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午前十一時。木原と神津は東京都豊島区にある朝風前進衆議院議員の議員事務所で朝風議員に話を聞く。
朝風は早速目の前にいる刑事に聞く。
「ニュースで見た。集団誘拐事件の犯人の要求は暗号が示す場所に俺を連れていくことだろう。マスコミがうるさいから警察に協力してやる。全く。集団誘拐事件の犯人には感謝しないとな。これで目立つことができる」
朝風の言葉を聞き神津が立ち上がる。
「お前は国民が窮地に立たされているのに、なぜそんなことが言える」
「ここは落ち着いてください」
木原は神津を宥め、朝風議員に聞く。
「瀬川左雪さんを覚えていますね。十一年前霜中凛によって殺されかけた。その霜中が出所して青空運行会社に電話してきたんですよ。霜中凛は桂右伺郎さんに会いたがっていたようです」
「桂右伺郎。知らない名前だな。それとバスジャック事件は関係ないだろう」
あっさりと関係性を否定する朝風に対して神津が切り返す。
「そうとも言えない。十一年前の法務省職員殺人未遂事件で捜査指揮を執っていた喜田参事官。十一年前の殺人未遂事件の目撃者だった朝風議員。この集団誘拐事件の関係者の中に十一年前の法務省職員殺人未遂事件関係者が関わっている。それが偶然だとは思えない」
「まさか十一年前の殺人未遂事件が冤罪であることを訴えるために霜中凛が集団誘拐事件という馬鹿なことをやっているとでもいいたいのか。馬鹿馬鹿しい。あの事件が冤罪なわけがない。物的証拠や状況証拠は完璧だった。冤罪だと疑う余地がない。兎に角暗号が解読できたら一緒に行ってやる。それで国民が救われるならいいだろう。これから俺は浅野房栄公安調査庁長官と食事する。だから警察との事情聴取に付き合っている暇はない」
こうして朝風議員の事情聴取が終わりを迎える。木原と神津は朝風前進衆議院議員事務所の駐車場に停めた自動車の車内で話し合う。
「朝風前進衆議院議員は何かを隠している。このタイミングで浅野房栄公安調査庁長官と食事するのはおかしいと思わないか」
「浅野房栄公安調査庁長官との密会。その目的は集団誘拐事件に関する相談でしょう」
午前十一時三十分。喜田祐樹と二人の女を監禁している犯人、霜中凛はダンボールを抱えながら暗い廊下を歩いている。
そして三人の男女が監禁されている部屋に入ると、彼はダンボールを机に置く。
その後で人質の手足を縛っている縄を解き、口を塞いでいるガムテープを剥がす。そうして人質たちを自由にした犯人は三人に伝える。
「お疲れ様。君たちに自由を与えよう。自由に歩き回って構わない。ただし一人でもこの監禁場所から逃げようとすれば、この場にいる全員を殺す。ダンボールの中にはコンビニのおにぎりや娯楽用品。トイレは部屋の外にある。六時間後には解放するから安心して寛いでほしい」