ。
「で、里の何処に作る。水を使うから川沿いは確定しているんだけど。あと、作る時にに手伝って貰うし、メンテナンスは君らに教えて維持してもらうから。それに今日の風呂掃除を各民から男女二人づつあとから連れてくるように。あ、あと、場所決めは七日後でいいから、よく話し合って」
ああ、まだ冬毛が残っていたのが、一気に抜けたのか、白露さんの毛がフカフカになっていた。
遅れて四人組が済まなそうにやってきた。まあ、そのうち作る予定だった物が先になっただけだから、今まで通りに勉強しなよ、と。それ以上に俺が里に溶け込むにはこのぐらいの事が必要だったのかもな、とも。だけど、お前らは今日の昼過ぎから風呂掃除、必ず来いよ、と。
続けざまにタバコに火をつけて
「あ、今水堀と土塁、何処まで進んでる?」
と四人組に問い掛けたら、
「確か、南の左右が半分ぐらい?」とネネ。
「いや、半分以下だと思う」と三菜。
「七日後には東西の水堀と土塁に入れそうかな?」
「雨が降らなければ、多分……」とムム。
「でも、もうすぐ田植えだからギリギリかも」とノノ。
「田植えはウサギの役目でしょ。工事に必要な牛と違うじゃない」と三菜。
「あー、大体わかったから、勉強するなり、畑仕事してきな」
と解散させる。
里の中で分業しているようだけど、やはりウサギの無力さが三菜の高圧的な態度に出ているのか、これから出てくる細かい作業を優先的に割り振るというのが必要になってくるなぁと再認識。偶にくる他の獣人達がどういう姿でどういう力を持っているか、次第に料理を覚えていけばまた違うとは思うけど、原始共産主義に近いままではアカンから、貨幣経済への移行も視野に入れないと。何とか技術職やサービス業として生きていける枠組みを作るには貨幣経済は必須だよなぁ。
となると貨幣の鋳造?んー作るのは簡単だろうけど、行き渡らせる、管理する事を考えると気が遠くなる。電子マネー?ドッグタグの様な物に小さな結晶を埋め込んで体内の結晶と同期させて、盗まれる事も防げるかも知れないけど、基本的な加減乗除が出来ない人が大半な状態では、破産する輩を量産する事になるだけか。
子供を生産力に数えなくてもいい程度に豊かになって、基本的な教育が行き届いてから、貨幣をすっ飛ばして電子マネー化がスマートか?でも、お金という概念を教えこむのに、ある程度の期間は貨幣を作るべきか。
途中から合流した種族の教育とか、塩の獲得の為に川を下って海を目指すというのも必要か。
色々考えても仕方ない。里の開発計画を練る為にも、100mで電波が届かないをドローンを先生に教えてもらった方法で遠くまで観察出来るだけのドローンに作り変えて、ある程度ザックリとした都市計画を練るか。
RQ-1プレデターみたいな無人偵察機もいいが、離着陸の事を考えると、やはり四角形で角にプロペラを配した形になるのかな。安定度も増すだろう。
あ、でも爺さんの畑の真ん中を走る川沿いの道路なら離着陸に使えるな。自分の集中力が航続距離に直結するんだから、速く遠くまで飛べる無人偵察機は必要だ。武装は要らないし、ナノマシンによる外燃機関で燃料無しでジェット推進が可能なんだから、いくらでもコンパクトに出来るはずだ。
ん?外燃機関で燃料の積載量の問題が無ければ垂直離着陸機VTOL機でも何ら問題が無いな。よく考えたら滑走路要らないじゃないか。
と、色々と考えてたら、ナナが帰ってきた。今回も何も咥えて無い。
《人、多すぎ。鶏居ない》
と、文句垂れ流してたが。里の人たちは風呂帰りに爺さんの畑から野菜とかとって帰ったのだろう。まあ、食材はあるので、適当に何とかするが、ナナはカリカリになってしまった。言葉にならない不機嫌な感情が伝わってくるが、捕まえてないから仕方ないというのも理解しているのか、ガリガリと音をたてながら食ってた。
「あんまり森の中に入るなよ。また怪我するぞ」
イヤな記憶を呼び起こされたのかますますイライラして、空の餌皿に噛み付いていた。
自分の分の飯はそこそこに済ませて、竹を切り出して、採石場から消石灰を集めて節に詰め込んで、竹でササラを作る準備を済ませて、縁側でタバコを吹かしながら、風呂掃除組を待つ。