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想いを筆に込めて 前編

『ねぇ、あなたは人生楽しんでる?』


なんだか、聞いたことのある声が聞こえる。


『せっかくの人生なんだから、楽しまないともったいなくない?』


なんでだろう、すごく懐かしい感じがする。


『いつかあなたの人生に素晴らしいことが起こるよ。きっと素敵なことがね』


柔らかい声色、暖かい微笑み、あなたは誰……?



「……き、彩月!」


私を呼ぶ声が聞こえる。

はっと目が覚め、照明の光に目を細めた。


「あれ……? 私、寝てた……?」


「なにが寝てたですか! 授業中に居眠りとは、相座高校の生徒として情けないです!」


私のそばにいたのは、風紀委員長である沖田剣城ちゃんがいた。

あれから少し仲良くなった私たちは、今では名前を呼び合うまで距離が近まっている。


「ご、ごめんなさい。気が付いたら、つい」


「まったく、情けないですよ? そんなんだからカルテットスターもだらしないんです」


あれ、何か怒らせちゃったかな。


「聞いたところ、あなたはカルテットスターと仲がいいようですね。なので常に相座高校の生徒である自覚を持ってほしいのです。彼らにもそのことを伝えておいてください」


「相っ変わらずひっどい言い方するねぇ、つるちゃんは」


聞きなれた声に、ぱっと後ろを向く。

振り返るとそこには四宮さんがいた。

その隣に夜刀君と雪風君もいる。

三人がいるせいか、教室は一気に歓声の渦に包まれた。


「本当のことを言ったまでです。そんなに言うのでしたらちゃんと規則を守ってください」


「この学校の規則堅苦しいんだよね~ほら、オレって銀髪のほうが似合うじゃん?」


「知りませんよ、そんなこと」


「まあまあ細かいことは置いといて~生徒総会の資料、先生に許可もらったからコピーしに行かね?」


「分かりました。あら、菱田君の姿が見えませんが?」


「ノンちゃんは部屋でお留守番。なんか、宿題が終わってないみたいで」


「宿題をやっていないとは、カルテットスターはどれだけ落ちぶれているのですか」


「まあまあ沖田さん、そのくらいに」


すると夜刀さんは私に気付くと、くすっと笑ってこう言った。


「そうだ。せっかくだから彩月ちゃん、ノンちゃんの様子見てきてくれないかな?」


「え、私ですか?」


「僕達今日中に印刷しなきゃいけなくて。頼める?」


「あ、はい! わかりました!」


「おい、湊。希に変なことしたら、この俺が許さねぇからな、覚悟しとけよ」


雪風君が怒るかのような声で私に言う。

じゃあね~と軽快に手を振る四宮さんに浅く会釈しながら、私は生徒会室へと歩き出した。



周囲を警戒しながら、そうっと生徒会室までの道をたどる。

女子の声が聞こえたかと思えば、どこかの部屋に身を隠す。


(私……何してるんだろう)


自分でもよくわからないほど、ドキドキしている。

まるでスパイごっこでもしているかのようだ。

こうでもしないと、見つかればたちまち噂になりまた例のいじめが起こる気がする。

あんなに女子が怖いとは、思いもしなかった(私も女だけどね)。

それだけカルテットスターに対してみんな本気なんだろうな。

生徒の目をかいくぐりながら、何とか生徒会室に行く。

二回ノックし、ガチャリとドアを開ける。


「こんにちは~……」


そこには、一人黙々と宿題をしている希君の姿があった。

私に気付いていないのか、熱心にノートに書いている。

そうっと後ろからのぞくと、カルテットスターの三人だと思われるような絵が描かれていた。


「……希、君?」


びくっと肩を揺らし、私のほうを見る。

「わあっ」と小さく悲鳴をあげた希君は、持っていたノートを抱えて立ち上がった。


「みみみみみ湊さんっ、いつからそこに?」


「え、えっと、今ですけど」


「そう、ですか……びっくりしました」


はあっと一息つきながら、部屋の隅っこの方に移動してしまう。

まるでノートを隠しているようにもみえ、必死に息を整えている。


「あの希君」


「……なんですか」


「何、書いてたんですか?」


再び希君が、肩をびくっと揺らす。

私が見せてくださいと言いながら、ゆっくり手を伸ばす。

すると希君はノートを私から遠ざけ、首をぶんぶん振った。


「見ないでください!」


「あ、ごめんなさい……気になっちゃって。美術の宿題ですか?」


「宿題……というより趣味のようなものです。僕、絵をかいたりするのが好きなので」


へ~と感心する私に、顔を赤らめる希君。

なんだか、意外だな。

いつもは物静かな希君でも、こんな顔するんだな。


「どんな絵をかいてるんですか?」


「とてもじゃありませんが見せられるものではありません」


「ペンは何を使っているんですか?」


「教えられません」


どうやら彼は、絵を見せるのがそうとういやらしい。

これ以上聞くのは不快な思いをさせるかなと思い、私はすぐに謝った。


「ごめんなさい、嫌なこと聞いちゃって。じゃあ私、待ちます」


「待つ?」


「はい。希君が、絵を見せてくれるまで」


私が言うと、彼はきょとんとしたような表情を浮かべてみせる。

しばらくすると、首をかしげ私に聞いた。


「不思議です。自分から見るのではなく、見せてくれるのを待つんですか?」


「はい」


「いつになるか分からないのを、ずっと待ち続けるんですか?」


「勝手に見たら迷惑かなって思って」


ごく当たり前のことを言っているのに、希君は私を不思議そうにじいっと見つめている。

しばらくすると、希君は持っていたノートを広げゆっくりと私のほうへ差し出した。


「希君?」


「少しだけなら、見ても大丈夫ですけど」


「え、本当ですか!? ありがとうございます!」


「まだ、あんまりうまくないですけど……」


希君が自信なさそうに言うのを、私はノートを一枚一枚めくっていく。

ノートだと思っていたそれは、スケッチブックだった。

鉛筆か何かのペンで書かれているそれは、とても細かく丁寧に風景の模写が書かれていた。


「すごい……キレイですね」


「昔、牙狼が連れて行ってくれたんです。その時見た風景がすごくきれいで写真にとっていたのを書きました」


キレイだと思った風景を書き留めてる、か。

確かにきれいだ。希君の絵だけでもそれが分かる。

なかには相座高校の中や、四人が住んでいる部屋の様子まで書かれている。

次のページを開くと、そこにはカルテットスターと瓜二つの似顔絵が描かれていた。


「これって……カルテットスターの皆さんですか?」


「……あ」


「もしかして、さっき書いてたのってこの絵ですか?」


「ちが、違います。これはその、宿題で……」


希君はあたふたするように身振り手振りで違うと説明する。

その様子があまりにかわいすぎて、見ているとこっちが癒されてしまう。

観念したのか、希君は顔を少し赤らめていった。


「今日の美術で、宿題が出たんです。各自、大切なものをスケッチブックに書いて提出するようにと」


「それで、カルテットスターの3人を?」


「僕にとってはユキも、竜駕も、牙狼も大切な仲間なんです。他に大切なものなんて、ありません」


希君の表情が、心なしかやさしい顔になる。

やっぱりカルテットスターのみんなのきずなは強いな。

ここまで大切にされてるって知ったら、あの三人はどう思うんだろうなぁ。


「湊さんは、どうですか?」


「へ?」


「湊さんの大切なものは、なんですか?」


急に話を振られ、ふと考えてみる。

私の、大切なもの。

そんなこと、考えたこともなかった。

言われてみるとパッと出てこないものである。

友人? それとも家族?


あれ……? そういえば私、誰かにも似たような質問をされた気が……

そんなことを考えていると、突然机に置いてある携帯が鳴りだす。

希君のものだったようで、彼は画面を確認すると私に「牙狼からです」とだけ告げて電話に出た。


「はい、こちら希です。印鑑ですか? 昨日、渡したような気がするのですが……」


彼は電話を肩で押さえながら、ごそごそ鞄を探り出す。

しばらくすると、彼のカバンから印鑑が入っているような箱が出てきた。


「……あ……」


印鑑には、四宮の文字。

それだけで、なんとなく把握できた。

どうやら四宮さんの印鑑を、何らかの理由で希君が持っていたらしい。

それを返したと思っていたのかな。希君は顔色一つ変えず、携帯を手に持ち直した。


「すみません、どうやら渡せていなかったみたいです。今どこにいますか? ……分かりました、持ってきます」


携帯をピッと切った希君は、私にこう言った。


「湊さん、この後予定ありますか?」


「特にはないですけど」


「でしたら、一緒に来てくださいませんか? 僕、湊さんと一緒がいい、です」


えっという声が漏れてしまう。

希君はだめですか? と言わんばかりの表情を浮かべている。

あまりの事態にどうすることもできなかった私は、流れに身を任せ彼の提案を了承したのだった。


(続く・・・)

随分と遅い更新で申し訳ないです汗 今回はのんちゃんこと、菱田希のお話です!

一つの話が長すぎるので、前・中・後半で分けたいと思ってます!

お楽しみいただけると、ありがたいです!

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