第13話
とりあえず最終章です。
少年誌の打ち切り決定回並みの唐突な展開がありますので注意してください。
神龍の試練を無事に終えて、俺はまったりした日々を過ごしていた。
あれから数ヶ月は龍人形態で寝てたけど、どうにも背中の翼としっぽが邪魔で寝づらさがマックスだったからすぐにドラゴンに戻ったけどな。人間やっぱりなれないことはするもんじゃないね。まあ俺は元人間の神龍だけど。
当然、ルナミリアの膝枕もやめてもらったけど、何故かものすごく不満そうだった。やってもらっといてなんだけど、数ヶ月も身動き取れなかったんだからむしろ喜ばれるべきなんじゃ?
あれから勇者くん御一行は仲間を増やしたり、帝国で魔導飛行船をもらったりして順調に旅を続けている。
世界各地の魔王を討伐しながら、ほかの神龍の試練も突破しているらしい。健勝なようで何よりだ。
この調子なら遠からぬ将来、魔界に突撃して本当に大魔王を倒してくれるかもしれねえな。是非とも頑張ってくれよ~。大魔王さえ倒してしまえば、勇者システムという面倒な仕事が1つ減るんだから。俺の安眠のため、もとい、世界の平和のため邁進せよ勇者たちよ!
という訳で、勇者の活躍もあって最近は魔王たちもマナストリームに悪さするのを控えてるし、俺はのんびりと昼寝を楽しむのであった。
『……だの。聞こ……かい……い惰の。怠惰の。聞こえるかい?』
……な~んか今、聞こえちゃいけない声が聞こえた気がしたぞ。やばい。面倒事の予感。
よし。無視しよう! 俺は今昼寝で忙しいのだ。
「あっ。お目覚めでしたか主さま。たった今、ごうm……」
「スカースピー」
ルナミリアがなんか言ってるが聞こえなーい。何しろ俺は今、全力で寝ているのだ!
「寝たふりをなさらないでください。主さまの寝息は私が一番熟知しているのですよ。寝ている時の主さまは、そのような可愛らしい寝息など立てません。もっと地の底から響くような重低音で……」
「って! 怖いわっ! 寝息熟知とかヤンデレじみてて怖すぎるわ!」
幾星霜の付き合いの中で初めて聞いたルナミリアの爆弾発言に、思わずツッコミをいれてしまった。
「なにお前。俺が寝てる間ずっと俺の観察でもしてんのかい!」
「当然ではありませんか」
おうふ。当然か。当然なのか。太陽が東から登って西に沈むくらい当然なのかいルナミリアさん!
「ルナミリア=マクスウェル! 其方が主、怠惰のスロウスの名において命ずる! 俺の寝顔を観察すんの禁止!」
「そ、そんな……っ!?」
ルナミリアが少女漫画チックなガーンって顔して、その場に崩れ落ちた。
「お、お慈悲を! 主さま! どうかお慈悲を!」
ルナミリアが滂沱の涙を流しながらすがりついてきた。
「ダメ! 俺にもプライバシーってものがあるの! 寝相を観察されるとかハズいにも程があるわ!」
膝枕してもらったときは不可抗力でしょうがないとしても、年がら年中寝顔を観察されるとか、落ち着いて寝られやしねえ。
熟睡してる最中ずっと瞳孔開いたルナミリアが俺を覗き込んでる図を想像したら、肌が泡立つわ。
「お許し下さい主さま! どうかお慈悲を! 主さまのお休みになられているお姿を観察できないなんて、私の存在理由の5割がなくなってしまいます!」
半分かい! 俺の寝姿見るのがそんなに割合占めてんのかい!
「ちなみに残りは何なんよ?」
「もちろん! 起きている主さまを観察することです!!」
アホかっ。自分の存在意義を俺にオールインしてんなや。そしてそんな捨てられた子犬みたいな目でこっち見んな。いたたまれなくなるわ。
「はー……ったく。わーったよ。禁止とは言わんが、せめて控えめにしてくれ」
「ほ、本当ですか主さま! ありがとうございます!」
ルナミリアは相変わらず滝の様に涙をこぼしながら、けど顔には悲壮ではなく花の咲いたような笑顔を浮かべて俺に抱きついてきた。普段は「主さまに気安く触れるなど恐れ多い」とかなんとか言って、身体を掃除する時以外はイエス主さまノータッチを公言してるのに珍しい。まあテンションが上がりすぎてタガが外れたんだろうが。まあ、足にすがりついてくる仔犬みたいで可愛いからいいか。
ルナミリアの腰に高速回転する犬のしっぽを幻視しながら、俺は彼女の頭を前足の爪先でコリコリとなでてやった。
『相変わらず仲睦まじいようで何よりだよ。ところでそろそろ僕の相手をしてもらえないかい?』
さっき聞こえてきたのと同じ声が、さっきよりもくっきりはっきりと聞こえてきた。聞こえてしまった。
諦観の思いを抱えながら声のした方を見下ろすと、そこには10代半ばの少年が立っていた。身体が半透明だ。直に来たわけじゃないな。遠距離での通話魔法か。
少年は多感な年頃の容姿にふさわしく、整った顔にどこか人を見下すような笑みを浮かべている。やんちゃっ子が好きな世のお姉さまがたには、受けがよさそうな顔立ちだな。
だが、コイツは思春期とか「俺の右手が……」とかパンツを親父のと一緒に洗われたくないとか、そんなかわいらしいお年頃じゃない。何よりこいつ、人間じゃないし。
龍人形態の俺と同じような角と翼としっぽを生やしたこの少年は、俺と同じ七大神龍が一角。
「えーっと、久しぶりっすね。プライドさん」
傲慢のプライド。俺たち七大神龍のリーダー格だ。傲慢の二つ名にふさわしく、ナチュラルに態度デカいから苦手なんだよねぇこの人、もといこのドラゴン。本人に悪気がないから余計にタチ悪いというか。
『ああ。以前にあったのは数千年前、魔族が初めて地上に侵攻してきたときだったかな』
「あー、そっすね。もうそんなに経ちますかね」
できれば永遠に会いたくないんだけどなー。七大神龍同士が顔合わせると、必ず面倒なことが起きる前触れだもんねぇ。
『ところで怠惰の。今日は君に伝えたいことがあるんだが……』
「あープライドさん! 聞いてくださいよ! この前、今代の勇者が神竜の試練に来たんすけどね。そいつらが中々のもんで、俺に血を流させたんですよ!」
『ほほう。いくら手加減していたとはいえ、人間風情が神龍に傷をつけるか。なかなか天晴れじゃないか。それとも、君が手を抜きすぎたのかな?』
「いやいやいや。今回の勇者は期待できますって。そろそろプライドさんの所にも行くはずなんで、楽しみにしていいっすよ」
『そうかい。それで怠惰の。君に伝えたいこと……』
「そういやプライドさん!! 寝てる時にビクッてなるあれ、正式名称はジャーキングだって知ってました!?」
『いい加減に観念して僕の話を聞いてくれないかい怠惰の』
「あーっ! 聞かないッ! 聞こえないッ! アーアーアー!!」
聞いてたまるか! 聞いたが最後、どんな厄介事を押し付けられるか分かったもんじゃねえ! 神龍の試練も終えて、やっと訪れた安息に日々だぞ。次の皇帝の戴冠の試練までは惰眠を貪るどころかしゃぶり尽くしてやる!
『やれやれ。まあ君がどうしても嫌だというのなら、この件はほかの神龍に任せても構わないよ』
はい。どうしても嫌です。マジで嫌ですガチで嫌です。マジでガチで嫌です。
『君がこの程度のことも解決出来ない能なしだというのなら仕方がない。君よりも有能な神龍に任せるとしよう』
HAHAHA! 煽っても無駄無駄無駄ァ!! 今時そんなベタな挑発に乗せられる単純な奴がどこに……
「聞き捨てなりません! いかに七大神龍の長といえど、我が主を愚弄することは許しません! どのような難事であろうとも我が主、怠惰のスロウスさまに解決できないことなどこの世にはありません!」
いたよ。割と身近にいたよ。ルナミリアさんマジチョロイン。ヤラレ役の噛ませ三下並みのチョロさだわ。
プライドがニタァーっと、ものすごく嫌ったらしい笑みを浮かべる。やられた! こいつの標的は俺じゃなくて、俺のこととなると狭窄視野になるルナミリアだったのか。
『なるほど。それを聞いて安心したよ。さて怠惰の。君の僕はそう言っているが?』
「ぐぬぬぬぬっ。わーったよ! 聞くよ聞きますわよ! 一体何のご用件でございましょうか傲慢のプライドさま?」
『実は今、非常に厄介な事態がこの世界に迫っているんだ』
でしょうねえ。でなかったらわざわざ来ませんよねぇ。
で、今度は一体何が起きるの。邪神でも目覚めるの? それとも恐怖の大王が降臨するとか?
『僕は言葉を飾るのは好きじゃない。だから結論を言おう。この世界は滅びる』
……ナ、ナンダッテェー?
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