「星降る夜に 1」
この話は本編『ヘル・オンライン』の番外編になりますので先に本編を読む事をお勧めします。
アップデートから一年近くが過ぎ表示される現実世界の日付が6月下旬に入ってからヘル・オンラインの南側のエリアに存在する街や村、そのエリア周辺を移動する行商人などのありとあらゆる場所に配置されているNPCたちが口々に共通の言葉を口にするようになっていた。
それは7月7日の夜、毎年決まって砂漠の何処かに空から流れ星が降ってくるのだがそれを食べるために巨大なモンスターが砂漠に埋もれた奥深くの地底から現れて落下地点を正確に把握して落ちてきた流星を食べてはまたすぐ地底に潜って次の年まで眠り続けるという生態をしているため非常に珍しいモンスターなのだそうだ。
その情報を聞きつけたアップデート以前から攻略ギルドの代表格と言われ続けている『エンカウント』『ソル』『円卓騎士団』、他多数のギルドが南側エリアの首都『クバーサ』に集結し来るその日に備えて入念な準備と落下地点の詳しい情報をかき集めていた。
そして、どういうわけか『エンカウント』『ソル』の両ギルドリーダーからそれぞれ「トモ、あんたも参加ね!」「トモ君も勿論一緒にレアモンスター討伐に行くよな!?」とほぼ強制で参加させられてしまい北の調教可能モンスターをほぼフルコンプ状態にしサオリやマキシさんたちと共に西側エリアへ進出したばかりの俺にとってはあんまり有難くない話だった。さらには先述の両ギルドリーダーが事あるごとに一悶着起こして来た『円卓騎士団』の連中とたまたま酒場で会ったりすればなおさらだ。
「おやおや、『エンカウント』の皆さんと『ソル』の皆さんお揃いでピクニックの予定でも決めているのですかな?」
さっそく『円卓騎士団』のリーダー、アーサーからの先制が飛んできた! もうなんなのあのニヤニヤしながら小馬鹿にしたような口調は・・・・・・そんな態度で言われたら
「あらぁ円卓のアーサーさんじゃないですかぁ? 残念ですねぇここの酒場、丸いテーブル置いてないんですよぉ、恰好ばかり気にするアーサーさんにとってこれは耐えられないんじゃないんですかぁ?」
と、ユウコが顔は笑っているし口調は朗らかだけどこめかみに青筋立ててる・・・・・・。
「いやいや、確かにそれもそうなんですがねぇここの肉料理が美味いって聞いたもんですから、今日の所は長テーブルでも我慢しますよ。はっはっは!」
アーサーのやつここで別の店に行ったら負けだと思って意地でもここで飯食う気だな・・・・・・。
「いつもは体裁気にするアーサー様が料理のためにテーブルを我慢する!? ハハハ、こいつぁ面白い! 今夜は飯が美味いな、なぁ!? みんな!」
そこへ今度はコウジさんが大ジョッキを掲げて席についている『ソル』と『エンカウント』のメンバーと二回目の乾杯し出す。・・・・・・俺帰っていいかな?
そんな彼らにとっては楽しく俺にとっては全然楽しくない宴は終わりそれぞれの宿で明日に備えてすぐさま寝ることに。
夜が明けて、イベントボスの出現しそうなポイントを絞り込むための情報を集めようとみんなで改めて街にいるNPCに手分けして聞き込みを行う流れになった。
「流星を食べに出てくるモンスターについて詳しい情報が欲しいんですが」
俺とサオリ、マキシさんとレックスさんの4人は手当たり次第に似た質問をしているのだが
「いや、知らないよ。化け物をみたいなんてあんたら随分変わり者だねえ」
「ああ!? なんだって!? 耳が遠くて聞こえないよっ!!」
と優しい返事が返ってくるばかりで進展はなし。
ひとまず流星が降ってくるという夜までに出来る事なら正確な出現ポイントの情報を手に入れて最短で辿り着きたいのだが、この調子だと日が暮れた時点でクバーサを出て参加メンバーが扇状に広がって広大な砂漠を地道に調べていくしかなくなるような気がしてならない。
「なんだよさっきのNPC、ああ!? なんだって!? じゃねえっつうの」
レックスさんがボヤキながら空を見上げる。
「流星が落ちてきてそれを食べるモンスターねえ・・・・・・」
丁度昼休みに入ったのかNPCの鍛冶屋のおっさんが作業着を脱ぎ店から出てこちらに近づいてきた。
「あんたら、もしかして『流星喰い』に挑もうとしてるのかい?」
おっさんが額の汗を手拭いで拭きながら聞いてきたので
「ええそうなんですけど、どこに出現するのか見当がつかなくて困ってるんですよ。おじさんは何か知ってますか?」
キーワードになるような事を話しているとこのようにNPC側からなにかしら反応があるので少し期待を膨らませて俺はおっさんに聞いてみた。
「まぁ確かに一年に一度だけしか現れないし流星が落ちてくる場所も毎年違う、だがなあの流星喰いの甲殻や鱗はさんざん特殊な鉱物の塊で出来ている流星を食い続けてきたおかげでほとんど流星と同じ材質になっている。あれの特性で近くに同じ鉱物を持っていくと強く引き付けられるんだ、それがこれだ」
おっさんはポケットから暗い藍色の光沢を放つ小さな石のかけらを取り出し見せてくれた。
「これがその特殊な鉱物ですか!? あ、あのもしよろしければ譲って頂くわけにはいきません・・・・・・か?」
サオリが手を合わせて頭を下げて頼むとおっさんは首を横に振る。
「だめだ、これは俺の親友がやつに挑んで命がけで取ってきたあと傷が深くて逝っちまった・・・・・・言わば形見なんだ。誰かに譲る気はないよ」
おっさんは亡くなった親友の事を思い出したのか辛そうに顔を歪ませる。
「おじさん、じゃあそれをお借りする事は可能ですか? 必ずこれを返しに戻ってきます約束です」
サオリは真っすぐにおっさんの目を見て気持ちを込めていう。
「・・・・・・あんた、名は?」
「サオリです」
おっさんは静かにため息をつくとゆっくりと石をサオリの手を取り預けた。
「サオリ、確かに渡したぞ。もし失くしたり死にやがったらあの世の果てまで追いかけてあいつと一緒にとっちめてやるからな!」
そういっておっさんは近くの食堂の中へと歩いていった。
「はい!」
サオリはおっさんの背中に向かって元気に答えた。
ノリと勢いの番外編
文章量を減らして更新頻度を上げられるか挑戦しようと思います。意見感想待ってます。