第10話
とうとう毎日更新が途切れてしまいました……
こんな稚拙な作品を楽しみしている皆さま、お待たせして申し訳ありませんでした。
訓練の1か月が過ぎたっす。俺の実力は、騎士団の隊長と同じくらいまで高まったっす。
「よくぞ辛い訓練を乗り越えたな勇者アルスよ。その目覚ましき成長は歴代の勇者の中でも特に際立っておる」
「はっ! ありがたきお言葉っす」
「これから先、待ち受ける困難を其方が乗り越えられるよう、これらの武具を授ける」
王さまがくれたのは、ミスリル製の剣と鎧一式っす。すごいっす。腕自慢の冒険者でもひと握りしか持ってないような代物っす。自分がどれだけ期待されているか、よく分かるっすね。
自分の一生分どころか、100回人生繰り返しても稼ぎ出せないような値段の剣と鎧を受け取り、手が震えてしまったっす。
「皆の期待に応えられるよう、精一杯頑張るっす」
俺の宣誓に王さまが満足げに頷いたっす。こういう勇者っぽい台詞もちょっとは板についてきたっすかね。
「期待しているぞ。それでは勇者アルスよ、今宵は故郷へと戻り、家族と過ごすがよかろう」
「は、はいっす!」
こうして俺は、1か月ぶりに故郷の村に帰ることになったっす。
「おお、我らが勇者のお帰りだぞ!!」
「まあずいぶんと見違えたじゃない」
「この村の誇りだ!」
「お前はいつか大物になると信じてたぞ!!」
「キャー!」
「ステキー!」
「抱いてー!」
1か月ぶりの村では、俺が帰ってくるとの知らせを受けて飲めや歌えやの祭りの真っ最中だったっす。
村の中央の広場ででっかい焚火を上げて、その周りで歌って踊って、普段はなかなか口にできないような酒やご馳走を山と用意して思い思いに飲み食いしてるっす。
城の豪華な飯もうまかったすけど、久しぶりに故郷の味が恋しくなってくるっす。
っていうか俺に歓声を送ってる連中全員、1か月前まで俺のことを生ゴミでも見るような目で見てた奴らっす。酷い人間の手のひら返しを見たっす!
「おおアルスよ。帰ったか」
村の奥から村長が出てきたっす。
「今戻ったっすよ村長。それにしても、刈り入れの時期なのにこんなに羽目外してて良いんすか?」
魔王が侵攻してきてから流通が悪くなり、物価も上がって納める税だって上がってるはずっすよね。
「カッカッカッ! 安心せい。お主が勇者となってくれたおかげで、この村は向こう10年間、税を免除されることとなったのじゃ」
「はぁっ!?」
村長の爆弾発言に空いた口が塞がらなかったっす。あっ! 1か月に俺を連れていった騎士たちと、なんかこそこそと話してたけど、まさかそういうことっすか?
「本当なら20年は免除してもらいたいくらいじゃが、おおまけにまけて10年にしてやったのじゃ。感謝してもらいたいわい」
汚いっす! さすが村長汚いっす! 一介の村長に要求を突き付けられたなんて報告を王さまに上げた騎士たちの苦労を想い、俺は心の中で彼らに合掌を送ったっす。
「アルス!?」
「あ、ピーニャ! 久しぶりっす!」
振りかえると、トレイにたくさんのご馳走を乗せたピーニャが目を丸くしていたっす。
「おっ! それうまそうっすね。俺にも……」
「これはおじいちゃんに頼まれて持ってきたやつよ。欲しかったら自分で取ってきなさい」
ピーニャは冷たく言い放って、さっさと行ってしまったっす。
「あ、これピーニャ! それはワシの飯……」
村長は、なぜかご馳走をもらい損ねて慌ててピーニャの後を追いかけて行ったっす。俺、ピーニャになんかしたっすかね?
うーむ。………心当たりが多すぎて分かんないっす。
その後、俺は父ちゃんや母ちゃん、それに村のみんなに囲まれて1か月間の修行の話でスッゲー盛り上がったっす。剣の訓練で10日目に初めて教官から1本取ったこととか、魔術の修行で最初に使えるようになったファイヤーボールを使って見せたり。
みんな俺の話に目を輝かせてたっす。あと、久しぶりに食った母ちゃんの麦粥、あんなに不味い不味いと思ってたけど、スッゲーうまかったっす。思わず泣きそうになったっす。
でもピーニャはずっと遠くでふてくされたような顔をしていたっす。なんなんすかね。
夜も更けて、祭りの喧騒も収まってきたころ、俺は広場から抜け出して1人で村を見下ろせる丘にいたっす。ガキの頃からお気に入りの場所っす。それにしても、王都を見ちゃったら、俺の村なんて本当にちっぽけっすね。そんなちっぽけな村人の俺が、今じゃ勇者っすからね。世の中、何が起こるわからないもんすね。
……勇者。俺が、勇者っすか。
「あ、あれ?」
急に手が震えてきたっす。やべっ止まんねえっす。
「あれ、なんで?」
まさか俺、ビビッてんすか!? 精神修行もしてきたっすよ。実戦も何度も経験してきたっすよ。なのになんで。なんで。なんでっ。なんでっ!
「なんで俺が勇者なんすか! ただの農民だった俺が、なんで魔王と戦わないといけないんすか!」
みっともなく泣き喚いて、近くの岩に額を打ち付けたっす。額の、神龍の紋章を潰してしまおうとして。何度も、何度も、何度も。
けど、勇者として強化された俺の身体は、岩程度じゃ傷ひとつできないっす。むしろ岩が耐え切れずに砕けたっす。
「世界とか全ての民とか知らねえっすよ! そんな見たこともない、訳のわかんない物のために、なんで俺が命をかけないといけないんすか!」
「なら、勇者なんてやめちゃえば?」
「……ピーニャ」
月明かりを背に、ピーニャが、誰よりも愛おしい幼馴染が立っていたっす。
「き、聞いてたっすか? っていうかよくここがわかったっすね」
「アンタ、いつも泣きそうになったらここに来てたじゃない。男は誰にも見られないところで人知れず泣くもんすっとか言って。アンタ、帰ってきてからずっと浮かない顔してたから。きっとここだろうと思って」
はは。バレバレっすか。ダッセー。ピーニャには一生勝てる気がしないっす。
「怖いんでしょ。魔王と戦うの。なら勇者なんてやめちゃいなさいよ。どこかに隠れてたら、そのうち神龍さまも見限って、新しい勇者が生まれるんじゃない?」
「……それはないっす。昔、俺みたいに勇者になるのが嫌で、数年閉じこもってた奴もいたそうっすけど、新しい勇者が現れたのは、そいつが死んだあとみたいっす。だから、俺が勇者じゃなくなるのは、魔王を倒したときか、俺が死んだときっす」
「……ほんと、なんでアンタみたいのが勇者になったのかしらね。龍神様も見る目がなさすぎるわ」
「はは。ほんとっすね」
「あんたみたいに、ヘタレで臆病者で甲斐性なしで穀潰しで怠け者でスケベで変態で最低の屑野郎なんかが」
「い、言い過ぎじゃないっすか?」
「なんで、アルスが勇者なのよ……」
ピーニャが涙をこぼして、抱きついてきたっす。
「ピ、ピーニャ?」
「逃げなさいよアルス! おかしいよ! 魔王退治をアルス1人に押し付けるなんて」
「いやでも、俺が逃げたら魔王がっすねぇ」
「アルス1人に全部押し付けるような人たちなんて、魔王に支配されちゃえばいいんだよ!」
「でも、そうしたらこの村だって、ピーニャだって危ないじゃないっすか!」
ああ、今わかったっす。この1か月、ずっと勇者から逃げ出したかったっす。でもなんで逃げ出さなかったのか。やっとわかったっす。
俺が逃げたら、いずれ故郷の村にも魔王の支配が及ぶようになるっす。そうなったら父ちゃんや母ちゃん、村のみんな、それにピーニャがひどい目にあうっす。
「ピーニャ。世界とか全ての人々とかそんな訳のわかんねーもんのために、俺は命をかけられないっす」
「だったら!」
「けど、この村を救うため、ピーニャを守るためなら、俺は命をかけても構わねぇっす!」
「……ダメだよ」
「ピーニャ?」
「命をかけるとかダメだよ。絶対に、生きて帰ってきて」
「わかったっす。任せとけっす。俺は今代の勇者、アルスさまっすよ。魔王なんてラクショーで退治してきてやるっす」
「うん」
ピーニャがやっと笑ってくれたっす。
「それと、さ。……もし、アルスさえよければ、なんだけど……」
ピーニャが顔を真っ赤にしてもじもじし始めたっす。
「どうしたんすか?」
「その、お妾さんでもいいから、私のこともらってくれないかなって」
………はああああああああっ!?
「な、なんすか唐突に!? っていうかお妾って、どっからその出てきたんすかその発想!?」
「だ、だって勇者って魔王を倒したら、お城のお姫様と結婚するもんだって……」
「小説の読みすぎっす! 大体うちの国のお姫様は全員他国に嫁いでるっす!」
正確には1人、末娘の第3王女がまだ未婚っすけど、あの子はまだ5歳っす。手を出したら犯罪っす。ダメ絶対っす!
あれ? っていうか、俺いまプロポーズされなかったっすか?
「な……あ……っ」
あ、ピーニャがゆでダコみたいに真っ赤っす。
「あ、ひょっとして俺がお姫様と結婚するとか思ってたからずっと機嫌が悪かったすか?」
いやー。気が強いピーニャも可愛いとこあるっすね。ますます惚れ直したっす。
「もちろんオッケーっす。ああ、もちろんお妾さんじゃなくて奥さんにって意味っすよ? 俺子供は3人は欲しいっすね。あ、なんだったら今のうちに既成事実作っちまうっすか?」
「ア、アルスのバカーっ!! さっさと魔王倒しに行けー!!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーっす!!」
ピーニャの強烈なアッパーカットが顎に炸裂。俺はそのまま夜空の彼方へと吹っ飛ばされたっす。勇者である俺を吹っ飛ばすとは、ピーニャ恐るべしっす。
けど、これで覚悟は決まったっす。必ず魔王を倒して、生きて帰ってくるっす。そしてピーニャと結婚するっす!
もうこの小説のタイトル「勇者アルスの大冒険」とかにしたほうがいい気がしてきた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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