この世界で、たった一人だけ 後編
季節は冬。希は自分だけ「デート」に行っていないことを根に持ち、
お出かけくらいならと彩月と一緒に行くことに・・・
「お待たせしました、湊さん。行きましょう」
全身を防寒着であったかくした希君が、横に並ぶ。
私は、ハイと明るく返事をして見せた。
こんなに厚着をしているのも、寒さ対策の一環なのだろう。
もこもことしたマフラーにニット帽、さらに手袋もしている。
多分、竜駕君のことだから念には念を、ってことなんだろうな。
何か本当にお母さんみたいに見えてきた。
「それで、どこにお出かけに行くんですか?」
「お出かけじゃないです。デートです」
「え、えっと~……」
「異性同士がお出かけするのをデートと呼ぶのではないのですか?」
あながち間違っているような間違っていないような解釈で、いい返事ができない。
こう見えて希君はまだ、9歳という小さな子どもだ。
知らないこととかちゃんと教えてあげたいけど、竜駕君みたいに完璧に説明できないし……
下手なこと教えると、あとで雪風君とかに怒られそうだなあ。
「みんな、ずるいです。湊さんと二人でいられて。僕だけ仲間はずれなんて悲しいです」
「べ、別にそんなつもりは……」
「湊さん。来てほしいところがあります。レッツゴーなのです」
そういって希君は、私の手を小さめに引っ張っていく。
それにつられながら、冬の街を歩いた。
希君の手。
他の三人より、はるかに小さい気がする。
手袋をしてるからか、すごくあったかいけど。
とたとたと歩くその背中は、小さい頃の妹を見ているようでなんだか懐かしくもあった。
「ここです」
希君が足を止め、同時に私を止める。
どうやら小さな雑貨屋さんのようだった。
文房具などはもちろん、かわいらしいキーホルダーも置いてある。
「クラスの女の子に教えてもらったんです。湊さんに、お勧めしたいと思ったので」
「わ、わざわざ私のために、ですか?」
「竜駕が言ってました。感謝の気持ちを込めるには、プレゼントが一番だと。だから僕、湊さんにお礼がしたかったんです」
そういうが否や、希君はトタトタと雑貨屋の中へ入っていく。
しばらく待っていると、希君はラッピング用に包装されたものを持って出てきた。
「どうぞ、湊さん」
「そ、そんなっ。受け取れませんよ」
「ダメです、受け取ってください」
「お礼だなんて……私、そんなたいそうなことしてませんし……」
「何を言ってるんですか。湊さんはいつも、僕達を支えてくれるじゃないですか。ほんの、些細な気持ちです」
希君の目は、いつもまっすぐに私を見つめてくれる。
それが何だか照れくさいような、恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
いいのかな、私なんかが受取っちゃって。
でも、受け取らないと希君に悪いし……
「じゃ、じゃあ……中、開けてもいいですか?」
希君が、こくこくと何度もうなずく。
そんな彼を眺めながら、包まれた包装紙を開けていく。
中に入っていたのは、星をかたどったかわいらしいヘアピンだった。
「きれい……本当に、もらっていいんですか?」
「湊さんに似合うと思ったので。ぜひ、使ってください」
「ありがとうございます。希君」
「僕、湊さんにいくつか質問があるんです。聞いてもいいですか?」
珍しく希君が、控えめながらに私に言う。
彼は上目遣いをしながら。私を見つめていた。
「どうしたんですか? 急に」
「湊さんはいつまで、ここにいてくれるんですか?」
唐突すぎる質問に、えっと声が漏れてしまう。
驚く私にかまわず、希君は顔を俯かせながら言った。
「湊さんがここに来てくれたおかげで僕、毎日が楽しいんです。でも僕達に家があるように、湊さんにも帰る場所があります。だから、聞いておきたくて」
「希君……」
「湊さん。ここにいてください。ずっと一緒にいてください」
希君が、私の服の裾をつかんでくる。
彼の目は、今にも泣きそうに見えてとても心が締め付けられた。
私自身も心ではわかっていた。
いつかは彼らと、離れてしまう日が来るのだろうって。
だからって今すぐに帰れない。
希君だけでなく、みんなをおいて一人で行ってしまうことなんて。
彼らの秘密を知り、なおも接してくれたのは竜駕君の話だと美佳さんだけ。
彼女がいなくなっ手渡しが来たことに、意味があるとしたら……
「私、ここにいますよ」
「……本当ですか?」
「はい。私も皆さんと一緒にいたいんです。今は、まだ」
少しでも支えてあげたい。
皆の気持ちが、和らぐように。
しっかり者のように見えて、人一倍寂しがりやな竜駕君。
いつも明るく元気なのに、死の恐怖と隣り合わせな牙狼さん。
死神長というプレッシャーに耐えながらも、私を守ってくれる雪風君。
そして小さいながらも、みんなについて行こうと頑張っている希君……
正直、彼らにはかなわない。
私と同じくらいなのに、抱えているものはそれぞれ大きい。
そんな彼らに、少しでも私は力になってあげたい。
「……湊さんは、本当に美佳にそっくりですね」
「希、君?」
「美佳もそういってました。ずっと一緒にいるって。約束したのに、美佳は遠くに行っちゃいました。だから、怖いんです。湊さんが、どっかに行っちゃうんじゃないかって」
そんなことない。
そういいたかったのに、言葉が出てこなかった。
いつまでここに入れるのか。
心ではわかっているからこそ、彼の心配を埋めることができない。
何とか希君を安心させたいけど……
「この気持ちが、好きってことなんでしょうか……」
そんなことを思っていた、その時だった。
希君が、私の体に抱き付いてきたのは。
あまりにも自然すぎて、驚くのさえ忘れてしまう。
彼はゆっくりと私の方に顔をあげ、私と目線が合う。
「あ、あの、希君?」
「不思議です。湊さんといると、心があったかくなります」
「え?」
「好きです。湊さん」
!?
「い、いきなりどうしたんですか?」
「どうやら僕、湊さんが好きみたいです」
「だ、だからって急に……」
「一緒にいると心がポカポカします。これからもずっと一緒にいたい。そう思う僕は、悪い子ですか?」
希君が、純粋で真っすぐな瞳をこちらに向ける。
それがかわいくて、とても目を合わすことができなかった。
「僕はずっと、同じ人間に研究道具として使われてきました。戦争に勝つために、たくさん」
「希君……」
「でも、今はそんなの平気なんです。湊さんや、皆さんと一緒に入れる。それだけで僕、幸せなんです」
そういうと、希君は私を抱いた手に力を込める。
安心しきったような、純粋で優しい笑みを浮かべて私を見る。
「これからもよろしくお願いします、湊さん」
彼の優しげな笑顔に、私は照れながらも負けずと笑顔で返して見せた。
(つづく・・・)
メイン回、二周終了しました!
次回、最終回になります! 急でごめんなさい!
31日に更新しますので、最後までどうか
見届けてもらえるとありがたいです‥‥!




