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星空の下、紡ぐ願い 後編

買い物中遭遇したのは、彩月の妹たち?

二人きりの七夕パーティー準備の行方はいかに・・・

「いやぁ、あれがメイちゃんの妹さんかぁ。かわいい子達だねぇ」

牙狼さんはそう言いながら、さっき買ったものを袋に入れていく。

レジでもらったお釣りを財布にしまいながら、私は苦笑いを浮かべた。

あの後牙狼さんが女の子から聞いたという特売をしているスーパーに行って、たくさんのものをそろえた。

ケーキは別の店で買ってきたらしく、彼の手元にちょこんと箱が入った袋がある。

買い物をしている間は別々にしていたが、まさかこんなにもはやく買い物が終わるとは。

「姉妹そろってカルテットスターのファンなんて、感激だねぇ」

「い、いえ、たまたま趣味が合うものですから……」

「あの子たちは誰押しなの?」

「えっと、確か希君と雪風君押しだったかと」

以前メールで、新一年生の子たちがかっこいい! という内容が送られてきたのを忘れない。

確かに希君はかわいいし、雪風君もすごくイケメンだ。

だからって私にサインやら写真やらを求めるのは、やめてほしいんだけど。

「なんだよぉ、オレおしじゃねぇのかよぉ~ざんね~ん」

「でも牙狼さんだって、人気じゃないですか。さっきだってたくさんの女の子が」

「それはカルテットスターでのオレ。四宮牙狼としてみてくれてる人は、あんまりいないと思う」

ふっと表情が暗くなったのは、気のせいなのだろうか。

彼は一瞬で笑顔になると、私に手を差し伸べた。

「さ、いこう。もうすぐ暗くなるからね」

「はい。そういえばパーティーはどこで行うんですか?」

「森の中に星が一番きれいに見えるところがあるんだ。今からそこに行って準備しよ? 君に、話がある」

そう言ってほほ笑む彼の顔は、いつもと違う気がした。

なんだか逆らい難い力を感じて、とりあえず彼についていく。

『僕達も、人間じゃないんだよ』

ふいに、竜駕君の言葉が脳裏に思い浮かぶ。

竜駕君が竜族で、希君が超能力者。

彼の言葉が本当なら、牙狼さんも人間じゃないってことになる。

話したいことって、それなのかな。

聞きたいけど、聞いちゃいけないことのような気がするなぁ……

「とうちゃ~く♪ ここがその場所だよ♪」

「うわぁ~……自然豊かですね!」

「キレイでしょ? オレが見つけたんだ♪」

牙狼さんに言われてきたところは、森林の中でも開けたところだった。

すごく広々とした野原のように広がっていて、そこになぜかテーブルなどが置いてある。

「あれ、このテーブル……」

「先にロンたちが来たのかもね〜♪ まっ、気楽に準備していこーよ☆」

「そうですね」

そういって、買ってきたものでできるものから調理していく。

調理用具もそろっていて、まさにキャンプ状態だ。

カルテットスターって本当に息ぴったりだなぁ。うらやましいくらい。

やがて、夕日が落ち暗くなっていく。

点々と星が輝きだし、まん丸い月が顔をのぞかせる。

「見てください、牙狼さん! 今日は満月ですよ! きれいですね~」

「うん。今日は晴れだから、天の川もはっきり見えるね」

「私、こうやってちゃんと天の川見るの初めてで……」

話しながら、彼の異変にようやく気付く。

風で揺れる銀髪とその横顔は、いつもの彼だ。

なのに何かが違う。そう思える、何かが感じられた。

「牙狼、さん?」

「メイちゃん、目を閉じてくれるかな?」

「え?」

「少しの間でいいんだ。お願い」

そういわれて、しぶしぶ目を閉じる。

真っ暗となった視界の中、聞こえてきたん謎の声。

(この声……犬の遠吠え?)

犬のような、動物の遠吠えが聞こえる。

こんなところに、犬? なんだかおかしくないかな?

すると私の顔の辺りに、ふわっと温かいものが広がった。

ぱっと目を開けると、そこにいたのはー

「……おお、かみ?」

よく動物図鑑などで見る、オオカミの姿だった。

二本の牙をぎらつかせ、黄色い瞳でこちらを見据えている。

本などで読んだり見たことはあったが、実際に見るのは初めてだ。

ていうか、オオカミって日本じゃ絶滅したはずじゃ……

するとオオカミは私の方にどんどん近づいてきた。

襲ってくるのかと少し身を縮めるが、すぐにそれは違うことが分かった。

オオカミが、私の顔にすりすりしているのだ。

毛並みが良く、ふわふわした温かさが広がっていく。

そのオオカミの耳に、見たことがあるピアスがついていることに気付く。

確かいつもつけていた、リング型のピアス……

「……牙狼、さん?」

私の問いに、オオカミは答えてくれるわけがない。

でもオオカミは、ずっと私の顔をなめたり頭をすりすりしたりしていた。

まるで、その質問に答えてくれているかのように。

満月が雲で隠れてしまうと同時に、彼の姿は見る見るうちに変わっていった。

「ヤッホー、メイちゃん」

「やっぱり今のオオカミは、牙狼さんだったんですか?」

「うん、まあそんなとこ」

「それって、いわゆる狼男なんですか?」

「勘がいいねぇ、メイちゃんは。ノンちゃんとロンの秘密を知って、疑わないだけはある」

そういう彼の頭には、耳のようなものが二本はえている。

よくよく見るとしっぽみたいものもついていて、その影がふるふる動いている。

「ニホンオオカミが絶滅したって話、知ってる?」

「あ、はい。一応」

「そのオオカミが絶滅する前に、人間たちは貴重な動物を残しておきたかったんだよ。どんなことをしても、ってね」

確かに絶滅危惧種という形で、保護されている動物も数多くいる。

その活動もむなしく、ニホンオオカミは昔に絶滅しちゃったけど。

でも、牙狼さんのさっきの姿は……

「オレはさ、こう見えて人間とオオカミの血が合わさってできてるんだよね。まあ一言でいうと、オオカミ人間をつくるための実験みたいな?」

「人間と、オオカミ……」

「メイちゃんにさっき見せたのがオレの本当の姿。満月の夜、力を解放するとあんな感じで姿かえられるわけ♪ どう? びっくりした?」

話している内容はすごく難しく、悲しい話なはずなのに彼はずっと笑みばかりを浮かべている。

みんな一緒だ。

希君の時も、竜駕君の時もそうだったように。

「やっぱ信じられないよね~普通は。わめくか逃げるか通報するかの三点張りだもん。もう嫌になっちゃう」

「そんなことしませんっ!」

「へ?」

「だって皆さん、今までずっと隠し続けてきたんですよね? その方がもっと悲しいじゃないですか! 牙狼さんは嘘をつくような人じゃありませんし、本当にそうなら私は信じます!」

普通に考えれば、確かに怖がる人もいるかもしれない。

正直私も最初は怖かったし、信じられなかった。

でもそれ以上に、秘密を話してくれた三人の目が忘れられなかった。

今まで体験してきたつらい過去を、誰にも打ち解けられなかった痛み。

だから私は、彼らの力になりたいと思った。

それがここにいる、意味なんじゃないかって。

「……ねぇメイちゃん、よく周りの人からいい子だね~って言われなかった?」

「え? え~っと、亡くなった母からはよく言われてましたが……」

「そこまでいい人すぎると逆に心配するよ~この前のカンニングの時だって、オレ嘘ついてたのに。悪い人についていきそうで怖いわ~」

「そ、そんなことっ……!」

「そういう人ほど怪しいんだぞ~注意しとかないと♪ ってことでメイちゃん、オレと付き合ってくれない?」

!?

「きゅ、急にどうしたんですか? なんで私なんか……」

「メイちゃんが本当の彼女になってくれたらいいんだろうなあって思って♪ これは遊びとかいつものやつじゃなくて、本気だから」

そういうと、牙狼さんの顔が私のすぐ近くまで来る。

いつもと色が違うその瞳は、まるで宝石のようにきれいだった。

「オレの彼女になってよ、彩月」

初めて呼ばれたその名前に、不意にドキッとしてしまう自分がいる。

牙狼さんの唇が、どんどん近くなっていく。

やまない動機を抑えながら、目を閉じるー

「何やってんだっ、お前は!!!!!!」

とそこに聞き慣れた声と、ものすごい効果音が聞こえる。

ぱっと目を開けると、そこには雪風君がいた。

牙狼さんをグーで殴ったのか、鋭い眼光を彼に向けている。

「いっだ~~~~~! 何すんの、ユッキー!」

「それはこっちのセリフだろうが! 買い出しに行って先に準備させといてこれか!」

「ひっどいなあ、いくらメイちゃんが好きだからってオレ達の邪魔しなくてよくない?」

「誰がいつこいつを好きだっつった!?」

「まあまあユキ、落ち着いて」

雪風君の後から竜駕君と希君が、笹と短冊用の紙を持ってやってくる。

二人は私と牙狼さんを交互に見ると、少しため息をついた。

「まったく牙狼ってば、また変なことしようとしてたでしょ? 彩月ちゃんに迷惑をかけちゃだめだよ?」

「女の子とイチャイチャするのは、よくないと思いますが」

「まぁまぁそういわないのっ♪ いいじゃん、キスくらい」

「よくないです」

希君が間髪入れずにそう返事する。

それでもまるで気にしないのように牙狼さんはにこにこ笑っている。

「……彩月ちゃんに話したんだね、あのこと」

「よくびっくりしませんでしたね、湊さん」

「いえ、まだ少し驚いていますが……」

「オオカミ人間だっつって信じられるってよほどのバカだろ。変わったやつ」

雪風君が呆れたように言うと、みんなが持っていたものを次々におろしていく。

そして一枚の短冊を取り出すと、私に渡した。

「ほれ、お前の分」

「あ、ありがとうございます」

「あとこれが牙狼の分だね。書いていないのは二人だけだから、僕達だけで先に調理しとくよ」

「マジ?! サンキュー、ロン!」

そういって渡されたお延と短冊を持って、少し考える。

願い事、か。

短冊に願いを書くなんて、何年振りだろう。

最近は七夕なんて、全然していなかったのに。

隣には鼻歌交じりで短冊のほうに何かを書いている牙狼さんがいる。

私の願いって、何なんだろうなあ……

「できたよ。カレーにしてみたけど、よかった?」

「やった~! ロンのカレーだ~!」

「あ、ありがとうございます!」

「湊さんと牙狼は短冊に書けましたか?」

「うん♪ オレはばっちりだよ♪ メイちゃんは?」

「私はまだ……ちなみに皆さんはなんて書いたんですか?」

私が言うと、三人は思い出すようなしぐさをしながら答えてくれた。

「みんなの願いが叶いますように、かな?」

「どこかの誰かさんがまともになってくれますように」

「かっこよくなりたい、です」

三人とも、見事にバラバラだ。

竜駕君のはまだしも、他の二人のやつって……

「どこかの誰かさんって、オレのことじゃないよね!? 違うよね、ユッキー!」

「自覚あるならもう少しまともになれよ」

「ノンちゃんはかっこよくなりたいんだ。今のままで十分かわいいと思うよ?」

「男の子なので、かっこよくなりたいんです」

本当、みんなそれぞれだなぁ。

こんな風に秘密を知っていながらも仲良くできるって、すごくうらやましいかも。

「んでお前はどうなんだよ、牙狼」

「オレ? 決まってるじゃん!」

「彼女ができますように、とかですか?」

「無事に卒業できるかようにって願ったの?」

「ブッブー! 二人ともはっずれ~正解はぁひと時でも多く、みんなと一緒にいたい♪ でした☆」

牙狼さんがそういいながら、ウインクしてみせる。

その言葉を聞きながら、私も自然に短冊にペンを走らせていた。

カルテットスターのみんなが、笑顔でいてくれますように、って。

満天の星空の下、私達は遅くまで七夕パーティーを楽しんだのだった―。


§

「ったく、あいつらは……どんだけ汚せば気がすむんだよ……」

深夜の森の中、雪風は一人ぶつくさ言いながらゴミを拾っていた。

七夕パーティー終了後、片づけをする人を決める際のじゃんけんに一発で負けてしまったからである。

最初は彩月がやるといったのだが、さすがに女子を夜遅くに一人では置けない。

だからと言ってじゃんけんで決めるのはどうなのだろう。

雪風の怒りは、おさまらないばかりだった。

「湊彩月が美佳に似てる……か」

秘密をばらしてもなお、彼女は自分たちのそばにいる。

そんな人間は、今までにかつて一人もいなかった。

唯一いたといえば、自分たちを育ててくれた天澤美佳だけだ。

そんな彼女は、もうここにはいない。

その現実が、雪風の心を痛く締め付ける。

「……あの女が美佳の変わりだとでも言うのか……?」

ちょうどその時、彼の携帯が鳴った。

着信源を見た雪風の顔色は変わり、緊張した顔つきで電話を取る。

「……もしもし」

『お久しぶりです、マヤ様。いや、雪風様とでも呼ぶべきでしょうか?』

「何の用だ、プルート」

『ちょうどあなた様の近くのお人が大王様より選ばれたので、一応報告をしに』

プルートと呼ばれた少年の話に、怪訝に顔をしかめる。

『……湊彩月。その者を、地獄におくってください』

「!? なんでっ、俺は人殺しなんか……!」

『雪風様、ご自分の使命を忘れないでくださいね。あなたは僕たち一族の長、なのですから』

不気味に言い放ったその少年は、そういってすぐに通話を切ってしまう。

きれた電話の画面を見ながら、雪風は一人苦しそうな表情を浮かべるばかりだった……。



七夕、という同じ日ですが少し間を開けました。こんなに明るい牙狼さんですが、一番頑張っているのは彼なんじゃないかなって私は思います。嫌いになれないような、そんなキャラを目指して頑張ります。

次回、いよいよあの方の出番です。

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