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強敵? 風紀委員VSカルテットスター!

「え? 風紀委員?」


聞き慣れた声がするー

ぼんやりと見えるこれは……夢?

視界がはっきりとしない。ただそこに、誰かがいるのは分かる。

この声は……カルテットスターのみんな?


「そ♪ 毎年カルテットスターは生徒会も兼用する決まりじゃん? その代わりに風紀委員はオレ達が好きに任命していいっぽいよ?」


「まず兼用するっつうルールがおかしいだろ。めんどくせぇ」


「ここは何でもカルテットスター中心なんですね」


三人の声を聞きながら、夜刀君らしき人が困ったように笑った。


「選ぶって言われても、僕達生徒全員知ってるわけじゃないし……難しくないかな?」


「僕、まだ同じクラスの子も覚えきれてません」


「どの女になろうとあんま変わんねぇ気がするけどなあ。おい牙狼、お前女子のデータ全部持ってるとか言ってたよな」


「ん~持ってるよ♪ じゃ~ん! 相座高校女子生徒名簿~♪」


四宮さんらしき人が、効果音付きで分厚い本を出す。

すべて彼の字で書かれた、女の子達のデータだった。


「前々から思ってたけど、一人でまとめるってすごいよね。牙狼って」


「素晴らしいほどの情報の正確さ、です」


「褒めるとこじゃねぇだろ」


「も~みんなしてひどいなあ~。オレが適当に決めちゃうね~? 風紀委員っぽいってことで、この子とかどうかな?」


そういって指さした女の子の名前は――



夢は、そこで途切れた。

カーテンの隙間から、陽の明かりがさす。

まぶしさに目を細めながら、私はゆっくり体を起こした。

窓を開けると、一面の青空が広がっていた。

鳥が元気に飛び回っており、他にはたくさんの子供たちの様子が見える。


ただ一つ違うことは、太陽が二つあることぐらいだろうか。

カルテットスターのみんなと同棲し始めて、まだ二日。私がいるここがどこなのかさえ、分からない状況である。

確か、異空間の中にあるって言ってたよな。だから二つあるのかな。

不思議に思いながらも、制服に着替え部屋を出る。

リビングのような場所にいたのは、牛乳を片手に持った希君だった。


「あ、おはようございます。希君」


「おはようございます、湊さん。早いんですね」


「目が覚めちゃって。朝ごはんの準備ですか? 私、手伝います」


「大丈夫です。今日は僕が当番なので」


希君は短めにそういうと、ご飯の炊飯ボタンを押し味噌汁を作ろうとしているのか色々な道具を取っていく。

ご飯は、四人交代の当番制なんだな。

そういえば昨日は夜刀君中心に作っていた気がする。

男の子で全員料理ができるなんてすごいなと感心していた、その時だった。


「ちょ、ちょっと待ってください! 希君、それなんですか!?」


「何って……香辛料ですけど」


「味噌汁に香辛料を入れちゃだめですよ! しかもそれタバスコじゃないですか!」


「牙狼がなんでも香辛料をかけるとおいしいって」


「まず具材を入れないと! 私にやらせてもらえませんか!?」


そうして希君を説得させるのに、十分はかかった……



「おっはよ~~! ん? なんかいいにおいがするなあ♪」


その数時間後、四宮さんがにこにこ笑ってやってきた。

あれから難儀したものの、無事に朝ご飯が完成した。

希君がじっと興味深そうに見るものだから、やりにくくてしょうがなかったけど。

時刻は七時ちょうどくらい、四宮さんをはじめとした残りのメンバーもやってきた。


「おはようございます。みなさん」


「おはよ、彩月ちゃん。今朝はずいぶん豪華だね、今日の当番ってノンちゃんだっけ」


「よく一人で味噌汁とか作れたな。ちゃんと作り方みてやれたか?」


「やろうとしたら、止められました。これは湊さんお一人で作ったものです」


希君が言うと、三人は驚いたような表情を浮かべ一斉に私を見る。

なんだか恥ずかしくなって、私は顔を伏せた。

すると一番に四宮さんが顔を輝かせ、私に抱き付いてきた。


「これメイちゃんが作ったの!? すっげー! 女子力たっかい~い! これからはオレのためだけにご飯作ってくれな~い?」


「い、いや……あの……」


「さりげなくプロポーズっぽいこと言ってんじゃねぇよ、お前は」


「でも上手なのは確かだよ。すごいね、彩月ちゃん」


なんだか照れくさい。

四宮さんは私のほっぺにすりすりし、夜刀君がそれを苦笑いでみつめている。

雪風君は料理をしげしげ眺めながら、もぐもぐ食べている希君と何か話している。


その後は説明するまでもなく、みんなで学校へと行った。

私は他の女子に悪いと思い、出来るだけ彼らと離れて歩くよう心掛けた。

四人の会話はどこにでもいそうな高校生のようなくだらない話ばっかりで、とても無邪気に見えた。

カルテットスターと言っても、普通の高校生。


「カルテットスター様よぉぉぉぉ!」


「おはようございます~~~~!」


こうやって女子にちやほやされることさえなければ、普通に話したりできるんだけどなあ。

その時、だった。学校のチャイムが鳴ったのは。

時計を見ると、すでに朝のホームルームが始まる時間になっていた。


「まずいな、朝のホームルーム始まっちゃうよ?」


「でもこの状況、行けそうにないです」


「それはお互いさまって奴だろ。いっそのこといかなくていいんじゃね?」


「ユッキーの言う通り~! どうせならさぼっちゃおうぜ、みんなでさ♪」


四人はのんきにそんなことを言いながら、急ぐ気がみじんも感じられない。ただ夜刀君と希君はあたふたしてるみたいだけど。

それに引き換え女子達も行く様子はなく、ずっと彼らに話しかけている。

私だけ行くのはどうかと思い、行こうか行かないかで迷っていたそんな時―


『ピ~~~~~~~!』


甲高い笛の根が、校庭中に響き渡る。

全員が一斉に音がした方向を振り返った。

綺麗なまでに透き通った青い髪をなびかせ、まるで新入生を思わせるような完璧たる制服の着こなし方。

腕には赤い腕章がはためいており、かけている眼鏡をきりっとあげた。


「あなたたち、ここで何しているのですか!?」


眼鏡越しからでもわかるような鋭い眼光、他者を圧倒するかのような凛とした声……

同じ高校生なはずなのに、漂う威厳がただ者ではなかった。

大人っぽいというか、何とも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

彼女の登場に、今まで歓声ばかりあげていた女子の声が一気に変わった。


「風紀委員長よ!」


「うげぇ、今日見回ってたんだ!」


「急がないとまた反省文かもよ!」


「じゃあねカルテットスター様あああああ!!!」


授業に行かなきゃ怒られるといいつつも、彼女たちは四人に別れの挨拶をしていく。

よっぽど別れが名残惜しいのかなと思いながらしばらく動けないでいると、その女性はこちらへ近づいてきた。


「相変わらずすごい待遇のされ方ですわねぇ、カルテットスター様は」


「やっほ~! つるちゃん! おっひさ~!」


「そのなれなれしい呼び方はどうにかなりませんの? 四宮牙狼さん?」


「おっ、オレのことやっと覚えてくれたんだ!」


「嫌でも覚えます! 服装、頭髪、ピアスなどの装飾品! ほとんどが校則違反じゃありませんか!」


確かに四宮さんの銀髪は目立つよなあ~

とのんきに私が思っていると、彼女はなおも説教し続けた。


「黒井君も! 上着のボタンをしめてください! 何度言ったらわかるんですか!」


「このほうが着やすいんだよ、あいかわらずうるっせぇなぁ……」


「菱田君! 髪を染めてこないでください! 染色は校則違反です!」


「……僕、これ地毛なんですけど……」


「せっかく完璧に校則を守っている夜刀さんがいるのですから、見習ってください。それと、たまにはあなたからも注意してください」


「あはは……気を付けるよ」


その女性は一通り説教を言い終えると、全くとぶつぶつ言いながら学校の中へ入っていった。


「やれやれ、相変わらずだなあ。沖田さんは」


ポカーンと口を開けたまま見ていると、ふと夜刀さんの声が聞こえた。

四人は説教されたというのに、特にこれと言って直そうという姿勢も見られずいつも通りに見えた。


「あの、今の人は?」


「あ、そっか。彩月ちゃん、会うの初めてだっけ」


「うちの高校の風紀委員さんです」


「二年二組だから、あんたと同い年」


「その名も! 沖田剣城おきた つるぎ、通称つるちゃんっていうんだ♪」


まるで戦国武将にでもいそうな名前だな。

女の子なのに剣城なんて、珍しい。

そう思いながら私は、沖田さんの背中をじっと見つめていた。



相座高校での二日目は、なんというか平和だった。

初日に比べて、女子の目線があまりいたくなくなった。

たぶん、私が彼らと距離を置いたのが正解だったのだろう。

夜刀君は初めての授業となるものを教えてくれる以外は、他の女子や男子に囲まれていてめったに近づけなかった。

そのほかにも四宮さんがちょくちょく顔を出したり、希君と雪風君が二人で彼に話しかけてくることもあった。


そういう様子を見てもわかるくらい、彼らの仲は良い。

その様子を女子達も同じように見ている。

いいな、幼馴染って。

正直、うらやましいかも。


「メ~イちゃん♪」


色々考えていると、すぐ隣に四宮さんがいた。

やっほ~と気軽にあいさつしながら、にっこりと笑いかけてくれる。


「今日放課後、暇?」


「は、はい。特に予定はありませんが……」


「じゃあさっ、オレと一緒に来てよ! いいとこ、紹介してあげる♪」


断る理由も特に見つからなかったので、私は快く引き受けた。

四宮さんはほかの三人とは比べ物にならないほど、女子の知り合いが多い。

移動する間も、○○ちゃん今日もかわいいね~とか○○ちゃん髪切った? とか一人ひとり名前まで暗記している。

なんか、四宮さんらしいな。

彼がみんなに愛される秘密も、そこにあるのかも。


「ノンちゃん、ユッキー、ロン~。連れてきたよ~」


生徒達が授業を受ける教室を離れ、職員室がある棟に設置された一つの部屋。

看板には、生徒会室と書かれている。

ぱっと視線を移すと、視界に入ったのは残りの三人だった。


「待ってました、牙狼。湊さん」


「何ちんたら女子の相手して来てんだよ。ここまで歓声ダダ漏れだぞ」


「来てくれてありがと、彩月ちゃん。ごめんね牙狼、迎えたのんじゃって」


「いいの、いいの♪ 女の子のためなら山を越え谷を越えひとっとびだよ♪」


三人がいる部屋は特にこれと言って目立つものはなく、机が四つくらい用意されてる簡単な部屋だった。

壁にはカレンダーと行事予定表、小さな黒板には生徒会メンバーと可愛くデコレーションされた文字が書いてある。

しばらく状況が把握できない私に、夜刀君はパイプイスを用意し話しかけてくれた。


「ちょっと狭いけど、ここに座って」


「あ、はい。えっと……これは?」


「生徒会の仕事だよ。見ればわかるだろ」


「看板にも、書いてました」


確かに生徒会室とは書いてあったけど、どうしてそこにカルテットスターがいるんだろう。

もしかして……


「皆さん、生徒会もしていらっしゃるんですか?」


「そだよ~♪ それがここの決まりでさ~」


「決まり?」


「カルテットスターに選ばれたものは自動的に、生徒会も兼用することになってるんだよ、役職も四人の中で決めて、色々仕事をしていくんだ」


同じようなセリフを、夢で見たような気がする。

夢じゃなくて、実際にあったこと?

そういえば沖田さんの顔には見覚えがあったし……これも夢のせい……?

そもそも、どうして夢にカルテットスターのみんなが……?


「その役職は、どうなってるんですか? 会長とか」


「はいはい! 会長はこのオレ、四宮牙狼だよ~♪」


あまりの答えに、私は思わずえっと声が漏れてしまう。

はっとした時には、もう遅かった。

私の考えが分かったのか、四宮さんが不満そうにほっぺを膨らます。


「メイちゃん、ひど~い! 今、なんでオレが会長なんだろうとかこの人が会長でいいのかとか考えたでしょ!?」


「い、いえ、そんなことはっ」


「ど~してみんな同じこと言うかね~? オレ、そんなにダメっぽく見える?」


「見える」


「見えますね」


「ん~……ごめんね」


「ちょっとちょっと三人してひどくない!? その態度!! オレ一応一番上だからね!? 先輩だからね!?」


「そもそも一番上だからって会長っつうのが気に入らねぇんだよ。会長なら竜駕のほうが適任だろ」


雪風君が言うと、確かにという風に希君もうなずく。

当の本人は、苦笑いして否定した。


「僕じゃ牙狼の変わりは無理だよ。ほら牙狼って、何事にもまっすぐ進んでいくから迷いなんてなさそうだし、会長に向いてない?」


「なるほどです。猪突猛進ってことですね」


「ねぇねぇそれは褒めてるの? けなしてるの? どっちなの?」


なんだかお笑い芸人のボケとつっこみみたいだな。

見ていてすごくほっとするし、安心する。

年の順で決めてるなら、副会長は夜刀君かな。あとの会計と書記が二人で。

大変なんだなあ、四人とも。


「というわけだから、メイちゃんも生徒会に入らない!?」


「はい???」


「一緒に仕事やったほうが距離も縮まるし、楽しいよ~?」


何がというわけ、なんだろう。

四宮さんって本当お気楽ものなんだな。猪突猛進そのものって感じで。

私が返事に困っていると、他の三人が説明を付け加えてくれた。


「実はここ、生徒数の割に生徒会志望者が多すぎてカルテットスターと風紀委員以外いないんだ」


「ただでさえ部屋狭いとこに志望者全員採用したらどうなるか、お前でも想像できんだろ?」


「……で、お手伝いさんをお頼みしようかと思いまして」


なるほど、そういうことか。

確かに同居してるわけだし、少しは手伝えるならやりたいな。

まあ、私なんかが力になれるとは思わないけど。


「ここオレら以外に立ち寄んないし、色々話を聞ける絶好のチャンスだと思うんだよね~。好きな男の子のタイプとか好きな食べ物とか」


「それとこれとはちげえだろ」


「どうかな、彩月ちゃん」


夜刀さんがにっこりと私に笑いかける。

三人共、私のほうをじっとみつめている。


「えっと、私でよければお手伝いします」


「やった~~~~~~! さっすがメイちゃん!」


「ありがとう、引き受けてくれて」


「これなら仕事も早く済みそうですね」


「言っとくけど、生半可な気持ちでやれるほど生徒会は軟じゃねぇからな」


四人が私をじっと見据えている。

私は覚悟を決めたように、はいっとうなずいた。

この人たちの力になりたい。

少しでも、協力できるように。


「あ、そだ。言い忘れてたけど、ここには風紀委員もいるから」


え????

何のことか聞き返そうとすると同時に、ガチャリとドアが開いた。

ぱっと振り向くと、そこにいたのはー


「……あら、もういらしてたんですね」


風紀委員長の、沖田さんだ。

手にもっている資料が、これでもかと山ずみになっていた。


「あなた方にしては珍しいですね、定時時刻を守るなんて。しかも全員そろって」


「ひっどいなあ、その言い方。オレらちゃんとここ来て仕事してんじゃん」


「定時時刻どころか、生徒会の仕事をほったらかしにしているのはどこの誰ですか。今度生徒総会があるのですよ? それに向けての仕事がたくさんあると忠告してたはずです」


沖田さんが怒ったような口調で言うと、夜刀君が苦笑いで答えた。


「ごめんね、沖田さん。とりあえず総会に出すレポートは一人で何とかなったんだけど、パソコンで打ち出すのはどうも苦手で」


「ほんっとお前アナログだよなあ……おかげで来なくていい俺までくる羽目になるし」


「……ボーっとしてたら、いつの間にか放課後が終わってました」


この言い分からすると、どうやら夜刀君しかまともに仕事をしてないらしい。

三人の性格からして想像できるけど。

だから私にお手伝いしてって頼んだのかな。


「それで? あなたは?」


「へ?」


「ここは一般生徒の立ち入りを禁止しているのですが、またあなた方のファンの不法侵入ですか」


や、やば! 誤解されてる!

このままじゃカルテットスターのみんなに迷惑かけちゃう!

えっと、なんていえば通じるかな……


「私、この前相座高校に転入してきた湊彩月って言います。皆さんの手伝いをと思いまして」


「手伝い? まさかとは思いますが……あなた方、ま~た勝手な行動をしましたね?!」


「てへっ☆」


「ブイ」


「何か文句あんのかよ?」


「ごめんね、沖田さん」


「もう! どうしていつもそうなんですか!!!」


沖田さんははあっとため息をつくと、私のほうをじろりと睨む。

彼女は手をあごにあて、じいっと私の身なりをチェックしていく。


「あ、あの……」


「服装頭髪ともに異常なし、ですね。あなた、生徒会の経験は?」


「前の高校で、友達がやっていたので。それをちょっと手伝ったりしてました」


「今回は特別に認めてあげますが、勝手な行動は慎むこと。いいですわね?」


「は~~~~い」


「声が小さい!」


まるで仲がいい友達のようなやり取りに、思わず笑ってしまう。

なんだか、暖かいな。ここは。

正直不安だらけだったけど、やっぱり来てよかったかも。


「んじゃさっそくだけどメイちゃん! オレの代わりにこの書類教室に持ってってくんない?」


ぱっと顔をあげると、四宮さんが満面の笑みで私に話しかける。

彼の手には、おそらくクラス分であろう書類がたくさんあった。


「とりあえずメイちゃんのクラスの分だけでいいから♪ んじゃよろしく~!」


「ちょっと待て、牙狼! お前……何自分の仕事人に押し付けてんだよ!」


「だ~って~生徒総会の資料見直さないといけないじゃ~ん?」


「自分の仕事は自分でやるべき、です」


「そうだよ、牙狼。彩月ちゃんは初めてなんだから」


「あなたはそれでも会長ですか! もう少し責任感を持ってください!」


四人が言うのも、四宮さんは気にしない。

お願いっとウインクしながら、私に笑いかけてくる。


「書類を運ぶくらいなら、私やりますよ」


「マジ?! メイちゃんならそう言ってくれると思ったよ~♪ 持てる?」


「はい。任せてください」


少しでも力になりたい、そのためにも私から一歩踏み出さなきゃ。

そう思いながら、書類を持って生徒会室を出たのだった。



(なんか、大変なことになっちゃったなぁ……)


重い資料を持ち直しながら、少しため息をつく。

外から部活動生の声が聞こえる。

校内でも吹奏楽部が練習している音が、ちょくちょく聞こえてくる。


(勢いで引き受けちゃったけど、大丈夫かな……?)


学校生活は不安だらけだし、あの4人とはまだ少し距離があるようでなんだか余分に疲れてしまう。

皆、優しい人ばかりだな。

特に夜刀君には、すごくお世話になっている。

なんか、申し訳ないな。

自分のクラスに資料を置きながら、私は再びため息をついた。


「ねぇねぇちょっといい?」


ふいに話しかけられ、ぱっと振り向く。

そこには同じクラスの女子生徒が、私を見つめていた。

その中央にいた何ともかわいらしい女子が、私に言った。


「話があるんだけど~聞いてくれるぅ~?」


「え……」


「なんでか分かるよねぇ~? 湊彩月ちゃんっ」


彼女には見覚えがある。

転入したての頃、夜刀君に親しげに話しかけてたギャルっぽい子だ。

確か、名前は……


「すみません、どなた……ですか?」


「あなた! この方の名前を知らないの!?」


「なんて最低な奴!?」


あれ、何か言っちゃいけないこと言っちゃったかな。

人の名前を覚えるのはどうも苦手だからなぁ。不快にさせちゃったかな。


「このお方は、日本でも三本の指に入るほどの有名グループ・島崎グループの後継者でもありカルテットスターファンクラブ会長の茉凛まりん様よ!」


あ、思い出した。

よくニュースでも話題になったことがある、日本で有名なお金持ち企業だ。

そんなすごいところの後継者……? しかも、カルテットファンクラブって……


「茉凛のことは知らなくてもぉ島崎グループのことは知ってるよねぇ?」


「は、はい。すみません、私人の名前覚えるの苦手で……」


「気にしなくていいよぉ、転入してきたばっかりなんだから覚えれなくて当然だしぃ。んで、本題なんだけどさぁ」


島崎さんといった少女が、私のほうにぐっと近づいてくる。

吐息がかかるほど距離が近くなると、彼女はにこっと笑った。


「湊さんって、カルテットスター様とどういう関係なのぉ?」


目は笑っているが、すごく怒気が含んでいるように感じた。

背筋がぞっと寒くなり、思わずのけぞってしまう。


「転入してきたばっかりで何も知らないのは分かるけどさぁ、ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」


膝が笑っている。

気が付いた時には力がなくなり、ぺたんと座り込んでいた。

周りの女子が囲むようにして、私を見ている。


「やだ、この子ビビってるよ。私たちが悪いみたいじゃない」


「も~湊さんってばぁ、茉凛はあなたに色々教えてあげようと思っただけだよぉ~?」


「色々……?」


無意識にふるえてしまう声がばれないように、必死に冷静を保つ。

島崎さんはふふんと笑ったかと思うと、小さな手帳を私に見せた。


「茉凛達カルテットスターファンクラブには、三つの決まりがあるの。一つ目は抜け駆けしないこと、二つ目は浮気しないこと、三つ目は……カルテットスター様のプライベートは邪魔しないこと」


島崎さんの顔が、笑みから真顔へと豹変した。

あまりのことに私は何も言えなくなる。


「あなたはその決まりをぜ~んぶ見事に破ってるのよぉ? いくら転入生だからって、許されるわけないと思わな~い?」


「そんな……私は何も……」


「決まりを破った人には罰を与えないとねっ☆」


そういうと彼女はぱちんと指を鳴らす。

いつの間に持っていたのか、何人かの女子の手にはバケツが握られている。


「今日の掃除で雑巾をたぁ~っぷり絞ったバケツなのぉ~これかぶっちゃったらどうなっちゃうか……分かるよね?」


まさかと思えば思うほど、恐怖で体が動かなくなる。

島崎さんが、くつくつと笑っている。


「さぁ、悪い子にどんどんお仕置きしちゃって!」


その瞬間、バケツの水が私の頭上から掛けられた。

しかも一つではなく、次から次へと。

聞こえてくるのは笑い声や、調子に乗るなという罵倒の数。

ただわかるのは、島崎さんが不吉に笑っているということ。

どうして、どうして私がこんな目に……


やっぱり女子の目線が痛かったのは、気のせいなんかじゃなかったんだ。

カルテットスターと関わるって、こういうことなんだ。

これから私は、一人で戦わきゃならないの……?

嫌がらせに、ずっと耐えなきゃいけないの?


「おやめなさい!」


凛としたその声に、笑い声が一気にやむ。

髪からぽたぽた垂れる水滴が、ものすごくうっとおしい。

そんな私の前に、すっと物影が立ちふさがる。

それは、沖田さんだった。


「集団いじめとは何事です、けがらわしい。我が校の生徒がこれでは、他校の生徒の恥さらしです」


「ちょっと風紀委員長さぁ~ん、邪魔しないでよぅ。この子が水浴びしたいっていうから手伝ってあげただけだよぅ~」


「雑巾を絞った水でやる意味が分かりませんね」


「風紀委員長さんは風紀を乱す人を罰するんでしょぉ? だったら茉凛達間違ってないじゃなぁい。茉凛は委員長さんの代わりに、お仕置きしてあげたんですぅ」


島崎さんがそういうと、そうだとばかりに女子が言い合う。

沖田さんは深いため息をつくと、どんと足音を立てた。


「おだまりっ!」


他者を圧倒する凛とした声、鋭い目つき。

女子達はあっという間に静かになった。


「風紀を乱しているのはあなたたちです! 自分達がカルテットスターに近づけないやつあたりに罪のない人を罰するなど言語道断! 全員頭を冷やしなさい!」


さすが、というべきだろうか。

彼女の声や態度は堂々としていて、すごくかっこいい。

だからだろうか、彼女達は静かに引き下がった。

島崎さんだけは気に入らないように、私に舌を向けていたけど。


「あなた、大丈夫?」


ふと声をかけられ、顔を上げる。

はいとハンカチを渡された私は、浅く会釈してそれを受け取った。


「あ、ありがとうございます」


「何か嫌な予感がしたので様子を見に来て正解でしたわ。まったく、彼女たちもいい加減にしてほしいものですこと」


沖田さんはすっと私のほうに手を伸ばすと、さっきとは変わって優しげに微笑んだ。


「その格好じゃ帰れないでしょう? 保健室に行きましょう。あの四人には私から連絡しておきますから」


「すみません、迷惑をかけて……沖田さん、すごいんですね。かっこよかったです」


「ほめても何も出ませんよ?」


彼女の手を取り、ゆっくりと歩き出す。

沖田剣城さんという人物と友達になれたのは、それがきっかけだった。

その後、カルテットスターのみんなが心配で駆け寄ってきてくれたのは言うまでもない。


(続く・・・)

いつも読んでくださってる皆様、誠にありがとうございます!

今回からpixivにも投稿していない、初公開です!!

カルテットスターももちろんですが、初登場となるサブキャラたちの動向も注目してくださるとうれしいです! よろしくお願いします!

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