星空の下、紡ぐ願い 前編
あっという間に七月。月日が経つのは早いものです。
7月と言えば、あれがやってきますね。今回は牙狼さんメインです!
どうぞ、お楽しみに!
『あ、やっと見つけた~♪』
女性はまるで花がほころぶようなきれいな笑みを浮かべる。
『ねぇ、あなたは人生楽しんでる?』
えっと……それはどういう意味でしょう。
『せっかくの人生なんだから、楽しまないともったいなくない?』
まあ確かに一理あるかもですけど……
『いつかあなたの人生に素晴らしいことが起こるよ。きっと素敵なことがね』
そんなこと言われましても……
『私、ボランティアで占いやってるんです~♪ 占いって言っても、簡単なものなんです。この鏡に手を当ててください。それの判断結果を、私が読み取ります』
占いかぁ……
まあ、無料みたいだしやってみるのもいいかな……
えっと、手を当てるだけでいいんだっけ。
『Willkommen neu Welt』
その瞬間、私の世界は真っ白になっていってー
はっと目が覚め、ガバッと体を起こす。
周りを見渡し、いつもの部屋なのを確認する。
相変わらずのいい天気に、私ははあっとため息をついた。
何だか、長い夢を見ていた気がする。
とても長い、長い夢。
でもあれは夢じゃなく、私に実際にあったことだ。
いつもの帰り道、私は竜駕君に見せてもらった女性と瓜二つな人に出会った。
その女性はなぜか私を占うと言って、一つの鏡に触れてみてと言ったのだ。
そこからの記憶が、まるでないということは多分それが原因なのだろう。
気が付いた時にはすでに、ここ―カルテットスターの部屋にいたのだ。
あの女性は一体……カルテットスターの部屋に連れてきたってことに、何か意味があるの……?
彼女が言ったあの言葉の意味は何?
それに私、あの人のことどこかで見た気が……
そう思いながら、ドアを開けると―
「じゃじゃ~~~~ん! どうよ、三人とも! この点数! オレにかかれば勉強しなくても、再試で合格しちゃうわけよっ!」
今からでもどこかに遊びに行きそうなおしゃれな服を着た、四宮さんが声を上げる。
彼が見せびらかしているのは、この前あった再試のテスト用紙だ。
「いやあ、出来る男って辛いねぇ。こ~んなに簡単なものとは思わなかったよ♪ あ、メイちゃん! GOOD MORNING~♪」
「お、おはようございます。あの、何してるんですか?」
「見れば分かんだろ、こいつの一人しゃべりだ」
「ユッキーってばひどい! オレはみんなにちゃんと聞かせてんだよ!?」
「聞きたくもねぇわ、お前の自慢話なんか」
今までずっと聞いていたのか、雪風君はため息交じりで四宮さんを見つめている。
興味もないのか、希君はスケッチブックに絵を淡々と描いている。
逆に竜駕君は四宮さんが持っていた再試の紙を見ながら、疑がり深~い顔を向けた。
「……ねぇ牙狼。確認だけど、カンニングしたわけじゃないよね?」
「失敬な! するわけないじゃん! いくら成績が悪いからって、そんなことしなー」
「……みんなにばれないようにっていうのも、してないよね?」
竜駕君の言葉に、少しだけど怒気が含まれている。
彼の顔は満面の笑みで、いつにもまして怖い感じがする。
「希、絵描いてねぇであいつの心読んでくれねぇか?」
「……読まなくても、牙狼がすることはわかります。ですよね、竜駕」
「あんなに0点とってて、全然勉強していない牙狼が再試で合格するなんてありえない。ましてや、あの後勉強したユキやノンちゃんでも合格していない」
「え、え~っと……」
「意味わかるよね? ルーちゃん」
いつもの満面の笑みなのに、今日は一段と怖い。
その笑顔だけで、怒っていることがわかる。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ! ご、ごめんあさぁぁぁぁぁぁい!」
優しい人ほど、怒ると怖い。
昔からそういうけど、まさかここまでとは。
皆にばれないようにするって、どうやってカンニングしたんだろう。
よく先生とかにばれなかったなぁ。ある意味すごいよ。
「ったく、これだから牙狼は……」
「これからが思いやられます」
「ま、まあまあ細かいことはいいじゃん? 過ぎたことを悔やんでも仕方ないって!」
「開き直るなっ!」
雪風君の的確なつっこみに、うるさそうに四宮さんが耳をふさぐ。
怒られているのにもかかわらず、彼は全然気にしていないようにも見えた。
そして彼は思い出したように声を上げると、私のほうに向きなおった。
「あ、そうだ! ねぇメイちゃん!」
「えっ、は、はい! なんでしょう?」
「オレとデートしてくんない!?」
突拍子な提案に、へ? とすごく高い声が出てしまう。
すると同時に、ものすごい勢いで雪風君が四宮さんの頭を殴った。
「いっだあああああああ! 何すんの! ユッキー!」
「何すんのじゃねぇよ! てめぇ、今の状況分かってんのか!?」
「状況って何? はっ、まさか! ユッキー、メイちゃんのこと好きなの!? え~意外~!」
「んなわけねぇだろ! 俺が怒ってんのは、反省の色が全く見えないからだ!」
雪風君が声を荒げてそう言うと、希君もまくしたてるように言った。
「カンニングした上に、女の子をしかも湊さんを誘うとは……牙狼の気がしれません」
「……ねぇ牙狼、本当に反省してる?」
「してるしてる超してる! でもこれは、メイちゃんだけじゃなくてみんなにも関わってくることなの!」
四宮さんがそういうと、みんなぴたりと動きを止める。
彼はなおも満面の笑みを浮かべて、私たちに言った。
「はい、ここでクエスチョンタ~イム! 七月七日は何の日でしょ~~~か!」
「知るか」
「七月の七日目です」
「えっと~……ルーアンにて二十五年前のジャンヌ・ダルクの処刑裁判の判決破棄を宣言した日だね。あと、アメリカ独立戦争・ハバードトンの戦いとか……」
「ロン、ストップストップ! 確かにそんな日もあったかもしんないけど、そうじゃなぁぁぁぁぁぁい!」
見事なボケとつっこみに、私は思わずくすりと笑ってしまう。
なんだかお笑い芸人みたい。本当に仲がいいんだろうな、四人とも。
「七月七日っていったら七夕でしょ! た・な・ば・た! 一年に一度だけ、彦星が織姫という恋人に会えるすんばらしい日なんだよ!」
「ああ、そういやそんな日もあったな」
「確か短冊にお願い事を書けば、赤い服を着たおじいさんがかなえてくれるんですよね」
「ノンちゃん、それクリスマスと混ざってるから」
竜駕君は希君に的確なつっこみを入れると、思い出したように言った。
「もしかしてこの前言ってた七夕パーティーのこと言ってる?」
「そうそう! それだよ! 今年もやろうよ、メイちゃんも入れてさぁ!」
え、七夕パーティー?
確かに七夕ではお祭りをやるところとかも結構あるけど……
まさか七夕でパーティーをするとは……。
「今年もいい笹が手に入ったし、あとはパーティーの準備するだけなんだよね~ってことで、メイちゃん! オレと一緒に買い物に行かない?」
「私と、ですか?」
「そうそう! 女の子のほうがそういうの詳しいだろうし、貴重なデートの時間にもなるじゃん?」
「明らかに後者が本音だろ」
「まあまあユッキーってば嫉妬しないの♪」
四宮さんは本気だ。
私にいこっと笑顔で誘っている。
正直、断れそうにない。
それに前、「牙狼は言い出したら聞かない」って竜駕君も言ってた気がするし……
「え、えっと、買い出しくらいなら、いいですよ」
「本当!? よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 本当にいいの、彩月ちゃん」
「かまいません。パーティーにご一緒させてくれるお礼に、私も何かしたいんで」
本当は、私なんかがパーティーに参加していいのかちょっと遠慮する。
四人だけの仲良しパーティーに、私が加わるのは気が引けるし。
だけどせっかく回ってきたチャンスなんだから、これを生かしたい。
彼らのために何かできることなら、何でもしたいから。
「……まったく、君にもあきれるよ。彩月ちゃん」
竜駕君は呆れているような声をあげながら、クスリと笑った。
「言い出したら聞かないのは、君も一緒のようだね」
「え?」
「いいよ。そこまで言うなら、牙狼と二人でいっておいで」
「言っとくけど、余計なもん買ったりすんなよ。あと、そこらへんの女子を口説くのも禁止だ!」
「僕、菱餅がほしいです。もち、もち、もち」
「だーもー分かったから、もちもち言うな!」
息がぴったりな4人のやり取りに、私はつい笑うことしかできなかった。
(続く・・・)
話中にでてくる「Willkommen neu Welt」というのは、「ようこそ、新しい世界へ」という意味だったりします。




