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そしてぼくは死にそうだ

 プリムラポリアンサで埋め尽くしたような空

 大空を映す雨上がりの鏡

 スパイスの混じった家庭の匂い

 世界に音を与える踏切警報機

 

 平和を生きて17年。

 隣に歩くこの少女は俺の妹。

 歳は17歳。

 俺たちは双子だ。

 今日は偶々たまたま電車の時間が一緒だった。

 違う高校に通ってる俺達には、なかなか珍しいことだった。

 ――すっすっ

 靴の踵が地面をこする

 平和の中に不穏な静寂

 嗚呼、沈黙が痛い。

 実は先日、妹と喧嘩をした。

 喧嘩の理由は俺の部屋で見つかった、桃色の本(・・・・)だ。

 俺だって健全な男子高校なのだから、そういう本の1冊や12冊持っていたって不思議じゃない。

 しかし彼女は、

 ———さいってー!!キモイ!!死ねばいいのに。

 んなことを言いやがった。あの冷酷な目を俺はいまだに忘れることができない。

 そのあとから、一方的に無視されている。

 喧嘩というよりいじめ?

 これ完全にいじめじゃないか?

 まあでも、帰宅路の途中にあるケーキ屋さんでシューアイスでも買ってあげれば機嫌も直るだろ。

 

 一瞬、目が映す景色すべてが灰色になる

 まるで風のようにその感覚は通り過ぎていく

 

 曲がり角を曲がる

「きゃあああああ!!」

 妹の声

 !?

 嘘だろ。

 何もかもが止まっている

 文字通り何もかも

 まるで洋服屋に来ているかのように

 人々がマネキンのように

 ぴくりとも動かない

 フラッシュモブ!?


「どうして()は動いてるんちゃ?」


 声!?

 どこだ?

 俺はあたりを見渡す

「後ろっちゃ。」

 目を疑った。

 それはあまりにも馬鹿げていた。

 リアルに作られたクマのぬいぐるみが俺の背後に立っていた

「お、お前がしゃべった・・のか?」

「お前とは何だっちゃ?」

 やっぱりこいつか。

 冗談キッツ。

「お前じゃないっちゃ!ナイジェルっちゃ!」

 変な名前。

 ってか、名前なんてどうでもいい。

「そうじゃん!名前なんてどうでもいいんだよ!この状況。お前がやったのか?なにをしたんだ?」

「どうでもよくないっちゃ!名前こそがこの世界をたらしめる大事なものなのちゃ!それが分からないとは、君は頭が悪いようだっちゃね。」

 むかつく・・・。

「いや、俺はこれはお前がやったのかって聞いてんだよ!」

「人の話はちゃんときくっちゃ!まったくもう。そうだっちゃ。これはナイジェルがやったっちゃ。」

「な、何の為に?」


「君の妹、潮椎名うしおしいなちゃんを迎えに来たんちゃ。」


「えっ!?」

 椎名も心当たりがないようだ

「どういうことだよ。椎名?」

「し、知らないよ?!」

 椎名の顔色が悪い。

 そりゃあそうか。

 こんなに冷静(・・)に対処できるなんてラノベの読みすぎな俺ぐらいなもんか。

 昔聞いた話では、人間の脳ってやつは案外適当らしい。人が受容する感覚は都合のいいように脳で変換されることがあるんだとか。

 それはそうすることによってやはり都合がよくって、気持ちがいいことだからで、

 例えば、曲がるはずのない前腕が新しい関節を作り、背側に折れ曲がったところを想像してほしい。

 中には吐き気を催した人もいるんじゃないかな?

 そう。逆に都合の悪いことは人にとって気持ちが悪い。

 角を曲がるとそこは異世界のように人が動きを止めていて、いきなりクマのぬいぐるみに迎えに来たといわれる。

 椎名にとってこんなに都合が悪いことなんてあるか?

 俺はいつだって『異世界から相棒がやってきて異能力が手にはいる』など色んなシュミレーションを想定しているから、案外やっときたか?なんて思ってられるけど、椎名は違う。

 最悪に気持ちが悪い筈なんだ。

 というかもう顔が真っ白で今にも倒れそうだ。

「椎名大丈夫か?」

 無反応

「おい!椎名!」

「えっうん。大丈夫。」

 大丈夫じゃないな。

「おま、ナイジェル?迎えに来たって言ったよな?」

「言ったっちゃね。」

「どこに連れていくんだ?」

魔女の家ウィッチハウスっちゃ。」

 魔女の家?ということは、実はうちの妹は魔女っ子椎名ちゃんだったってことか?

「ナイジェル椎名は、その、魔女なのか?」

「そんなわけないじゃん!私は人間だよ?お兄ちゃん。」

 そんな悲しい顔で言われたらお兄ちゃん、泣いちゃうよ。

「魔女じゃないっちゃ。今は、っちゃけどね。」

「どういう事だ?」

「椎名ちゃんは選ばれたんちゃ。」

「選ばれた?私そんなのに応募した覚えなんかないよ?」

「応募するしないなんて関係ないっちゃ。すべての魔法少女は大魔法使い(・・・・・)マーリン・シルベスター様が地球の女の子の中から、選んでるんちゃ!まあしいて言えば、女の子に生まれた時点で魔法少女に応募してるってこっとっちゃね。」

「なるほどな・・・。」

「ちょっとお兄ちゃん!納得しないでよ!私連れ去られるんだよ?・・・その・・・いいの?」

「連れ去るとは人聞きが悪いっちゃね。迎えに来たってさっきも言ったっちゃ。」

「私はいかない!」

「だ、そうだから、ナイジェル。悪いけどおかえり願うわ。」

 まあ、そうはいったって、

「それでノコノコ帰るわけないっちゃ。」

 ですよね。

「ところでさっきも言ったっちゃけど、なぜ君は(・・)動いていられるんちゃ?この時の中を動けるのは術者であるナイジェルと魔法少女、あるいは魔法少女の才を持ったものだけっちゃ。もしかして君は女の子っちゃ?」

「そんなわけねーーーだろ!!俺は男だ!まあ、俺がお前の術式内で動けるのには心当たりがあるぜ。」

 そう。それは決まっている。

「ほう。どうしてっちゃ?」

「決まってるじゃん。俺が特異点だからだ。」

 元来、こう言うシチュエーションにおける今の俺の立ち位置は、


 主人公。


 ―――ごぐっ!!!

 痛い、いた、痛いのか?腹部に熱を感じ目線を下に下げ確認してみる。

 穴が開いている

 傷口はなんだか丸みを帯びていて

 血は出ていない

 

ははっ。

 

 びちゃ


 唐突に視界が反転する

 

「——双子…から、…バグ―――っちゃね。」


 あ、死ぬ。


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