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怠惰なドラゴンは働き者  作者: 不健康優良児
12/16

第12話

お待たせして申し訳ありません。

時間が取れず、遅筆で全く筆が進みませんでした。

誰か執筆時間と文才をください!!(切実)

 神龍の試練。


 年月を重ねるごとに強さを増してきた魔王に対抗するため、勇者に加護を上乗せする、その資格が勇者にあるかどうかを問う試しの義である。


 まあ早い話が、新しいスキルやアビリティーを習得させてやるだけのレベルに達してるのかってのを調べるためのテストだな。


 試練の内容は七大神龍によって様々で、神龍の作ったダンジョンをクリアしたり、三日三晩神龍と禅問答をやったりと色々だ。


 俺の場合は、一番面倒が少なく一番わかりやすい内容だ。


 すなわち……。


「我が試練で試されるのは武力。今のお前たちの全力をもって挑むがいい」


 そう言われた途端、勇者くんたちに動揺が走った。


「えーっとつまり、神龍さまを倒せば試練クリアってことっすか?」


 勇者くんが恐る恐る聞いてきた。いやいやチミチミ。さすがにそんな無茶は申しませんよ?


「自惚れるなよ人間?」


 底冷えのする声音と共にルナミリアが勇者くんを睨みつけた。


「貴様ら人間風情が我が主、七大神龍が一角の怠惰のスロウスさまを倒せるなどと思い上がりも甚だしい。貴様らごとき力量では主さまにカスリ傷ひとつ付けることすらできぬと心得よ」

「よせルナミリア。しかしそうだな。では我に、カスリ傷1つでもつけられれば合格としようか」


 勇者くん一行が揃って絶望的な顔になった。


 いやいやいや。この形態だと能力9割減だから、今の君らのレベルなら、ノーガードでフルボッコされればカスリ傷くらいは付くよ。


「……ええい! もうやっるっきゃないっす! 行くっすよみんな!」


 そうそう。若いうちはノリと勢いが大事ってね。


 ほんじゃま、面倒だけど始めますか。


 怠惰のスロウス(龍人形態)が現れた! なんつってな。


「ソニックスラッシュっす!!」

「唐竹割りぃいいい!!」


 勇者くんが飛ぶ斬撃を、馬鹿でかい剣を持った戦士が高く跳躍して一刀両断の剛剣をそれぞれ放ってくる。


 後ろのちみっこい魔女っ子とやたらに人相の悪い僧侶は詠唱に入ってんな。前衛2人に後衛が1人、回復役が1人か。王道なパーティ構成だな。


 今代の勇者くんたちを検分しつつ、勇者の飛ぶ斬撃を籠手のように龍鱗の生えた右腕で受け止め、戦士の大剣を左手で指のみの真剣白刃取りで受け止める。


「マジっすか!?」

「ちぃっ!!」


 大剣を捕らえられた戦士がすかさず、俺の顔面目掛けて膝蹴りを放ってきた。悪くない反応だ。打点をずらし、額で受ける。威力もそれなり。まあ基本スペックが違いすぎて大したダメージにはならねぇけど。


 戦士は蹴りの反動で俺から距離を取った。


「同時詠唱! トリプルランスっす!」


 戦士が離れた瞬間を狙って、勇者くんが炎、氷、雷の3つ属性の中級魔法をぶっぱなしてきた。トリプルの並列魔法行使なんて随分と器用だな。こっちもすかさず同じ魔法を放って相殺する。


「神の御名によって命ずる。咎人よ動くことなかれ。ホーリーバイト!」


 強面の僧侶の移動阻害魔法が発動し、空間から光の鎖が伸びて、俺の身体を雁字搦めに拘束していった。一般的なものより鎖の数が多いな。見かけによらずなかなか信仰の厚い僧侶みたいだ。しかし、野郎の縛りプレイとか誰得なんだ?


「今っすポーラ!!」

「……フレイムトルネード」


 抑揚の欠けた魔女っ子の声がしたと思った瞬間、俺の視界は業火に包まれた。炎の竜巻を放つ上級魔法か。なかなかやるねえ。


 翼をひと扇ぎして、炎をかき消すと同時に拘束の鎖も力任せに引きちぎる。


「……うそ」

「マジっすか」

「ありえねー」

「これは、想定以上ですね」


 身体に付着したススを払いのける俺を見て、勇者くんたちが動揺を見せる。まあ。今のフレイムトルネードが取っておきだったっぽいからなぁ。火傷の1つも負っていない俺を見て戦意喪失いかけているのか。


 だがな。それじゃダメなんだよ。君らはこの世界の希望なんだぜ? この程度で怯んでちゃあ大事なものを奪われちまうぜ。


「どうした勇者よ。その仲間たちよ。お主らの力はこの程度か。それではこの世界を脅かす魔王を打ち倒すことなど到底不可能。ましてや……」


 さて、ちょいとばかしこの先の冒険のヒントをくれてやろうかね。


「魔王の背後に潜む全ての元凶。大魔王を倒すことなど夢のまた夢よ」

「なっ!?」

「大魔王って、そんなのがいるのかよ!」

「文献にはごく僅かに記述はあったけど、実在していたとは驚き」

「神よ。人々を守り給え」


 あ、やっぱ驚くよねぇ。魔王だけでも手一杯なのに、もっと厄介なのがいるって、いきなりブッチャけられちゃあねぇ。歴代の勇者たちも大体似たようなリアクションとるんだよなぁ。


 だが、ここで引いてくれんなよ勇者くん。もしここで引くようなヘタレ野郎だったら、俺は君を殺して、新しい勇者をまた生み出さないといけなくなるんだからさ。そんな面倒なことはさせないでくれよ。


 さて。神龍の試練、ここからが本番だぜ。


「勇者よ。お主が敗れたらこの世界がどうなるのか、その目にしかと焼き付けるがいい」


 俺は4人に向けて幻覚魔法を放つ。内容は、『対象の記憶にある最も大切なものが、大魔王の軍勢に蹂躙される』だ。ついでに勇者くんには、プラスしてある細工も施しておく。


「あ、ああ! ピーニャ! 父ちゃん! 母ちゃん! 村のみんなも! やめるっす!」

「なっ! 逃げろお前ら! クソ! やめやがれ!」

「パパ、ママ、先生……なんで……」

「ああ、子供たちが! 神よ! 神よ!!」


 勇者くんたちが壮絶に悶え苦しむ。幼女もいるから、くっころな内容は極力控えてはいるが、親しい人間や故郷がモンスターに無残に蹂躙されていく光景は、容赦なく心を削っていくわな。


 絶望的なビジョンを見せられ、しかしそれでも心折れることなく立ち上がり悪に敢然と立ち向かう。前世の日本の娯楽作品じゃ使い古された展開だ。だが、実際にそうできる人間ってそうはいないんだよねぇ。大抵の奴は心が折れる。だからフィクションのヒーローは格好いいのさ。絶対に諦めず、引かぬ怯まぬ顧みぬの精神だもんね。あれ? なんか違うか? まあいいや。


 さてそろそろ幻覚を解いてやるか。これ以上はガチで心が壊れる。


 幻覚魔法を解除すると勇者くんたちがへたりこみ、喘ぐように荒い呼吸を繰り返す。


「今、お主らに見せたのは勇者が魔王に敗れた未来の姿。この神龍の試練を突破できねば、近い将来に必ず訪れるであろう未来よ」


 正直、こいつらの実力は申し分ない。まだ俺に傷をつけられてはいないが、それも時間の問題だろうな。もしもまだ戦いを挑むだけの気力が残っていればの話だけど。


「……」


 あらら。勇者くんたち黙り込んじゃったよ。ちょっと刺激が強すぎたかね。


「もし立てぬのであれば、この先に待つ戦いに勝利するなど不可能。魔王に挑むまでもない。我が手で葬ってやろう」


 威圧の意味も込めて不必要なほどデカい火球を生み出す。直撃すれば当然し焼け死ぬだろうが、今の勇者くんたちのレベルなら迎撃も不可能じゃない。この神龍の試練で本当に試されるのは、不屈の精神力だ。


 勇者くんたち目掛けて火球を飛ばす。


 さあ、神龍の試練に打ち勝ってみせな。今代の勇者!


「……うぉおおおおおらああああっすぅ!!」


 おおっ勇者くんが火球を切り裂いた。


「俺は勇者っす! 魔王だろうが大魔王だろうが大大魔王だろうがぶっ倒すっす! そんで故郷に帰ってピーニャと結婚するっす!!」


 わーお、すげえ死亡フラグぶッ込んできやがったな。っていうか彼女持ちかよ。けっ! リア充氏ね。


「大魔王? 上等じゃねえか! 敵は強ぇ方が燃えるってもんよ!」

「魔王が王でありながら徒党を組んで世界を侵略してくる理由は長らく謎だった。彼らの背後にいる大魔王。興味深い」

「大魔王を倒さない限り真の平和が訪れないのであれば、否やはありませんな」


 仲間たちも立ち直ったな。うんうん。やっぱ勇者のパーティは王道ど真ん中を爆進してもらわなきゃな。このはし渡るべからずってな。


「今代の勇者アルス=ロートよ。其方の覚悟、しかと見届けた。なれど、実力が伴わねっば、所詮は負け犬の遠吠えよ」


 見事に立ち直ったし、本当は合格上げてもいいんだけど。カスリ傷付けたら合格とか言っちゃったしなぁ。面倒だけどもう少しやりますか。それに、せっかくさっき勇者くんに仕込んだ細工も無駄になる。試練の合格は、ドラマチックに行かなきゃな。


「わかってるっすよ! みんな、行くっすよ!」


 勇者くんと仲間たちが、それぞれの武器を構える。最初の時の浮き足立っていた雰囲気は微塵もないな。いやー、若いって素晴らしいなあ。


 さあて、神龍の試練第2ラウンドと参りましょうかい。


「うりゃああああっす!!」

「どらあああああ!!」


 勇者くんと戦士の兄ちゃんが飛び出し、怒涛の連撃を放ってくる。全部受け止めるが、1発1発の重さはさっきの比じゃねえな。


「神よ。牙を持たぬ我らに今一時の力を! マキシマイズウェポン!」


 強面の僧侶が攻撃力アップの付与魔法を唱えた。2人の斬撃がさらに鋭くなる。


「でりゃああああっす!!」

「おんどりゃあああああ!!」


 やっべ。こりゃちょっとマジにならないと捌ききれないかも。


「神よ! か弱き我らに今一時、堅牢なる守りを! マキシマイズシールド!」


 僧侶が守備力アップの付与魔法を勇者くんと戦士に掛ける。今更何のために。


「っておいおいおい! 正気かよ!?」


 僧侶の後ろ、えらい高密度のマナを行使している魔女っ子に思わず素の声が出ちまった。こいつら巻き込まれんの覚悟で俺を足止めしてんのかい。


「今っすよポーラ!」

「俺らに構わず、ぶちかませ!」


 なんともお約束なセリフ。


「メギドフレイム」


 魔女っ子の召喚した火炎系最高位の黒い炎が、勇者くんと戦士もろとも俺に襲いかかってきた。無茶苦茶やるねー。魔力の障壁で防御しようかとも思ったけど、この思い切りの良さに免じて、ノーガードで喰らってやろうかね。


 さて勇者くんと戦士の兄ちゃん。我慢比べといこうじゃないの。


「ぎゃあああ! めっちゃ熱いっす!」

「おおいゴーラムのおっさん! 回復してくれ! マジでモタねえ!」


 勇者くんと戦士の兄ちゃんは早々にリタイアしました。


 人がノーガードで喰らってやってるっちゅーに。こらえ性のない連中だなおい。


「神よ! 我らの傷を癒したまえ! オールヒール!」


 僧侶に回復魔法をかけてもらいながら、黒炎に包まれた俺に対して油断なく身構えている。最初の攻防で神龍のデタラメ具合を理解したらしいな。


 ほんじゃ、ご期待に答えて……。


「……っがあああああああああ!!」


 気合一発。身体にまとわりつく黒い業火を吹き飛ばす。だが、障壁も何も張らず生身で受けた最高位の炎のおかげで、俺の身体の龍鱗はかなり傷んでしまっている。何枚もの鱗がひび割れ、剥がれ落ちていく。


「見事。なれどこの程度、まだ我を傷つけたとは呼べぬぞ」


 鱗が剥がれ落ちた程度、人間に例えればちょいと日焼けが過ぎて皮がズルむけたようなもんだ。まだまだ花丸はあげられんぜ!


「これでもダメなんて。驚愕を通り越して呆れた頑丈さ」

「ですが、確実に効いていますよ!」

「鱗も剥がれちまってるからな。今なら傷の1つや2つ付けられんだろ!」

「そうっすね。じゃあみんな、ガンガン行くっすよ!」


 うっは! 勇者の口からリアルであの号令が聞けるとは! 神龍の試練長くやってるけど、初めてだわ。根拠はないけど、この勇者くんたちならマジで大魔王倒せるんじゃね?


「その意気や良し! 来い勇者よ!」


 勇者くんと戦士の兄ちゃん、さらに今回は強面の僧侶まで向かってきた。防御とか回復とか、そう言うのはガチで考えてない。まさに『ガンガン行こうぜ!』だね。


「うりゃああああっす!!」

「せりゃあああああ!!」

「ぬおおおお!!」


 ミスリルソード、大剣、錫杖が唸りを上げて振るわれる。


「アーススパイク。アクアショット。ボルトランス」


 間隙を補うように魔女っ子の多彩な魔術が襲い掛かってくる。マジできついわ。


「おらああ! 大激剣!!」

「聖棍!」


 戦士と僧侶の痛烈な一撃が胴体に炸裂した。痛っ! 鱗のないところにモロ決まった。マジ痛い。思わず大勢が崩れる。


「マッドシー」


 魔女っ子が俺の足元に泥沼を作り出した。崩れた体勢で抵抗することもできず、俺はアッサリとはまりこんでしまう。視界の端に、力を溜める勇者くんの姿が飛び込んできた。こりゃいいお膳立てできたんじゃね。


「今だアルス!」

「チャンス到来」

「決めてくだされ!」

「おっしゃああああっす!!」


 仲間のサポートを受け、勇者くんが乾坤一擲の一撃を見舞ってきた。


 ――ここだ!


 俺はタイミングを見計らって、勇者くんに仕込んだ細工を発動させる。


「っ!?」


 勇者くんの剣が神々しく輝き出す。


「ぐぅっ……うおりゃあああああっす!!」


 勇者くんが自分の意図しない剣の輝きに戸惑いながらも、強引に剣を振り下ろす。輝きを伴って迫る刃を俺は手の平で受け止めた。


 瞬間、剣が輝きを増して、最初に勇者くんが使ったソニックスラッシュのスゴイ版みたいな金色の斬撃が放たれる。


 手のひらに激痛が走ったかと思うと、金色の斬撃に俺は数メートル先まで地面を削りながら押し戻された。やべっ。この威力は想定以上だ。


「っがあああぁらああああ!!」


 ちょっと本気で身の危険を感じつつ、力任せに金色の斬撃を握りつぶした。潰された斬撃の破片が、周囲の岩肌を削っていく。いや~。さすがにちょいと肝が冷えたね。


 手の平を見ると、皮膚が裂けて血が滴っている。せいぜい紙でちょっと切ったぐらいの傷で済ますつもりだったが。今代の勇者くんは本当に大したもんだわ。


 苦笑しながら顔を上げると、勇者くんが地面にへたばっていた。まああんだけの威力を出したんだ。消費した魔力も尋常じゃないだろうな。


「見事なり勇者よ。神龍の試練、合格だ」


 仲間たちに助け起こされてる勇者くんに、血の流れた手の平を見せて俺は高らかに宣言した。


 あ、ルナミリアさん。そんな怖い顔しないんだよ。合格祝いに最上級魔法をプレゼントなんてサービスないからね?


「ご、合格っすか?」


 息も絶え絶えの勇者くんが、信じられないといった顔でこっちを見てきた。


「然り。神龍である我にここまでの傷を負わせるとは、まことアッパレ。そして、其方が最後に放った金色の斬撃。あれこそが我が試練の褒賞。其方の新たなる力よ。勇者のみが使える『天』属性の斬撃、その名もブレイブスラッシュ」


 はいはい中二病ですよ中二病。あ、ちなみに天属性はほかの属性の良いとこ取りみたいなチートな。ただし、魔力の消耗が著しいから多用はできません。


 まあ今勇者くんが放ったのは言ってみればチュートリアル。幻術をかけた時に新しい技はすでに勇者くんに仕込んでおいた。あとはこっちでタイミングを見計らって勇者くんに干渉し、強引に発動させたってわけ。


 追い詰められ、立ち直り、覚醒して新しい技で止めを指す。これぐらいのドラマチックさがないとね。


「ブレイブ……スラッシュ」


 おおう。なんかほかの人にしみじみ言われるとスッゲーハズい。


 黒歴史をほじくりかえされて内心七転八倒な俺と、試練クリアの感動に震える勇者くん一行。しばらく変な沈黙が続きましたとさ。


 ルナミリアの咳払いで再起動した俺は、勇者くんたちに大魔王と穏健派の魔族について説明した。


「それじゃあ、魔界に行って全ての元凶の大魔王を倒せば、この世界は平和になるんすね?」

「その通りだ。魔族もその全てが大魔王に従っているわけではない。中には人間との共存を望む勢力もいる。勇者よ、我ら神龍は人間と魔族の共存を願っている」

「魔族にも良いと悪い奴がいるんすねぇ。わかったっす! 俺たちは悪い魔族だけをぶっ倒すっす!」

「戦う意思のないやつと戦っても意味ねえしな」

「穏健派の魔族と接触できれば魔族の生態がわかるかも……」

「魔族といえど無益な殺生をしないで済むのは喜ばしいことですな」


 勇者くんたちはすんなりと受け入れてくれた。いや~よかったよかった。前世の右の人みたいに魔族はみんな悪! だから皆殺しでOK! みたいな過激なこと言い出したらちょっとOHANASIする必要があったところだ。


「それじゃあ神龍さま。俺たちそろそろ行くっす」

「うむ。武運を祈るぞ。今代の勇者アルス=ロートよ」


 こうして勇者アルス=ロートとその仲間たちは無事に神龍の試練を突破し、旅立ったのであった。頑張れアルス。負けるなアルス。お前たちの冒険はこれからだ!


「あー、つっかれたー」


 龍人形態のまま、その場で大の字に寝っ転がる。疲れたー。マジで疲れた。神龍の仕事の中でも、この神龍の試練が一番疲れるわ~。疲労困憊のあまり、少年誌の打ち切りみたいなモノローグ入れちまったやな。


「お疲れ様でした主さま」

「おうルナミリア。ちゃんと勇者くんたちを送ってきてくれたか?」

「はい。主さまを傷つけた無礼者どもがいつまでもこの場にとどまっているのは不快です。転送魔法で表に放り出してまいりました」


 あー、こりゃ文字通り放り出したんだろうなぁ~。勇者くん達の無事を祈ろう。


「主さま。お手を失礼いたします」


 ルナミリアが俺の手を掻き抱く。温かい治癒魔法の光が手を包み込む。手の平の傷はあっという間にふさがった。


「サンキュー」

「もったいないお言葉です」

「さーて。仕事も終わったし、また一眠りと行くかね」

「あ、主さま。そのお姿のままお休みになるのですか?」


 ルナミリアがなんかモジモジしだした。なんなんだろうね。


「あー、ドラゴンに戻るのも面倒だし。とりあえず客が来るまではこのままでいいだろ」

「で、でしたらその……主さまさえよろしければ、わ、私が膝枕をい、いたします」

「へ?」


 思わず間抜けな声が出た。


「い、いえ! 主さまがご迷惑とお思いならいいんです! むしろ私ごときの膝では主さまの枕には分不相応といいますか、滅相もないといいますか……!」

「いや、いいんじゃねえの?」

「はえっ!?」


 自分で提案しといてなんで驚くよ。


「まあ人型じゃあ岩の上で寝るのはちょいと不便だかんな。ルナミリアが構わないなら遠慮なく膝枕してもらおうか」

「は、はい! もちろん構いません! 光栄です!」


 ルナミリアがすごい勢いで俺の傍らに座り込む。何度も入念に膝の上から汚れを叩き落とし、ルナミリアは自分の膝をしめした。


「はい。どうぞ主さま。お使いください」

「んじゃ遠慮なく~」


 ルナミリアの足に頭を預けると、柔らかな感触が伝わってきた。いやー低反発枕なんかよりも具合がいいわ。


「んじゃルナミリア、きつくなったらいつでもやめていいからな~」

「はい。それでは主さまお休みなさいませ」


 頬を上気させ、満足気な笑みを浮かべるルナミリアをブラックアウトしていく視界に捉えながら、俺は意識を手放していった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

久しぶりにブックマーク件数を確認したら6000件を超えていてびっくりしました。こんな稚拙な作品を応援頂き本当にありがとうございます。

あと3話程度でこの作品はひとまずの終幕となります。

行き当たりばったりで続けてきた未熟なこの作品ですが、もうしばしお付き合いいただきますよう、よろしくお願いします。

誤字脱字、設定の矛盾などありましたらご指摘いただければ幸いです。

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[一言] この間、スイッチ版のドラクエでRTAしたんだけどしんりゅうじぇ〜んじぇん倒せなくてあきらめちった( ˊ̱˂˃ˋ̱ )ヘフッ
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