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どんなことがあっても、大切な君を 後編

来る十二月十五日、今日は雪風の誕生日だった。

プレゼントを用意していない彩月に向かって、雪風は「一日借りていく」といい・・・?!

どうして、こんなことになってしまったのだろう。

自分が置かれた状況がいまだに理解できないまま、私ははあっとため息をついた。

楽しくパーティーかと思いきや、まさか雪風君本人から私を借りるって言われるなんて……

雪風君がみんなの意見を聞かずに決めることは、よくあることらしい。

あの後、なぜか竜駕君が私に謝ってきた。

ユキは少しわがままだから、一度決めたら曲げないタイプなんだって。

だから彩月ちゃんに迷惑がかかるかも、と。

竜駕君は本当、私やみんなのことを心配してくれている。

牙狼さんからも、抜け駆けだけはしないでねって言われたけど……

いまだにあの二人から好意を向けられていることを、受け入れられない自分がいる。

だって、憧れのカルテットスターの二人が私を好きなんだよ?

こんな私のどこがいいのかな。どう見ても、周りの子の方がかわいいのに。

よく考えてみれば、今から雪風君と二人で歩くんだよなあ。

私、大丈夫かな。どっかおかしいところとかないよね?

なんだか、不安で全然落ち着かないよ……

「よぉ、湊。待たせたな」

しばらくすると、どこからともなく雪風君がやってきた。

おしゃれな茶色のコートを羽織って、私をじっと見つめている。

「い、いえ。大丈夫、です。それでその……どこに行くんですか?」

「話はあとだ。行くぞ」

そういうが否や、雪風君は強引に私の腕をつかむ。

あまりのことに少しだけ、鼓動が早くなる。

何も会話がないまま、彼につられるがまま歩いてゆく。

なんだか、初めて二人きりになったときみたいだな。

私、全然雪風君と距離縮まってないのかな……?

「……お前さ、よくあのメンバーで無事に作れたよな」

「え?」

「ケーキだよ。俺には少し甘すぎたが、まあまあの出来だったんじゃねぇの?」

不意に褒められ、なんだかうれしくなってしまう。

彼の顔をうまく見れないまま、雪風君は話を続けた。

「竜駕は分量とか正確に測んねぇと気が済まねぇし、牙狼は何でもかんでも適当に入れたがるし。希は希で知識あるくせに妙なとこでずれてるし……結構大変だっただろ?」

「そう、ですね……でもみなさん楽しそうで、私もすごく楽しかったですよ」

「これだからお人よしは。よくあんなのとつるめるよな」

「雪風君だって、みなさんと仲がいいじゃないですか」

「ばっ! どこをどう見ればそう見えるんだよ!!」

雪風君がバッと私の方を振り無く。

その時の彼の顔は、心なしか頬が赤く染まっていた。

それがなんだかかわいらしくて、ふっと笑ってしまう。

「てめぇ、何笑ってんだよ!」

「あ、すみません。なんか、かわいいなって」

「かわっ!? お前っ、また妙なことを……! 大体、お前は……!」

私への文句を言う直前、雪風君の足は止まった。

つられて、私も足を止める。

「どうしたんですか? 雪風君」

私が声をかけても、彼は微動だにしない。

どうしたんだろうと、彼が見ている視線の先に目線を移した。

そこには一つのお店があって、女の子ならだれでもかわいいと思えるような、小さいお人形がパッケージいっぱい飾ってあった。

「わぁっ、かわいい……! 雪風君、あのお人形かわいくないですか?」

「はぁ!? べっ、別にかわいくねぇし!」

「よかったら見て行きませんか?」

「みっ……お、俺はいい! 男がそんなもん見てどうすんだよ!」

そういう雪風君の様子を見て、なんとなくわかってしまった。

そんな彼に、私は一つ提案してみせた。

「じゃあ私がかわいいと思う人形を選んで、プレゼントしてもいいですか?」

「!! くれるのか……?」

「いつもお世話になっているお例です。昨日の誕生日プレゼントも、渡せていないので。受け取ってくれますか?」

「ま、まあ……湊がそういうなら……もらってやっても……いい……」

そういって恥ずかしそうに頬をかく雪風君の姿は、いつにもなく新鮮でとてもかわいかった。

じゃあ選んできます、とだけ言って店の中の人形を見に行く。

少しでも喜んでくれたのかな。

こんなに迷惑かけてるのに、雪風君もみんなも何一つ言わない。

だからこそ、恩返ししたい。

どんなのがいいかな。ちゃんと気に入ってくれるといいけど……

「あっれ~? 湊さんじゃなぁい♪ やっほ~☆」

その声に、体がびくりと正直に反応する。

やっぱりと思う先には、彼女―島崎さんがいた。

彼女はにんまりと不吉な笑みを浮かべながら、私に近づいてきた。

「こんなところでお出かけ~? 湊さんも女の子らしいとこあるんだねぇ~♪ 茉凛もこのお人形、だぁいすきなのぉ~❤︎」

「そ、そうなんですか……じゃ、じゃあ私はこれで……」

「え~? 逃げられるとでも思ったの~?」

島崎さんの不吉な言葉に、思わず足を止めてしまう。

彼女はぱちんと指を鳴らすと、同時に店のシャッターが閉まった。

「!? し、島崎さん、なにを……!?」

「聞いたよぉ~? カルテットスター様と肝試ししたんだってぇ? しかも、竜駕様と二人きりになったって♪」

どうして、そのことを知っているんだろう。

あの夜のことは、カルテットスターと剣城ちゃんしか知らないはずなのに……

「おまけに体育祭で牙狼様にお姫様抱っこされてたよねぇ~いいなぁ、茉凛もされたかったなあ~お姫様抱っこ♪」

「そ、それは……っ」

「そして今度は雪風様と……あなたって人は、どこまで茉凛を怒らせれば気が済むのかなあ?」

そういうと、島崎さんは私の首をつかむ。

あまりの力に何もできずに、ただ苦しくて声も出せなかった。

「次から次にカルテットスター様を手玉に取って、本当最低。あんたって存在がいるせいで、みんなが迷惑してるんだよ? そんなこともわかんないの?」

なんだか、今までの島崎さんとは違う。

口調だけでなく、今までより怖い目が私を睨みつけている。

私の首をつかんでいた手に、さらに力が込められる。

「あんたさえいなければ、僕の計画は完璧だったのに……! あんたさえ、いなくなれば!!!!!!」

彼女が何か、私に向かって構えている。

思わず、私は目を閉じた。

瞬間、店の入り口の方からものすごい物音が聞こえた。

「湊っ!!!!!」

そこには、雪風君がいた。

彼の手には、あの時の鎌が握られていた。

黒いコートのようなものが、羽織のように長く伸びていて……見るのは二度目となる、彼の死神としての姿だった。

雪風君の姿を見るなり、島崎さんは舌打ちしてようやく私を解放してくれた。

「湊! 大丈夫か?!」

「雪、風……君……」

「ちっ……やっぱりお前だったんだな、プルート!」

彼の叫びに、島崎さんの姿が黒い煙に包まれる。

彼女を包んでいた煙が、徐々に違う形となって姿を現していく。

煙が収まったそこにいたのは、あの時襲ってきた死神だった。

島崎さんとは似ても似つかない笑みを浮かべ、いかにも楽しそうに言った。

「よく気づきましたね、マヤ様。この少女が僕だって。いつから怪しんでたんです?」

「湊を殺せって言った時からだよ。おかしいと思ったんだ、罪のない人間があげられることはめったにねぇ。それに昨日あった会議では、一切湊の名前はあげられなかった。それに、島崎って女は俺だけかなりひいきしてたしな。おのずと犯人は絞られてくるってわけだよ」

「さすがカルテットスター様は違いますねぇ。結構自信あったんだけどなあ」

ってことは、島崎さんは死神だったってこと?

それで、私を殺そうとしていた……

だからあんなに、私のこと……

「ここに来てから、人間界もいいなって思ったんです。死者を迎えに来るためだけに来てるとはいえ、ここの生活を楽しんでいたのは事実です。憧れの死神長だった、マヤ様とも同じ学校でしたしね」

「プルート……」

「にもかかわらず湊、湊、湊。口を開けばそればっかり。そりゃあむかつきますよねぇ、誰だって」

恨みがこもったその言葉と視線に、どうしようもなく体が震える。

最初に感じた、彼女に対しての恐怖心がかつてないほどに私を襲う。

私がいたせいで、プルートさんやみんなは……

「そんな私怨ごときで殺されそうになっちゃ、湊もたまったもんじゃねぇな」

「黙ってください。なぜあなたは! 彼女の肩ばかり持つんですか!」

「こいつが好きだからだ。文句あんのか」

へっ!?

「もう決めたんだ。死神である俺がこんなことを言うのは何だが……必ずこいつを……湊彩月を守る。お前なんかに、負けねぇ。やるなら、正々堂々とかかってきやがれ」

雪風君の堂々としたその言いっぷりに、どうしようもなくドキッとしてしまう。

プルートさんは悔しそうに唇をかみ、怒りをぶつけるようにそばにあった壁を思い切り蹴ってみせた。

「このままで済むと思わないでくださいよ、マヤ様。僕は湊彩月を殺す。たとえ、あなたと戦うことになっても……!」

ぎろりとにらみつけながら、彼女は去っていく。

まるで今までいなかったかのように、すっと姿を消して。

一気に色々起こりすぎて、頭の整理がつかない。

ただわかるのは……また私は、雪風君に守られたということだけで……

「ケガはねぇか、湊」

私の目線に会うように、すっと雪風君がかがむ。

店の入り口を破ってきたせいか、よく見ると彼の顔や体には傷があった。

「私は大丈夫です。雪風君、傷が……」

「ただのかすり傷だ。この店と騒ぎのことなら、あいつらに報告済みだから何とかしてくれる。心配すんな」

「すみません……私、とんだご迷惑を……」

「お前、あいつの言ったこと間に受けてんのか?」

何も言えずに、ただうつむく。

雪風君は呆れかえったような溜息をつきながら、私に言った。

「あのさぁ、お前が迷惑だなんて誰も言ってねぇだろ。あいつらのことだ、俺なんかよりお前のことを一目散に心配するに決まってる」

「でもっ! 私がいたから、プルートさんは……!」

「あいつは昔からああいうやつだ。お前が気にしてもしょうがねぇだろ」

「そうかもしれませんけど……私のせいで、雪風君を危険に……」

「それを分かってて決めたんだろーが。いい加減気づけよ、この鈍感女」

そういうと、雪風君はぐいっと引っ張り自分の胸の中へ引き寄せる。

途端に私の視界は彼の胸で真っ暗になり、何も見えなくなった。

「あ、あの雪風君っ、見えないんですけど……」

「うるせー。黙ってろ」

彼の鼓動が、私に聞こえてくるような気がする。

雪風君の体はすごく暖かくて、ほんの少しだけいい香りがした。

「いったろ、お前を守ってやるって。何回も言わせんじゃねぇよ」

「そ、そうですけど……」

「俺はお前が好きだ。お前はずっと、俺に守られとけばいい」

そういいながら、ゆっくりと私のあごをくいっと持ち上げる。

雪風君の顔が、はっきりと見えるくらい近い。

彼の深紅に染まった瞳が、きれいにまっすぐ私をとらえていてー

「お前が好きになるまで、俺は絶対あきらめてなんかやんねぇからな……」

小声でささやかれたその言葉と同時に、雪風君の唇が重なる。

やっとのことで駆けつけてくれた三人が来るまで、私はずっと彼のぬくもりに包まれたままだったー


§

『ノンちゃんはかわいくていい子だよね。私はノンちゃんといれて、本当によかったよ』

どこかで聞きなれた声がするー

ぱっと振り向くと、そこにはあの少女がいた。

少女の顔を見た途端、彼―希の顔が明るくなる。

「美佳っ、どこかに行くんですか? 僕も行きたいですっ」

『だ~めっ。ノンちゃんはまだ小さいから、連れてけないんだ』

「嫌です。行かないでください」

『……ごめんね。ノンちゃん』


「美佳っ」

「お、起きたか? 希」

はっと目が覚めると、すぐ目に映ったのは雪風の姿だった。

辺りをゆっくり見渡しながら、ようやく自分の状況を把握する。

雪風から知らせを受け、店を復元し周囲の記憶を能力で消して……どうやら疲れて眠ってしまったらしい。

目が覚めてしまった希は、雪風にあいまいな返事をしながら背中にしがみつく。

「わりいな。いっぺんに能力使わせちまって。疲れただろ?」

「……大丈夫です。それより、湊さんは?」

「湊なら竜駕達と先帰ったぜ。オレのせいでこんな目に合わせて、本当悪いことしちまった……」

「ユキ、夢を見ました。美佳がいなくなったときの、夢」

希が言うと、雪風は少しびっくりしながらもふうんと相槌を打つ。

彼は雪風の背中にしがみつきながあ、ゆっくりと聞いた。

「……ユキは、湊さんが好きなんですか?」

「!!?? てめぇっ、なんでそれを……!」

「牙狼と竜駕も言ってました。好きって、どんな感じなんですか? 僕も人を好きになれますか?」

かつてない希の元気のなさに、雪風は少しだけ不安を感じる。

美佳の夢を見たせい、なのだろう。

彼女がいなくなったことは、一番しっかり者の竜駕でさえ動揺したほどだ。

一番小さかった希は、そのことをまだ……

「美佳がいなくなったこと、恨んでんのか?」

「恨んではいません……でもどうして何も言わずに出て行っちゃったんでしょう」

「俺には、あいつが美佳の代わりに見えるんだ」

「湊さんが……ですか?」

「あいつには美佳と似た、何か特別なものがあるような気がする。美佳がなんでいなくなったかは知らねぇけど……お前だって、うすうす気づいてんだろ?」

雪風の優しげな笑みに、希は何も言えずに顔をうずめる。

淡かった感情の心が少しずつ形になっていくようで、彼はまた雪風の背中ですやすやと寝息を立てたのだった……


(続く・・・)

次回の更新は、24日になります!

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