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曽祖父の遺産に惑星一つ  作者: ゴート
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002 とりあえず転移

 結局、朝まで転移球インターフェイスとやらと対話をしてしまった。

 

 夜明けと共に雄鶏の鳴き声が響き渡り、釣られてナナが餌を要求する。ここ一週間繰り返された田舎暮らし。スローライフなんて嘘だ。ひっきりなしにやることに追われる。

 ナナにドライフードを盛ってやり、鶏小屋の方に向かおうとしたら、後ろから声が聞こえた。

 《肉食べたいなぁ……》

 ん?と振り返るとナナと目が合う。もしかして今の声はナナか?

 《トール、声が通じる?》

 ナナなのか?この声は?

 《ようやく通じるようになった!猪食べたい!》

 なんで?犬の言葉がわかるんだろ……。

 《徹様、それは私がナナ様の意思を首輪に埋め込まれた結晶で読み取り、中継しました。義信様もそうしていたので、勝手にやりましたがいけなかったでしょうか》

 いや、構わない。あーナナ、冷蔵庫探して、あったらあげるね。

 《わかった!》

 義信爺さんの言うことを忠実に守っていた原因はこうやって完全にコミュニケーションがとれていたからか。そりゃ話が出来れば、云うことも聞かせやすいわ。

 

 鶏の方はそういう事もなく、既に畑の方に散歩に出掛けていて、卵を回収して、餌を追加して終了。

 多めに飯を炊きつつ朝飯を作り、残りを握り飯にして、ナナに猪肉の小さな塊を上げて、爺さんの軽トラで車で一時間程の自分のアパートに帰る。

 

 とりあえず着換えとパソコン周りとマウンテンバイクを積み込んで爺さんの家に拠点変更。スマホでネット工事の見積もりをお願いして、煙草や携帯食をリュックサックに詰めて、安全靴やケプラー繊維入りの手袋やインナー、マウンテンバイク用プロテクターとかの安全策を準備。あとは、爺さんの納屋から鉈を二本腰に差して、マウンテンバイクに跨って、フル装備完了。あ、スマホは向こうじゃ使えないか。置いておこう。

 さて、自分の腕時計で確認するとちょうど12時。転移してみるかというときに

 《今、転移すると深夜ですがよろしいですか?30分で夜明けになりますが。》

 と、水を刺されて縁側で握り飯食いながら時間を待つ。一応人目に付かない所で行った方が良いよなぁと思い、蔵に移動する。重い扉を開けて入ってみると、獣の革がいくつもあった。これもしかして、向こうの獣の皮なのかな?

 《はい、義信様が討伐された物の一部です。》

 ちょっと怖いな。あっそうだ、ナナ連れてこう。と思ったら、既に足元にいた。蔵を開けた時に一緒に入ってきたのだな。

 一緒に転移するには抱えていれば大丈夫?

 《はい、可能です。触れていて意識的に転移すると認識していれば大丈夫です。》

 よし、ナナ一緒に行くか?

 《いく!》

 ちょうど12時30分。向こうの夜明けという事で行ってみるか。

 《それでは転移を開始します3,2,1》

 

 《転移終了しました。》

 ちょっとしたゆらぎを感じて思わず目を瞑ってしまった。ゆっくり目を開けると目の前には高さ10メートル幅3メートルはありそうな大きな滝と川。右手には竹林、左手には崖にへばり付くように建つ小屋が一つ。足元は踏み固められて硬い地面。

 とりあえず、ナナを下に下ろすと川沿いを駆けて行った。ちゃんと帰ってこいよ。

 とりあえずマウンテンバイクを小屋に立て掛けて、何かの革で出来たカーテンが掛けられただけの入り口から小屋に入る。

 中は三和土の土間に竈、左手に板間に何か動物の毛皮が敷かれた囲炉裏があるだけの簡素というか、寝るだけの小屋か。風呂もトイレも無いぞ。爺さんの思考パターンから想像すると、トイレは川でしろという事だよなぁ、これは。風呂も無いのか。

 少し寒いので囲炉裏に火を点けようか。炭じゃなくて朽ちた竹を割って感想させただけの燃料に、緩く巻いた藁を着火剤として使っているようだ。ビクトリノックスのナイフで適度に切って軽く解して、火を点ける。

 パチパチと竹に火が灯り始め、部屋が暖まりはじめた。自在鉤に掛かったままの鉄瓶の水を捨て、滝の水を汲んで、自在鉤に掛け直す。ん?どう見てもこの鉄瓶、うちにあった奴とそっくりというか、こっちに持ち込んだ奴か。久し振りにみた。ぐるりと見渡すと部屋の隅に茶櫃があったので、覗いてみると普通に茶器一式が揃っていた。抹茶じゃなくて煎茶の葉っぱもあった。ちょっと湿気っている気もしたが気にせず淹れて、一息つく。

 

 囲炉裏の中で竹が燃えるにつれ、煙も出るが、竹を組み合わせているだけの屋根と梁が燻されているなぁと上を見上げたら、豚?の後ろ足が何本か丸々燻製になっていた。他にも大根や人参や色んな物が干され燻製にされている。

 爺さんの思考パターンからして、このツマミにしか見えない物ばかりあるなら、何処かに酒がある筈だ。まだこちらでは朝だけど、早めに確認せねば。日光が当たらずに温度変化の少ない場所……。滝壺の底に沈めてあるか、滝の裏に洞窟とかあるなら、そこが一番怪しいな。

 滝壺の中は引き出すロープとかないので、今の所不明だが、滝壺の裏に洞窟があった。薄暗い中に入ってみると案の定、酒瓶が木箱で四箱。バーボン三箱に日本酒一箱という量は意外に控え目。

 とりあえず一本ずつ抜いて、小屋に戻ってお茶して一服。

 

 習慣でライターで火を点けたが、【意志に反応するナノマシン】という魔法的なアイテムがあるのなら、何かこう魔法的な方法で指先に火を灯す事が出来ないかな?と思い、指先の先に火が灯るイメージをしてみるが、サッパリだ。

 

 《ナノマシンがあっても、可燃物、酸素、温度が無いと燃焼という現象は起こせません。ナノマシンによって熱エネルギーの部分は補う事が出来ます。》

 

 あー謎なナノマシンはあるのに、そういう所は普通なんだ。今の場合は可燃物が無かったと言うことね。囲炉裏の着火に使った藁のロープから藁を抜き出して、その先に火が灯るイメージに意識を向けると、ポッと火がついてあっという間に燃えていき、持ち手まで到達する前に囲炉裏に投げ込んだ。

 ふむ。とりあえずライターは不要になるかな。化学的にエネルギーの部分でズルっぽい事が出来るのかな?では、囲炉裏の灰からカルシウムと思ったが、金属カルシウムを火の近くで扱うのは流石に危ない。という事で、生石灰を作り出してみる。

 生石灰、酸化カルシウムを集める……というイメージで……集まらない。素の灰に含まれているのが消石灰の混合物だからかな?

 では、消石灰を集めるイメージに集中する。水酸化カルシウム、Ca(OH)2……。右手の下に囲炉裏の中の灰が偏って山になり、その山は真っ白だった。

 ふむ。イメージした物が無ければ集まらないと言う事か。ならば消石灰から生石灰を作ってみるか。

 消石灰から生石灰、水酸化カルシウムから酸化カルシウム、Ca(OH)2→CaO+H2O……。

 副産物の水が蒸発していくが、消石灰の少し固まった粉から、サラサラの粉が出てくる。おお、酸化還元が出来ると。化学合成が可能か……。

 て、ちょっと待て。これが石灰という保証がない。湯呑みに残ったお茶を、その粉の上に垂らしてみて確認する。ボスボスと音がしながら水が蒸発して、少し固まった感じにはなる。生石灰らしい反応。そのまま火箸の先につけて、囲炉裏の焔の中で色を見る。

 橙赤色の炎色反応。カルシウムはカルシウムなんだろう。基本的に元素は同じで化学的な反応も同じと言う事だ。まあ、そうじゃなきゃ呼吸も出来ないか。

 《オリハルコンとかミスリルとかの謎金属。私の知らない元素とかないの?》

 《地球の技術では作れていない観測されていない元素ないとは言いませんが、ごく微量で大枠で関係はないと思われます》

 要するに自分の知識と想像力でなんとかしろということか。

 試しに鉄製の火箸をバーベキューで使う様な火バサミに変型出来るか試してみたらイメージ通りに出来た。要するにこういう事が出来るという事を知らない世界なんだな。

 

 お茶と一服を繰り返しながら、ちょっと考えてみるが、所謂単純な火の玉が飛んでく様なRPGな魔法な物は存在しない(燃えた固体毎投げるという方法ならありそうだが)けど、工業的な合成のショートカットは出来ると言うこと。鉈で指先を小さく切って確かめたが、多少の怪我は細胞が修復するイメージ次第でほぼ一瞬で治るということ。無から有は作れない。

 どのくらいの事が出来るかわからないけど、とりあえずやってみない事にはわからんな。これ以上は室内でやるのは危ない。屋外で考えられる事を一通り実践してみるしかない。

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