叶うなら、君のそばに 前編
文化祭も終わり、一息ついたカルテットスターと彩月。
そんな彼らがやろうとしているのは季節外れの・・・・?
窓から冷たい風が、私の頬をかすめる。
木々が揺れているのを見ながら、私は空を見上げた。
あんなに楽しかった文化祭も過ぎ去り、今日はいつもどおりの学校日和だ。
文化祭のあと、お互いに来ていた服を交換し合ったりしてみんな、思い思いに楽しんでいた。
そこに剣城ちゃんと私も加えてもらい、夜遅くまで文化祭の余韻に浸ってたっけ。
生徒会にかかわるようになってからと言うもの、彼らの忙しさには感心するばかりだ。
いつも何かと頑張ってて、本当すごいと思う。
皆に負けないように、私もがんばらないと!
「こんにち……」
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
ドアを開けるなり、聞こえてきたのは雪風君の悲鳴だった。
その悲鳴で私の声はかき消され、どうすることもできないまま静かに部屋に入る。
「あ、メイちゃん★ やっほ~♪」
「な、何だ湊かよ! 脅かすんじゃねぇ!」
「本当に出たかと思いました……」
「お疲れさま、彩月ちゃん」
四人が交互に私を見ながら、挨拶を交わしてくれる。
生徒会室の机に、牙狼さんと三人が向き合うように座っている。
なぜか机の真ん中にはろうそくがついていて、部屋の中は真っ暗だった。
「あ、あの……何をしているんですか?」
「彩月もなんとか言ってくださりませんか? 貴重な生徒会の時間を遊びに使うなんて」
剣城ちゃんがうんざりしたような顔をしながら、部屋の電気をつける。
彼女の様子を見る限り、4人で何かしているようだった。
「遊びなんてひどいなあ。れっきとした仕事だよ~? し・ご・と!」
「どこがですか! 遊んでいるようにしか見えません!」
「あ、何なら二人も混ざる? オレプレゼンツ、怪談話☆」
怪談、と聞いてようやく納得する。
なるほど。だからろうそくがあるんだ。
でもなんでこの時期に怪談? 怪談と言えば夏が定番だけど……
「実はさっき、落とし物箱を整理してたら怪談の本が入っててね。図書館の本じゃないみたいだから、誰かの私物なんだろうけど」
「それで怪談を?」
「そ♪ 夏休みは文化祭の何やかんやで忙しくて、あんまりエンジョイできなかったじゃん? まだ夏は終わってない! ってことで、オレが三人に聞かせてたってわけ♪」
牙狼さんの満面の笑みを見ながら、彼がどんなに怪談が好きか分かる。
こわくないのかな、そういういの。
私もあんまり得意ってほどじゃないし、お化けとかは苦手なんだよなあ……
「皆さん、お化けとか平気なんですか?」
「僕と牙狼は平気かな、二人はそういうの苦手でしょ?」
「はぁ!? んんんなわけねぇだろ! この俺がお化けなんかにビビるわけー」
「あ~ユッキーの後ろに幽霊が!」
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
牙狼さんが冗談半分で言った言葉を真に受けたのか、雪風君が大声で叫びながら竜駕君の後ろにしがみつく。
雪風君の叫び声にびっくりしたのか。希君もあたふた同じところをぐるぐる回っている。
「な~んつって☆ 冗談だよ♪」
「てめぇ……ぶっ殺すぞ……」
「ユッキーが素直に怖いって言わないからでしょ~?」
「べべべべべ別に怖くねぇっつうの!」
「お化けですっ、お化けがこの部屋にいますっ。怖いです。竜駕っ、追い払ってくださいっ」
「大丈夫だよ、ノンちゃん。牙狼の冗談だから」
竜駕君は二人落ち着かすように、頭をなでなでしている。
その様子がまるで子供を慰めるお母さんのようで、なんだかほほえましく感じる。
二人がお化け苦手なんて意外だな。希君なんて文化祭でお化け屋敷やってたのに。
「ふざけるのもいい加減にしてください! 今日中に生徒総会の資料をしあげなければいけないのですよ! もう少し時間がないのを自覚してください!」
「そんなこといってもさぁ……やる気が起きないんだよねぇ」
「……わかりました。私に考えがあります」
仕事を全くする気がない牙狼さんに向かって、剣城ちゃんがにやりと笑う。
その笑みは何かたくらんでいるようにも見えて、なんだか不気味に思えた。
「あなたたちの遊びに付き合ってあげましょう」
「マジ!? 本当!?」
「その代わり、一つ条件があります。生徒総会の資料の終わっていない分すべて、あなた方にお任せします。よろしいですね?」
「僕達だけでこの分の資料を?」
「終わるわけねぇだろ! つうか付き合うって……てめぇ、何考えてやがる!」
「知らないんですか? この高校……本当にでるみたいですよ?」
にやりと笑った、彼女の不吉な笑み。
見ていた私でも、少しだけ寒気がしたほどだった。
「え!? マジでつるちゃん!! 本当!?」
「本当かどうかはあなた方が確かめてみればいいではありませんか。ご自分の目で」
剣城ちゃんの不気味な笑みが、何か引っかかる。
なんか嫌な予感がするのは私だけなのだろうか……
「もうすっかり辺りは暗いですし、生徒もほとんどが帰宅済み……どうです? ここで、肝試しなんて実に楽しめる企画だと思いません?」
嫌な予感が、的中した。
剣城ちゃんの不気味な笑みと提案を、牙狼さんが乗っからないわけがない。
彼はすぐさま身を乗り出し、笑顔で答えた。
「いいね、それ! やるやる!」
「珍しく意見が合うようですね、四宮さん」
「だって肝試しって楽しくない!? 夜の学校、一度でいいから探検してみたかったんだよ! しかもこのメンバーでなんて、オレワクワクする! ねっ、みんな!」
牙狼さんがぱっと三人の顔を見る。
つられて私も見るが、そこには全然ちっともまったく楽しそうじゃない雪風君と希君の姿があった。
竜駕君は、気まずそうに苦笑いをしている。
「どうしたの、みんな? 顔暗くね?」
「暗くね? じゃねぇよ。なんでそんなことしないといけねぇんだ!」
「断固拒否、します」
「肝試しもいいけど、今は仕事をすることの方が大事じゃないかな?」
「い~や! つるちゃんがこんっなにいい案出してくれてたんだよ!? この機会を逃さずしていつやるの!? ねぇ、メイちゃん!」
「えっ、あ、はい」
彼の問いに、思わず返事をしてしまう。
しまったと思った時には、もう遅かった。
「んじゃペア決めよう! 三人三人でいこっか! くじ作るから、待ってて~」
「だからやらねぇつってんだっろーがあ!」
雪風君の叫びが空しく生徒会室に響き渡る。
私、これからどうなっちゃうのぉ……
(続く!)