023 公衆浴場1
石を切り出して積み上げるという事を繰り返していたら、知らない内に昼になっていた。
ナナの尻尾が千切れんばかりに振られている所をみるに、遊んでもらって楽しかった様ですな。
とってきた野菜が先日と丸かぶりか。あ、まだマヨネーズ試してないな。温野菜+マヨネーズと荷物持ちがいるからといって二羽も仕留めてきた鶏は味噌マヨネーズに七味でいいか。あとは米と味噌汁。
二羽仕留めてきたけど、内臓は一羽分だけ与えて調理開始。あー炊飯器とかナノマシン結晶使った道具とか作りたいわ……。と思いながらも炊飯に掛かる時間内で全てが料理完了。全て教え込んだら賢者じゃなくて隠者になりたいわ。
四人組も慣れてきたというか、やはり三菜の順応性が高いのか、見た事もない料理なのに、出来上がりに合わせて皿を用意したりと、ネネちゃんの上位バージョン過ぎる。
マヨネーズ初体験は温野菜がマヨネーズを掬う棒となるぐらいに嵌っていた。七味はちょっと刺激が強いかと思ったが、マヨネーズが全てを覆い尽くしていた。
大将直伝のタルタルソースとか作ったら凄いことになりそうだ。
用意したご飯が全部無くなって満腹のまま放心して、自在鉤に吊るされた鉄瓶で湯を沸かして、気分でインスタントコーヒーを淹れて飲んでいると、嗅いだ事のない匂いに惹かれて飲みたいというので、四人分淹れてやる。
結果、砂糖を入れてもブラックでは無理だった。ミルクを用意してなかったな。子供舌というのもあるかも知れないが、苦い物を忌避する正常な反応なのかも知れない。と一服しながら考えてた。
四人組は小屋の中を弄らない事を条件に、三菜を先生として読み書きと加減乗除の訓練を小屋の中でやってもいいと言う事にした。
さて、ハンマーの製造が終わっていたので、突き固める道具のタコを作るセットをして、岩風呂施設建造を続ける。湯船を中心にして周囲で洗う様にして、銭湯のようなカランは作らず湯船のお湯でかけ洗いをする方式にしてもらう。
自宅の風呂の経路から岩風呂奥のタンクに溜めた水を結晶で温め、温度制御を組み込んで40度をキープする様にして、湯船の外縁に沿って流して渦巻き状の水流を作り、真ん中に排水用の穴開きポールを立てた。大量の抜け毛対策である。
自宅排水と兼用にしていた部分を切り離し、蟻の巣跡池を迂回して、渦巻き状の沈殿槽を堀ってから、川と合流させた。温度は十分に下がっていると思うけど、この上にも誘蛾灯つけて防虫対策しないとな。
岩風呂に戻ると湯気が篭ってきたので、入り口から奥までダクトで強制的に空気を送り排気する。寒くない程度に空気を流して片側完成。
四人組は帰る間際だったが、風呂の使い方を説明して、その日ウチに入る人は必ず入って貰う事、もう一つ作るから男女別にする事、種族の差は設けない事を説明した。あと、初回はペットシャンプー(ボトルからラベルは剥がした)をつけて身体を洗う事を徹底させる事。君らも明日も来るつもりなら必ず入れよと。まだ一つしかないから、ムムだけ後に入る事になるけど数日中に解決するから我慢しろというのも忘れずに。
タコも規定数完成したので、楔を大量に作るようにセットした頃にちょうど日が落ちた。
あれ?ナナは?と思ったら、四人に遊んでもらってヘロヘロになって電池切れ状態で寝てた。
ちょっと帰ってメールチェックだけして、特に急ぎの案件は無いので、すぐに戻ってご飯という名の晩酌をしながら、開拓する所の予想図、食器の為の登り窯のプラン、釉薬も作らないとダメか。あ、粘土の採取場所を考えないと。無ければ強引に合成した粘土で……というのは、ウサギの民に肩入れしている感じなので、初めはともかく次からは粘土は探してもらわないとなぁ。
あ、自分のログを残すbot的なナノマシン結晶。必要なのは自分の視神経聴覚思考を時系列で残して、対話式で検索出来るインターフェイス。経験とかを蓄積して自然発生的な人工知能……は自分のコピーを作る様な気がするが、それはそれで楽しそうだから、作ってしまおう。
あ、先生。以前、先生がやった記憶のコピーとか感覚の共有とかどうやるの?
《説明は困難なので、私が仲介して君には害を為さない人工知能にしよう》
君には害を為さないというのは、俺を最優先に考えるエゴの強い人工知能という事か。
《知識と経験を共有するので、自己保存が強いという点ではそう云える》
んー、ま、ダメなら封印して無視すればいいか。お願いしたいけど、どうすればいい。
《直径3cm以上の結晶を握りしめて一時間程掛かると思うので、寝てもらった方が良いと思うが。最近の睡眠不足は酷い》
あーそうですか。風呂入って寝ますわ。
夢の中で、これはPersonal Artificial Brainて、某作品のPABだよなぁと思ったが、コピーを独立して運用出来たら良いなぁと思ってたら目覚めた。
いつもの呼び声が無いが、ガラガラというリヤカーの音が響いているので、声掛けたかどうかは知らんが、皆作業してるのかな。
米を炊きつつ外に出ると、ムムが一人風呂の外で待たされていた。あ、みんな風呂か。今日中に作ってやるから。
レンガを焼いている窯の加温を止めて自然に下がるに任せる。飯を食って今日は何をしようか。
んー、同じ作業を繰り返すのは性に合わないというか疲れた。幸い頭の中に完成図はあるし、この結晶の中にもある。上手く単体で実行出来ないかと考えていたら、
《切り出しなら可能と思われる》
ん?PABか。あ、botと言おうか。意識的に没入しそうだから。
で、どうやってやるの?
《出力的に4cm径の結晶に図面のイメージを焼き付けて、それに沿って切り出すイメージを重ねると可能だと思われる》
4cm径か、焼き直しが出来るから、いいけど。少し集中して左右対称に配管も含めて一気に切り出してやってみた。
あ、配管が繋がっている状態で石が切り出されているので、お湯が染み出してきた。ムムや、風呂上がりの三人を捕まえて同じように石を積んでもらう。リヤカーを返却しに来た左之助達も手伝ってもらって、あっという間に石組みが完成していくので、私はその界面の接続のみを行っていた。
取り出せないダクト内の石は小さい四人組に任せて、空気の入れ替えが終わったら、自動的に男風呂が出来上がってしまった。早い!
ついでに左之助達牛の民の力仕事した面々にも風呂を味わってもらった。水浴びぐらいの習慣しかなかった面々には新鮮だったようで中々好評だった。うるさくしなければ何時でも入っていいし、ウチの小屋に入る前には必ず入る事を伝えて帰ってもらった。あと、面の広い突き固めのハンマーじゃなくて、岩を割る杭を打つ為のハンマーだけだから、リヤカー三つ里で使ってと持ち帰らせた。
あ、そういえばハンマー作らなきゃと生産ラインにセットして、沈殿槽の上に誘蛾灯吊り下げて、帰りに蟻の巣跡池でヤマメモドキを獲って大体昼飯に。ちょうどナナも帰ってきたが今日は手ぶらだった。人の行き来が多くて捕まえられなかったか。
日本から持ってきた食材の期限が迫っている物が多いので、鍋っぽくして消費しようとしたら、四人組が入ってきて、何だか飯をたかられている気分になった。というか、この四人用の部屋を作らないとプライベートが無い。
試験炉と蟻の巣跡池の間辺りに小屋を作る!帰宅予定から考えると材料が揃わないので、左岸の竹で四人が勉強出来るだけのスペースと灯りだけの小屋を臨時に作る。
久々丸鋸で竹を切って、地面に打ち込み階段を作って湿気ない様にして、椅子に机に粘土板と黒板。何故か風呂の話を聞いてやってきた里の人を捕まえて手伝わせて、20人規模の教室が出来た。四人用の小さい奴のつもりがどうしてこうなった。勢いって、怖い。
風呂も学校も里に作るようにしよう。ただ、南側二面の水堀と土塁の工事が終わって、有用性が浸透してからでいいと思うんだよな。
四人組には、そこで勉強するように指示をして、少し距離をとる。贔屓しているように見られるのは本意ではないし。
botをキーホルダー型に金具をつけて、身に着ける様にして、今までにやったナノマシンでの様々な操作をやり直してみる。
タイムラグも集中力もさほど使わずに色んな事がスムーズに出来る。自分の意思がトリガーになっているだけで、あとはbotが肩代わりしている感覚。これならまた違った方法があるのかも知れない。