幻の湖
それは、高校のある美術の授業だった。
今日は、窓の外を模写する時間で僕は、描いていた。
ふと、隣を見てみると隣の青山は、ここから見える雑木林とあるはずのない湖を描いていた。
気になった僕は、青山に問う。
「ねえ、なんで湖を描いている?何処にも、そんなものないだろう?」
青山は言った。
『ああ、今は見えないな、でもあそこには湖がある』
僕には、意味がわからなかった。
だから、僕は曖昧に相槌を打って話を終わらせようとした、でも彼は、そうはさせてくれなかった。
『今日の放課後、この教室に来て見せてあげる。約束だよ』
そう言い終えると何事もなかったかのように、彼はまた、絵を描き出した。
僕は、反論することもできずただ、嗚呼と言うことしかできなかった。
そして、放課後になった。
僕は、急ぎ足で美術室に向かった。
もう、彼はいた、そして僕に窓の外を見るように促した。
僕は、窓の外を見て一瞬目を疑った、彼が描いていた湖がそこにあったのだ、でもそれは、湖ではなかった雑木林の奥に映る空の青さとさらにその奥に映る雲と茜色の空が見せる、大空の湖だったのだ。
彼は、得そうに言った。
『ほらあっただろう、湖は、この時間しか見えない幻の湖が』
「ああ、ほんとだったんだな、こんな景色が見られるなんて、思わなかった。」
僕は、感動のあまり何かが鼻の奥でツンとした。
しかし、僕は今までこんな景色見たことがなかった、部活などでこの時間まで残っていることが多いのにどういうことかと疑問に思った、その疑問を感じ取ったのか彼は、言った。
『この時間、この角度でないと幻の湖は見られないんだ。
いろんなところから、いろんな時間で見たけれど、何処でも見られないんだ。』
彼は、すごく残念そうに言った。
また、こうも言った。
『これは、2人だけの秘密』って楽しそうに笑って言った。
だから僕も笑顔で返した。
そして、あれから10年が過ぎ、僕達は大人になった。
もう、彼とはしばらく会ってはいないけれど、あの時の幻の湖は僕の頭の中に鮮明に再生される。
色あせることのない大切な思い出だ。