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想いを筆に込めて 後編

二人で行動することになった希と、彩月。それをよく思っていない女子達に、階段から突き落とされてしまう。落とされた彩月を希がかばって・・・・!?

その後、私は急いでカルテットスターのもとへ走った。

希君のことを手短に話すと、三人は血相を変えて希君のところへ行ってくれた。

剣城ちゃんからは「大丈夫ですよ」と何回も励まされ、私も彼らのところへ同行した。

三人の手によって保健室に運ばれた希君は、静かに眠っていた。

学校の保健室だというのに、レントゲンの機械や注射などがそろっており、まるで病院の診察室のような感じだった。


「骨に異常はありません。幸いそんな高いところからじゃなかったようですが、打撲と打ち身がひどいですね。頭も少々うってしまっているのでしばらくは安静にするようにと伝えてください」


「ありがとうございます、先生」


夜刀さんが、少し浮かない表情で先生に会釈する。

先生は会議があるのでと言い、そそくさ退出してしまう。

しーんとしずまりかえった保健室で一番に声を上げたのは、四宮さんだった。


「うう、おいたわしやノンちゃん! なんてかわいそうなんだ~~!」


「でも大事に至らなくてよかった。ノンちゃん、ぐっすり眠ってる」


「……ごめんなさい、私のせいで……」


謝っても許されるわけがない。

そうは思っても、謝らないと気が済まない。

希君は私を守ったせいでこうなってしまったんだ。

せっかく、少しでも役に立てればって思ったのに……


「言ったよな? 希に何かしたら許さねぇって」


「それは……」


「その結果がこれか。たいした女だぜ、よくも希をこんな目にあわせたな!」


「ユキ、やめなよ。彩月ちゃんが悪いんじゃないでしょ?」


夜刀さんの静かな仲裁で、雪風君は舌打ちをしそっぽを向く。

そういえば、あの女の子たちはどこに行ってしまったのだろう。

あの時、希君が何かしたように見えたのは私の気のせい……?


「そいやメイちゃん、階段から落とされたって言ってたけどどの子に?」


「え?」


「オレ達が駆けつける間、人っ子一人いなかったからさ。ノンちゃんのファンが一人や二人いてもおかしくはないと思ったんだけど」


四宮さんの指摘に、私は今まで不思議に思っていたことを全部話してみる。

心なしか、三人の顔色が変わったようにも見えた。

三人は顔を合わせうなずき合うと、雪風君は希君のほうに、四宮さんは薬などがしまっている棚のほうへ行ってしまう。


「ここじゃなんだし、外で話そっか」


夜刀さんからそういわれ、保健室から外へ出る。

今までとは違い、なんだか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。


「彩月ちゃん。女の子たちが消えたって、本当?」


「は、はい。希君が何かつぶやいた後、ぐらいに……」


「ノンちゃんが何を言っていたか、聞こえた?」


「ちょっとぐらいしか……日本語ではなかった気がします」


「そっか……あまりこの話は、あまりしたくなかったんだけど……」


夜刀さんの目が、真剣な色を帯びてより一層きれいに見える。

なびく風が、私たちの髪を揺らす。


「彼女達はいなくなったんじゃない。消されたんだ、ノンちゃんの能力で」


「え……?」


「ノンちゃんは多分、あの後君が襲われないようにしたんだと思う。あの方法でしか、彼にはできなかったんだ」


「どういう、事ですか?」


「ノンちゃんは……人間じゃないんだ」


驚きのあまり、声が出なくなった。



その後すぐに、希君の意識は戻ったおかげで話は中断された。

詳しいことはまだ聞けていないせいで、頭の中がごちゃごちゃしている。

そりゃそうだ。あんなこと、信じられるほうがおかしい。

夜刀君の言っていることは本当だ。あの目は真剣で、嘘を言っているようには思えない。

部屋の窓の外から、きれいな星が見える。

一点に輝くきれいな星が私を見ている気がした。


(人間じゃない……か)


じゃあ希君は本当に、本当に人間じゃないの?

でもどう見たって同じ人間じゃないか。

そんなの、嘘だよね?


「湊さん」


不意に話しかけられ、ぱっと振り向く。

そこには検査を終えた希君がいた。

頭と左足首にまかれた包帯に、目線がいく。

その姿を見ると、どうしようもなく私は胸が締め付けられる。


「希君、具合はもう大丈夫なんですか?」


「はい。そういう湊さんこそ、大丈夫ですか?」


「私のことは気にしないでください。それより私、希君と話がしたくて」


「大丈夫です。竜駕から、聞きました」


希君は私の隣に座ると、ぶかぶかの袖から細い手を出した。

その腕には、金色に光る腕輪がはめ込まれている。

何かの文様か何かが細かく記されており、不定期に光を帯びる。


「これは?」


「制御装置です」


「え、制御装置?」


「僕の能力を抑えるために、ユキが作ってくれました」


と、言うことは……?


「僕はここの時代ではなく、はるか先の未来で生まれた兵器の能力を持って生まれた人間。いわば、超能力者なんです」


私はもう、驚きを隠せずにいた。

まさか、本当にいるなんて!

しかも未来から来たって……なんかすごいことになっちゃってるなぁ。


「僕は親に捨てられた、兵器としての存在でした。未来では戦争の道具となるべく常に特訓させられていました」


「戦争に使う武器が人間そのものだってことですか?」


「……でも僕の力は、大人にとっては相当のものだったみたいです。湊さん、目をつむっていただけますか?」


言われるがまま、私はゆっくり目を閉じる。

こつんと、おでこに何かが当たった気がした。

希君の顔が、吐息のかかるほど近いように感じる。

目を閉じている中、希君から繊細なイメージが伝わってきた。


そこは、何もない世界―花も、緑も、家もない。

あれ果てた地に、死んだ人の骸骨がおちている。

その真ん中の地に、爆風を起こしたであろう一人の少年が佇んでいて……


「これが、僕の世界です」


はっと目を開けると、希君の顔がすぐ近くにあった。

彼は少しずつ私から離れると、浅く会釈した。


「すみません、言葉じゃ説明しにくくて……」


「そんなことないです、なんとなくですが分かりました。希君の能力のこと、あの世界のこと」


希君の力は、きっと自分でも制御できないほど強かった。

それが大人たちに報いを与え、とうとう世界まで滅びてしまったのだろう。

あの真ん中に立っていた少年は、きっと希君だ。

まだ幼かったであろう、たった一人の少年―


「あの女の子達を消してしまったのも、希君の仕業なんですか?」


「ええ、まあ。あれが精いっぱいだったので」


「ちゃんと、元に戻りますよね?」


「え?」


「消したままってことはないですよね?」


つい向きになってしまう自分がいる。

助けてくれた希君に向かって、我ながらなんてひどいことを言っているんだろう。

希君はきょとんとしていたが、しばらくすると言葉を選んで説明してくれた。


「それは大丈夫です。制御装置がある限り、命にかかわるようなことはしません。彼女達は今頃、何事もなかったかのように家に帰っているかと」


「本当ですか!? よかったぁ……」


「……不思議です」


安心している私に、希君はどうしてと言わんばかりの表情を浮かべた、


「どうして彼女達を心配するのですか? 一歩遅ければ、あなたが大けがしていたのですよ? それなのに、どうして?」


「どうしてって、そんなの心配だからに決まってるじゃないですか。いくら悪いことをしたからって痛い目にあうのは、かわいそうです」


「かわい、そう?」


私が言っても彼はあんまり納得していないようで、首をかしげるばかり。

すると何を思ったのか、ぽんと納得したようなしぐさをし私のほうへ身を倒し……ってええ!?


「の、希君!? ななな、何を!」


「……あの時僕は、とっさに体が動いていました。僕自身、どうしてか分かりません。でもなんだか、今ならわかる気がします」


「希君……?」


「あなたは美佳と同じです。一緒にいると安心します、心が温かくなります。このあたりが、すごく……」


そういって希君は、自分の胸を示す。

彼の上目遣いが、私の心をざわつかす。


「この感情は、いったい何なんでしょうか……?」


希君はそう言いながら、私の膝をまくら代わりにし眠ってしまった。

なんだか夢のようなことが起こっているようで、いまだに信じられない。

『美佳』

その名前が度々、希君の口から出てきた気がする。

いったい誰のことを言っているのだろう。

初めて聞いたはずの名前なのになんだか懐かしくて暖かくて、気が付くと私も眠っていた。




§

「いいなあ、いいなあ! ノンちゃんってば、あ~~~~んなにメイちゃんに引っ付いちゃって! う~ら~や~ま~し~い!」


彩月の部屋をのぞき込みながら、牙狼が身をくねくねさせる。

その様子を、雪風と竜駕が呆れたように見ている。


「ねぇねぇ二人とも、ノンちゃんずるくない!? 一人だけ抜け駆けとか許せないんだけど!」


「知るかよ。俺に振るな」


「二人とも気持ちよさそうに眠ってるから、起こしちゃだめだよ。牙狼」


「別に起こす気はないけどさ~二人で一夜を過ごせるなんて最高じゃん。あそこ変わってほしいんだけどなぁ」


「どっちにしろ希をあのままにはしておけねぇだろ。俺、運んでくるわ」


「……ごめんね、二人とも。ノンちゃんのこと、彩月ちゃんに話して」


唐突に、竜駕が口を開く。

二人の目線が、一斉に彼に向く。


「四人だけの秘密って言っておきながら勝手に話して、本当にごめん。彩月ちゃんだけには、何か嘘をつきたくないような気がして」


「も~ロンってばまたそれ~? オレら何も言ってないじゃん!」


牙狼が明るく、竜駕にめっとしかりつける。

それをサポートするかのように、雪風が付け加えた。


「勝手に言ったのは許さねぇけど、それしか方法がなかったってことだろ?」


「ユッキーの言うとおり! それにさ、ここに一緒にいる以上知らせなきゃいけないことだってあるよ。ノンちゃんだけでなく、オレ達のこともさ」


そういいながら、牙狼は彩月の部屋へ静かに入ってゆく。

雪風に希を抱かせ、その間に彼女をベッドの中に寝かせる。


「オレ達全員の秘密を知ったメイちゃんがどういう風に成長するか、見守ってあげようよ♪」


すやすや眠っている彩月の頭をそっとふれながら、牙狼は優しく微笑んだ。


(続く・・・)

前回の話で出てきたradieren、という単語はドイツ語で「消える」という意味みたいです。

今後作中にドイツ語が多々出てきますので、解説もあわせてお楽しみください。

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