他称神様同位系女子
「ただいまー」
「よくぞ帰ってきた。大学はどうじゃったかの?」
「特になにも。いつも通り退屈な授業を聞いていつも通り適当な会話をしていつも通り夕飯の買い物をしてきた」
「ほほぉ。して、今日の夕餉はなにかの?」
「スパゲッティミートソース味」
「記憶違いでなければ今週はすでに二回同じものが出た思うのじゃが……」
「お手軽でいいじゃない。味付けは毎回違うんだから」
「まあ食べられればなんでもいいかのぉ」
「そもそも神様ってのは食べなくても生きていけるんじゃないの?」
「……そうそう、この漫画面白かったぞ。最後に主人公が自分の命を懸けて『魔疎津負』を繰り出す場面は興奮が止まらなかった」
「あからさまに話逸らしてんじゃない。それより」
「なんじゃ?」
「どうしたの、その口調?」
質問に対して、目の前で私と同じくらいの女の子は眼をぱちくりさせた。
「へん、かなぁ。見た目と実年齢が合わない場合はこういう口調がいいと書いてあったんだけど」
「違和感しかないよ。見た目がもっと幼ければ需要が多いけどね」
「じゅうよう?」
「いまの話は忘れて」
彼女は「はーい」と返事をすると漫画を読む作業に没頭し始める。素直なのはいいんだけれどその分よくわからない知識まで実践してしまう。
私は溜息をひとつついて夕飯の準備をするため台所に向かった。
「そうだ、トキネ」
「なに?」
「今日の夕飯は何?」
思わず手に持った缶を落としそうになった。確かに忘れてとは言ったけどそこは忘れなくてもいい。
やはり神様はひとの想像を超えたところにいる、そう実感したのだった。
何故神様と同居生活を送ることになったのか、その顛末を一応語っておこうと思う。
最初に断っておくと、神社に住んでいるとか『神様』と名前の犬を飼っているとかではない。そもそも実際『神様』そのものであるという確証があるわけじゃない。本人談で自分みたいなものは神様と呼ばれていたと言っていただけだし。
けど、わかっていることはひとつだけある。
彼女は『人間』ではない。
前置きが長くなってしまったから彼女、トキとの出会いから同居するまでの出来事は短くまとめようと思う。
トキが私の部屋に現れ(主に私の)生死をかけた数週間の後仲良くなり同居することになりましたマル
……え? 短すぎる? 何も伝わらない? ……仕方ないな、私がこのとき学んだことを教えるからそれで勘弁してよね。恩着せがましい? あーあーキコエナイキコエナーイ。
神様であっても一緒にご飯を食べられるなら良き隣人になれる。
……隣人どころか家族みたいになったけどね。
「トキネ! 私、家を出る!」
「唐突な家出宣言!?」
トキはいきなり立ち上がりポーズを決める。夕飯を食べ終えダラダラとテレビを見ていたときだった。
「でも、人間を困らせたくない」
「前回出歩いたときは散々な目に会ったからね」
数日前に一緒に買い物をしようとふたりで出かけることになった。
私もすっかり慣れきっていて頭から抜け落ちていたのだ、トキがいるだけで人間は本能的に恐怖するということに。
一歩アパートを出た瞬間に惨事は起こった。道にいたひとというひとは気絶し、車は衝突事故を起こし、散歩中の犬は一目散に逃げだしていった。このままスーパーまで行こうものならテロリストも真っ青になること間違いなしと悟った私は状況がわかっていないトキの手を引いてアパートに戻った。ニュースでも地方の怪事件として取り上げられていたのをヒヤヒヤした気持ちで見ていたのは記憶にも新しい。
「ふっふっふー。それを解決する妙案を思いついたのだ。それがこれだ!」
ドヤ顔の神様が取り出したのは私が以前にあげた服であった。私とトキは体格がほぼ同じなのであまり着ないものをトキ専用として譲ったのだ。
「なんてことないただの服にしか見えないんだけど、これがどうしたの?」
「これには私の力が練り込まれています。こうすることで服に宿った力を私自身から放出される力が打ち消し合います。するとどうでしょう? 家を出ても本来気絶するはずの人達が普通に日常を謳歌しているではありませんか。さらに、いまならお値段そのままでもう一着付いてきます、わぁなんてお得!」
「なるほど。つまりオーラ的な何かを弱めると」
「……トキネの反応が悪い。やっぱりトムとブライアンが出てくるアメリカンなテレビショッピングのほうにすべきだったのか」
……確かにこれは早く外に出るようにしないといけない。このままではテレビとサブカルに染まった残念無念また来世な神様が誕生してしまう。トキの呟きに思わず眩暈を覚える。
「それなら早速着てみてよ」
「オーケー、トム!」
「誰がトムだ!」
結論から言うと私が気絶した。
力を相殺するどころか相乗したトキは凄まじく誰よりもオーラによる恐怖に抗体(?)がある私の意識を瞬時に刈り取ったのだった。こいつは世界を混乱に貶める気か。
意識を取り戻した私はふたつの提案をした。ひとつは力の付与を禁止。服に練り込まれた力は一日干せば抜けるそうだ。もうひとつはーー。
「おおぉできた。すごいやさすがトキネ、私に思いつかないことを思いつく、ソコにシビれるアコガれるぅ~」
「……むしろなんで初めにやらなかったのか問い正したい」
単純にイメージでオーラを弱めるころはできないの? 答え、出来ました。
……何故だろうか。本格的に頭が痛くなってきた。
なにがともあれトキ初めてのお出かけ編、始動。
「あれ、なんだろう? 厄介事に巻き込まれる予感が……」
「はやくでかけよーよ、トキネ!」
日常系のネタが思いつかなかったのでとりあえず出だしだけでも。