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怠惰なドラゴンは働き者  作者: 不健康優良児
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閑話 ルナミリア爆誕

遅くなりました。とりあえずこれで怠ドラは完結となります。

 私、元素の大精霊ルナミリア=マクスウェルは至福の時を過ごしていました。


 我が主、七大神龍が一角の怠惰のスロウスさまが、同じく七大神龍の傲慢のプライドさまより承ったガイアの危機を脅かす存在の排除を見事に完遂し、ご帰還されたのです。


 さすがは主さまです。相手はこれまでいくつもの星を滅ぼしてきた強敵ということでしたが、主さまに挑むなどとは全くもって愚かなこと。せいぜい冥府にて、己が愚行を悔い改めていることでしょう。


 ただ、主さまはしばしばやりすぎてしまうという可愛らしい悪癖をお持ちです。


 今回も、少々やりすぎてしまい、キマイラ座の星の1つを壊してしまったそうです。


 プライドさまに苦言を呈され、すぐに修復を行ったそうですが、ご帰還された主さまは疲労困憊ですぐに眠りに疲れてしまいました。


「う~ん。終わんないよ~。星の修復終わんないよ~。サビ残やだよ~。労働基準法違反だよ~。組合に訴える~……zzzzzz」


 よほど過酷な作業だったのか、おいたわしいことに主さまは時々、寝言でうなされています。


 主さまに快適な安眠をもたらすのは僕である私の役目。


「大丈夫ですよ主さま。もうお仕事は終わったのです。ぐっすりとお休みください」


 うなされる主さまの耳元でそう囁くと、主さまは再び安らかな寝息を立て始めました。


 私は安堵の息を吐くと、洞窟内のマナの密度を主さまのお好みの割合に調整しました。恐れ多いことですが、元素の大精霊である私は、七大神龍に次いでマナの操作に長けております。最も七大神龍と比べ、その力量の差はあまりにもかけ離れていますが。主さまに快眠をご提供する程度のことは出来ます。この時は、自分が元素の大精霊である幸運に感謝します。


 さて、本来ならここで主さまの神々しい寝顔を拝するところですが、それは控えるようにと主さまに厳命されたばかりです。それは身を切られんばかりに辛いことですが、本当なら禁止されるところを、主さまのご温情で控えるだけと軽減されたのです。


 さすがは情に厚き主さま。なんと慈悲深いことでしょう。


 さて。寝顔を見るのは控えるようにとのことでしたので、私は主さまの背後にまわり、その逞しいお背中を拝することにしました。


 ミーハーな素人では物足りなさを感じることでしょう。ですが主さまマイスターである私は、寝息とともに上下する主さまの背中だけでご飯が3杯はいただけます!


 こうして私は規則的に上下する背中と、時たまぴくりと震える翼に悶え、至福の時を過ごすのでした。


 そう言えば、こうして主さまのお背中を拝していると、あの時のことを思い出します。


 私が初めて主さまとお会いしたあの時。私が救われたあの時。まだ私が希薄な自我しか持たない、低精霊だったあの時のことを。


 数万年の昔。私は世界に有象無象にあふれる低精霊の1つでした。自我は希薄で、思考力も皆無。ただ宙に漂うだけの、取るに足らない存在だったのです。


 当時のガイアにはまだ人という種はなく、文明を持たない野生の魔物が弱肉少食の理のみを法とし、縄張り争いを繰り広げる時代でした。

しかし、そんな時代は突如として終わりを迎えました。地表に溢れていたマナが、枯渇し始めたのです。


 人間共の知者は、その時代の地表のマナが異常に希薄なため、当時のマナストリームに何か以上が起こったのではないか。そして再び同じようにマナが希薄になる事態が起こるのではないかと危惧し、原因の究明を行っているそうです。全くもって愚かなこと。主さまを始めとした七大神龍が管理するマナストリームに、異常が起こるわけもなし。


 マナ枯渇の原因は、ある突然変異種の魔物が原因でした。


 魂を喰らう魔物、ソウルイーターの変種、マナイーター。


 この突然変異の魔物は、マナのみを餌とする偏食家にして1つの群れが森林1つを維持するだけのマナを喰らいつくす暴食家でした。


 マナイーターは、マナストリームから溢れるマナを片っ端から食い荒らし、その土地のマナが枯渇すれば場所を移動して、移動先のマナを食い尽くすことを繰り返しました。


 さらにマナイーターの食指は、大気中のマナだけに留まらず、マナの結晶体とも言うべき私たち精霊にも及んだのです。この時代、多くの精霊たちがマナイーターの餌食となりました。現在、精霊が希少種とされているのは、その多くがマナイーターによって食い殺され、数を減らしたことが原因です。


 当然、精霊たちも黙って食われていたわけではありません。自我を持った中精霊は身を隠し、力のある大精霊は団結し、襲ってくるマナイーターを撃退しました。


 しかし、力もない自我も希薄な低精霊はなすすべなく食われていったのです。


 当時、低精霊の1体に過ぎなかった私があの時代を生き延びられたのは、運が良かったとしか言い様がありません。


 しかし、それも終わりの時を迎えようとしていました。ある日、私が住処としていた土地に、マナイーターの群れがやってきたのです。大気中のマナは瞬く間に食い尽くされ、それでも満たされないマナイーターは、ついに私たち精霊を襲うようになったのです。


 運の悪いことに、私たちの土地に大精霊は存在せず、中精霊はとっくに身を隠したか、他所の地に逃げ出していました。


 当然、マナイーターたちは残った私たち低精霊を襲いました。

毎日、何体もの低精霊が食われていきました。しかし幸か不幸か、低精霊の希薄な自我では、恐怖という感情を持つこともできず、私たちは食われていく仲間たちを無感情に見つめているだけでした。


 そしてとうとう、私の番がやってきたのです。


 ほかの低精霊はあらかた食い尽くされ、最後に残った1体が私でした。

私を除く最後の精霊が食われた瞬間、凪の海面のようだった私の希薄な感情が激しく揺さぶられました。


―――食われたくない


 浮かび上がるのは、これまで一度も感じたことのない死への恐怖。

低精霊にあるまじき感情の奔流。


 もし、生命の誕生が感情の有無によって定義されるものだとするならば、『私』という存在が生まれたのは、まさにこの時だったのでしょう。

しかし、感情が生まれたところで、私が無力な低精霊であることに変わりはありません。むしろ、それまでは無縁だった恐怖という不快な感情を持ってしまったことを、不幸とすら思いました。


 そして、マナイーターの一体が私を視界に捉えました。芽生えたばかりの知性では現状を打破する案も浮かばず、私はただマナイーターに怯え、終わりの瞬間まで恐怖に震えることしかできませんでした。


『あ~メンドくせーメンドくせー、マックスメンドくせー』


 死を覚悟したまさにその時でした。震える私の前に主さまが、七大神龍が一角、怠惰のスロウスさまが舞い降りたのです。今とお変わりのない、気怠げなご様子で。


 6枚3対の翼を携えたそのお背中を見た瞬間、私の恐怖心は跡形もなく消え去ってしまい、代わりに何か温かい感情で満たされていきました。


 今思えば、あれは人種で言うところの一目惚れというやつだったのでしょう。私の心はあの瞬間に、主さまに永遠に囚われてしまったのです。


『やいコラ。お前らだな、最近世界中のマナを食いまくってる大飯食らいは。お前らが食い散らかしたマナの補充、どんだけ面倒だったかわかってんのか? おかげでこちとら半年も不眠不休で働いてんだぞ。もうさあ、どこのブラック企業よ。神龍とかよう。名前だけすごそうで完全に中間管理職じゃねえかよ』


 突然、空から舞い降り愚痴をこぼす主さまに、マナイーターは戸惑っていましたが、所詮は満たされぬ食欲に支配された獣。


 おろかにもマナイーターは、襲いかかる獲物を私から主さまへと変えたのです。神龍の身体は高密度のマナで構成されています。マナイーターにとっては、低精霊など霞むほどのご馳走に見えたのでしょう。


 マナイーターは嬉々として主さまへ飛びかかったのです。


『神龍に突っかかってくるとか、飢えで理性が飛んじまってんのかい。暴食のグラトニー以上の腹ペコキャラかよ』


 主さまは呆れながら、飛びかかってくるマナイーターをペシリと払い飛ばしました。


『とりあえずお星さまになっとけ』


 そのお言葉通り、払い飛ばされたマナイーターは払われた顔の半分を潰されながら、天高く吹き飛ばされ、そのまま空の彼方へと消え去りました。


 それを見て、他のマナイーター達は徒党を組み一斉に主さまへと襲いかかってきました。


『は~メンドくせえけどしょうがねえ。お仕事しますかっと』


 そこから先は一方的な蹂躙でした。


 主さまはその圧倒的な力を振るい、マナイーターたちを文字通り叩き潰したのです。


 まだ複雑な思考はできなかった私ですが、強烈な飢えによって低精霊以上に思考力の低く、それゆえに神龍に襲いかかるなどという愚をおかしたマナイーターたちを哀れに思ったものです。


『……こんなもんかね。さ~て終わった終わった。帰るぞ。20年は惰眠を貪ってやる。誰にも文句言わせねえかんな!』


 マナイーターたちを殲滅した主さまは、続いて彼らによって食い尽くされたマナの補充を行い、颯爽とその地を後にしようとしました。


 私は焦りました。このまま黙って主さまを行かせてしまうと、もう二度と会えなくなる。そんな予感があったのです。


―――マッテ。


 生まれたばかりで、うまく発することのできない言葉を必死に紡いで主さまを呼び止めました。思い返してもなんと不遜なことをしたのかと恐縮してしまいます。


『あん? 誰だってお前、低精霊か? なんだって低精霊がしゃべれるんだよ。うわ~またメンドくせえ予感』


――アナタ、ダレ?


『嵐を呼ぶジャガイモ頭の幼稚園児みたいなこと言うやつだな。俺は七大神龍が一角、怠惰のスロウスだ』


――タイダノスロウス。


 そのお名前を聞いた瞬間、身体中が温かい何かで満たされていくような気がしました。


――タイダノスロウス、タスケテクレタ。チカラ、ナリタイ。


 だからこそ、私の全てを主さまに捧げたいと思ったのは自然なことでした。


『なんともまあ律儀なやつだな。まあ気持ちはありがたいけどよ、低精霊程度じゃ俺ら神龍の力にはなれんぜ? っていうか俺のそばにいるのも辛いだろ』


 確かに、低精霊だった当時の私は、高密度のマナの集合体である主さまから放たれる魔力の余波で吹き飛ばされてしまいそうでした。


 今のままでは主さまに恩を返すどころか、足かせにしかならない。その事実を受け入れ、私は1つの決意を固めます。


――ワタシ、ツヨクナル。ツヨクナッテ、タイダノスロウスノチカラニナル!


『お、おう。まあ頑張れや。楽しみにしてっから。……近所のガキに大きくなったらお嫁さんにしてねとか言われるお兄さんって、こんな感じなのかね』


 楽しみにしている。そう言われた事実に私は文字通り踊り狂うほど歓喜しました。そしてふと思いました。このまま別れたら、主さまは私のことを忘れてしまうかもしれないと。


――タイダノスロウス、ワタシ、ナマエホシイ。


『あ? 名前?』


――ワタシ、ナマエナイ。タイダノスロウスニ、ナマエツケテホシイ。


 これから長い時をかけて、主さまのそばにいられるだけの存在になってみせる。その時に、主さまが私のことを思い出せるように。なによりも、主さまとの絶対の繋がりを求めて、私は図々しいと知りつつも、主さまに懇願しました。


『は~メンドくせえなあ……。名前。名前ねぇ』


 主さまはおもむろに空を見上げました。その日は新月で、空は漆黒の闇に包まれていました。


『……ルナミリア。お前の名前はルナミリアだ』


――ルナミリア……。ワタシ、ルナミリア。


『ああ。宵闇の女神の名前だ』


 何とも分不相応な名前を頂いてしまいました。ですが、その名前にふさわしいだけの存在になってみせる。その時、私は強く決意したのです。


『んじゃ。俺はもう行くぜ。また会える日を楽しみしてるよ』


 そう言い残し、主さまは飛び去っていきました。その漆黒のお身体は深淵の夜空にあっという間に溶けていってしまいましたが、私は朝日が昇るまで、主さまが飛び去った空を見つめ続けていました。


 あの運命の日より幾星霜。私は己を鍛えぬきました。高位精霊に助言を受け、大気のマナを己の糧として吸収し、ときにはモンスターを打ち倒し、その力を高めていきました。


 そしてついに精霊としての最高峰、大精霊となることができたのです。


 私は喜び勇んで主さまの元へ向かいました。


 私が主さまの寝所に到着したとき、主さまはお休み中でした。数千年ぶりの再会です。すぐにも色々とお話がしたかったのですが、私のわがままで主さまの眠りを妨げるなど、できようはずもありません。


 私は、主さまがお目覚めになられるまで、その場に控えていることにしました。


 お休みになられている主さまは、数千年前の記憶に残る勇姿からは想像もつかないほど穏やかな寝顔をなされていました。最初は、早く主さまがお目覚めにならないかと焦れったい思いを抱えていましたが、何日かその寝顔を眺めていると、私の中に何とも言えない高揚感が生まれていきました。コレはなんというか、そう、至福です!


 主さまのあどけない寝顔を見つめるだけで私は、生きていて良かったとあの時主さまに救ってきただけた幸運に感謝しました。


 こうして私は、主さまがお目覚めになるまでの10数年間、主さまの寝顔を眺めるという至福の時を過ごしたのでした。


 その後、お目覚めになった主さまは、すぐそばに控えていた私を見て面食らっていました。ですが恐縮なことに、主さまは私のことを朧げながら、覚えていてくれたのです。そして私があの時の誓い通り、主さまの僕となることを告げると、


『あ? んな約束したっけか? ……ああっ!? ウソウソ!! 覚えてる! 覚えてます!! だから泣きそうな顔すんな! はい君採用! 僕でオーケー!』


 と、快く私を僕としていただいたのです。


『やっべー。これからは迂闊なこと言えねーなー。大丈夫だよな俺。他にも嫁に来いとか言ってねーよな? あっ。あん時のアレは……いや! アレはナニでソレだったからセーフだよな。うん』


 主さまは何やら思い悩んでいたようですが、私は僕に加えていただけた幸福感でソロどころではありませんでした。あの時の感動は、今でも鮮明に思い出せます。


「……う~ん。母船のデブリが~……衛生軌道修正が~……」


 主さまのうなされ声に、私の意識は現実へと引き戻されました。どうやら懐かしい思い出に浸ってしまっていたようです。


 主さまに安らかな眠りを提供し、ついでに主さまの寝顔も盗み見るため私は、再び悪夢にうなされ始めた主さまの元へと向かいました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


プライベートがゴタゴタして閑話1本仕上げるのに信じられないくらい時間がかかりました。もしもお待たせしていた方がいたら本当に申し訳ありませんでした。

最後までグダりまくりましたが、怠ドラはこれにて完結となります。

発想力ない構成力ない文章力ない、なによりも継続力のない筆者が紛いなりにもひとつの作品を完結できたのは、ブックマークしてくれた読者さま方があればこそです。

力不足で書ききれなかったり出せなかった設定や構想は多々ありますが、それはもう少し腕を上げることができたとき、改稿なり続編なりで描いていけたらいいのにな~(遠い目)


誤字脱字、設定の矛盾などありましたらご指摘いただければ幸いです。

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