想いを一つに、文化祭への猛特訓 後編
文化祭のカルテットスターの出し物はまさかのものに?!
そしてそれぞれのクラスでも、一波乱ありそうで・・・
「1,2,3,4! 1,2,3,4!」
えっと、ここで手をクロスさせて、それから……
「1,2,3! はい、ここでターン!」
た、ターン!?
「そしてシメのポ――――――――ズ!」
ひえぇぇぇぇ……
「はい、今日はここまで! みんな文化祭まで残り少ないんだぞぉ~? 気合いが足りないんじゃないか? ほらほらもっと頑張れよ!」
そ、そんなことをいわれましても……
息を整えながら、私はその場に座り込む。
今日も疲れたな。
そう思いながら、また深いため息をついた。
文化祭まではや一週間。運動はとことん苦手な私は、いまだにダンスが覚えられません……
ダンスが得意だという山内さんの指導の下、色々と教わっている。
……のにもかかわらず、全く上達しない自分が情けない。
なんで私って、こうなんだろうなあ。
このままじゃクラスのみんなに迷惑かけちゃう。
もっと頑張って、みんなの迷惑にならないようにしないと!
「み~なとさんっ、がんばってるねぇ」
私が立ち上がったと同時に、山内さんが私に話しかけてきた。
彼女はにっと笑い、飲む? といってスポーツ飲料を差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「湊さんって運動苦手でしょ? すっごいあたふたして踊ってたし」
「そ、それは……そのぅ……」
「なんなら夜刀君に教えてもらえばいいじゃん」
えっ!?
突然竜駕君の名前が出てきて、思わず顔をあげる。
まさか生徒会で一緒にいることがいろんな人に知れ渡っちゃったのかな。
確かに夏休み前に、島崎さんに一回見つかっちゃってるけど……
「あ、大丈夫。あたしそういうの気にしないし、カルテットスターになんて興味ないから」
「え? 相座高校に通っているのに、ですか……?」
「ここに通ってる人全員がファンだと思ってたの? ないない。あたし、彼氏いるしその人で十分」
そんな人もいるんだなあ……
てっきり全校生徒がカルテットスターにあこがれると思ってたのに。
「湊さんって夜刀君と仲いいよね。せっかくだから教えてもらえば?」
「そ、そんな! 迷惑かけちゃいますっ」
「少なくとも、ダンス部のあたしよりもうまいよ。やっぱ違うよね、カルテットスターって」
そういう彼女の目線は、男子に囲まれて練習している竜駕君がいた。
彼は踊れない男子たちに、優しく丁寧に教えてあげている。
ダンスは苦手とか言っていたのに、あの身軽さはいったいどうやったらできるんだろう。
やっぱり何でもできちゃうんだな……
「お~い、男子ども~一回通すぞ~? 今からはあたしが指導してしんぜよう!」
「え~~~~~~~~~」
「夜刀君はあの子を担当してくれる? 他の女子にはうまく言っとくからさ☆」
山内さんはそう言って、私にウインクして見せる。
あの子―つまりは私のことを横目で見ると、竜駕君はいつものように微笑んでくれた。
「山内さんってすごいよね。ダンス部とはいえ、あそこまで踊れるって」
男子の指導をしている彼女を見ながら、竜駕君が感心したように言う。
それを皆が亜、私はそうですねと笑って答えた。
ああいうこって親しみやすくていいな。
カルテットスターといるせいか、女の子の友達は剣城ちゃんしかいないけど。
山内さん、か。仲良くなれるといいな。
「それじゃあ始めようか、彩月ちゃん」
「は、はい!」
「まず最初は右足から。左足をうしろに、交互にステップを踏んで」
え、えっと右から始めて……
「ゆっくりでいいよ。そこから体をずらして、外回しにくるくる回って……」
そ、外回しってなんだっけ? あれ?
必死に追いつこうとしていた、その時だった。
右足に左足が絡み、バランスを崩したのは。
「きゃっ!」
「おっと」
不安定になった私の体は、そのままそばにいた竜駕君の方に倒れこんだ。
気が付いた時には、顔をあげてすぐの位置に竜駕君がいた。
「ご、ごごごめんなさい!」
「え? ああ、ううん。彩月ちゃんこそ、大丈夫?」
「だ、大丈夫、です」
竜駕君の息がかかるほど、顔が近い。
いつもより近くで見ていると、余計にかっこよく見えてドキドキしてしまう自分がいる。
どうしよう、なんだか緊張してきた……
ってそんなこと言ってる場合じゃない!
「い、今どきます!」
「待って」
すると何を思ったのか、彼は私を自分の方へ引き寄せた。
「りょ、竜駕君!?」
私はもう、何が何だかわからなかった。
なんだかいつもより竜駕君が男の子に見えて……
「………このまま……二人きりならいいのに……」
え?
「竜駕、君?」
「あっ! ちがっ、これはそのっ……ごめん!」
我に返ったように竜賀君が私をぱっとはなす。
彼の頬は少しだけ、赤く染まっていた。
「か、髪にほこりがついてたから、取ってあげたよ」
「あ……ありがとうございます」
「今日はもう疲れたよね。少し休憩しようか」
正直疲れというより、緊張してしょうがない。
さっきのは、何だったんだろう。何が起こったの……?
「ロ~~~~~ン~~~ちゃあああああああん?」
聞きなれた声に、はっと後ろを振りかえる。
そこにいたのは言わずと知れた、牙狼さんだった。
「が、牙狼!? なんでここに!?」
「なんでじゃない! 今、メイちゃんに何した!? 一人だけ抜け駆けするなんて! ずるい……ずるいよ、ロン!」
「抜け駆けって……僕はただ髪のほこりを……」
「言い訳無用! 今日という今日は許さん! ってなわけで、メイちゃんをちょっと借りるよ! 文句ないよね!?」
へ???
「ちょ、何言ってるの牙狼。まだ練習が……」
「よーし、ちゃんと許可もらった! そういうことだから、おいで。メイちゃん」
そういうと牙狼さんは半ば強制的に、私の腕を引っ張り走り出す。
彼の意地悪そうなそのウインクに、私は何も言えなくなったのだった。
「おっ、生徒会室誰もいないじゃん。貸し切りラッキー♪」
生徒会室のドアを開けながら、牙狼さんが私に「入って」と促す。
テーブルなどにはたくさんの資料が置いてあったが、だれの姿も見られなかった。
文化祭の練習で、みんな忙しいんだろうな。
「あの、牙狼さん。私に何かご用ですか?」
「実はさ、劇の練習相手をしてほしいなあって思ってさ」
「私に、ですか?」
「大丈夫♪ セリフはそんなに多くないし、オレに合わせてくれれば♪」
本当かなあ……
劇なんて、小学校以来やったことないのに……
出来るだけ迷惑をかけないようにしよう。そう思っていた矢先だった。
「今宵、満月の夜。あなたをお迎えにあがりたい」
いつもの牙狼さんとは全く違う、別人のような顔つきで私の方を向いた。
彼は役になりきっているのか、私の手を握った。
「……わかっている。君に婚約者がいることも、どんなに願ってもかなわぬ恋だとも」
「牙狼……さん」
「それでも私はあなたを妃として迎えたい。共に人生を歩みたい」
彼の顔が心なしか、どんどん近づいて行っている。
いつもの牙狼さんとは雰囲気がまるで違うせいか、なんだか無駄に緊張して……
「好きだ、彩月」
彼の顔がどんどん私の方に近づいてくる。
二つの唇が、もう少しで重なり合うー
びっくりして何もできずに、私は目をつむった。
「牙狼ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! てめぇ、湊と二人でっ、何してんだあああああああああああああ」
「ぎゃふっ!」
その瞬間、だった。
勢いよく入って来た雪風君が、牙狼さんの顔をグーで殴ったのは。
「いったあああい。なにすんだよ、ユッキー!」
「何すんだじゃねぇよ! 劇の練習はクラスの女でもできるだろ! よそでやれ!」
「え~せっかくメイちゃんで百人目だったのに~」
「ふざけんじゃねぇ!」
怒られている牙狼さんを見ながら、私はほっとして一息つく。
びっくりした、牙狼さんがキス……しようとするなんて。
今日はなんだか、ドキドキしっぱなしだなあ……
そう思いながら、何回目かわからないほどの溜息をついたのだったー
(続く・・・)