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神様の唄  作者: もと
事件勃発
8/18

第八話:捜索

 俺とビーサンは駅の改札を通り抜けると、どちらかというと賑わいを見せている西口へと足を向けた。


 余談だが、もし俺が定期でなく普通に金を出して切符というものを購入していたとしたら、こいつはちゃんとその値段を支払ってくれていたのだろうかと俺は思った。


 大体、この俺様をつかまえて、いきなり麻薬密売の犯人を捕まえろ、なんて酷い話しではないか。

 というか、何で俺なんだ?

 もし、このビーサンの方が犯人だったら、俺としたらどういうふうにすればいいのだろうか?


 俺の頭は超ターボフル回転をする。

 しかし、俺という奴は本当に良い奴なのだ。

 そうに決まっている。

 しかたなしに迷彩探しをするのだから…。

 とにかく今はどこぞの刑事ドラマの如くに振る舞うしかない。


「おい!こんなに広いんだぜ?どうやって探すんだ!」

「とにかく探しまくって下さい!」


 おいおいおいっ!

 俺は頭を抱えた。


「もし…もしだぜ?店なんかに入ってたらどうすんだよ?」

「店も全部調べれば良いんです!」

「ああっ、もうっ!お話になんねーよっ」


 そんなやりとりを続けながら、とにかく早歩きで街を歩き回る。

 手前にあるマックから、昔ながらの駄菓子屋、コーヒーの匂いが漂うスターバックスなんかも探した。

 

 人通りはそれほど多くない。

 此処の駅はあまりビル街というものではなく、かといって住宅が密集しているわけでもない。どちらかというと小さな駅で、利用者もそんなに多いとはいえない所だ。


 何故こんな駅で、こんなアクシデントが起こったのだろうか?

 新宿やそこらで起こったならまだ納得もいくというのに。


「なあ。お前って、ここら辺に住んでるの?」


 俺はふとそんなふうに聞いた。


「え? 違いますよ、もっと東京寄りですよ」

「じゃあ、あの迷彩野郎は?あいつは此処に住んでるのか?」

「知りませんよ。俺はそいつに会った事なんかないし」


 何っ?


 俺はつい足を止める。それに気づいたビーサンは、何やってるんですか、とイライラしたように言った。


「だってさ、変じゃないか? 何でだよ、何でわざわざそいつを追うんだ? ドコモに電話して止めてもらえば良い話しじゃないのか? 一体あの携帯には何があるっていうんだよ?」


 俺の言葉にビーサンも足を止めた。


「……今はそんな事言ってる場合じゃないんです」


 そう言って、ビーサンは俺の腕を引っ張って走りだす。

 どうやら話す気はないらしい。


 俺はますます不安になった。

 どうして見たこともない奴を追うのか?

 そんなに大切な事って、一体何なんだろうか?


 しかし良く考えてみると、元々こいつが携帯を忘れたのがいけないんじゃないか? 

 うん、そうだ。

 そうだよ!自分が悪いんじゃないか!


「お前、何で携帯忘れたんだよ!」


 そう叫ぶと、


「俺が忘れたんじゃないよ!」


 という返答。俺はますます混乱した。


「ってオイ!お前の携帯だろ?」

「そうだよ。でも俺が忘れたんじゃないんだよ!」


 思考がこんがらがって、俺は頭がおかしくなりそうだった。

 とりあえず今はこれ以上のことを考えるのはやめよう。

 じゃないと爆発してしまう。

 そう思い、俺は走る事に集中しながら、さっき見た迷彩がどこかにいないかと目を彷徨わせた。


 西口の店という店を見て回り、デパートでさえくまなく探した。

 もちろん、デパ地下と呼ばれる場所も、屋上の小さな遊園地もどきも、フードコートも、だ。

 ただの公園から、もう何にも使われていそうもない小さな建物。

 流石に工事現場には入れなかったが、一通りといえば一通り探しただろうと思われる。

 しかし、その努力の甲斐なんてこれっぽっちも無く、迷彩の「め」の字もない。


 そんな事をしているうちに、時計は4時をさそうとしていた。

 俺はといえば、学校に行けなかった事が今更のように重く感じられていた。講義を受けられなかった事は別に良いとして、やはり皇には会いたかった。

 自慢じゃないが、今のところ授業には休まず出ていたので1回くらいの欠席では驚く事も無い。


 俺の足は棒になりつつあったが、それはビーサンにとっても同じ事だったようだ。そろそろ諦めよう、という言葉こそ出なかったものの、奴の歩行スピードが下がったのがその合図のようなものだった。

 丁度、4時になる。


「どっか、入る?」


 先にそう言ったのは、ビーサンだった。


「何だよ、どうすんだよ、携帯」

「さっき言ったじゃん。ドコモに電話すれば良いって。もう良いよ、それで」


 ちょっと切ない表情で外人顔がふふっと笑う。

 あっそ、と俺は精一杯どうでも良いような答えを返す。

 ビーサンは、


「ごめんね、振り回して。お礼に驕るよ」


 と言った。

 

 俺は内心、そうこなくっちゃ、とほくそ笑んだ。

 腹時計がなっている。


「何が良い?何でも良いよ」


 選択権を得た俺は、ここぞとばかりにハングリータイガーとでも言おうかと思ったが、この街にはそういう高級なステーキ屋は無かった。

 一歩譲ってファミレスで良いやと思ったが、今まで探したところによるとそういう建物すら無かった事に気づく。

 俺はかなり落ち込みながら、じゃあ牛ドン、と思った。


 がしかし。


 今日振り回された俺が、このアクシデントの説明を受けずして、このビーサンと「じゃあまたねっ」と語尾にハートなんて付けつつサッパリと別れられるか!と立腹し、やはりこれはかなり低価格であったとしてもファーストフードにでも入ってゆっくり説明をしてもらいつつバーガーを2、3個かじる方がよっぽど良いという結論に至る。


「じゃあ、モスで」


 一応、ファーストフードの中でも高めなのを選んだのは言うまでもない。


「モスね、分かった」


 ここ何時間でかなりこのマニアックな街の地理に詳しくなってしまった俺達は、さっき見かけたモスへと迷うことなく向かった。

 それは駅前にあったマックと近い場所に位置し、駅を利用する人の休憩場所として人気を博しているようだった。


 駅自体は何の改装もされていない古いままの状態だが、駅前のそうしたショップに関しては、わりと新しいように見えた。

 そのモスも例外じゃない。


 モスに入ると、俺は自分の財布が痛くないことを良いことに、オレンジのLサイズとバーガー(高めのもの)を2個とポテトの一番でかいサイズを注文した。ビーサンは、ウーロン茶のMサイズとポテトの一番小さいのを注文する。


「以上でよろしいですか」


 と、レジの女の子は笑顔で言った。


「あ、はい」

「あ! あとね、この玄米フレークのパフェみたいなやつ、一つね」


 ビーサンの言葉を遮って、俺はイケシャアシャアとそう言ってやった。

 へへん、ざまあみろ、と俺はせせら笑うはずだったが、ビーサンは別に、ゲッ、とも、マジかよ、とも考えてなさそうな笑顔で、


「あ、じゃあ以上で」


 と言っただけだった。

 

 おいおい、何だその余裕そうな顔はっと思ったものだが、どうやら本当に余裕だったようで、彼の財布からはスッと諭吉が出てきた。

 どうやら、その一枚以外にも諭吉が何人かいらっしゃるようだ。


 俺は、一体この男は何者なんだ!?、と怖くなった。

 この外人顔の割に背が低く、服のセンスもこれといって言い訳でもないくせに金持ちという男……。


 俺はちょっと目をこらした。

 すると、ビーサンの手に抱えられた財布は黒光りしていて、その角には、GUCCIとかかれている。


 なななななんたる事!!!


 俺は恨めしそうにビーサンを見たが、ビーサンは俺に向かってきょとんとした表情を浮かべているだけだった。

 

 

 

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