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お嬢さまと執事と…

お嬢さまと執事とマッチと…

今晩は。今日は。お早う御座います。

お休みなさい。


本日お話しますのはマッチから始まる物語です。


最近、最近、秋色に染まった森がありましてその森の奥深くにお嬢さまと執事が暮らすお屋敷がありました。


お嬢さまはとてもとても可愛らしく幼いながらも読書がお好きの女の子。

そして執事はそんなお嬢さまの為に一日20冊もの本を読んで良い本を探している程に勤勉な顔の整った青年です。


ある秋の日、お嬢さまはある本を読みました。読み終えると良いコトを思い付きました。これは良いコトだと思ったのですぐさま執事のところへ行きました。


「執事さん。執事さん。」


お嬢さまは手をパタパタさせながら言いました。


「なんでしょう?お嬢さま。」


執事は()いていた(ほうき)の手を止めて尋ねました。


「マッチを売りに行きましょう。」


お嬢さまは答えました。


「マッチ…で御座いますか…」


執事は持っていた箒を落としましたが


「承知しました。直ちに用意致します。」


すぐに応えました。


「お願いします。」


お嬢さまは嬉しそうに頼みました。


執事はあっという間にマッチ箱を10ほど用意しました。

そして執事はマッチを渡す前に言い始めました。


「マッチは火が出ますからね。(あつか)いには十分お気を付けください。」


「分かりました。」


「火が出てしまったらすぐに私を呼んでくださいね。すぐに。」


「分かってます。」


「火が出てしまい服が燃えてしまったら横になって転がるのですよ。そうすれば火は弱くなって消えてしまいます。」


「知りませんでした。燃えたらそうします。」


「火を消す際にはしっかり火元に水を掛けるのですよ。沢山です。」


「分かってます。」


「油に火がついてしまった場合水で濡らした布を被せると火は消えます。もしそうなった場合は此方の布をお使いください。」


執事はお嬢さまに大きめの布を渡しました。


お嬢さまは受け取って


「ありがとうございます。」


と、お礼を言いました。


「マッチに付いた火は持った手首を振れば消せますが可能であれば水に入れて消してください。それと…」


「執事さん。」


「どうなされました?」


「私を子供扱いしすぎです!私は…家出します!」


「お嬢さま!!」


「お昼ご飯のサンドイッチとマッチは持って行きます!さようなら!」


お嬢さまは布で包まれていたサンドイッチとマッチ箱を持って外へ飛び出しました。


「これは困りましたね。」


執事は屋敷で一人、呟きました。




最近、最近、とあるところに秋色に染まった森がありましてその森の外れに森番の住む小屋がありました。


小屋はそこそこ大きいのですがそれでもまだ小屋といえる大きさの小屋でした。


森番は森の番をしたり木を()ったりお魚を釣ったり果物を採ったりキノコを採ったり動物を狩ったりして暮らしている若く美しい女性でした。


森番が午前の仕事が終わり庭で横になってお昼の休憩(きゅうけい)していると聞き慣れた声がしました。


「森番さ〜ん。」


その声は森の中にあるお屋敷に住むお嬢さまのものでした。


「ふぇ?どうしたんだい?お嬢ちゃん。」


森番は驚いた様子でお嬢さまに食い入ります。


「家出してきました。」


お嬢さまは衝撃の告白をしました。


「家出だって!?」


「はい!」


「お嬢ちゃん。どうしたってんだい。いつもは執事くんの話しかしてくれないのに。」


「もう執事さんは嫌いです!」


「まぁまぁ。落ち着きなさいな。取り()えず小屋へ入っておくれ。お茶を出してあげよう。」


そう言って森番はお嬢さまを小屋へ入れました。


「それで何で執事くんが嫌いになっちゃったのかな?」


森番はポットに茶っぱを入れてお湯を沸かし始めました。


「執事さんが私の事を子供扱いしすぎたからです。」


「そうか。子供扱いか。お嬢ちゃんもちょっぴり大人になったもんね。」


「そうです。私はもうちょっぴり大人なのです。」


「でもまだまだ子供だね。」


「そうですね。まだまだ子供です。」


「ん?分かってるのかい?子供のくせに。」


「分かってますとも。執事さんは私の事を心配してくれてあんなに注意してくれてたことはとっても分かってます。」


「その持っているマッチを見るところ火の扱いの注意をされたようだね。」


「よく分かりましたね。その通りです。」


「お嬢ちゃん。一本くれるかい?」


「どうぞ。」


森番はマッチを一本とマッチ箱を受け取ると慣れた手つきでマッチに火を付けました。

そして近くに置いてあった(つぼ)を持ってその中の液体を口に含むと


「ぶー!」


と液体をマッチの火へ出しました。

森番は火を吹いたのです。


「あわわわわわわわ。」


「どうだい?お嬢ちゃん。恐いだろ。」


「わわわわ。」


「ま、執事くんがあれだけ注意したくなる気持ちを、よりよく分かってくれたならそれで良いよ。」


「とっても分かりました。」


「うん。それでこそお嬢ちゃんだ。でも執事くんは執事でお嬢ちゃんがちょっぴり大人なのを無視したのは少し許せないな。」


「そうなんです。少し許せないのです。」


「じゃあさ。」


「?」


「少しこらしめてあげようじゃないか。」


「こらしめる?」


「う〜ん…もうお嬢ちゃんを子供扱いしないようにするんだよ。」


「なるほど。で、どうするんですか?」


「今宵は人ならざる者達の祭ハロウィンだよ。」


「ハロウィン。森番さん。私、分かりました。」


「おぉ。流石はお嬢ちゃん。話が早いね。さて紅茶でも飲んで夜を()とう。」


「サンドイッチもありますよ。」


「お!執事くんお手製のサンドイッチかぁ〜。久し振りだなぁ。」


「へぇー。森番さん、執事さんのサンドイッチ食べたことあるんですか?」


「そりゃもちろんさ…」


そうしてお嬢さまと森番は夜を待ちました。





最近のハロウィンの夜のこと、暗い暗い森の中お屋敷が一つありました。お屋敷の中には明るい光が灯っていました。


そのお屋敷の中に執事が一人、机に伏せていました。


「お嬢さま、遅いなぁ。そろそろ森番と一緒に帰って来てもおかしくないのに。」


すると…


ゴン ゴン


玄関からドアをノックする音が聞こえました。

執事は起き上がりました。


「お嬢さまだ!」


執事は急いで玄関に向かいました。

そしてドアを開けました。


ガチャ


「お帰りなさいませ!お嬢さま!先程は誠に申し訳御座いませんでした。」


執事が礼をして顔を上げるとそこにはカボチャのお化けと白いお化けが居ました。


「ぎゃぁぁあああああ!!!」


執事は声を上げて驚いて尻もちをつきました。


「トリック オア トリート!」


「とりっかぉとりぃと!」


カボチャのお化けと白いお化けが言いました。


「これは失礼致しました。お嬢さま。お帰りなさいませ。それと、森番さん何の御用ですか?」


執事は改めてカボチャのお化けに挨拶しそして白いお化けに尋ねました。


「ただいまです。私も悪かったです。すみません。」


カボチャのお化けは応えました。


「ちょっとお嬢ちゃん!挨拶しちゃ…え?もうバレたの?」


白いお化けはアワアワしています。


「流石はお嬢さま。よく化けましたね。とっても驚きましたよ。お菓子は御用意しておりますが御夕食を召し上がってからに致しましょう。それと森番さん何しているのですか?」


執事はカボチャのお化け改めお嬢さまをお屋敷に入れて、白いお化け改め森番に尋ねました。


「えっと…我はゴーストであるぞぉ!怖がれぇ!」


森番改めゴースト(自称)は声を張りました。


「森番さん、もういいんです。もういいんです。」


お嬢さまは優しく言いました。


「お嬢ちゃん、そう言うと何か私が悪者みたいだからやめて…」


森番は悲しげに言いました。


「執事さん。今日は森番さんも一緒にディナーしてもいいですか?」


お嬢さまは執事に尋ねました。


「はい。勿論で御座います。さぁ森番さん。どうぞ中へ。」


執事はすぐに答えるとすぐに森番を屋敷に入れました。


「ちょっとさっきと扱い違くない?」


森番はまた声を張りました。


「何がでしょうか?さぁ御夕食に致しましょう。」


執事は早急に御夕食の支度を整えました。


「頂きます。」


「いっただっきまーす!」


お嬢さまと森番さんが言いました。


「どうぞ召し上がれ。」


執事が言いました。


今日のディナーを食べ終わるとデザートが出て来ました。


「本日のデザートはパンプキンタルトで御座います。」


執事はそう言ってカボチャのタルトを切り分けました。


「これはおいしそうなタルトですね。」


お嬢さまがご感想を述べられました。


「お褒めにいただきありがとうございます。」


執事は笑顔で感謝しました。


「うまそうだな…執事くん!早く早く!」


森番が急かします。


「はい。只今(ただいま)。」


執事はすぐに森番のお皿にタルトを乗せました。


お嬢さまが一口、タルトを召し上がりました。


「おいしいです。執事さん。ありがとうございます。」


お嬢さまは感謝しました。


「どう致しまして。お嬢さま。」


執事は嬉しそうに言いました。


「執事くん!おかわり!」


森番さんが言いました。


「はい。只今。」


執事はすぐに次のタルトをお皿の上に乗せました。



お嬢さまはタルトを食べ終わると言いました。


「今日はもうお腹いっぱいです。ハロウィンを楽しめました。執事さん森番さん、ありがとうございました。」


執事は応えました。


「いえ。当然の事をしたまでですよ。」


森番は応えました。


「お嬢ちゃんの為なら何でもするさ。これからもよろしく。」


「ありがとうございます。」


お嬢さまは笑顔で応えました。



こうしてお嬢さまと執事と森番は仲良くハロウィンを過ごしましたとさ。


おしまい

いかがだったでしょうか?


長めでしたね…


えぇ。長めでした。


さて内容に触れずに

あとがきを書いていきます。


ハロウィンとは紀元前より伝わるケルト人の風習をキリスト教が取り入れて広まった祭りで、日本で言うところのお盆みたいな日です。この日はあの世とこの世が繋がる…みたいな日らしいです。それで何故、仮装するかと申しますと仮装で霊を驚かせて追い払う為、らしいです。伝聞なので確かな話ではありません。ご注意ください。


昔過ぎる話は本当に諸説あって説明するのが面倒でありゃしないですね…


そんな訳で今年も我が家に仮装した子は来ませんでした。最近になってハロウィンが浸透してきているらしいですがそれは若者の間だけなようです。


知らないおうちに行くのは危ないから

ご両親が許可してくれたおうちにしか

行ってはいけませんよ!


※誤字脱字はお知らせください。


「お嬢さまと執事と…」シリーズは

これで6作品目となります。

お気に召しましたら

他の作品も読んでみてください。


それではみなさん、ハッピーハロウィン!

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