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君のためにできること 中編

テストで赤点を取ってしまったカルテットスター三人と、彩月。

四人は竜駕の提案により、勉強会をすることになり・・・?


その翌日の放課後。私たち一行は生徒会室で勉強会をすることになった。

剣城ちゃんはというと今日は家の用事があるとかで、ここにはいない。

私の隣には、カルテットスター三人が列になって並んでいる。

それを先生のように、前に立っている夜刀さんがいる。


「それじゃ、はじめよっか」


「ロン、かっこいい~~! 本物の先生みたい!」


「そ、そうかな?」


「だいぶ様になってるほうなんじゃねぇの?」


「竜駕先生、です」


「そういわれるとなんか照れるな~ありがと、三人とも」


照れるように少し笑いながら、夜刀さんは参考書のようなものを開く。

その一つ一つの動作がすごく大人っぽくて、本当の先生のようで見惚れてしまうくらいだった。


「彩月ちゃんは、どの教科がだめだったの?」


「えっ、えっと数学です。あと、国語と……」


「なになに? メイちゃんも赤点とっちゃったの? なんか意外~」


「ここのレベルが、高すぎて追いつけなくて……」


「うんうん、それ分かる! 三年間通ってはいるけど、オレ授業さ~っぱり分かんねぇもん!」


それは威張って言うことではないのでは……?

そう突っ込もうとしたけど、さすがに失礼かと思いやめた。


「牙狼は全教科でいいんだよね?」


「ん~まあね~」


「ユキとノンちゃんは?」


「歴史と数学以外」


「暗記教科以外です」


「なんかほとんどっぽいね、みんな」


夜刀さんは少し呆れたような溜息をつくと、よしと言って一枚の紙を配りだした。


「じゃあまず、基礎からやっていこうか。まずみんな共通の国語からね」


配られた用紙を見て、私はすごくびっくりした。

てっきりパソコンで打たれたものかと思ってたのに、まさかの手書きだったからだ。

しかもすごくきれいな字で、分かりやすいように簡略して書かれている。

私達のためにと書いてくれたのか、ヒントという解くポイントなどが書かれてある。


「す、すごい……」


「内容は高校一年の最初で習う基礎を重視してるから。牙狼と彩月ちゃんには、復習になっちゃうけど」


「ん~大丈夫だよ~ロン~オレ、ぜんっぜん分かんねぇから!」


「お前はもうちょい勉強しろ」


「ふみゅう……国語難しいです……」


皆が色々言っている横で、とりあえず問題文に線を引くところから始める。

一年生の、とは言えないような読んだこともない評論だ。

うう……ちゃんとできるかな……


「はい! ロンちゃん! 質問!」


「どうしたの、牙狼」


「この小説には女の子が出てきてないんだけど、どうすればいいんですか!?」


「……え?」


四宮さんのよくわからない質問に、思わず顔を上げる。

それはみんなも同じのようで、全員の視線が四宮さんに向いていた。


「だってさ、これ主人公男の子じゃん? 男の子の気持ち考えるの? そんなことより女の子の気持ちのほうが大事だと思うんだけど!」


「牙狼? 小説っていうのは必ずしも女の子が主役ってわけじゃないからね?」


「まさかお前、主役が女じゃないってだけで解く気なくすのか」


「だって! 男の気持ちを考えたってなにもいいことないじゃん!」


「それなら女子も変わりませんよね?」


「女の子は別なの!」


なんだか、すごいなあ。

聞いているだけで、四宮さんが女の子好きだっていうのがすごく分かる。

確かに日々女の子と遊んだりはしてるけど、まさかここまでとは……


「では竜駕、僕からも質問です」


「何? ノンちゃん」


「主人公がなぜこのような行動をとったのかという問題は、自分で考えなければいけないのですか?」


希、君?


「人間とは自分で考える生き物なのではないのですか? どうして僕が他人の行動について言及しないといけないのですか。そもそも理論的に考えて……」


ダメだ、何も言っていないのに彼はずっと話し続けている。

いつもは口数が少ないおとなしい希君なのに、すごい饒舌で話している。

こんな希君見るの、初めてだなぁ。こんな一面もあるなんて意外。


「希~おい希~戻ってこ~い」


「? 何かご用ですか、ユキ」


「ご用ですかじゃねぇだろ。ほんっとお前語りだすと止まらねぇよなぁ」


「いや、ノンちゃんの気持ちも分かる! 主人公が男ならなおさら! 行動パターンなんて考えたくもないよね~!」


希君と四宮さんの会話に、雪風君はただため息をついただけだった。

ただ一人夜刀さんだけは苦笑いで見つめている。


「ユキはどう? 解けそう?」


「さぁな~こいつらといると集中力欠けるからまじめにやってると馬鹿らしくなってくるんだよなあ~」


「ひっどい! ユッキー! その言い方!」


「僕達、真剣にやってます」


「そもそも勉強自体がめんどいんだよ。留年とか別にしても問題ねぇつうの」


そういう雪風君の答案用紙はほぼ真っ白のようで、他の二人もあまり進んでいないように見えた。

どうやらかなり成績が悪いらしい。

何でもできてそうなイメージがあったから、ちょっと意外だけど。


「彩月ちゃんはどう? できそう?」


「あ、えっと、ここの問題がちょっと……」


「選択肢の問題はね、必ず問題の中に答えが隠されているんだよ。まずアから見ていくと……」


すごく丁寧に、細かく教えてくれる。

しかも先生並みの分かりやすさで、自然に耳に入ってくる。


「それで問題と一致する部分があれば、それが答えってわけ」


「す、すごい……ありがとうございます」


「解けるとすっきりするでしょ? だから勉強って楽しいんだよね」


そういう夜刀さんの顔は、とても穏やかで優しい笑みを浮かべていた。

息が明かるほど近い距離感に、私はドキッとしてしまう。

なるべく顔を見られないように、顔を俯かせる。


「じゃあ次の問題はクイズ形式でいこうか。この問題がわかる人~」


「はい! はい!」


「なあに、牙狼」


「分かりません!」


思わずこけてしまいそうな、堂々とした答えにみんなの視線が向く。

そんなこと気にもしていない様子の四宮さんは、ドヤ顔でキラキラ輝いた瞳を向けている。

夜刀さんは怒りもせず、ただため息をつくとちらりと残りの二人を見た。


「それで? ユキとノンちゃんはどうなの? わかりそう?」


「頑張って考えてます。えっと、答えは……「ア」でしょうか」


「じゃあ俺もそれでいいや。分かんねぇし」


「うーん、ウなんだけどなあ~……こりゃ一から説明したほうがよさそうだね」


観念したように彼はつぶやくと、バックの中から一冊のノートを取り出す。

生徒会室にある黒板を利用して、彼はチョークである文字を書きだした。


「この問題は対義語をあてる問題だよね。そもそも対義語って何のことか分かる?」


「対ってことは対決するの? オレを巡って女の子が争うとか」


「どうか考えてもちげぇだろ。なんだっけ、言葉が闘うんじゃねぇの? 対ってつくぐらいだし」


「……対義……大義……泰宜?」


「対義語っていうのはね、その言葉の反対の言葉って意味なんだよ。例えば、賛成するだったら反対、でしょ?」


夜刀さんが礼を黒板に書きながら、丁寧にやさしく教えてくれる。

対義語が何か知っている私が聞いても、ものすごくわかりやすかった。


「竜駕が言いたいことは分かるけどよぉ、その対義語とやらが分かんねぇと解けねぇじゃねぇか」


「要は暗記、ということですね」


「それじゃ意味ないじゃ~ん! オレたちはロンみたいに頭良くないんだからさあ」


三人が文句のような口を、次々に開く。

そういえばこの三人のテストのことは聞いたけど、夜刀さんのだけは聞いてないな。

こんなに教え方がいいんだから、相当頭よさそうだけど。


「あの、夜刀さんのテストってどうだったんですか?」


「メイちゃ~ん、竜駕にテストの点数聞いてどうすんの~?」


「え?」


「百点だよ、全教科」


「この前あった全国模擬テストでも、一位でした」


「い、一位!?」


あまりのことに、私はすっとんきょうな声を上げる。

模擬試験と言えば、ものすごくレベルが高いテストだ。

模擬試験を行うことによって受験生と受験校(志望校)の学力偏差値と、受験生の合格可能性をある程度正確に判定することができる。

問題も難しければ、それの点数を取るのも難しい。

そんな模擬試験で、一位? まさか、そんなことって……


「ロンって勉強すっげーできるんだよね。IQが二百あるんだっけ」


「まあ、ね」


「す、すごいじゃないですか!! 模擬試験で一位なんて聞いたことないです!」


私が言うと、夜刀さんは少し苦笑いを浮かべた。


「はいはい、僕の話はそこまで。再試まで時間も少ないんだし、がんばらないとね」


そう言って笑った夜刀さんの笑みが、頭から離れなかった。


(つづく)

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