016 農具配布
明日、改めて農機具その他の数を確認するという事だが、ある程度は作って持って帰って貰いたいので、先日の八割は作っておきたいと思う。
が、一個一個手作りするのも面倒くさい。そう面倒くさい。折角、ナノマシンの結晶がゴロゴロしている現状。備中鍬、バケツ、槍、ナイフの四種類でサイズ違い。毎回同じ事をやるのは嫌いだ。そう大嫌いだ。なんとかなるなら手を使うよりも一回だけ頭を使う方がいい。
材料を投入して、焼き付けたイメージの違う結晶を付け替えるだけで連続的に出来ればいい。それに今後も数は増えていく訳だ。ただこのまま採石場を広げるのも水が出たりするのは頭が悪い。
滝壺の反対側に同様の採石場を作りながら珪素の玉とそれ以外の残渣を積んでいく。
珪素の玉と竹炭をサイロ状の筒に入れ、出口に一番小さいサイズの槍を作るイメージを焼き込んだ結晶を嵌め込んで連続作成を試みる。
30秒程でゴロリと一本転がって出てきた。また30秒でゴロリと出てきた。ふむ、なんとか行けそう。その隙に珪素の玉をゴロゴロと投入しつつ定量まで作って、一回り大きい槍のイメージを焼き込んだ結晶を切り替えて、作業を継続する。多少時間が掛かる気がするのは、大きさの違いか。
珪素の玉がサイロに一杯になって、とりあえず残渣を新たな採掘場を詰め込んで、出来上がった槍を小屋の前に運ぶ。結構重い……。
自動的に出来る槍を横目に見ながら、河原の石からシリコンナイトライドで川に橋を掛けて、台車を作る。タイヤが滑るが、手で運ぶよりはマシか。
次々に目標数達成したらサイズ違いの結晶を作って、サイロに珪素の玉を追加して、槍を小屋の前に運ぶ。その連続。
槍の予定数が終わった辺りで昼ぐらいだが、日本時間の朝から連続で動いて動いていると流石に眠い。適当に飯を食っていたら、ナナも何も獲らずに帰ってきて、カリカリを文句も云わずに少しだけ口にして寝た。俺も風呂にも入らずに寝た。
起きたら日が暮れたばかり辺り。新たな採石場から橋を経由して小屋の前まで結晶を照明化して、杭付きで地面に刺していく。
目標数が終了したら自動的に切り替わる様に手を加えて、ナイフを作るようにして、風呂に入る。
んー、まだ疲れが抜けない。齋藤さんの言葉が効いてるのかな。ナイフから備中鍬に切り替わるまで爺さんの日記でも読むかと思ったら、体積が小さいからか、意外に早く終わってしまった。
備中鍬を作るイメージを焼き込んだ結晶に切り替えて、珪素の粒を足して、もう寝る。
「トール様!おはようございます!」
お、元の四人に戻ったな。でも、あの重量物を持って帰れるのだろうか。収穫用の竹籠を担いできているけど、100人分は無理でしょ。
また夜明けに来たかと思ったが、幾分明るくなってからだけど、東西が山で北側に滝、開いているのは南側だけのここではまだ直接日が指していないんだけどな。
「あー、おはよ。ある程度は作っておいたから、足りない分を教えて」
といって、飯を作り始める。ナナは残してたカリカリを平らげて、既に外出中。何をしてるんだか。
食い終わる頃に数え終わって計算も終わったらしく、修正した数を教えてもらった。
「あー、じゃあ、とりあえず何日かにわけてで良いから持って帰って使ってね。あ、あと、運び終わってからでいいんだけど、左之助くん達で、里の仕事の合間で良いから滝壺のこちら側の竹を全部刈り取って、根っ子から引っこ抜いて欲しいんだ」
「ありがとうございます!わかりました!」と声が響く。
と背負えるだけ背負って帰っていった。ま、どうせ往復するんだろうけど。
あっ、残りのアルミのバケツの為にもう一つサイロを作って小屋の残渣と外の採掘場と合わせてアルミニウムを取り出してザラザラと入れておく。ガシャンガシャンと重なっていく音と共に結構出来るのが早い。
何人かまとまって来て、大量に運んで行くのを横目に滝壺で大物狙いで釣りをしていたら、猫の民の人達とウサギの人達が興味深そうに眺めていたので、各一本ずつ渡してやらせてみる。
釣り始める前に埋め込んだ結晶が点滅する釣り針で「なんだなんだ?」となって、騒いでしまっている。目の前で、点滅を止めたり点けたりとやってみて説明してみたが、彼らにはそれを操作出来なかった。やはりナノマシンという認識が無いとダメなのか。
《ナノマシンの認識と光のイメージの双方が必要です》
と言うことは【ナノマシン】という不思議な力があるというだけではダメで、ある程度の物理や化学の知識まで教えて初めて使えるという事か。電灯やコンロ一つとっても、里に普及させるには中々厳しい物があるなぁ。火も使わないから灯りを点けるという事もない。その割に光ったままの川沿いに挿した杭の先につけた結晶が光っている事や誘蛾灯に関してはあまり意識している感じがない。なんでなんだろ?
どちらにせよ、そのうち何か抜け道的な解法を探してみよう。
とりあえず普通の引っ掛け釣り用の返し無しで複数方向に針が開いている針に作り変えて、誘蛾灯の下辺りを狙って入れて上げるという技術も待ち時間も無い方法で試させてみる。
バカみたいに引っ掛かる……。十数匹捕まえた所でストップを掛けて、乱獲を止める。今後、里にいったら同じ物を作ってあげるし、その釣り竿も上げるから、ここはもう釣っちゃダメと念押ししておく。多分擦れてないこの世界の魚なら、誘蛾灯無しの引掛け釣りで十分に釣れるだろうし、そのぐらいにしておかないと乱獲しそうだ。
しかし、彼らの胃袋は川魚を生食して大丈夫なのだろうか。というか、ウサギの口で生のマスモドキに喰らいついているのは違和感あり過ぎる。
頭はウサギだけど、二足歩行するぐらいには人間に近い身体付き。動物性タンパク質も必要なのだと自分で納得させる。先日のササさん達が好まないのは年齢的な問題だったのか、個人差の話だったのだろう。
自分の分のマスモドキは既に釣ってあるので、一応護身用の槍と収穫用の鉈を片手に爺さんの畑を回り、そら豆やサヤエンドウ、トマトがなっていたので収穫。トマトが見慣れた形をしていない凸凹さ。偶に大将の店の賄いで食わせてもらった事のある青臭い奴だ。結構これも好きなのでちょっと嬉しい。
真ん中の川に注ぎ込む沢を登って果実が実っているのを確認するが、鳥や虫の害が酷いな。と思ったら、足元の沢の付近の腐葉土の中から生えてる緑の葉っぱを引っこ抜いてみたら、あの特徴的な赤紫色の根本と白い根。これは行者ニンニクらしき代物を発見。大将の所でバイトしてなかったら気付かなかったわ、これ。思わず大量に収穫しようとしたが、こんな所でわざわざ栽培するか?もしかしたらこちらの植物の種が混じったとか飛んできて生えたとか、要するに未知の植物なんじゃないかという心配。爺さんの思考パターンをシミュレートするが、答えは出ない。新しい物好き珍しい物好きだけど、手の掛かる事はしたくない人が収穫に五年以上かかる多年草とか栽培するか?あ、でもこの世界は12倍速か。十分あるな。
と、思ったが、既にマスモドキやヤマメモドキとか食ってたわ。明らかに未知の物を食ってるし、それで爺さんは命を繋いだとも書いてあったな。あ、そうだ。持ち込んだ植物とか日記に書いてあるかも。やはりまずは日記を読む時間を作る事か。とりあえず三本抜いて試す程度の事はしてからにしよう。
里に行くための道の作成とかは里の人にお願いしたら基礎ぐらいまではやってくれそうな気がするし、農具が格段に進化して力も時間が余りそうな牛の民の方々を今後上手く土木工事に投入して、里の南の開拓する為にも基本中の基本の道路の工事ぐらいは出来るようになってもらわないと。
幸い彼らには川の右手の竹林の根絶をお願いしているから、その隙に図面とやり方に道具の用意だな。
とりあえず里までの道は川の横に作るから、ある程度の高さを保持して川の岩を敷き詰めて突き固める。表面に透水性のあるタイルとか敷き詰めたいが、石英の粒を焼き固めるだけで出来るかな?出来そうにないな。土を焼いた素焼きレンガの大量生産が一番良いか。それにしてもレンガとかも窯の加熱や温度制御とかを里の人、干しレンガぐらいならウサギの人でも作れるか。それを焼成するだけのレンガで十分だ。そういう仕組みを作らないとダメなんだろうな。ボイルシャルルの法則で無酸素加圧加熱の炭焼きよりは、普通に加熱する炉に改造しよう。そちらの方が汎用性高いだろうし。
あとは、突き固めの道具……ああ、タコっていう奴だ。一人か複数で持って丸太をどんどんと落として、地面を固める奴。牛の人がやるから人外な重さと強度にして、斜面を固める為の面の広いハンマーも必要か。
あとは……川の岩を適当な大きさに割る楔とハンマーぐらいか。ああ、教える為の図面も書かないと。とりあえず3.6m幅で良いか。そんなに大きな乗り物を作る予定が無いので、都市部のメインストリートじゃないんだし、殆ど私道な訳だし。
あー、街路灯は後からどうとでもなるか。そんなのを考えてたら、ナナが毎度毎度の鶏を咥えて帰宅して、夕食の時間となった。