命を懸けて守るべきもの 後編
生徒会新聞の件で、先生のところに行くことに!
様子のおかしい雪風を心配して、二人きりで行くことになったが・・・
気まずいほどの、沈黙がまたとなく始まる。
私は話題を探すので必死だった。
片平先生と今別府先生を探すだけ、と言っても結構時間がかかる。
彼の顔までは見えないけど、たぶん不機嫌なんだろうなあ。
一緒に来てほしいなんて、なんてわがままなこと言っちゃったんだろう……
「おい、片平って教師どれだ?」
ふいに話しかけられ、ぱっと顔を上げる。
いつの間についていたのか、職員室と書かれた部屋まで来ていた。
職員室のドアに貼ってある先生の座席表を見ながら、いることを確認する。
「えっと、奥にいる女の先生です」
「一年二組の黒井です。片平先生に用があってきました、入ってもよろしいでしょうか」
私が説明するや否や、彼はすたすたと職員室の方に入ってしまう。
慌てて中に入ろうとすると、ここで待ってろと一言で制された。
雪風君が片平先生と話しているのを、外から眺める私。
うう。これじゃここに来た意味がなくないかな~……
「おお、ちょうどいいところに。黒井君、少し時間あるかね」
すると違う先生が、雪風君に話しかけた。
「このパソコンなんだけど、電源が付かなくなっちゃったみたいで。見てもらえるかい?」
「……わかりました」
ぶっきらぼうにそう返事する雪風君は、先生の机を借りてノートパソコンの裏の方を見る。
どこから持ってきたのか、彼の手にはドライバー等の器具が手に握られていた。
慣れたような手つきで、パソコンの部品を取り出したりいじくったりしている。
「SDカードにデータがたまって、重くなったのが原因っすね。これで大丈夫なんで、とりあえず消せるデータ探してくっさい」
「おお、ありがとう。すまないね、邪魔してしまって」
雪風君は道具を直した後、片平先生からインタビューの紙をもらう。
ついでにその職員室内の今別府先生のももらってきた彼は、平然とした顔で私のところに戻って来た。
「ほれよ、これでいいんだろ」
「あ、ありがとうございます。あの、雪風君って機械の修理とか得意なんですか?」
「まあな」
「すごいです! あんな難しいことを軽々やっちゃうなんて、尊敬します!」
「尊敬って……べ、別にそんなすごいことじゃねぇし」
照れたようにほほをかく雪風君の顔は、すごくかわいく今まで以上に新鮮に見えた。
いつもの彼に戻ってくれたような感じがして、ほっとする。
そんな、時だった。
『見つけましたよ、雪風様』
どこからか、声が聞こえる。
するといきなり風が吹いたかと思うと、窓の外から一人の少女がふわりとやってきた。
「殺す機会はたっぷりあるはずなのに、いまだにできていないとは。相変わらずですね」
「てめぇ、なんでここに……」
「決まってるじゃないですか、任務遂行のためですよ」
黒い羽織のようなものに、すごく大きな鎌。
分厚い本に刻まれている、謎の紋様……
いったい何が起こっているのか、全く理解ができない。
その少女は私を見てクスリと笑うと、鎌の先を私の首に当てた。
「……っ!?」
「初めまして、湊彩月さん。僕はプルート、あなたをお迎えに上がりました」
「お、お迎え……?」
「安心してください。すぐ楽になれますから」
鎌を後ろに振り上げた勢いが、私のほうへとふりかかる。
こ、殺される……!
逃げようと思ったけど、怖くて足が動かない。
私はどうすることもできずに、目をつむり……
「やめろっ!」
その時、何かと何かがぶつかる音が聞こえた。
目を開けると、そこには同じような鎌を持った彼がいた。
プルートと名乗ったその少女と似たような、黒い羽織の洋服で……
「邪魔しないでくださいよ、雪風様」
「こいつをやるのは俺の役目なんだろ? 部外者は黙って他の人でもほうむっとけ!」
「僕には、ただ殺したくない言い訳にしか聞こえませんがね」
「俺は死神長のマヤだ。命令に従え」
雪風君のぎろりとしたその目に、プルートさんはやれやれと肩を上げる。
彼は私を見てまたクスリと笑うと、黒い風と共に去っていく。
『死神長の自覚がおありなのでしたら、ご自分の使命を忘れないでくださいね? マヤ、様』
風と共にいなくなった空間を見つめながら、私はぺたんと座り込んでしまう。
何が何だか、分からなかった。
ただ一つ言えるのは、今私は殺されそうになったってこと。
あの鎌は本物だったみたいだし……それを持っていた雪風君はもしかして……
「けがはねぇか、湊」
雪風君が、私のほうにしゃがんで手を伸ばす。
思うように動けないでいる私は、ずっと気になっていたことを聞かずにはいられなかった。
「さっきのあの人……なんだったんですか?」
「死神だよ」
「死神?」
「聞いたことあるだろ。罪のある人間を、地獄に送る神様の話」
神話や本の中でしか聞いたことのない、死神。
まさか本当に存在するなんて……
「俺はあいつと同じ種族でもあり、その中の長。死神長のマヤだ」
「マヤ……雪風君の本名ですか?」
「そ。竜駕はロン、牙狼はルーって呼ばれることあるだろ?」
そういえば、よく聞くような……
「悪かったな」
「え?」
「お前を、こんなことに巻き込んで」
雪風君はそう言って、私の首のほうを触る。
鎌が当たったのか、少し痛みがあった。
「死ぬ運命に選ばれる人間はランダムと言ってもいい。今回が偶然お前だったってだけだ」
「私が、選ばれた……?」
「俺が死神である以上、お前を殺さなきゃならない。でもそれは希や、あいつらを悲しませることにもつながる。ましてや俺に人殺しなんて、できやしない。だから……」
「それで、元気がなかったんですね」
ようやく納得がいった。
雪風君が、苦しんでいるようにも見えたあの表情のこと。
いくら死神だからって、人を殺すのには勇気がいる。
まだ、私と同じくらいの年なのに……そんなのを背負っているなんて。
「どのみちお前はこれから狙われることになるだろう。俺がやることになっててもな」
「そんな……」
「安心しろ。必ず、お前を守ってみせる」
あまりの言葉に、思わずどきっとしてしまう。
雪風君の赤い瞳が、今まで以上に澄んで見えた気がした。
カルテットスターと住むことになって、彼らの秘密を知ってしまった私。
いったい、どんなことが待ち受けているというのだろう……。
彼らと私の物語は、まだ始まったばかりである……
(第一章 完)
これにて第一章完結です! 読者の皆様、本当にありがとうございます!!
第二章は楽しいイベントを主に、展開していく予定です!
引き続き、お楽しみください!!!