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曽祖父の遺産に惑星一つ  作者: ゴート
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001 曽祖父の死

 「あー終わったー!」

 資産管理会社の方々を見送って、義信爺さんの家の居間で大の字になって叫ぶ。産まれる前に故人だった祖父母、二年前事故死した両親に続き、一番死にそうに無かった曽祖父の義信爺さんが花見の帰りに酔っ払って自宅前の水路に落ちて意識不明からの水死という事を、こちらも友人達と花見をしている最中に警察から連絡されてからの怒涛の一週間。通夜に葬式、納骨に相続にその他モロモロ。全て終わってようやく一人になった。

 まあ、同時に天涯孤独になってしまったというオマケはついてしまったが、両親の事故死以後、ほぼ引きこもりで社会と途絶していたから、あまり実感はない。

 しかしこれで一生不労収入で食っていけるだけの遺産を受け継ぎ、学年は四年生、単位は二年生な材料工学科のダメ学生としては、もう決定的にヤル気がなくなってしまった。


 一瞬ウトウトしていたようだが、夕暮れと共に餌をねだるナナの声に起こされた。一応首輪はしているが、鎖の付いてない放し飼い状態のフリーダム柴犬。先日普通に烏を捕食していたりする野性味溢れる柴犬様である。


 ナナの餌の用意をしたついでに自分の餌のの準備をするか。出荷出来ない程の大きさになった大根とキャベツを畑から収穫して、適当な大きさにザクザク切り、味噌マヨネーズを着けながら、縁側に腰を下ろして精進落としで残った瓶ビールをダラダラと処理する。長丁場になると思って買い込んでたタバコが無くなったので、爺さんが嗜んでいたキセルに挑戦してみる。

 時代劇に出て来そうな煙管盆を引っ張り出して、見様見真似とスマホで検索しながら試してみるが、予想よりも吸いやすくて軽いんだな。数回吸って皿にコンコンと落とす。ん?この灰皿の座りがおかしい。義信爺さんはこういう細工物でこういうのを許す質では無かったから、何か噛んでいるのかな?と皿を上げると、ビリヤード玉の白い球体が嵌っていた。なんだコレ?と指でクルクル回してみる。


 《第一権利者の消失を確認_》

 

 うわ、目の前にいきなり文字が出て消えた。気が付いたら畳一枚分後ずさっていた。あの球体が原因か?何だろうか。とりあえずもう一度触ってみる。

 

 《現在、この転移球の権利者は空位です。権利者になりますか?Y/N_》

 

 空中に文字が浮かび、アンダースコアが点滅している。一度指を離してみると文字が消える。再び触れてみると、同じ内容の文字が現れ、アンダースコアが点滅している所で終わる。流石に「転移球」とか「権利者」とか意味がわからないのにYES/NOも無いだろと思いつつも、キーボード無ければ入力出来ないじゃないか。

 と思ったら、慣れ親しんだ101キーボードが空中に浮かぶシースルーのタッチパネルのように物が浮かんだ。

 眼鏡を外してもボヤけずに顔を振っても目の前にある。キモいし意味がわからんしワンクリック詐欺じゃあるまいし。とりあえず白い球体から手を外す。

 当然の如く目の前の文字は消えた。が、この謎の球体は何だ?爺さんの煙管盆に仕込んであるし、何か手掛かりは無いかと煙管盆の引き出しとか探してみるが、無い。うーん、構造的にデッドスペースになっていそうな白い球体の周囲が怪しいか。

 再び白い球体に触り、文字列を無視してつまみだすと「仏壇の左下引き出し」とタグの付いた古めかしい真鍮の鍵が出てきた。鍵を取り出して、球を戻す。

 縁側から仏壇の前に座り、手を合わせてから、左下の引き出しの鍵穴に突っ込んで回すと、ガチャリとちょっと重い音がして鍵が開いた。

 中には一冊の古めかしい大学ノート。表紙に「白い球について」と書いてある。達筆過ぎて読みにくいという爺さんの字だな。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 これを読むのは仁か聡子さんか徹か、はたまたその先の子孫かわからないが煙管盆の灰皿の下の白い球について書き記そう。

 そもそも、あの白い球は真夏の南方戦線で密林を逃げ回っている時に偶然に見付けた物だ。最初の転移は逃げ込んだ洞窟が見付かって捕まる寸前に緊急避難として使った。

 そこの先には真冬の滝の横だった。幸い滝は凍りついている事はなく、耐えられない寒さではなかったが、竹で小屋を作り寒さを凌いだ。時折現れる獣を撃ち倒し滝壺の魚を捕り、飢える事なく、十分な食料を獲て、戻った。

 戻った場所は転移を行った逃げ込んだ洞窟で、出入り口には米軍が陣を構築している深夜だった。二週間程経過して戻ったのにである。

 仕方なく洞窟で数日干した肉や魚を齧りつつ米軍が去るのを待ち、見付かりそうになったら転移したら、また同じ滝壺の横だった。再び食料を調達を繰り返していたが、転移した先は目まぐるしく季節が移り変わり、とりあえず食べる物に困る事なく、地獄の戦線から離脱しつつ、日本への帰国船に乗り込む事に成功した。

 地元に帰ると今度は食糧難だ。日本での一ヶ月は向こう世界の一年のようで、向こうの世界に最優先で田んぼと畑を作った。その後、その食料を向こうで作り、日本で売り捌いて、この財産の元手を作り出した。闇米と云えば闇米だがな。

 それで、ようやくこの"白い球"が何であるかという事に気が向いて、話し掛けると答えが返って来たが、「ナノマシン」やら「テラフォーミング」というよくわからない言葉ばかりじゃ。ただ数人の群れで移動しながら狩猟採集の生活を繰り返して、狩場が重なると少なからず血が流れた。それが人ならざる姿であろうとも、知性があり言語を理解する能力を持った人の形をした者達が無残に戦って散っていくのに苛立った。

 そこで、彼らを教育した。が、儂に学が無いので、一通りの読み書きしか教えれなかった。儂が唯一誇れる農業だけは教えた。それだけは根付いたと思う。後、鶏や豚も繁殖した物を沢山送り込んで根付いている。豚など先祖返りしてまるで猪のようだ。

 向こうで一日過ごしてもこちらでは二時間しか経たない。興味があったら、その"白い球"で向こうに行ってみてくれないか。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 義信爺さんが一代で財を成して、大変なことになったのは先日の相続でわかったが、タダの山奥の農家が急成長した大元の土地か……。往復も出来るようだから行ってみてもいいような。幸い言葉は通じるようだし。 

 

 再び白い球に触れてみる。

 

 《現在、この転移球の権利者は空位です。権利者になりますか?Y/N_》

 

 と、同じ文章が流れて、その下に101キーボードが現れる。

 《Y》

 とタイプしてENTER。

 

 《第一権利者への意思を確認。説明が必要ですか?Y/N_》

 

 《Y》

 とタイプしてENTER。

 

 《説明の為に最適化を行います。軽い痛みがありますが、しばらく肌から離さないで下さい_》

 目の辺りにチリチリとした痛みが走る。ちょっと痛いなら、確認ぐらいして欲しい気がするんだけど……。それにしても最適化というからには、時間掛かるのかなぁと思ったら、ご親切に進行状況を示す%ゲージが表示された。こちらの意思を読んでいる?一服ぐらいの時間はあるな。煙管に刻み煙草を詰めて火をつける。

 これはもしかすると『俺』に対する最適化だから、脳味噌とか記憶をスキャンしている痛みなのかな?そうじゃなきゃ、頭が痛い理由がわからない。と思っているうちにもうすぐ終わりそうだ。

 

 《お待たせしました。最適化完了しました。ようこそ徹様。私は転移球インターフェイスVer.3.02。現在、転移可能状態です。転移しますか》

 

 二言目には転移しますかとか。多少は説明しろよ……。

 

 《それでは説明します。平行宇宙の地球の人類播種計画上で作られた惑星開発システムの一つが、こちらの宇宙の有意性電波発信源の一つ一つに向けて飛ばした双方向型転移球です。私を作った惑星開発システムは自ら開発した惑星に多数の知的種族の発生とその抗争による文化レベルの停滞を打破する為に外部からの知識と知恵をお借りしたいという訳です。》

 

 触っている限りは思い浮かべるだけで会話可能なのか。

 

 《いいえ、リンクパスが形成されているので、直接触れる必要は無いです。が、持ち歩く程度の近さにある事が会話の条件です。互いの存在は無限遠に居ても感じる事が出来ます。》

 

 いつもチノパンのベルトにつけている煙草やライターを入れているサイドバッグに煙管の道具一式と一緒に投げ入れて、一服する。

 多数の知的生命体とか爺さんが『人ならざる姿であろうとも、知性があり言語を理解する能力を持った人の形をした者達』というぐらいにはどのくらいの人型なのかな。

 

 《種族数は多岐に渡り現状把握出来ておりません。『人ならざる姿』というのは、徹様の言語ライブラリに拠れば『獣人』と呼ばれる物が多数です。が、人型をしていながらも言葉を持たない種族もいるのも多数確認されています。》

 

 ケモ耳ですか。生で見てみたいという衝動に駆られる。

 あ、爺さんが教えた範囲って、どの辺りまでなのだろうか?

 

 《小学二年生レベルの国語と算数、後は多数の農業技術です。が、冶金等々の技術が無かった為に、非常に粗末な道具での作業になっております。徹様の語彙をお借りするなら、義信様が手を入れた里とその周辺だけが弥生時代、周囲はまだ縄文時代といった感じでしょうか》

 

 まあ、日常会話に支障はないレベルか。しかし、冶金がないとなると、木鍬とかそういうレベルはキツいな。

 そういえば爺さんが『ナノマシン』やら『テラフォーミング』とか書いてたけど、どういう事?

 

 《惑星開発システムは、当該惑星系の重力、大気成分、平均温度を調整する為にナノマシンを使って、テラフォーミングしました。また、生物の進化と文明の発生の為に『意志に応えるナノマシン』を散布し続けています》

 

 『意志に応えるナノマシン』とか都合の良いアイテムがあって、なんで文明が発達しないのだろうか。便利アイテム過ぎて依存しているのかな?

 

 《そうではありません。対象の物質に対する正確な認識がないので、彼らではあまり上手く発動させられないのです》

 

 なんだか大体読めてきた。後は現状を目で見ないとわからんか。

 転移した先が危険とかそういうオチは無いよね。

 

 《双方とも最終転移先に転移しますが、前回の転移先はその里から誰も入らないようにしてある義信様の田んぼと畑の奥の滝壺脇の小屋になっております。まず危険はありません。》

 

 お膳立ては整ってるじゃないか。

 あ、爺さん曰く目まぐるしく季節が巡り、日本の一ヶ月で一年とか書いてあるけど、どういう事? 

 

 《当該惑星の一日は、地球における約24時間、一年は約360日です。平行宇宙の時間流速が約12倍なので、結果的にこちらの一日が向こうでの約12日になります。また、公転面に対する自転軸の傾きが約28度と、地球に比べ大きいので、季節による天候の差は大きくなります。》

 

 転移先はどのくらいの緯度にあって、何月何日で気温は何度ぐらいなの?

 

 《北緯30度辺りです。まだ暦はありませんが春分点を三日過ぎの夜です。平均気温は7度前後です。》

 

 農業指導が入っているのに、暦が無いとか片手落ちにも程があるな、爺さん。

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