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叶うなら、君のそばに 後編

オレ達の夏は終わってない! という牙狼と、仕事をやらせるために剣城が提案したのは季節外れの肝試し!

はたしてどうなる・・・?

「なんか、今までにない組み合わせだね……」

牙狼さんお手製のくじ引きを眺めながら、彼―竜駕君は困ったように笑った。

皆で一斉にくじ引きをした結果、なんと私は雪風君と竜駕君との三人ペアになった。

残りは希君、牙狼君、剣城ちゃんのペアであまり見たことのない、新鮮な組み合わせだ。

「……ま、まだ竜駕とでよかった……」

「ちょっとそれどういう意味、ユッキー! ひどくない?」

「ひどいのはおめぇだろうが! そもそも怪談話したせいでこうなったんだろ!?」

「怖いです、牙狼と行くの恐ろしいです。僕、今日で死んじゃうかもしれないですっ」

「ノンちゃんまで!!! オレはただ、怪談話が好きなだけだよ! 決して二人の反応が面白いからいじってるわけじゃ……」

「明らかに後者が本音だろうが!!!」

「まあまあ三人とも、落ち着いて」

竜駕君の優しい声色に、三人が静かになる。

それを見計らった剣城ちゃんが、私達に向かっていった。

「ルールは簡単です。一番出るという噂がある音楽室に、吹奏楽部が使わなくなった楽譜がたくさん置いてあります。それを一枚取って来ること。ただし、エレベーターは使わないでください。いいですね?」

「なんだか楽しそうだね、沖田さん」

「ええ。私、ホラー系は結構好きなので。もっとも幽霊など非科学的なもの、信じていませんがね」

なんだか、意外だな。

剣城ちゃんが、ホラー好きなんて。

私なんて幽霊はもちろん、怪談話も苦手なのに。

正直、帰りたい気持ちでいっぱいだ。

外はもう暗いし、学校中はしんと静まっている。

「それじゃあ一番手! オレ達から行きまあす! さぁ、行くぞ! つるちゃん! ノンちゃん!」

「ま、待ってください牙狼っ。怖いので、つかまっててもいいですかぁ……?」

「も~怖がりだなあ、ノンちゃんは。仕方ないなあ、行くよ!」

「ちょっと! 私をおいて行こうとしないでください!」

三人がそういいながら、暗闇の先へ消えてしまう。

それを眺めながらも、私は気が気じゃなかった。

暗い校舎の中、ここにいるのは私達だけ。

本当に幽霊が出たらどうしよう。怪談話をすると、結構出やすいって聞くし……

「それじゃあ行こうか、二人とも」

「はっ、はい!」

「ま、待てよ竜駕! マジで行くつもりかよ!? こんなくだらねぇこと!」

「しょうがないよ、牙狼は言い出したら何でもやらないと気が済まないから。怖くない? ユキ」

「はぁ!? こここ怖いわけねぇだろ! こんな課題、軽~くこなして……!」

雪風君がセリフを全部言う前に、がたんとどこからか音がする。

びっくりして、思わず声が漏れてしまう。

私以上にびっくりしたのか、雪風君はびくんと肩を震わせて……

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

と大声で叫びなり、暗い廊下を一人走っていってしまって……

「えっ、待ってください! 雪風君!?」

「本当、素直じゃないなぁ……ユキは。怖いなら怖いっていえばいいのに……」

「雪風君、一人で行っちゃいましたよ!? 追いかけないと!」

「うーん……あれを見つけるのは至難の業だと思うけどな……」

「でも! こんな暗い中に一人は危ないですよ!」

「彩月、ちゃん?」

「私、探してきます! 竜駕君はここに……!」

「待って!」

走りだそうとした私の腕を、竜駕君がつかむ。

すると次の瞬間、私は彼の胸の中へ引き寄せられていて……

「りょ、竜駕君!? どうしたんですか?!」

竜駕君の顔が、息がかかるほど近い。

あまりのことに私は、どうすることもできずにいた。

ど、どうしよう。こんなに顔が近いのは、初めてだ。

心臓がバクバク行っているのが分かる。

彼の温かいぬくもりが、体全身に伝わるようで……

「……………行かないで」

耳元で聞こえた小さな声に、思わず言葉を失う。

心なしか、彼の私を抱きしめる力が強くなった気がした。

「………少しだけ……少しだけでいいから……僕のそばにいてくれないかな……? …………一人にはしないで……」

始めて、聞いた。

彼の、数少ない本音の一つを。

いつも竜駕君は三人のお兄さんみたいに、優しく振舞っていた。

だから私も、いつもそれに励まされていた。

不安、だったんだ。竜駕君も、きっと。

「……大丈夫ですよ、竜駕君。私は、ずっとここにいます」

「彩月、ちゃん?」

「竜駕君は一人じゃありません。安心できるまで、私がずっとそばにいます」

支えてあげたい。

それはいつも、私が彼らに思っていたこと。

今がそのチャンスなのかもしれない。

竜駕君達を、少しでも笑顔にできるように。

「雪風君のことは、牙狼さん達にも相談しましょう。きっと、力になってくれます」

「……ほんと、優しいんだね。彩月ちゃんは」

ふっと笑いながら、竜駕君が私をそっと離してくれる。

彼はいつものような、優しい朗らかな笑みを浮かべた。

「ごめんね。こんなこと、しちゃって」

「あ、いえ……もう大丈夫なんですか?」

「うん。迷惑かけて、ごめんね」

竜駕君の困ったような笑みに、少し心が痛くなる。

彼は笑みを浮かべながら、私に優しい口調で話し出した。

「昔のことがあってか、一人になるのが怖くて。こういうとこ見られたくないから、なるべく我慢するようにはしてるんだけど」

そういえば竜駕君は仲間を……

「時々、思うんだ。当たり前のように一緒にいる牙狼達も、僕の前からいなくなっちゃうんじゃないかって。どんなに楽しくても、いつかは終わりが来てしまう。だから美佳ちゃんがいなくなったときは、裏切られたような気がしてすごくショックで……一人になると、色々不安になっちゃうんだよね」

「そんなこと……」

「彩月ちゃんにも家族がいるでしょ? 分かってることなのに、やっぱり怖いんだ」

竜駕君の体が、心なしか震えている気がする。

こういう時、言葉がうまく出てこないのは私の悪い癖だ。

彼の支えになってあげたい。

それは来た時から今まで、全然変わっていない。

彼には助けられてばっかりなのに。

こんな時……美佳さんなら、彼らを笑顔にすることができるのかな?

あの人ならどんなことを言って、みんなを元気にするのだろう……

「私、皆さんのことが大好きですよ? いつも楽しそうで、元気な皆さんが温かくて大好きです。お別れなんて、しません」

「彩月ちゃん……」

「竜駕君は、わがままをいったことがありますか? 我慢しないで、言いたいことがあるなら言った方がいいです。みんな仲がいいんですから、大丈夫ですよ。もしみんなに言いにくいのでしたら、私が聞きます」

力になりたい。竜駕君の。

初めて見せてくれた、彼の弱い部分も全部。

「………………だめだな。考えないようにしてたのに、やっぱり抑えきれなくなる……」

「竜駕、君?」

「ねぇ彩月ちゃん」

私を呼びかけたかと思うと、ふっと私を引き寄せる。

すると竜駕君は優しく、私の唇にキスをした。

「!!?!? りょ、竜駕君!?」

「完敗だよ、素直に認める。僕は……君が好きだ」

えええええええええええ!?

「な、なに言ってるんですか!?」

「さっき、言ったよね? わがままを言ったほうがいいって。じゃあ僕の初めてのわがまま、聞いてくれる?」

「へ?」

「君が好きな気持ちに、嘘はないよ。これからもずっと、僕のそばにいてね。約束」

すました笑顔で笑う彼の顔は、いつにもなくうれしそうに見えた。

初めての告白と不意打ち同然の満面の笑顔に、私はどうすることもできずただ赤くなるばかりだった……


§

「おっかしいなあ。どこではぐれたんだろ~?」

楽譜らしき一枚の紙を持ちながら、牙狼は一人廊下を歩いていた。

肝試しを人一倍楽しんでいた彼は、いつの間にかほかの二人とはぐれ一足先に音楽室へついていた。

真っ暗だというのに何も物おじせず、いかにも楽しそうに鼻歌まで口ずさんでいる。

「いやあ、やっぱり学校はエンジョイしてこそだよなぁ~♪ ん?」

ふと彼はあることに気付き、足を止める。

恐る恐る自分の手を開きながら、びっくりしたように目を見開く。

「……まさか……」

バッと音楽室の窓を開け、外を覗き込む。

きれいな星とともに浮かんでいたのは、まん丸いきれいな満月だった。

暗い世界を見下ろすようにして、きれいに輝いている。

その瞬間どくんと、彼の心臓が高鳴った。

「まずいっ……!」

瞬時にカーテンを締め、その場にすわりこむ。

彼は自分の胸ぐらを、強く強くつかんだ。

「収まれ……収まれ………ここじゃだめだ……っ」

彼の頭から、耳らしきものが小さく顔を出そうとする。

それでも牙狼は、一人自分の胸をつかんで抑え込もうとした。

自らの正体である、オオカミとしての自分を隠すため。

「オレはオオカミなんかじゃない……人間なんだ……人間として……生き……たい……みんなと………ずっと一緒に………」

抑えながらも、本能に逆らえず思い切りおたけびをあげる。

満月の夜、オオカミのような遠吠えが空しく鳴り響いた……


(続く・・・)

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