命を懸けて守るべきもの 中編
プール掃除をすることになったカルテットスターと彩月。
袋が足りなくなったので取りに戻ると、そこに遭遇したのは・・・
「えっと~……袋はぁっと……あ、あった」
生徒会室内をごそごそ浅くていると、ようやくお目当てのものが出てきた。
袋を取りに行くといった私だったが、肝心の場所を知らずに出てきてしまった。
我ながらなんて情けない話だ。
とりあえず先生に聞いて、場所がここだったからいいものの……
さて、あとは雪風君を探すだけかな!
「あっれぇ? 誰かと思ったらぁ、湊さんじゃなぁい?」
かわいらしいその声に、ビクッとしてしまう。
生徒会室から出てきた直後、声をかけたのはあの少女だった。
以前私に、カルテットスタートなれなれしくしている罰と言ってバケツの水をかけてきた……
「……お、お久しぶりです。島崎、さん」
「茉凛のこと覚えててくれたんだぁ、感激ぃ♪ またあえて茉凛、うれしい~」
正直、この人は苦手だ。
あの日以来、こうして顔を合わせるのは初めてである。
カルテットスターの秘密を知って生徒会に入っている今、何をされるかなんて想像しただけでもぞっとする。
早くいかなきゃ、みんなを待たせちゃ悪いし。
「じ、じゃあ失礼しますね」
「ねぇ湊さぁん。ここって生徒会室だよね? なんで湊さんが生徒会室から出てくるのぉ?」
ぎくりとして、思わず顔をそらしてしまう。
島崎さんは私を責めたてるように、少しずつ近寄ってきた。
「最近多いのよねぇ。湊さんが、生徒会室から出てきたところを見たって」
「そ、それは……」
「竜駕様だけでなく、残りの三人とも仲良くなっちゃってぇ……意味、分かってる?」
壁に押しやられ、彼女の顔がすぐ近くに来る。
あの時と同じ、憎しみに満ちた目だ。
「悪い子にはお仕置き、しちゃうぞ☆」
そういって彼女が手を振りかざす。
思わず目をつむった、その時―
「何してんだよ、お前」
聞きなれた声に、ゆっくりと目を開ける。
そこには雪風君がいた。
相変わらずの目つきで、私達を見据えている。
「キャー――! 雪風様ぁ! 雪風様から話しかけてくれるなんて、茉凛感激ですぅ❤」
「他の女子が探してたぞ。さっさと行け」
「はぁい、雪風様ぁ❤ じゃぁね、湊さん! まったねぇ~!」
きゃぴきゃぴとしたその笑顔に、私は気がほっと抜けてしまう。
はあっとため息をつくと、彼も同じようにあきれ返ったため息をついた。
「……ったく、本当女子ってのは厄介だな」
「あ、あの。ありがとうございました」
「別に、お前を助けたわけじゃねぇよ。たまたま通りかかっただけだ」
ぶっきらぼうにそういうと、彼はすたすたと先に行ってしまう。
私は慌てて彼の後を追った。
思えば、雪風君と二人きりになるのってこれがはじめてな気がする。
いつもは希君や誰かが一緒にいるから。
何か……何か話すこととか、ないかなぁ……
「ゆ、雪風君は好きな食べ物とかってありますか?」
「しらね」
「き、嫌いな食べ物とか……」
「他人に教えるつもりはない」
だめだ。このままじゃ、きりがない。
やっぱり私、嫌われているのかな……
「あっ、おっかえり~メイちゃん、ユッキー! 二人きりで何話してたの~?」
無言の中プールのほうにつくと、牙狼さんが笑顔で出迎えてくれた。
私達の気まずい空気なんか知らないようで、相変わらずにっこにこしながら雪風君に話しかけている。
「ねぇねぇユッキー、どうだったの? どこまでいっちゃったの?」
「うるせぇな。何もしてねぇよ、お前じゃあるまいし」
「え~! そうかなあ? 話くらい普通しない?」
「やるかよ」
雪風君はそう言って、希君達のほうに戻っていく。
「……何かあったのかな」
黙々と作業を続ける彼の横顔を見ながら、私はつぶやく。
近くにいた竜駕さんが、聞こえたのか私に聞き返した。
「どうしたの、彩月ちゃん」
「い、いえ、なんか雪風君の元気がないなあって」
「彩月ちゃんもそう思う? 僕もなんだ。七夕が終わってから、妙に静かっていうか……一人で何か抱え込んでる気がするんだよね……心配だな」
七夕、か。
確かにあのパーティー以来、彼の声をあまり聞いていない気がする。
なぜかちらちら私を見ているような気がしたりしたけど。
やっぱり雪風君とはもう少し距離を縮めないとなぁ……
「そういえば夜刀さん、生徒会新聞の件はどうなりました?」
そんな中、ふと剣城ちゃんが会話に入ってくる。
何のことかと首をかしげる私に対し、竜駕君は答えだした。
「ああ、それなら先生にお願いしたよ。まだ取りに行っていないけど」
「困りましたねぇ。もう記事を仕上げないと、発行時間に間に合わないのですが……」
「あ、あの、どうかしたの? 剣城ちゃん」
おそるおそる二人の会話に入る。
すると彼女は、顔色を明るくして私に言った。
「そうですわ、彩月。あなたにお願いしたいことがあるんですけど」
「私に?」
「ええ。片平先生ってあなたのクラスの担任ですよね? その方にインタビューの内容の紙を渡してありまして。それを取りに行ってほしいのです」
「べ、別にいいけど……」
「彩月一人じゃ不安なので、カルテットスターの中からお一人選んで連れて行ってもいいんですよ?」
えっ、と思わず声が漏れる。
予想通り、聞いていた様子の三人が声をあげた。
「そういうことならオレがついてってあげるよ! メイちゃんと二人で行けるなんて、大歓迎だし!」
「ここは僕が行きます。湊さんと一緒がいいです」
「片平先生は僕のクラスの担任でもあるし、一緒に行くのくらい大丈夫だよ?」
こうなると、私が三人の中から選ばないといけないことになる。
一人だけ選ぶなんて、私にはできないんだけどなぁ……
どうしよう、何かいい方法は……
「そんなに一気に言ったら彩月がかわいそうでしょう? 一人で十分なのですからね?」
「だってぇ、プール掃除めんどくさいじゃん?」
「子供ですか、あなたは!」
確かにプール掃除のことを考えると、一緒についてくるように言うのも気が引ける。
誰にしようかきょろきょろ見渡しながら、ふと目に留まる人物が一人。
先ほどからこちらの会話に入ろうともせず、ただただ黙々と草を取り続ける雪風君の姿だ。
さっきみたいに、相手されないのはわかっている。
でもどうしてか彼が浮かべる表情が気になって……
「あ、あの、私……雪風君と、もう少しお話がしたくて……三人の気持ちは、ありがたいんですが……」
「え~ユッキーと話したいなんて変わってるね~。ユッキーはやめといた方がいいよ~? 乱暴だしすぐ怒るし」
「牙狼、そんなこといわないの」
「どうしますか? ユキ」
希君が、草を取っている雪風君の方を向く。
彼は私を睨むような目つきで見つめた後、土がついた手をぱんぱんと払った。
「……別に行ってやってもいいけど。片平って教師だけか?」
「あと今別府先生にもお願いしてあります。確か。三年四組の担任の」
「分かった、手短に終わらせてくる。早くいくぞ」
「は、はい!」
雪風君に言われ、そそくさとプールの中から出てくる。
濡れたところを拭き、制服へと着替えた後私たちはともに学校のほうへと足を踏み入れた。