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限られた時間の中で、二人 前編

季節外れの肝試しにて、竜駕に告白されてしまった彩月。

そんな中、相座高校では秋の体育祭が行われようとしていた・・・

紅葉やイチョウが、色づき始めだしたこの季節。

ちまたはすっかり涼しくなり、秋の訪れが感じられるようになった。

文化祭という一大イベントを終えたここ、相座高校では―

「えーではこれから、第三十一回体育祭を挙行いたします。一同礼」 

秋のもう一つのイベントである、体育祭が始まろうとしていた。

文化祭と同じくらい、客席は相変わらずいっぱいで生徒たちもすごく楽しそうにしている。

私はというと、大勢の人に見られるのが慣れていないせいで昨日の夜から緊張しっぱなしだ。

相座高校では組み分けを学年で分けているらしく、一年は青、二年は赤、三年は白組となっている。

つまり…………

「盛り上がってるね、体育祭」

「うっひょぉ、テンションあがってきたぁ!  今年も白組が優勝もぎ取ってやるぜ!」

「はんっ、お前の思い通りにさせっかよ。ぜってーまけねぇ!」

「カルテットスター同士、因縁の対決。なのです」

四人がそれぞれのはちまきを頭に、楽しそうに笑い合っている。

学年が一緒なのは雪風君と希君だけなため、こうしてカルテットスター同士で戦うことは珍しいらしい。

みんなそれぞれの組の鼓舞をあげていて、応援も競技もヒートアップしている。

「でもロンはいいよなぁ。なんせメイちゃんと一緒なんでしょ? う~ら~や~ま~し~い!」

「仕方ないよ、組み分けは学年別なんだし」

「だってここで白組オレ一人だよ!? オレ、さみしくて死んじゃう!」

「ウサギじゃあるまいし、たかが組み分けでうるせえんだよ。牙狼」

「ファイトですよ、牙狼」

皆が元気づけるも、牙狼さんははあとため息をつきながら自分の学年の方へ戻る。

希君と雪風君も、じゃあ後でなと言ってテントの方へ行ってしまう。

あれ? ってことは……

「僕達もテントに戻ろうか、彩月ちゃん」

や、やっぱり竜駕君と二人になっちゃった!!

どうしよう。体がどうしようもなく、熱くなる。

あの告白以来、彼の顔がまともに見ることができない。

今まで憧れていたカルテットスターの一人、竜駕君からの告白。

あの出来事は夢だったんだと疑ったりもしたけど、彼がむける笑みがいつもと少し違うものだから現実なのだと思い知らされる。

私、どうすればいいんだろう……

「彩月ちゃんは、競技何に出るの?」

「え、っと……借り物競争です」

「ああ、楽しそうだよね。僕もやってみたいけど、今年はカルテットスターの組がばらばらだから決められちゃって」

「そういえば何に出るんですか?」

「短距離走だよ。多分牙狼とユキの一騎打ちになるんじゃないかな」

確かにあの二人、運動神経よさそう。

ってことは一位争奪戦がすごいのかな。

私としては、希君と竜駕君の走ってる姿も見てみたいけど。

「借り物競争っていえば、毎年すごいものがかいてあるみたいだよ? 去年は獅子舞とか、メイド服とかあったっけ」

「そっ、そんなのあるんですか!?」

「中には当たりがあるみたいだけどね。確率が低いから、当たったの見たことないんだ」

当たりって何だろう。

それも気になったが、獅子舞とかどう考えても借りれないものが入ってることに不安になる。

こんなことなら、出るのやめればよかった……

「プログラム4番は短距離走でぇす。選手の皆さんは準備してくださあい」

放送席から、次のプログラムのお知らせが聞こえる。

それを聞くと、竜駕君はにこっと私に笑いかけた。

「それじゃ、行くね」

「は、はい! が、がんばってください!」

「うん、ありがと」

優しく微笑みながら、ぽんと私の頭を触る。

その一つ一つの行為がかっこよすぎて、私はつい赤くなってしまった。

「なぁんか仲良さげだよねぇ、最近のロンとメイちゃん」

聞きなれた声に、はっとして振り返る。

そこにはなんだか不満げな、牙狼さんがいた。

いつからいたのだろう。

牙狼さんはむすっとした顔で、私の方を見ている。

「が、牙狼さん。短距離走始まっちゃいますよ?」

「わかってるよぉ。ちょ~っと確認したくて」

「確認、ですか?」

「メイちゃんさぁ、ロンと何かあったでしょ」

思いもよらない言葉に、ドキッとしてしまう。

私の脳裏に、真っ先にあの事が思い浮かぶ。

「見ない間に、すっげー仲良くなってんだもん。オレ、妬いちゃうよ?」

「そ、そんな……何もないですよ」

「メイちゃんはオレだけみてればいいの。他の人なんて見ちゃだ~めっ」

そういいながら、牙狼さんは優し目に私の額をたたく。

なんだかかまってもらえないですねている子供みたいなのに、顔はいたって真剣だ。

ただの冗談かと思っている分、その顔が何だか頭から離れなくて……

「次の短距離走、絶対一番取って来るから」

「あ、はい! がんばってくださ……」

「そん時はオレに、がんばったご褒美頂戴ねっ☆」

いつもの調子で笑う牙狼さんの顔に、私は戸惑うことしかできなかったー


競技は、竜駕君の言ってた通りすごいものになった。

短距離走は校庭を一周走るだけとはいえ、かなりの体力を使う。

目玉ともいえるカルテットスターの対決は、最後の最後まで一位争奪戦だった。

牙狼さんの素早さに、負けずと劣らず雪風君が食いついていた。

結果、たった一秒の差で牙狼さんが勝ったけど。

竜駕君もあの二人には勝てずに三番だったけど、その後にゆっくりと希君がゴールしていた。

そういえば牙狼さんに、一番取ったらご褒美頂戴って言われたよな。私。

ご褒美って何すればいいんだろう。牙狼さんが喜ぶもの、ってこと?

私ができることは料理くらいだし……何かご馳走してあげようかな。

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! オレの完全勝利ぃ!」

「ちっくしょぉぉぉぉ! むかつくぅ!」

「まぁまぁ二人とも、落ち着いて」

「牙狼もユキも早すぎです。少しは遠慮してください」

「あはっ、ごめんごめん☆」

四人が客の歓声を浴びながら、テントの方へ戻ってくる。

その中でも牙狼さんが一番に、私へ笑みを向けた。

「やっほ~メイちゃん☆ 見てくれた? オレの勇士♪」

「はい、皆さんお疲れ様です。すごかったですね!」

「一位とれなきゃ意味ねぇんだよ。くっそ、こんなのに負けるとかむかつく!」

「へぇんだ、悔しかったらオレに勝ってみるんだね!」

「こいつ……!」

「はいはい、けんかしないの。君達と戦うこっちの身にもなってよ。差がありすぎて、ついていけないよ。ね、ノンちゃん」

「むっすーん」

苦笑いを浮かべる竜駕君に、頬を膨らませて不満そうにしている希君。

心底悔しそうにしている雪風君を、あざ笑うかのようにからかう牙狼さん。

本当、仲がいいな。この四人は。

対決してたとは思えないくらい、絆が深い。

きっとそんなことだけじゃ、彼らの絆は壊れたりしないんだろうな。

「もうそろそろ借り物競争だね。彩月ちゃん、大丈夫そう?」

「だ、大丈夫、です」

「も~かったいなあ、メイちゃんは。借り物競争なんて楽しいもの、めったにないよ!? 人生楽しんだもん勝ち、だよ!」

「なんでおめぇはそうお気楽なんだよ……」

「だって体育祭だよ? イベントとしては楽しまなきゃ損……だし」

その時、だった。

牙狼さんがふらりとよろけたのは。

それにいち早く気づいた竜駕君が、さっと背中を支えてあげる。

「牙狼!? 大丈夫?!」

「あ……ごめんごめん! ちょっと興奮しすぎちった」

「本当に? 具合、悪くない? 救護テントいこうか?」

「大丈夫だって。も~ロンってば心配性なんだからあ」

「あの……牙狼さん……」

「心配しないで、メイちゃん。君だけを見てるからさっ☆」

そういってにこりと笑顔を向けた牙狼さんに、私は不安を隠せずにはいられなかった……


大丈夫かな、牙狼さん。本当にそれだけなのかな。

あんなに元気な牙狼さんだからこそ、不安でしょうがない。

私にできることはないのかな。

「次の組、準備してください」

はっと我に返ると、次は私の番だった。

牙狼さんの心配ばっかりしてるけど、私も私で大ピンチなの忘れてた!

どうしよう、緊張してきた。

変なもの書かれてたらどうしよう……

「あっれ~? また会ったぁ❤︎ 最近よく会うねぇ、み・な・と・さん☆」

びくっと体が異常に反応する。

私の隣には、島崎さんがにっこり笑って準備していた。

後ろの方を見ると、彼女の仲間らしき人たちがくすくす私を見て笑っている。

「借り物競争に出るなんて偶然! しかも一緒に走れるなんて、茉凛感激❤︎」

「そ、そうですか……」

「同じ組だけどぉ、茉凛運動苦手だから湊さんに迷惑かけちゃうかもぉ。その時は、許してね☆」

どうしよう、何かされる。

確信はないけど、そんな予感がした。

何もしてこなかったとして、それで出た結果を彼女は気に入らないだろう。

どうしてこんな目に……

でも、負けない。

私には、支えてくれるみんながいる。

やれるだけのことは、やってみたい!

「いちについて、よーい……………どん!」

ばっと全員一斉に走り出す。

足の速さじゃ遅い方にはなったけど、まだ挽回できる気がしてあきらめなかった。

たくさん地面に広げられている紙を、適当に一枚取る。

その紙には、でかでかと四宮牙狼と書いてあった。

……へ? 四宮牙狼?

四宮牙狼って、牙狼さんのことだよね?

ど、どういうこと? 借り物競争に人の名前? しかもカルテットスター?

全然意味が理解できない。

他の人達は、色々なものの名前を叫びながら競争に勝とうとしている。

私はというと、ちらりと応援席にいる四人の方に目線が行く。

こ、こうなったらやるしかない!

「あ、あの牙狼さん!」

「ん? なになに? オレが必要なのかい、メイちゃん」

「迷惑とは思いますが、一緒にー」

「誰が迷惑なんて言った?」

すると牙狼さんはテントから出たかと思うと、私の体をひょいっと軽々しく抱きかかえてしまう。

つまり、お姫様抱っこだ。

あまりのことに動揺し、体が熱くなっていく。

「が、牙狼さん!?」

「一番乗りで行くよ! しっかりつかまって!」

そういうが否や、私を抱きかかえたまま素早いスピードでゴールへと一直線へ向かう。

牙狼さんのスピードに勝てる者はいなく、あっけなく一位でゴールしてしまった。

客席から悲鳴のような、歓声のような声が鳴り響く。

彼はにっと笑うと、ゆっくり私を降ろしてくれた。

「おめでと~メイちゃん! その紙に、オレの名前が書いてあったんでしょ?」

「は、はい……なんだったんですか、これ」

「毎年カルテットスターの名前が書いてあるのが紛れてるらしいよ。それを引いたってことは、よほど運がいいんだね。しかもオレだよ?」

「当たりってことですか?」

「そういうこと♪ 嬉しいなぁ。メイちゃんがオレをひいてくれ……て……」

気づいた時には、もう遅かった。

私の目の前が、まるでスローモーションのようになる。

「牙狼さん!」

牙狼さんが倒れた。

その真実だけが生徒たちを襲い、竜駕君達がテントからすかさずかけてくる。

憎むような冷ややかな目で、島崎さんが見ていたのも知らずにー


(つづく・・・)

書き忘れていましたが、

今日九月三十日は竜駕の誕生日です!!

書き下ろしで、誕生日ネタを用意しました→http://privatter.net/p/1854459

実は本編の内容ともリンクしてる部分もあるので、必見ですよ♪

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