014 ナノマシン考察と今後の方針
結晶を潰して緩衝材を作るぐらいなら、可能な限り小さい結晶を持つ動物の年齢を特定して、フィルタリングするとか他の方法があるかなぁと、考えながら蟻の巣跡池に釣り竿下げて歩いていく。
薄暗い竹林の中では思った以上に誘蛾灯の効果がある様で、昼間でも誘蛾灯から落ちた虫の残骸を貪るヤマメモドキが群れをなしていた。中心部に向かって渦を巻いている所に光る疑似餌付きの針を投げ込むと秒単位で釣れる。必要以上に釣る必要は無いので、三匹で止めて帰る。
串に刺して囲炉裏で炙りながら、そういえば里にはまだ料理という概念が存在していない所に先日、ここで料理した物を食わせてしまった。
単純に竈を作る技術とか調べて教えるのは簡単だけど、薪を伐採し過ぎるとか、森にまだまだ食を依存している状態でそれは自爆行為だ。火事の心配も少なくなるので、結晶を使って加熱する方法を取った方が今後、楽になるのではと。所謂電熱器や炊飯器を作ってしまおう。
採石場の残渣から銅を取り出して薄い板状にする。中空のシリコンナイトライドを裏に貼り付けて、水ガラスで不燃処理した竹の足を三つ貼り付けた。銅板の中心に結晶を置いて周囲に六角形にも配置する。雪平鍋をイメージした銅鍋に水を張り、湯を沸かしてみる。
んー、加熱速度にバラツキがあるようで、沸騰する場所にムラがある。それに少々ガタつく。結晶の大きさが少し違うだけで同じイメージで焼き込んでも出力が違うからか。後は、同時に加熱の強度を調節するような制御系を組み込むべきか。
これはノギスや大きさを振り分けるザルを多数用意してやるか。この辺りは時間のある時にパンチングメタルを買って来て、こちらで加工する様にしよう。ノギスは爺さんの家か親父の工具箱の何処かにあるだろう。
炊飯器は温度制御とか難しそうだから、web上の炊飯器の温度変化グラフとか何処かに無いか探してからでいいか。
そんな事を考えながらバリバリとヤマメモドキを食って昼飯とした。
で、化物じみたマスモドキの頭に結晶があった訳だからこのヤマメモドキにも無いか、頭をこまめにほぐしてみる。白身に白い球だから探しにくい。が、あった。直径1mmぐらいの小さい結晶が三匹の頭から一個づつ発見出来た。
身体の大きさに比例するのか、育った年月に比例するのか、食った物に比例するのか、よくわからないが、小さい結晶の使い道も衝撃緩衝材として使えそうだから、これはこれで集めないとな。
昼飯後、二重反転プロペラな竹とんぼドローンで里の方角だけでなく四方八方を観察してみる。が、100mほど上昇すると映像が途切れがちになり、コントロールも出来なくなる現象が発生。
少し高度を落として横移動をしてみる。
予想通り、直線距離半径100mでコントロールを失う。
うーん、これはどういう事なんだろか。今、竹とんぼドローンに使用している結晶は、全部直径5mmサイズで統一してあるので、コントロールの結晶を1cmに変えて同期させるイメージで焼き付けてみる。
結果としては、映像も制御も100mぐらいでおかしくなるのだが、操作は出来ているけど、機体のフィードバックが無いので何処にあるのかわからないという状態に近い。
ん?操作の電波は届いているけど、減衰しているのか?という所で思い出した。「ナノマシンは一部の紫外線から赤外線以外の電磁波をエネルギーとして吸収する」と。無意識にwifi的な電波のイメージを持っていたのかも知れない。
が、同時にナナのと声なき声のリンク。あれはこちらのはこの転移する球が中継しているという事だが、ナナの首輪についている結晶は確か1cm前後。それだけど、こちらの世界にいるなら、かなりの距離が離れていても明確な音声として認識されて繋がっている感覚がある。
ナナとのリンクはどうやっているの?
《ナノマシンを媒質とする指向性光通信です》
は?
《この惑星の大気にはナノマシンが満ちています。それはお気付きの様に様々なエネルギーを吸収し、多くの電磁波もその範疇に入り吸収されます。よって、電磁波は短距離で減衰します。結晶を大きくして出力を上げれば多少の距離は伸びるでしょうが、地球の電波のイメージと大きく異なります。ここまではよろしいでしょうか》
ああ、大体そこまでは行き着いてた。
《では、続けます。よって近接するナノマシン間を遠赤外線によって、情報を連鎖的に伝播させます。一度繋がった回線を中心に最適化を行い、同時に冗長性を確保するルートも確保し確実に情報を伝播する事を可能とします》
最初のリンクが形成されていれば、完全に遮蔽を行わない限り、見えない糸が繋がっているかの如く永続的にリンクが途切れる事がないという事ですか。
《はい、その通りです》
ふむ、牛の人達が先祖の球といって結晶を持ってきたけど、生体間で通信を行う事は可能ということになる……全員テレパシー持ちか?
《概念が存在しないので、今の彼らには不可能ですか、徹様ナナ様間の様に両者ともに結晶を挟む事をお勧めします》
あ、回線が繋がったままで、四六時中思考が流れてくるという事か。
《はい、その通りです》
云っている意味は朧気にわかるような気がするが、脳が理解しようとしないので、とりあえず保留しておこう。現状、成功しているナナの首輪がどうなっているかどうかだけでも確認してからでいい。
ざっくりとした地図が作りたいという事から始めただけなのに、変な所で躓いている。
あ、電磁波を吸収するという事は、磁力はどうなっているんだろうか。
《磁力線は吸収しませんが、惑星内部構造の流動化が弱くなって来ているので、地磁気で南北を決定するには危険かと思われます》
なんてこった……。あ、だから磁力線が弱くてバン・アレン帯が弱くてもナノマシンで宇宙線を吸収出来て、エネルギーが有り余っているのか。
レーザー測量と三角測量の積み重ねでやらないとダメだなような気がするけど、それを使えるように教えるのも大変そうな気が更にする。航空写真に高度を組み合わせて測定出来て、三次元の地形Mapが欲しいな。何年後かの治水工事を思うと。
里に向かうまでの道路整備を最優先にして、それからでもいいか。それにしても日時計でとちらが南は確実に判別していないと、地図の基準点を作るにも暦を時計を作るにも必要なのか。
何かをしようとすると何か他の問題にぶち当たるの繰り返しだ。農耕文化が根付いていながら、調理の概念や暦の概念が無い。狩猟に至っては力任せの近接戦闘。獣相手なら卑怯に安全に遠距離で倒すという事がない。使い勝手が良さそうで予想以上に融通が利かないナノマシン。大量にこちらから物資を投入しても、12倍速で老朽化する虚しさ。住民の寿命の短さ、余暇の無さで遅々として進まぬ教育。
そういえば皆さん何の革かわからないけど、袖無しチェニックの様な物を着てたなぁ。もしかしなくても植物繊維で糸を作って布を織るまでは何とかしたいか。他の昆虫をみると、こちらの世界でのお蚕様が同じ様には思えないので、シルクは諦めるにしろ、猪らしき毛を一本に繋げる事が出来た訳だから、他の動物の毛でも出来るかも知れない。どちらにせよ織機は必要になるのか。何処かに古典的な織機から産業革命以後の工業用の設計図とかweb上に転がっているだろ。編み機とかもあった方が良いのかなぁ。実物が中古ショップとかに転がってないかな。
道具を与えて豊かになればなるほど、ウサギの民の存在価値が少なくなるし、今後他の種族との交流、合流を含めて受け皿は広い方がいい。ウサギの民の様な非力な存在が活躍できる場を第二次産業で起こすべきだ。
あ、あと、爺さんみたいに賢者様とか半ば神格化されない様にしたい。また、祖先信仰や自然信仰は良いけど、他の価値観を否定する一神教的な価値観の恐れ。
更に食生活が異なる種族が同じ都市内で同居する状態。開拓するにも動物が捕れる環境を維持しつつ、畜産にも移行しなきゃいけない。
治水工事もあったけど、衛生管理としては深い井戸と十分に殺菌された水、それに安全に流すことが出来る下水道。
ぐるぐる思いつくまま問題点を紙に書きなぐり、解決策と今後の方針を書いていく。優先順位はつけられないなぁと思いながら、冷蔵庫から適当に晩飯作り上げて、風呂ってからは、この前聞いた大学裏手の再開発の話だ。細かい図面を持ってきてないけど、細長い十字の二階屋根のアーケード商店街とその上をフラットにして緑地化。で、左右で学生向けアパートと若手家族3DKマンションとその為の保育園もあると昼と夜のアーケード街の安い人件費を貧乏学生と金のない若夫婦と皮算用を使えるんじゃないかとか……
ギリギリまで考えてから寝た。