10 エピローグ
それから佳乃は橋爪に帰るまでに、智春と自由研究をまとめたり、みんなで川遊びをしたり、沢田へ遊びに行ったりした。
そして、橋爪へ帰る当日は、智春、晃、栄治、里香が見送りに来てくれた。
里香が目を潤わせながら言う。
「また遊びに来てね」
智春は、手を差し出して言う。
「来年、橋爪西で会おうぜ」
佳乃はその手を握った。
「私、深江に来るとき、きっとつまらない夏になると思っていた。でも、成瀬君のおかげで、今は帰りたくないくらい楽しかったよ。絶対に橋爪西高校で再会しよう」
車が走り出すと、名残惜しくみんなが見えなくなるまで手を振り続けた。
ショルダーバックの中からハンカチにくるまれた櫛を取り出す。
恵子がそれを横目で見て言う。
「あら、その櫛、どうしたの?」
「もらった」
「友達に?」
「……まぁ、そんなところ」
佳乃は、そっと櫛を撫でる。
あれから秀久は一度も姿を現さなかった。きっと成仏できたのだろう。
「持ってきちゃったけど、いいよね。秀久さん」
恵子に聞こえないくらいの声で佳乃はつぶやく。
すると、ひんやりとしたものが櫛を持つ手に触れた気がした。
どこか身に覚えのある感覚。
涙がこぼれそうになった。
さよなら、秀久さん
佳乃は、そうして深江に別れを告げた。
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