018 双子でしたか
初めて"調理"された食事に目を爛々と光らせる初体験の五人。話には聞いているんだろう。話す雰囲気じゃないので、食べ始める。やはり牛の人達の食う速度が半端じゃない。普通にネネちゃんが給仕をしてくれているからいいものの、ちゃんと食べれているのかと思ってみていると既に一杯食べて二杯目を山盛りに盛られている所で動いている所は抜け目ない。
皆が食い終わり鍋の代わりに鉄瓶から湯気が立ち上り、お茶を入れる頃にようやく皆の気が緩んできた感じがする。
「兄貴、話以上に旨いよ」
「おう、そうだろ」
左之助さんと多分若手の牛の人が会話してる。
「お二人は兄弟で?」
「こいつは右之助で双子の弟です。あの重い鍬を使えるもう一人の奴です」
「ああ、だからタコもタイミング合わせて使える訳だ」
「このお茶というのも美味しいですな」
と牛の長老さんという話だが、まだまだ現役っぽい筋肉質。ムキムキやん。
「このお茶は爺さんの畑にある木の葉っぱを乾燥させて作るんですよ」
「ああ、申し遅れました。義助と申します。去年から長老にされてしまいましたが、まだまだ現役のつもりです」
「長老になるってどういう意味ですか?」
「最長老が一番年寄りで、長老が上から10人というだけですから、余り意味はありませんよ」
飯を食ってフランクな感じで喋る牛の人達と比べると多少緊張しているギギさんと他二名。やはり里の中でヒエラルキーがあるのかなぁ。差別とかあるようなら、差別出来ないだけの必要性を彼らに身につけて貰わないとなぁ。料理が広がると同時に陶器とか焼かせるのも良いかな。力がないなら、それ以外で働かなきゃ。
「ギギさん、レンガ作りはどうでした」
「あの土がどうして道に必要なのか、まだわからないのでイマイチ実感が……」
「ああ、そうですね。あれを陰干ししてから焼いて敷き詰めてですからね。あのレンガは家にも使えますし、里に行くようになったら同じ物を里で作ってもらいますから、キチンと覚えてくださいね」
「はい、トール様」
「そちらの二人は?」
「ノノです」
「ムムです」
「二人とも私のおさななじみで双子なの、トール様に教えてもらったスリングショットを綺麗に作れるから連れてきたの」
「へぇー、そのスリングショットみせて貰えるかな」
腕に巻いているからわかってはいたんだけど、細かく見ると少し違う。ネネちゃんは教えた通りに機械のように忠実に再現しているのに対し、ノノちゃんは名前を入れたり、手首に巻く所に装飾が入れてあったりと個別化をしている。逆にムムくん?は石のホルダー部から石がズレない様に真ん中を凹むように革を三枚重ねて貼り付けて編み込んだりと、強度と精度をあげようと努力している。
「二人共すごいね。ただ単に作るだけじゃなくて、人と違う事をしようとする発想とそれを実現する技術!いいよ、君達。基本を押えるネネちゃんと三人にこれからも色々と教えたいね」
「ホント!」と三人の声が重なる。
「でも、その為には言葉と算数は完全に覚えて欲しいなぁ。そしたらその先も教えれるんだけど……」
「うっ……頑張る……」
三人とも感覚的なタイプだったか……。まあ、職人肌ならそれで後継者を作ってくれれば良いけど、ウサギの人口が100人では難しいか。
雑談をしつつ食休みで一服しているとウサギの子供三人が皆のマスモドキの頭から結晶を探して洗って渡してくれた。ありがたく受け取っておく。
「ねぇ、トール様。なんでその玉が必要なの?」
「ん?あ、そうか。この部屋明るいだろ。何処に光がある?」
「あそことあそこ」
三人が指を指す。
「あれはそういう事が出来るんだよ。他にもね」
と九つの結晶の一つに横回転するイメージを付けて手のひらでクルクルと回してやる。で、回したままネネちゃんの手のひらに落とすと止まってしまう。あ、そういえば使えないんだった。
「止まっちゃった……」
「あー、ちょっと待って」
回すというイメージはあるけど、ナノマシンが言う事を聞かないのはナノマシンという存在を知らないから。でも、結晶は目に見えるからスイッチぐらいなら何とか出来るかな?結晶がナノマシンという事が知らないとダメか。ナノマシンという物を教えても現象を正しく理解出来なければライトもつかない。制御専用の結晶でon/offだけ出来る様にすれば良いのかな?でも、ナノマシンを理解しないとそのon/offも出来ないのか……。
《【意志に反応するナノマシン】というぐらいには理解が及ばなくてもon/offぐらいなら意志の強さや集中力で発動するかも知れない》
じゃあ、回転体と制御用と二つ使って制御用にはon/offしか付けずに、イメージをリンクして焼き付ける。
「今度は、こちらを手のひらにおいて、こちらを握りしめて一生懸命スイッチオンと念じて、頭に浮かべて」
「うん……」
「そこで迷ったらダメ!」
「うん!」
……しばらくして突然クルクルと回り始めて驚いた様子で周りを見渡すネネちゃん。
「そのままスイッチオフと念じて!」
「うん」
今度はピタッと止まった。ホウホウこれは慣れればスイッチのオンオフぐらいは出来ると。ナノマシン結晶文化的生活が実現出来そうだ。木々を燃料にしなくていい訳だし、いいかも。あ、でも灰が必要な場合もあるから木を燃やす必要もあるのか。でも、薪が必要じゃなくなれば冬だって寒くない訳だし。
「よくやった。これで色々と先に進む見通しが立ったよ」
午後からも道路作成とレンガ作成を続けてもらい、その傍らでノギスで5mmと測った結晶を等間隔に並べて、ホットプレートモドキの作成の続きを里の人でも使えるフルパワーとオフしかないバージョンで銅鍋でお湯を沸かしてやる。
成功。
では、レンガの焼成温度が900度以上でもいいけど、折角内部構造がシリコンカーバイトという温度にも強い材料で出来てる訳だから1300度まで上がるイメージで1cm結晶を等間隔に並べて、外から温度調節機能付きの結晶を貼り付けて置く。でも、この温度を測れる温度計が無いからまだやばい気がしなきでもない。デジタル温度計が使えればいいのに……。
これは乾いてから動かさないとダメだからまだ使えないけど、後から取り付け出来ないから今のうちに。
で、出入り口の蓋に付いてる送風口にも送風の結晶とオンオフの結晶をつけて、オンにしておく。乾燥させないとな。あ、上のコックは開放しとかないと。
夕方、日が暮れる前に彼らは帰宅した。レンガは窯一杯埋まった。あと二回で棚が埋まるが、今の窯に入っているレンガを乾燥させるまで時間が掛かるから急がなくてもいいよと、農作業優先でねとだけ釘をさしたけど、正直な所、道路は早く作って欲しい。まあ、実際には予想以上の速度でレンガを敷く必要が無いぐらいにフラットで砕けた岩が砂になって隙間なく圧密状態になっているので、それでいい道路が完成にしても良いかもしれない。出来たレンガは里での私の家を作る為の材料にしてしまっても良いかも知れない。
ナナが帰ってきたので、一緒に飯を食いつつ、ようやく爺さんの日記を読み始める。
徴兵されてから書いてたらしいが、命からがら逃げ出してきて、この球だけ持って帰ってきたらしく、帰ってきた1946年二月三日から日記が書いてあった。
当初は後悔と戦争の恐怖が延々と書かれていたが、二月末辺りに米不足で大変だという事が書かれていて、あちらの世界の事を曾祖母の礼子に打ち明け、共に畑を田んぼを開墾して米を作り、沢山の野菜や闇米として売り捌き、駅近辺の土地を二束三文で買い叩き、八百屋や肉もドンドン売り捌くという事で雪だるま式に儲かったが、曾祖母の妊娠と共に店を人に任せて土地を貸す事に専念したと。ホントにドサクサ紛れに大儲けしてそこからは大人しく田舎に引き篭もっていたという事か。
そこからは息子の孝の成長の事がメインに書かれていた。偶に竹を移植したとか林檎を植えたとか長芋植えたとか色んな作物を持ち込んだ記録が残っているので、それをピックアップしていった。
曾祖母の礼子が二人目を妊娠したが、死産で予後不良でそのまま死んでしまい、そのまま男一人で息子を育てていく苦労が書かれていた。
そこで学生運動の最中に息子が高校生の時に学生の為に安い賄い付きの安い寮を大学裏に作る事を決心する。