美男四人組、カルテットスター
ここが、相座高校……?
あまりの衝撃に、私は目を疑った。
あれから数日。私は同棲する準備のために、いったん家に帰ることになった。
いくら同棲するとは言ってもカルテットスターのことなんか言えるはずもなく、寮生活にするといってごまかした。
幸い、私の両親は小さい頃に亡くなっていて今は中学生の弥生と小学生の文乃の二人の妹だけだ。
相座高校に行くことになったというと、妹達はすごい盛り上がったりしてそれはもう大変だった。
結局、「私達のことは心配しないでいいから、思いっきり楽しんでおいで」と母親みたく言われてしまった。
学校側には何を話したのか、相座高校に転入というのがあっさり認められ普通に制服を着てここにいるわけだが……
(さすがにこれは想定外だよ……)
無駄にでかい校舎、イギリスか何かの建物を思わせるような外見、きれいに整備されてある通路。
そして何より、見るからにレベルが違いそうな生徒の数々……
ムリ! こんなのムリ!
ネットでどんなのか知ってはいたけど、こんなにすごかったとは!
私、見るからに浮いてるじゃん!
はぁ……今後が不安だ……
「カルテットスター様よ!!!!!!!!」
と、そこに黄色い歓声が私の耳に届く。
ぱっと振り向くと同時に、脇からたくさんの女子が集まる。
ものすごい足音をたてながら、通れるように中央の道だけをあけて……
「キャー! ロン様ああああああ! こっち向いて~!」
「雪風様あああ!!!」
「希様、かわいい~!」
「牙狼様~私を牙狼様のものにして~!!!」
次々に聞こえる歓声、歓声、歓声……
まるでアイドルのライブ会場にいるかのような感覚だ。
あけられた道を、歓声をあびながら歩いて来るのは言うまでもなくあの4人。
「おはよう、みんな。今日も頑張ろうね」
さわやかそうに笑みを向ける、夜刀竜駕さん。
「あ、あの、そんなに見られては困ります……」
恥ずかしそうにもじもじしながら、カバンで顔を隠す菱田希君。
「うるっせぇな、せっかくの始まりがこれとか迷惑なんだけど」
舌打ちまじりで怒りをあらわにしている、黒井雪風君。
「ハロー! マイエンジェル達~! みんな、今日もかわいいね♪」
元気そうにくるくる回り、ウインクをする四宮牙狼さん。
みんな、なんだか注目を浴びるのが楽しそうにも見える。
ここで話しかけたりしたら、私注目あびちゃうんだろうな。
気づかれないように、そっと野次馬から抜けようと後ろを振り向く。
が。
「あ! お~~~~~い、メイちゃああああああん!」
びっくりして、ゆっくりと振り返る。
屈託のない笑顔を向けながら、ぶんぶん手を振っている。
するととたんに向く、女子の視線……
「やっぱ制服似合うね~! オレが睨んだ通りってやつ?」
「ここまで迷わずに来れたんだ。よかった」
「朝は一人で来たいとか、どんだけわがままなんだよ。むかつく奴」
「おはようございます、湊さん」
四人が一気に私に話しかけてくれる。
普通なら、とても喜ぶ場面なのだろう。
だが私はそんなことよりも、向けられている視線が何より気になった。
「何よ、あの子。カルテットスター様と仲いい子なんていた?」
「信じらんない、なんであんな子なんか」
「カルテットスター様とどんな関係なのかしら」
ざわめきの中、そんな声がはっきりと聞き取れた気がする。
女子の怒ったような目つきが、私の心に刺さる。
何も言うことができず、ただただ怖くて私はその場から立ち去った。
初日の授業はとにかく疲れた。
常に女子の目線が怖い。
同じクラスになった夜刀君は優しく、私に話しかけてくれた。
そのたびに色々な女子が割って入ったり、ものすごく睨みつけられたり……
散々な一日だったな、本当。
私、ここでやっていけるのかなあ。
「彩月ちゃん、ちょっといいかな」
終礼が終わった後、夜刀君が私に話しかける。
彼は相変わらずの笑みを浮かべながら、私に言った。
「今日、一緒に帰らない? あの部屋の行き方とか、まだ教えてなかったでしょ?」
「あ、はい。わかりました」
「三人も一緒だからうるさいかもしれないけど、そこは大目に見てね」
ってことは……もしかしてカルテットスターと一緒に帰るってこと!?
ひえぇぇぇぇ! 私、生きて帰れるかなあ?
「ロン様ぁ、今日一緒に帰りませんか~?」
「あ~ずる~い、私が先に帰るって誘ったのよぉ!」
「駅前においしいお菓子屋さんがあるんですぅ。よかったら行きませんか?」
私達の会話が聞こえていなかったのか、次々に女子が押し寄せてくる。
返答に困っていると、すっと竜駕君が私と女子の間に入る。
「ごめんね、今日はこの子と帰るって約束してたから」
「え~~~~!」
「いこ、彩月ちゃん」
「は、はい」
そういいながら、ゆっくりと彼のあとをついていく。
立ち去る時も、彼女達の目線が気になって仕方がなかった。
「あ~~~~~! 授業終わったああああ! あ、お疲れ! ロン、メイちゃん!」
外に出ると、背伸びをしながら爽やかな笑みを浮かべてた牙狼さんが待っていた。
その隣には携帯をいじくっていた雪風君と、紙パックのジュースを飲みながらそれをのぞき込んでいる希君がいた。
「おせぇよ、お前ら。いつまで待たせるつもりだよ」
「ごめん、ごめん。女の子達をまくの、大変で」
「僕達も大変でした。さっきまで牙狼のファンがたくさんいたものですから」
「だってぇ~ファンの女の子は全員大切にしなきゃダメじゃん?」
同じカルテットスターなのに、全く考え方が違う。
個性もバラバラな4人でも、なんでこんなにひきつけられるのかな。
一緒にいて、彼らの魅力がすごくわかる。
そんな4人と一緒にいる私は、他のファンの女の子からどう見られているんだろう……
「はい! 提案なんだけどさ!」
「没」
「遠慮します」
「ごめんね、牙狼」
「ひっどいよ、みんな! オレ何も言ってないのに却下ってひどくない!?」
「どうせどっか店で買い食いしようとか言うんだろ? バイトしてる女子にサービスしてもらおうって」
「え、なんでユッキーそんなことまで分かるの!? はっ! まさかオレのことを監視してるとか!?」
「誰が好き好んでお前の監視しなきゃなんねぇんだよ」
雪風君に乱暴に言われたのも気にせず、四宮さんはちぇ~と言いながら静かに引き下がった。
それを残りの二人はいつものことという風に眺めている。
「牙狼って本当お店寄るの好きだよね。甘いもの好きなのはわかるけど」
「ちげぇだろ、竜駕。こいつは甘いもんじゃなくて、女が好きなんだ。女が!」
「この前、ニューハーフに話しかけてた時にはびっくりしました」
「ニューハーフだって立派な女の子じゃん! かわいい子だったら、だれでも話しかけてみる! それがオレのポリシーだよ♪」
「どや顔でいうとこじゃねぇだろ、それ」
まるで同級生のような、会話を交わしてゆく。
年は全員違うはずなのに、みんなが仲良しだ。
カルテットスターって、毎年こんな感じなのかな?
「どうかした、彩月ちゃん」
「へ?」
「なんか、浮かない顔してたから。何か学校であった?」
気づかれてしまった、というべきか。
おそらく夜刀君は学校の中で浮いている私を見ている。
これからここでやっていけるのか不安で、四人の仲よさそうな掛け合いを見ているとついうらやましくなっちゃって……
「よぉし、メイちゃん! 悩みがあったら何っでもぶつけちゃっていいよ!」
「その構えは何だ、牙狼」
「ん? 決まってるじゃん。悩み解決の第一歩だよ~♪ さぁ、オレの胸の中に飛び込んで!」
「悩みって人に抱き付けば解決するんですか? 初めて知りました」
「希、まじめに受け入れなくていい」
「でも牙狼の言うとおりだよ。僕達、もう友達なんだから」
友達……
どうして夜刀君も四宮さんも、優しい言葉をかけてくれるんだろう。
雪風君と希君も、私のほうに視線を向けている。
心配かけちゃだめだ。これ以上は。
「なんでもないんです。ただ4人を見てると、友達を思い出しちゃって。皆さん、ほんと仲がいいんですね」
「そりゃ、ちっちゃい頃からの付き合いだからね~♪」
「……え?」
「あれ、知らなかった? オレ達、み~~~~んなちっちゃい頃からいっしょにいる幼馴染なんだよ?」
ええええええええええ!? そうなの!?
どうりでこんなに仲がいいわけだ。
だから一番年上の四宮さんに敬語使ってないのかな?
「僕達みんな、同じ施設で育った仲間なんだ。今年偶然的に四人全員がカルテットスターになっちゃって」
「そう、だったんですか……」
「あの部屋もそう。今はカルテットスターのってことになってるけど、もともと僕達の家でもあるから。ちょっと複雑にしてるんだよね」
「そういえば、あの部屋にはどうやっていけるんですか?」
私が言うと、四人はきょとんとしていた。
しばらくすると、雪風君がため息交じりで私に言った。
「あきれた。あんな複雑なところにあるとはいえ、侵入してきたやつが言うことかよ」
「不思議です。あなたはなぜ、僕達の部屋にいたのですか?」
「そ、それが、まだよく思い出せなくて……」
「彩月ちゃんが覚えてないってことは第三者がいたってことだよね。君をあの部屋に送り込んだ、誰かが」
そういえば、あの帰り道誰かにあった気がする。
ほんのりと香った花の匂い、清楚なワンピース……
私に優しく微笑んでいた……あれは、女の人……?
「んまあ細かいことは気にしなくていいじゃん。いつか分かるもんっしょ? とりあえずここらへんでいいよね~ロン~鍵かしてっ!」
「細かいことって……相変わらず適当だね、牙狼は」
「気にしても仕方ねぇだろ。犯人あぶりだそうとか、面倒だから俺はやんないぜ」
「おなかすきました……」
自由すぎる四人に、癒される自分がいる。
本当に仲がいいんだな、全員考え方も何も違うのに。
夜刀君から鍵を預かった四宮さんは、誰もいないことを確認しながら近くにあった一軒家のドアへと足を運ぶ。
「あ、あのここ人の家ですよね。勝手に入っちゃまずいんじゃ……」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫♪ まあ見ててよ」
彼は私に、にっとウインクして見せた。
「それじゃあいくよ、メイちゃん。オレ達だけの、部屋に!」
鍵をさしたドアから広がる謎の空間。
四宮さんにリードされながら、そのドアの向こうへと行く。
まるでどこかにワープするような、不思議な感覚……
あれ、この感覚前にどこかで……
「とうちゃ~く♪」
はっと気が付くと、いつの間にか彼らの部屋へついていた。
四宮さんが鍵をくるくる回しながら、にっこり笑っている。
「とまあこんなかんじ?」
「え……どういう仕組みなんですか、これ」
「秘密はこの鍵なんだ」
四宮さんから渡された鍵を、夜刀君が私に見せてくれる。
どこからどう見ても普通の鍵で、彼のものには龍の形のキーホルダーがついている。
「僕達の部屋は異空間にあってね。この鍵を使えば、どのドアからでもここに行けるんだよ。みんな一つずつ持ってるよ」
「そうなんですか……すごいですね」
「そういえば牙狼、今日鍵は? 僕の使ってたけど」
「いやあ、うっかり部屋の中に置いたままにしちゃっててさあ」
「部屋に置くのはいいけど、学校の中で落としたりとかすんなよ。お前が一番心配だわ」
「女の子に貸したりするのもダメ、です」
「ユッキーもノンちゃんもひっどいなあ。そんなことしないよぉ~」
「どうだか」
雪風君が呆れたようにため息をつきながら、制服の上着を脱ぎ捨てる。
彼に続くように希君も、部屋へと戻っていく。
「彩月ちゃんの部屋はここだよ。着替えたら、ご飯の用意しようか」
「はいはい! オレハンバーグがいい!」
「わかった、わかった。作ってあげるから」
「私も手伝います!」
そういいながら、私は足早に部屋へと駆け込んだ。
こうして私とカルテットスターの共同生活が、幕を開けたのだったー
(続く・・・)