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君のためにできること 後編

再試のために行う、勉強会。その行方はいかに・・・

隠された竜駕の秘密が明らかに!!!

その翌日。

ちょうど休日に差し掛かるということで、十時から勉強会をしようということになった。

私はというと、みんなが食べた朝食の片づけ中である。

相も変わらず楽しそうな声を聴きながら、黙々と作業を続ける。

四宮さんが衝撃的な発言をしたのは、食器を片付け終わったあとだった。


「ロン~オレ、勉強できなくなっちった♪」


言っている内容は申し訳なさそうに聞こえるのに、表情は満面の笑み。

彼のことをよく知らない私でも、疑いたくなるような言葉だった。


「できなくなっちったって……なんで?」


「さっきみきちゃんから、デートのお誘いがあってさ~今日じゃないと絶対に嫌だっていうわけよ~だからごめん! 行かせてください!」


「今から?」


「うん! 今から! 昼はいらないから! あ、夜ご飯前には帰ってくるね! んじゃいってきま~す!」


「あ、ちょっと牙狼!」


もはや夜刀さんの言葉なんか聞こえていない。

四宮さんはいかにも楽しそうに鼻歌を歌いながら、部屋の外でいってしまう。

なんか、勉強したくないだけに見えたのは私の気のせいなのだろうか。

まあ四宮さんの性格的にありえそうな気はするけど。


「竜駕、わりぃ。俺もちょっとぬけるわ」


なんともあろうことか、雪風君までもが夜刀さんにそう言った。

後ろにいた希君も、「僕もです」と小さく返事する。


「ノンちゃんにユキまで……なにかあるの?」


「この間、担任にクーラーの修理頼まれてたのすっかり忘れててな。休日しか無理っぽいし、今から行ってくる」


「僕は、それのお手伝いをしに」


そういうと、二人はそそくさと行ってしまう。

一気に静かになった部屋で、私はぽかんと口を開けるしかなかった。

三人とも、あんなにひどい点数なのにあの余裕は何なの!?

ある意味尊敬するよ! さすがカルテットスター!


「……まあ、あの三人ならやりかねないとは思ってたけどね。仕方ないか……」


夜刀さんはまるで自分に言い聞かせるように、独り言を言う。

私のほうを振り返り、いつもの笑みを浮かべる。


「二人でやろっか、彩月ちゃん」


そうして私達は二人で勉強会をすることになってしまった。



「あの、夜刀さん。この問題って?」


「それはね、円の面積を求めるのがπrの二乗だってことはわかるよね。rは半径を示してるから、この円の半径を二乗してそれにπをつけるだけだよ」


「この選択しているものだけを求めるのもですか?」


「そ。まず全体のを出してみて、その選択の円と別々に面積を出していくんだ。一緒にやってみる?」


彼の顔が、息がかかるほど近い。

夜刀さんの顔を見ないように、私はどぎまぎしながら勉強を続けた。

なんだか、落ち着かないなぁ。

ただでさえ二人きりな上に、こんなに密着されるとこっちが戸惑ってしまう。

彼とはよく一緒にもいるし、一番年が近い。

だからかな? こんなに緊張するの。


「どう? わかりそう?」


「な、なんとか大丈夫です」


「そんなに難しく考えることないよ。彩月ちゃんならできる、僕はそう思うおい」


彼はいつも、やさしく私にそう言ってくれる。

この優しい言葉に、私は幾度となく励まされた。

カルテットスターを知って、一番最初にかっこいいと思ったのが去年も選ばれている夜刀君だった。

ツイッターやブログなどの女の子の書き込みに、ものすごく丁寧に優しく応答していた。


そんな彼の魅力に、私もいつの間にか惹かれていた。

すごく優しくて、暖かくて。

あの時の私は、こうなることなんて予想してなかったのに……


「夜刀さんって、すごいんですね」


「え?」


「だって、模試で一位とったんですよね。教えた方もうまいし、何でもできてうらやましいです」


「何でもできるってほど天才じゃないよ。偶然、僕が知性だっただけ」


「はい?」


「……彩月ちゃんは、竜って信じる?」


唐突に言われたその言葉に、私はびっくりする。

竜、といえば物語の世界で出てくる幻想的な動物だ。

確か、干支でも出てくる。実際に見たことがあるという人はなかなかいないから、伝説上としてしか言われてないけど。

それが今、なんで関係してくるんだろう……


「どうして、いきなりそんなこと聞くんですか? 竜って、物語の世界の動物ですよね?」


「その竜が、この世に……現実にいるって知ったらどうする?」


「現実に……?」


「……僕はね、竜と人間の間に生まれた竜族の末裔。大昔に滅びた、竜族の生き残りなんだ」


竜族?

いったい何の話か、全く理解ができない。

どういうことか、考えるだけでも頭がこんがらがってくる。

それでも夜刀さんの顔は穏やかで、いつにもまして落ち着いているようにも見える。


「ごめん、彩月ちゃんには難しすぎたかな?」


「あ、あたりまえじゃないですか。いきなり言われても、頭の整理が……」


「じゃあ今からあることをやってみせるから、見ててくれる?」


そういって、夜刀さんは手を前に広げてみせる。

すると、なんともあろうことか掌の上に次々と水滴が集まったのだ!

やがて水滴が一点に集められ、一つの泡のように固まる。


「す、すごい……マジックか何かですか?」


「これが、僕の能力なんだ」


「能力?」


「さっきも言ったとおり、僕は竜族の末裔でね。代々、水をつかさどる竜なんだよ」


彼が言っていることが、いまだに信じられない。

でもうそを言っているわけじゃないっていうのは、彼の顔だけでもわかる。

本当に、竜なんて存在するんだ。


「ノンちゃんが超能力者だったみたいに、僕達も人間じゃないんだよ」


「じゃあ、四宮さんと雪風君も?」


「今言っても信じられないかもしれない。本人たちにも心の準備があるから、詳しくは教えられないんだ」


人間に見えて、人間じゃない。

カルテットスターに、そんな秘密があったなんて。

だから異空間に住んでるのかな。四人だけで。

誰にも本当のことを言えずに、四人だけでずっと……?


「ということは、出身も違うところなんですか?」


「出身はここでも、時代が違うんだ。今よりずっと昔のこと」


「昭和時代、とかですか?」


「僕も詳しいことまでは分からないけど、たぶん縄文時代より昔かもね。竜が存在してたって言われているのは、そのくらいだし」


希君が未来ときて、夜刀さんは昔ときた。

なんかすごいな、色々と。

縄文時代って、かなり昔の時代なのに。

希君といい彼といい、どうしてこの時代に来たんだろう……


「恐竜が絶滅した理由にもなっている隕石衝突で、僕たちの一族もほろんじゃってね。僕だけが一人生き残っちゃったんだけど、そこに美佳ちゃんが駆け付けてくれて」


「みか?」


「あれ、ノンちゃんから聞いてない?」


首を横に振る。

ずっと気になっていた、その女性の名前。

暖かくて懐かしいこの漢字は、いったい何なのか知りたくて……


「名前は、天澤美佳。僕達四人をここに連れてきてくれた、親代わりのような人なんだ。んで、これが写真」


「ああっ!」


その時、私の脳裏にはっきりと彼女の姿が思い浮かんだ。

そうだ! この人だ!

間違いない、確かあの時―


「彩月ちゃん、知ってるの?」


「この人です! この人が私を、カルテットスターの部屋に連れて行ったんです!」


「へ?」


忘れるわけがない。あんなにきれいな人だったんだもの。

今まで忘れてたのが嘘みたいに、記憶が鮮明によみがえってくる。

いかにも女の子風なワンピースに、おしゃれな日傘。

私は、この人を知っている。

まさか美佳って人だったなんて。


「うーん、彼女ならやりかねない……って言いたいところなんだけど……可能性としてはゼロに近いかなあ」


「え、どうしてですか?」


「彩月ちゃんを疑ってるわけじゃないんだ。ただ、僕たちが中学校卒業の時に、彼女は姿を消してしまってね。それ以来、顔も一切見ていないんだよ」


それじゃあ、あの時の女性はいったい……?


「ここに来てしまったこと、後悔してる?」


「そ、そんなこと……」


「元いた場所に、帰りたい?」


そんなことない、といったら嘘になる。

正直相座高校より、昔の高校がいいと思っているのも事実だ。

カルテットスターに憧れていたとはいえ、あんなにも女子から意地悪を受けるとは思わなかった。

そのせいで希みんなにも、迷惑をかけている。

私は、ここにいるべき人間じゃないんじゃないかって。

でも……


「私、もっと知りたいです。カルテットスターのみんなのこと。迷惑をかけている分、みんなの役に立ちたいんです」


初めてご飯を作った時、感じたこと。

彼らは私達とは違う、それでも明るく楽しく四人でやっている。

そんな彼らを、もっと笑顔にしてあげたい。

それが、私にできる唯一のことなんだって。


「……ダメだなぁ、どうしても君を美佳ちゃんと重ねてみちゃう。ほんと、びっくりするぐらい似てるね。これも、運命ってやつなのかな」


夜刀さんが、ため息交じりで私に言う。

すると彼は私の頭を、やさしくなでだした。


「ありがとう、僕たちのためにそう言ってくれて。でも、無理だけはしないでよ? 僕でよければ力になってあげられるから」


「夜刀さん……」


「それと、僕のこと竜駕って呼んで。夜刀さんって、慣れないし」


そういって、彼は私の額に優しくキスをする。

そのぬくもりが体中に染み渡る。


「僕は君が幸せで笑っていてくれるだけで、うれしいんだ。だから彩月ちゃん、君は君のままでいてね」


彼の―竜駕君の優しいキスと声色に、私はずっと戸惑いをかんじたままだった……



§

「ふぁ~~~! デートしてたらもうこんな時間になっちゃったよ~! 楽しい時間が過ぎるのはあっという間だなぁ」


暗くなった路地を歩きながら、牙狼は背伸びする。

時刻はすでに深夜を回っており、周囲は明かりがないと何も見えないほど真っ暗だ。

それなのに牙狼は物おじせず、すたすたと歩いていく。


「今夜は三日月かぁ」


ふと夜空を見上げ、浮かんでいるつきのほうに目線を移す。

キレイに輝く三日月が、牙狼を見つめるように浮かんでいる。


「そいや、確かもうすぐだったよな。えっと、いつだっけ」


「あ、いたっ! お~い、牙狼~遅いよ~」


「お~ロン! ごめんごめん、ちょ~っと時間ロスしちった♪」


しばらくすると、どこからともなく竜駕が現れる。

まるで子供の帰りを待っていた母親のように手を腰に当て、ため息交じりでいった。


「ちょっとじゃないでしょ? 今何時か分かってる? 僕がどんだけ心配したことか……」


「ロンってば心配性だなぁ。これでもオレはみんなより大人なんだから、その辺は大丈夫だよ~」


「も~すぐ調子に乗るんだから」


やれやれという風に、竜駕は首をすくめる。

二人の間に、涼しげな風が吹き渡る。


「ロンさ、メイちゃんに言ったの? あのこと」


「……うん、言ったよ。つくづく似てるね、美佳ちゃんに」


「やっぱりそう思う? オレも♪」


牙狼はそう言うと、思い出したように口を開いた。


「あっ、そうだ。お願いがあるんだけど!」


「なに?」


「今年の七夕なんだけどさあ……」


二人の様子を見守るように、明るく光る月が見降ろしていたー


(つづく)

竜駕編ラストです! 竜駕はメンバーの中でも、すごいいい子で優しいので私の中で勝手に、お母さんとなってたりします笑

希ちゃん、竜駕ときて次は・・・? ラストを読めば、もうお分かりですね? 次回もお楽しみに。

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