012 マウンテンバイク改造
夕暮れ時。今日本に帰ると17:30ぐらいか。一緒に付いて回って狩りもしていなかったナナには昼に捌いた鶏の内臓を与えて、一時帰宅してメールチェック。
あ、バイト先の女将さんからメールが、大将から着信履歴が。爺さんが死んだとわかった時から色々と片付くまでお休みをもらっていただけで、辞めた訳じゃない。そこに昼間のランチ営業の時に同じビルに事務所を構える資産管理会社の人から、一段落はついたので、次の段階に行こうかと思ってますとか話を耳にしたと。一段落ついたなら、バイトに戻るなり一言欲しいわねと女将さんのメール。大将の留守電は怖くて聞けない……。ちょうど明日の昼に資産管理会社の人と話し合うんだから、その後じゃあ営業時間に引っ掛かる。
うーん、今日の夜営業の後にお時間貰えますかと女将さんと大将にメール。女将さんからは即返信があり、待っているけど、ちょっと長いかもね。と。ついでに誰から聞きましたかと尋ねたら、聡子さんと。確か名刺貰ってたはず……あった。会社のアドレスと携帯のアドレス両方載せてある名刺だったので、大将の店に営業時間が23:00だから22:00にダメ元で呼び出しておく。
あの優しい女将さんがこの態度と言うことは、確実にキレてる。大将に至っては想像がつかない。とりあえず爺さん秘蔵のバーボン二本の日本酒の古酒一本背負って行こう。
憂鬱な気持ちで向こうに転移。
飯を作りつつ、気分を切り替えて、こちらの世界ではまだ朝晩は寒いけど、もうすぐ初夏か。エアコンと虫対策をしないとダメだよなと。竹林を抜けたといってもやはり虫は出る。知らない虫に刺されたりとかして神経毒でナノマシンを働かせる前に死ぬとか怖いし。ま、蚊に刺された場所が一瞬で治せるのは有り難い。だからと云って、蜂の毒や寄生虫を飲み込むとかはしたくない。
エアコン自体は冷蔵庫作ったんだから、それと同じな訳だから構わないけど、虫対策か……。
もさもさと飯と味噌汁に野菜炒め(半分ぐらいはこっちの爺さんの畑で野生化しつつある野菜)を食いつつ、考えてみる。
誘蛾灯で数を減らす。にしても電流流したりしなきゃいけないし汚れが溜まると掃除しなきゃならないのはイヤだ。メンテナンスフリーが世の中最高だ。
焼かないのなら、近寄ったら問答無用で切り裂く。切り裂くほど細くて丈夫な糸。あ、この世界なら出来るわ。長いカーボンナノチューブが。
竹炭片手に一番簡単で細い構造のカーボンナノチューブを作る……。が、当然見えなくて、何処にあるか全然わからないし危ないし。
まず、誘蛾灯のケースとなるシリコンカーバイトにカーボンナノチューブを巻き付ける……のだが、カーボンナノチューブを作る速度がどうしても上がらないので、結晶にイメージを焼き付けて、延々と作らせる。もう一つ結晶使って巻き上げの機能もつけて、カーボンナノチューブの作成を開始する。石切場の空いてるスペースにもう二組作って3ラインの数で勝負だ。
ついでに毛皮から剥ぎとった毛を繋ぐ装置も一セット作って、今まで皮の為に抜いた毛を全部一本の糸にしてしまう。
静的な退治はこれで多少なりとも良いとして、自分を中心としています近くにいる昆虫のうち、害を為さない受粉で必要とかの益虫を見逃して、蚊や稲や麦に害を為す物や蚊のように人体に害を為す物をピンポイントで焼く方法とかとれないだろうか。レーザー発振器に使えるコランダムとかの作り方はわかるけど、レーザー発振器そのものの作り方を知らないな。これは日本で調べればいいだけの事だ。
分別は難しそうだけど、焼き切るだけならなんとかなりそう。気分はプレ○ターで。
ああ、あと測量だよ。地形の把握をしないと。一人で測量は出来ないし、とりあえず今日描いた地図をもう少しまともにして、更に里の外まで見通す眼が欲しい。これから料理を覚えると塩分が不足するだろうから、海までは到達しときたい。折角、米や麦等々が持ち込み済だから味噌と醤油を作る為にも。
ついでに米も麦もあるなら、アルコールも醸したい。リュウゼツランの苗は手に入らないかも知れないからテキーラは無理かも知れないけど、サトウキビやトウモロコシ、ブドウに芋類。色んな物を醸したい。ま、醸すだけの生活の余裕と十分な水を確保する必要がある訳だ。
ま、それ以前に収穫量を増やし、公衆衛生の概念を植付、寿命を伸ばして、教育を施さないといけないのか。12倍速といえ、長丁場だよなぁ……。
乾いた竹から二重反転プロペラを削り出して、竹とんぼを作って、結晶で動かしてみる。
空気中に静止させる事は出来るけど、そこから動かす事が出来ないので、双方向で通信が出来る制御のイメージを焼き込んだ結晶を取り付け、手元に制御するリモコン用の結晶を握り締め、上下左右動かして、空中に静止させる。カメラを作って取り付け、手元で壁に投影させてみると、普通に映し出された。ふむ。意外に思い通りに出来たが、夜だからあとは明日以降か。
眠くなったので、風呂に入り寝る。
翌朝、既に一羽狩ってきたナナが鶏を咥えたままドアが潜れずにドンドン体当たりする音で目が覚める。ホントにお早い事で。
捌いて飯を作りながら考える。
ふと、この手の道具は日本で使えないのかな?
《動く事は動くが、こちらの様な出力や恒久的な動作というのは、世界がナノマシンで覆われていないので難しい》
以前、結晶は周囲のナノマシンからエネルギーを吸収するとかいってたけど、エネルギーが空の結晶の近くに満充電された結晶があったらどうなるの?
《実験した事はないが、平衡状態に移行しようとしてエネルギーは空の結晶に流れ込むのではないかと思う》
ふむん。
と、目についたのは、こちらに持ってきたけど、乗ってないマウンテンバイク。前後輪を外して真ん中の軸に結晶を並べて貼り付け、再装着してクルクル回る事を確認する。競輪のローラー台を作って、上に載せて保持して前後で同期して回る事も確認。んー、こちらだとこれで延々と走り回れる代物が出来た訳だが、日本でどれだけの稼働時間があるのかわからん。実験する時間がないから、ま、出たとこ勝負で良いや。どうせ行きは下りだからアシスト機能は殆ど使わない。帰りが延々と緩やかな登りだから、それが多少楽になれば良いや程度で。
ついでにライトも作ってみようか。マグライト状の形状で頭をスクリューで取り外せる様にして、内面を鏡面仕上げで先を石英ガラスで覆う。ネネちゃんが集めてきた小粒の結晶をザラザラと詰めて、最後にピッタリのサイズの結晶を強いLEDライトの光のイメージを焼き込んで詰める。ようは小さい結晶が乾電池替わりにならないかなという極単純な思いつきの小細工をしてみた。
あ、マウンテンバイクのフレームにも結晶をザラザラと詰め込んでおく。これも電池替わりにならんものかな。
随分明るくなったので、昨晩作った竹とんぼ監視装置。開け放した扉からゆっくりと上昇させていく。映像は暗くした室内に投影している。すると爺さんの畑の真ん中をササさん以下の昨日の面子に知らないウサギの人が一人、こちらに向かってくるのが見えた。
んー、別に来るなとは云わないけど、昨日の今日か。ま、それだけあの道具のインパクトが強かったんだろう。全員の使い勝手を確かめてまとめてきたのか。でも、昼前にはこちらを出て、大将の店に向かわないと間に合わない。
今日は数だけ訊いて、日本で一日、こちらで12日後にとりにきてもらうか。それしかないな。
縁側で竹とんぼを回収していると、ナナも一緒に四人がやってきた。あーども的な軽さで挨拶をしてネネちゃんにササさんが来てない理由とこの人誰という様に促す。
「ササお爺さん、今日は腰が痛くて無理っぽいから、ササお爺さんの弟のギギさんが代理」
「ギギと申します。今後ともよろしくお願いします」
「あー徹です。今日来たのは、昨日の渡した道具のサイズ合わせがみんな終わったのかな」
「こちらになります」
と、ザッと出された竹簡の束。というか四等分した竹の外側を傷付けているだけか。でも、「正」でカウントしたままわ持ってくるのは読みにくいけど、数字よりこの位の数が身近なんだろう。鍬や槍、包丁は覚えられなかったのか、「くわ」「やり」「ほうちょう」になっていて、「とく大」「大」「中」「小」「とく小」と分類されていた。
ウサギ、猫、牛の区別が無かったから、間違えそうなので紙に書き写して、分類しておく。が、どうみても時間的に全員振って確かめたとは思わないし、こちらも大将に捕まって、その後交渉とかも含めて、どうみても一日潰れるから、こちらに来るのが12日後になるので、もう少し時間掛けて交互に一時間ぐらい使う感じで合わせて欲しいと再度12日後に来てほしいとお願いして、今日の所はUターンしてもらった。
トボトボと帰りながらもスリングショットで虫を撃ち落としている白露さんとネネちゃんの上達っぷりが半端ないな。ごめんな、こっちもこれから胃に穴が空きそうな24時間なんだ。




