どんなことがあっても、大切な君を 前編
前回の体育祭編で、牙狼ファンがふえないかな~とちょっと思ってたりする私であります。
今まで時期に合わせていたのですが、正直もうどうれもよくなりました笑
これ以上待たせるわけにはいかせません! なんといっても、今回はゆっきー回!
お話は一気に、加速します!笑
「湊さんっ。起きてください」
どこかで、私を呼ぶ声がする。
私が目を覚ましたのは、聞きなれた声がしたからだ。
カーテンからさしてくる光が、まぶしいくらいに私の目を刺激する。
光の強さにうまく目を開けられないでいる中、ぼんやりと視界の中に一つの人影が浮かんできた。
「おはようございます、湊さん。もう朝ですよ?」
それは、希君だった。
ベッドに体ごと乗せていて、私の顔をじっと見つめている。
「の、希君……おはようございます。今からごはん準備しますね」
「違います、湊さん。僕が来たのは、ご飯のことではありませんよ?」
「えっ?」
「手伝ってほしいことがあるんです。着替えたら、リビングに来てください。僕、待ってますから」
希君が、早く早くとピョンピョンしながら部屋を出るる。
朝の八時ごろだというのに、希君がこの時間に起きているのは珍しい。
何かあったのかな、そう思いながら着替えてリビングの方に移動する。
その途端、聞こえてきたのはいかにも楽しそうな声―
「んじゃあさ、このクリームに唐辛子入れるのはどう!? 真っ赤っかになるまでさ! ユッキーのことだから、気絶するほど驚くよ?」
「だからダメだって言ってるでしょ? ドッキリじゃないんだから、そんなことしちゃユキがかわいそうだよ」
「ではこれにユキが大好きなお肉を入れてみてはどうですか?」
「さ、さすがにそれは味の問題が……」
希君だけではなく、牙狼さんや竜駕君も起きているようで、なぜか雪風君の姿だけはなかった。
彼らの目の前には、スポンジが何層も重なっておかれていた。
「おはようございます、みなさん」
「あっ、メイちゃん! 待ってたよ~!」
「ごめんね。ぐっすり寝てたのに、起こしちゃって」
「い、いえ大丈夫です。何をしてるんですか?」
「メイちゃんさあ、ケーキの作り方って知ってたりする?」
牙狼さんに言われて、彼らがやっていることに納得する。
どうやらこのスポンジは、ケーキを作るためのようだ。
私もよく手作りケーキは作ってたけど、そんなにうまくないんだよなあ。
「実は今日、ユキの誕生日なんだ」
「えっ!? そうなんですか?!」
「うん。毎年誰かの誕生日が来ると、こうしてケーキを作ったりしてるんだ」
毎年、か。本当に仲がいいんだな。
三人が協力して、一人のために作ってあげる。
なんだか様子が想像できて、とても微笑ましいな。
でも今日が誕生日なんて知らなかったな。
プレゼントとか、何にも準備できでないし……
「ユキは彩月ちゃんが来る前まで、ここの炊事当番でね。毎年、このメンバーで作るのに苦戦しちゃって」
「そーそー。んで結局はユッキーがきれて、自分でしだすんだよねぇ~」
「牙狼がスポンジをぐしゃぐしゃにするからですよ?」
「ノンちゃんだって買ってきたイチゴ、全部落としたりしてたじゃあん」
「とまあこんな具合に、今回も結構もめてて」
苦笑いをする竜駕君の顔を見ながら、なんとなく予想がつく。
一度決めたら何でもやろうとする牙狼さんに、がんばってもついつい失敗しちゃう希君。
いくらしっかり者の彼がいたとしても、さすがにこの二人の制御は難しいんだろうなあ……
「なんとしても今年こそ! ユッキーを驚かせたい! そんなわけでっ、メイちゃん! ユッキーのためにも、ここはぜひ! ケーキを作ってくれないかな?」
牙狼さん達が、私達に優しく微笑みをむけている。
それを見ながら、私は明るく返事をして見せた。
「もちろん、お邪魔じゃなければ喜んで手伝わさせてください」
「やったああ! ありがと~! メイちゃあん!」
「じゃあ早速始めよっか。まず、何ケーキにするかなんだけど……」
ってことは、まだスポンジの段階しか出来てないってこと?
クリームから作るってなると、かなり時間かからないかな。
今日が誕生日って言ってたし、結構大変だな……
「あ、あの、ちなみに雪風君は……?」
「ああ、ユキなら今日はいないよ。夜には帰ってくると思うけど」
「そうなん、ですか?」
「地獄で会議みたいなのがあるんだって。ほら、ユキって死神長だから」
竜駕君に言われて、まるで昨日のことかのように記憶が鮮明によみがえってくる。
あの日―雪風君と私の前に現れた、死神のこと。
確か、ターゲットに私が選ばれたって言ってたけど、あれ以来何も変哲もない。
それが何だか逆に怖くて、不安で……
「彩月ちゃん? どうしたの?」
「えっ、あ、なんでもありません」
「よぉし、メイちゃんもそろったことだし! ケーキつくりを始めよ~! ってあれ、そういやノンちゃんは?」
二人の会話に参加していなかった希君の姿がないことに気付き、牙狼さんがきょろきょろしだす。
私も一緒になって探してみると、台所の奥の方でひょっこりと頭だけ見えているのを見つけた。
「ええっと……まずはかき混ぜて……生クリームは白いので、なにか白い物を…」
「の、ノンちゃんストップストップ! 確かにそれ白いけど、砂糖混ぜてもクリームにはならないからスト~~~~~~ップ!」
竜駕君が希君から砂糖を取って、牙狼さんが台所に飛び込んで……初めてのケーキ作りは、そんな波乱で幕を開けたのだった。
それからと色々と問題はあったものの、何とか無事にケーキは完成した。
その後私は竜駕君と一緒に、雪風君が大好きという生姜焼きなどの料理を手伝った。
残りの二人は部屋の飾りつけを、いとも楽しそうに話しながらやっている。
なんだか、うれしいな。
こうしてみんなで、何か一つのことをしてるって。
雪風君、いつ帰ってくるのかな。どんな反応するだろう……
「あ、ユキから連絡来たよ。今から帰るって」
「よっしゃあ! 待ってました!」
「準備ばっちり、なのです。竜駕は、どうですか?」
「こっちも大丈夫。彩月ちゃん、よかったらこれ使って」
そういって竜駕君に渡されたのは、パーティー用に使うクラッカーだった。
よく見ると、三人の手にも色こそは違うが、一緒のクラッカーが握られている。
みんながワクワクしながら待っていた、その時だった。
玄関で物音がし、リビングのドアがゆっくりと開いたのは。
「ただいま~ってうわっ!」
「ハッピーバースデー!!! ユッキーーーーー!」
「お帰り、ユキ」
「お誕生日おめでとうございます、ユキ」
三人がクラッカーを鳴らしながら、雪風君に微笑む。
私も同じタイミングでクラッカーを鳴らして、彼を笑顔で出迎えた。
彼は驚いたような顔を浮かべながらも、すぐに事態を把握したのか深いため息をついた。
「……ったく……人が帰って来たかと思えば……お前らは……」
「えっへへ~びっくりしたでしょ? オレ達からのサプライズだよっ!」
「見りゃわかるよ。毎年毎年、ほんとあきねぇよなあ……」
「ユキ、うれしいですか? びっくりしましたか?」
「はいはい、わかったからそんなに近づくな」
雪風君が、ピョンピョン跳ね回る希君の頭をポンとなでる。
なんだかんだいって、雪風君も少しは嬉しいのかな。
少しでも喜んでくれてたら、私もうれしいな。
「会議が終わるの、結構早かったんだね。お疲れさま」
「まあな。つーか竜駕も毎年苦労が絶えねぇな。オレの誕生日来るたびに、この二人とケーキ作んなきゃいけねぇなんて」
「ユキの誕生日なのに、迷惑かけてばかりでごめんね。でも今回は大丈夫、彩月ちゃんが手伝ってくれたから」
竜駕君が言うと、雪風君の目線が私に向く。
私は慌てて、浅く会釈して見せた。
「ゆ、雪風君。誕生日、おめでとうございます」
「これ、お前が作ったのか?」
「そんなっ、手伝っただけですよ」
「ふうん……」
「そ、それであの……私、今日が雪風君の誕生日だって知らなくて……プレゼントの用意ができなかったんですけど……早めに買いますので、待っててくれますか?」
私が言うと、雪風君は目を細めて私を見る。
彼は何かを考えているようなしぐさをし、しばらくしてわいわいしている三人に向かっていった。
「なぁ牙狼。お前が去年くれたあの券、まだ使えるよな?」
「ん? 『ユッキーの願いごとを何でも叶えちゃうぞ券』のこと? まあ期限は一年だけど、それがどうかした?」
「それ、今使うわ。明日一日、こいつを借りていく」
へっ!?
「なっ! 何を言ってるの、ユッキー!」
「ダメですっ。許可できません」
「そうだよ。いきなりそんなこと言ったら、彩月ちゃんに迷惑が……」
「お前らの意見は聞いてねぇ。湊、プレゼント用意してねぇつったよな? その代わりに、一日俺に付き合え」
異論をものともしない、雪風君のまっすぐな瞳。
その瞳を前に、私ははいと言わざるを終えなかった……
(続く・・・)
次回、ゆっきーファンの皆さんにはたまらない回になりそうです。
ちなみに竜駕誕生日特別ネタでも触れさせていただいたネタがあったりしますので、プライベッターとあわせてお楽しみいただけると嬉しいです。




