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怠惰なドラゴンは働き者  作者: 不健康優良児
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第4話

 俺の3対の翼が生み出す推進力は、七大神龍の中でもトップクラスだ。

 1対目の羽ばたきで時速500キロに到達、2対目の羽ばたきで1000キロ、3対目でついには音速を突破した。

 空気の壁も、神龍の俺にとっては扇風機の強風みたいなもの。ソニックブームで雲を切り裂きながら飛行を続ける。

 あ、ソニックブームに巻き込まれて、近くを飛んでたグリフォンか何かがミンチになった。

 ダメだよちゃんと注意してなきゃ。空を飛ぶときは近くに神龍がいないかよく確認しましょうって、お母さんに教わらなかったのか? 神龍は急には止まれないんだから。

 多少の人身(?)事故を起こしながらも、ものの数分で件の山あいに到着した。

 付近にいたモンスターの大半は、俺の巨体を見るやいなや蜘蛛の子を散らすように逃げていく。その中にはフロストドラゴンやアイスゴーレムなど、(人間にとっては)強大なモンスターも混じっている。

 そんなゲーム的にはボスモンスターにも数えられるような連中が、子供でも相手にできるような雑魚モンスターと一緒になって一目散に逃げていくのは何ともシュールな光景だ。

 だが、それが当たり前だ。どれだけ強力なモンスターも俺たち神龍の前では等しく塵芥。俺たち神龍は神じゃないが、それでも天災程度には手に負えない存在だからな。見たら逃げるのが正解だよ。

 だからそこで歯ぁむき出しにしてるスノウトロールの群れ、おたくらもさっさと逃げなさいよ。

 数十匹の雪山に特化した白毛のトロールが、山裾から敵意むき出しでこっちを睨んでいる。見た印象は完全にUMAのイエティだな。

 討伐された群れの生き残りか? あれくらいなら適正数よりもちょっと多いくらいかね。

 神龍である俺を前にして怯みもしていない。ありゃあマナが脳にまで回ってるな。

 脆弱な人間にとって濃すぎるマナは毒だ。だが、マナを吸収し進化を続けてきたモンスターにとって、マナは麻薬だ。理性を吹き飛ばし、本能の赴くままに暴れまわる。

 たとえ相手がこの世界の絶対者である神龍であってもだ。

「ったく。面倒だな」

 目をギンギラに血走らせて、スノウトロールの群れが一気呵成に向かってくる。ぶっちゃけウゼー……。

 マナでハイになっているだけだし、殺すのもめんど……ゲフンゲフン、忍びない。

「とりあえず、頭冷やしてこいや」

 翼の1枚で気持ちほんのちょっと強めに、スノウトロールの群れを仰いでやる。

 スノウトロールたちが、まるで風に舞い上げられる木の葉よろしく根こそぎ吹き飛ばされていった。

 果たして連中は、数キロ先の湖にホールインワン。氷結した水面を突き破り、湖に沈んでいく。

 しばらく寒中水泳でもすりゃ目も覚めるだろ。まあ多少数は減るだろうが。

 さてと。邪魔もなくなったことだし、さっさと仕事を済ませるか。

 足元に目をやり、万年雪に覆われた純白の大地、そのさらに下を走る膨大なマナの奔流を見つめる。確かに正常な時と比べて、流れが悪くなっているな。詰まりかけのトイレみたいだ。

 詰まった場所は、あそこか。

 マナストリームをたどっていくと、クレバスが口を開け、大小無数の骨が散らばる岩場の真下あたりで流れがせき止められていた。ここはスノウトロールたちの巣か。

 巣の中心にポッカリと開いた高純度のマナが漏れ出す小さなクレバスを見下ろし、俺はため息をついた。

 よりにもよってこんな所で詰まるなよな。

 詰まり原因はこれか。大量の骨が堆積してビーバーのダムみたいになってやがる。どうやらスノウトロールたちは、このクレバスをダストシューターにしていたらしい。

 クレバスがたまたま運悪くマナストリームにまで達していたために、何世代にもわたって投棄され続けた骨でふさがり始めて、マナが溢れ出るようになってしまったわけか。

 原因が分かってみればさもありなんだな。っていうか元を正せば、あの白毛モジャモジャどもが原因かよ! もっと痛めつけとけば良かったぜ。

 さてどうすっかな。下に降りて行ってあれを掃除するのも面倒だなぁ。ふむ。ちと強引だが、流してしまおうか。綺麗さっぱりと。

 まずは探査魔法で、半径100キロ以内にここと同じようにマナが漏れ出しそうな場所がないかチェック。

 ――フム。何か所かあやしい場所があるな。物理的に塞ぐと地形を変えることになりそうだから、魔力で膜を張って塞いでっと。これでよし。ほんじゃ、綺麗に流してしまいますか。

 前足の爪を大地に突き刺しマナストリームに干渉、流れを加速させる。速さを増したマナの川は骨の壁に阻まれ、クレバスから溢れ出そうになる。しかし、そこは神龍特製の魔力膜ががっちりガード。横漏れも逃がしません。

 俺はさらにマナの流れを速める。複雑に絡まった骨の壁が崩れてきたな。便器の底にこびり付いた茶色いアレのごとく、そのまま流れて行っちまえ。

 俺の下品な願いが届いたのか、一際大きめの骨の纏まりが流されていった。それが切っ掛けになり、ほどなく堆積していた骨の塊は根こそぎ流されていった。

 これでマナストリームの流れは元通りだな。大地から爪を引き抜き、マナストリームへの干渉を切る。

 ついでにクレバスは埋めておこう。今後、スノウトロールたちにはぜひとも、ごみ出しのマナーを守ってもらいたいもんだ。

「あ~よく働いた。つか働きすぎだな。過労死するわ」

 さっさと帰ってまた一眠りするかね。

 住処へと戻るため、俺は満月の登る夜空へと飛び上がった。


「今戻ったぞ~」

「お帰りなさいませ、主さま。お勤めは無事に完了致しましたか?」

 ルナミリアが美しい45度のお辞儀で出迎えてくれた。

「おうよ。原因はスノウトロールたちがマナストリームに廃棄してた骨だった。ちゃんとキレイに流してきたし、穴も塞いだから問題ないだろう」

「左様でございますか。お疲れ様でした主さま」

「うむ。苦しゅうない」

 さ~てルナミリアに報告もしたし、また一眠りと行きますか。今度は20年くらいは寝たいなぁ。

 しかしこの寝床、RPGのボスドラゴンが座ってそうな玉座をイメージして作ったけど、高すぎて上り下りが面倒でしょうがないな。今度、低く作り直そうかね。

「ところで主さま。先ほどキレイに流したとおっしゃいましたが、もしやマナストリームに干渉なされましたか?」

 日本人特有の凝り性を発揮してしまったかつての自分を恨みながら、寝床に潜り込もうとしたとき、ルナミリアが尋ねてきた。

「んあ? なんだよいきなり。これから寝るんだけど。まぁしたけど。マナの流れを速くして骨を流したんだよ。ジャーっとな」

「左様でございますか。ところで主さま。先ほどからアスラッド大陸各地で、小規模のマナ噴火が多発しております」

 パードゥン?

「……なんで?」

「先ほど大陸南東部のマナストリームの流れに異常な加速が検知されました。それに押し出される形で大陸全体のマナストリームが加速しています。地表の浅い部分ないしは亀裂がマナストリームに達していた場所で、圧力に耐え切れずマナ噴火が起こっております」

 オーケイ整理しよう。要するにこれは、詰まりかかってたトイレを無理やり流したら下水管が破裂したってことだな。理解した。よし寝よう。

「ですので主さま。もう一度お手を煩わせるのは誠に遺憾ですが、もう一度お出かけが必要かと存じます」

 HAHAHA! 何を言ってるんだいルナミリア。よい子は寝る時間だよ。

「ちなみに場所によってはすでにモンスターの異常発生、植物の異常成長などが確認されております。早めの対処をなさったほうがよろしいかと愚考いたします」

「NOooooOOOooo―――!!」

 その日、神龍の住処として名高いアスラッド大陸最高峰の神山から、この世のものとは思えない咆哮が轟いた。アスラッド大陸の人々は、大陸中で一斉に発生したマナ噴火と相まって、この世の終わりが来たのではないかと恐れ慄き、それぞれが信奉する神に祈りを捧げたという。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

とりあえず書きためていた分は全部吐き出しました。(早!!)

このような稚拙な作品ですが、今後ともお付き合いのほどよろしくお願いします。

誤字脱字、設定の矛盾などありましたらご指摘いただければ幸いです。

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