裏路地の「まずは匿名無料相談可能です」と書いた扉をくぐったら、上司の狂狼公爵がニコニコ笑顔で座っていたので他人のフリで打ち明けました
確かここね……。同期から聞いたとおりに慎重に路地を曲がると、古びた赤い扉に小ぶりなプレートのかかった家があった。緑の屋根の飲み屋の隣。間違いない。相談所だ。
『子羊達の館——まずは匿名無料相談可能です』
ノックをするべきか迷って、店の扉だからと静かに開いた。
「こんばんは……」
「いらっしゃいませ。どうぞおかけください」
奥に続くだろう扉は見えたけれど、店内は狭く、大きめの机と椅子があるだけだった。そっけないくらい飾り気がなく、少し薄暗い部屋。店主は男性で、どことなくよく聞く声に似ている。顔を見せたら匿名のうちに入らないのでは、と気づいたけれどもう遅い。
「ご相談はなんでしょうか。まずはお名前を教えてください」
「ナ……」
「あぁ、偽名でも何でもかまいません」
にこにこと話し始めた店主の顔を二度見する。どう見ても少し前まで職場にいたはずの、無表情な上司の顔に瓜ふたつだった。吸い込まれそうなアイスブルーの瞳、鼻筋の通った美しい容貌。髪色まで同じ輝くような銀髪。
え? ほんとに本人? 別人みたいに愛想がいいけど、どうしたらいいの? 必死で戸惑いを顔に出さないようにする。
「僕の顔に何かついていますか?」
「あ、いえ……」
「記録用の名前なので何でもいいです」
そう言ってノートを指差したので名乗ることにした。
「ナミエラ」
「ナミエラさんね」
本当はナタリナだけど。ナタリナ・ヴァロワ、貴族の端くれだ。気づかれてないなら帰るほうが不自然ね。少し落ち着いて帰らないことにした。
今の私は髪をおろしてメガネを外した上に、女性らしい服を着ていて。要するにいつもと印象が随分違うからだ。
「ご相談内容をうかがっても?」
「はい……よくある話だと思うのですが父から手紙が来まして」
私は困っていることを話すことにした。妹が私の元婚約者と結婚して家を継ぐことになったこと。それはいいけど、私の新たな婚約も決まったこと。顔合わせのために近く両親が王都に来ること。仕事は辞めたくないし、婚約から逃げたいこと。
「……恋人がいるから婚約できないと返事をしたんです」
「それで納得してもらえたのですか?」
「会ってみないと信じられないし、今回の話は条件がいいから恋人とは別れなさいと」
「恋人とは話し合えそうですか?」
「……」
私は言葉に詰まった。ここからが本題だった。
「……ないです」
「ナミエラさん?」
「恋人はいないんです」
恥ずかしいけれど言うしかない。
「偽の恋人が欲しくて……紹介してもらえないかと」
「ああ、そちらが本題だったんですね」
納得したような顔になる。
私は頷いた。
「紹介料なら払います」
「……条件はありますか」
「この際、後腐れなければどなたでも」
「なんとも大胆な条件ですね」
店主はノートにメモを取る。ペンが止まり、二度ノートを軽く叩いた。
「明日の10時に、中央広場の時計台の前に来れますか?」
「さっそく! なんとかなりそうですか!? 明日は休みなので大丈夫です」
私が食いつくように返事をすると、店主は戸惑ったようだった。
願いが叶いそうなときは気が緩むものだ。
「本当に誰でもいいんですね」
念を押す顔を見ると、アイスブルーの瞳と目があった。店主のニヤリと笑う顔にゾクリとする。
「明日は逃げ出すなよ、ナタリナ」
「はいっ! え?」
バレてないと思ったのに、なんてこと。今、確かにナタリナと呼ばれた。逃げ出すなとは?
「今から俺が恋人だ」
店主、改め上司のルバスール団長が手をつかんできた。
ひっ! 心の中で悲鳴を上げる。団長が偽恋人って後腐れがないとは思えないんですけれど!?
なんとか家に帰って、頭を抱える。あの後ルバスール団長は『明日もその髪型がいいな、似合ってる』などと、とろけるような微笑みで言ったのだ。
心臓がうるさくて仕方がない。偽の恋人よ。勘違いしてはだめ。それにしてもルバスール団長はどうしてあそこにいたのかしら。しかも普段とは全く違う態度で。
◇ ◇ ◇
10時になる前に時計台に向かうと、遠目に背が高い銀髪の男性が見えた。すでにルバスール団長がリラックスした姿勢で立っていた。そんな立ち姿なのに威圧感が隠せてない。頬を染めてチラッと見ていく女性達がいる。近寄りがたいが、容姿は抜群なのだ。
「申し訳ありません。随分お待たせしてしまったようで」
「いや、さっき来たところだ。おはようナタリナ」
「おはようございます、ルバスール団長」
私は戸惑いながら、軽くお辞儀をした。頭上から静かだけれど強い声が聞こえる。
「シルヴァン。今からは、そう呼べ」
「シルヴァン団長?」
慌てて顔を上げると、苦い顔をした団長と目が合った。不満そうだ。
「ただのシルヴァンだ。恋人だからな」
心臓が跳ねる。偽の恋人なのに、意外と乗り気な団長に困惑する。
「ご両親に会う前に、恋人らしくなっておかないとな」
「はい……シルヴァン……さま」
頼んだのは私だけれど、両親に会ってくれるの? シルヴァン様が相手なら誰も敵わない。団長なだけでなく、公爵閣下なのだ。身分で勝てるのはもう皇族くらい。
白いシャツに黒のスラックスのシルヴァン様が、私の手を取って歩き出した。え? 手を? 手!!
「あの! 団長!?」
「シルヴァンだ」
「シルヴァン様!」
顔が赤くなっていくのが鏡を見なくてもわかる。シルヴァン様の手の温かさが伝わってきて、意識しないわけにいかない。
「どこに」
「そうだな、今の姿も可愛いが服でも見に行こう」
可愛いですって!? この人はいったい誰なの? 職場との違いに混乱が止まらない。ルバスール団長と言えば、狂狼公爵と呼ばれるくらいに戦い出すと強い。訓練でも会議でも。普段は冷たいくらいに静かだから、その落差に驚くのだ。
「馬車を待たせてある」
大通りに出ると、家紋のない黒塗りの馬車が見えた。エスコートのまま乗り込むと、目に映るのは美しい布貼りの内装。ふかふかの座面に腰掛けると、なぜかシルヴァン様は私の隣に座った。
「なぜ隣に?」
「恋人は隣に座るものではないのか?」
不思議そうに聞き返されてしまった。人に見えないところでまで演技の必要はないと言おうとしたところだった。
「ああ、そういうことか」
合点がいったとばかりの声が聞こえたら、腰を掴まれ、膝の上に乗せられた。驚いて悲鳴を上げそうになって、なんとか飲み込む。心臓が爆音をあげだした。
「恋人は膝の上がいいとドニーが言っていた」
「ドニーってあの(人畜無害そうな同期の)」
「そう、あの(ナタリナの同期の)ドニーだよ。君のことを心配していたよ」
あの相談所を教えてくれたのもドニーだ。頭が考えることを拒絶している。確かに心配はしてくれていたが、これを知ったら面白がるような気がする。団長に何を教えてくれてるんだ。
思ったより早く着いたのが幸いで、膝から逃れられたと思ったら、ドレスショップでの採寸にぐったりした。
「これから食事に行くワンピースは、すぐ着れるものを選んでほしい。両親との顔合わせのドレス、夜会のドレスと婚約式のドレスは追って作ってもらうとして……それから……」
シルヴァン様がスタッフに次々と告げて、驚いた。
「シルヴァン様、そんなにどうして」
「ん? これから必要だろう」
「これから!?」
「俺が選びたいのだ」
そう言うとシルヴァン様は真剣に選び始めた。貯金はあるけれど、高級ドレスを購入したらあっという間になくなってしまう。ワンピースに着替える時、試着室でスタッフに聞いた。
「全部でいくらほどになりますか、請求書は……」
「あらあら、公爵閣下に恥をかかせてはいけませんわ」
含みのある笑顔で躱されてしまった上に、ワンピースを着たら、アクセサリーを着けられた。
「いつも公爵閣下のお母様に来ていただいているのですわ」
何も聞いてないのに、スタッフの方が教えてくれた。ちょっとこわい。
「似合う。ナタリナ、きれいだ」
「…………」
私が反応に困っていると、スタッフが代わりとばかりに口を開いた。
「お気に召していただき何よりですわ。バッグと靴はこちらでよろしいですか?」
「あぁ、いい感じだ。他のドレスもコーディネートしておいてくれ。今日はそのワンピースを着て、このまま出かける」
淀み無く決まるドレスに思考がついていかない。
「なん……で」
「ナタリナ、文句があるなら馬車の中で聞こう」
憮然とした声色なのに表情は微笑んでいて、わからない。いつも笑わないじゃないの!?
「ワンピース、ありがとうございます」
まずは、お礼を言わなくては。当然のようにシルヴァン様が払ってくれたのだ。
「あぁ、よく似合っている」
目を細めて、微笑むシルヴァン様。甘い雰囲気すら醸しているけど、まだ全然慣れないし、そろそろ心臓がもたない。
「偽の恋人にドレスは必要ありません」
「誰が偽だと言った?」
「え? まさか」
「誰でもいいと聞いたがな」
そのアイスブルーの瞳は獲物を狙うそれで、私は縮こまる。
「まだわからないのか」
突然、顔が近づいたと思ったら噛み付くようなキスをされた。いつの間にか頭は後ろから手で抱えられ、逃げることは敵わない。もう息がもたないかもと思った頃に、唇が離れ、倒れ込むようにシルヴァン様にもたれかかった。シルヴァン様の大きな手が静かに背中を撫でた。
「いい加減、わかってくれると嬉しいんだが」
シルヴァン様の優しい声音に、やっと現実を受け止めた。
どうしてこうなった?
◇ ◇ ◇
俺の事務官のナタリナが、たまに思い詰めた表情を見せるようになったのは一週間前のことだった。
実家から手紙が届いたのは知っている。『住所を知らせてないから職場に届いた』のだと言っていた。職場は身元確認のときに通知が行ったのだろう。そこまで疎遠になっていたのかと驚いたが、理由は聞けなかった。
さすがに心配になったが、本人に聞けない臆病者の俺は、ナタリナと仲のいいドニーを捕まえて話を聞くことにした。
「俺も心配なんですけど、話してくれないんですよ。顔見知りには話しづらいのかもしれませんね」
「そうか、顔見知りには……」
気落ちしたところ、明るくドニーが話し始めた。
「そんなに心配なら……いい考えが浮かびました!」
こいつは、当たり外れはあるが奇策を思いつく面白いやつだ。一見人当たりが良くて無害そうだが、そんなことはない。
「ナタリナには俺から、そこに行くように誘導しますから、団長はくれぐれも他人のフリですよ!」
「ああ、わかった」
「にこにこ笑顔でいたらバレませんって」
ドニーの案に乗った俺も俺だが、笑顔にするだけで他人とはどういうことだ。うまく行かなくても面談にはなるから、いいかも知れない。
知っている人だけが見つけられるという、ごく軽い隠蔽魔法をかけた仮店舗を用意した。知り合いの情報屋の店先を借りただけだが。
そこに、めかしこんだナタリナが訪れたとき、ドニーの奇策がうまく嵌ったことを確信して、自然と笑顔になった。
相談内容に俺は内心衝撃を受けた。ナタリナに婚約者ができた?
今までもこれからも俺の傍にいると思っていたのに、プライベートを知らなかったことに改めて愕然とした。しかも、恋人を紹介して欲しいと言う。
それなら、俺でいいじゃないか!
攻め時は間違えてはならない。逃さないと決めた瞬間だった。
◇ ◇ ◇
シルヴァン様とのデートの翌日、内心はドキドキしながら、いつもどおりに出勤した。髪を引っ詰めてまとめ、伊達メガネをかける。ボタンは上まで止めて、きっちり制服を着る。何も変わらないはずだった。
ところが執務室に着く前に、大きな声の噂話が聞こえてきた。
「団長に恋人ができたって聞いたか」
「金髪のどえらい美人と歩いてたって聞いたぞ」
「見た人がいるって」
昨日の件だ。澄ました顔をキープしているけれど、居た堪れない。シルヴァン様は噂を聞いているのだろうか。逃げるように早足で執務室に入った。
「おはよう、ナタリナ」
「おはようございます、ルバスール団長」
「……シルヴァン」
「仕事中ですから」
昨日のことが現実で、シルヴァン様が隠す気がないことを思い知った。恥ずかしすぎるではないの。嬉しさで口元が緩むのを抑えるように自分を叱咤する。
そんな中、シルヴァン様が事務的な声で聞いてきた。
「昨日、聞きそびれたんだが、ご両親はいつ来られるんだった?」
名前呼びのリクエストはあったけれど、今日のシルヴァン様の表情は落ち着いていて、私もギリギリ仕事モードになれるので良かった。内容は私用だけど。
「……王都には三日後くらいに着くと思うのですが、会う日は決まっていません」
「では、決まり次第教えてくれ。ナタリナなら、俺の予定も知っているだろう」
秘書のような仕事でもあるから、仕事の内容は把握しているけれど、それ以外は知らなかった。
「退勤後のプライベートまでは」
「では、今後は伝えるとしよう。今日の予定は?」
え? 教えてくれるの? 聞いていいものなの? 忙しく反応する心に気づかれないようにスケジュールを伝える。
「……はい、10時から夜会の警備に関する会議。12時半よりそのまま会食、午後は訓練の指導、15時より外務大臣の訪問予定です」
「10時までにこの書類の山を片付けるのか」
「そうなります」
「ナタリナ……」
「駄目です」
「……まだ何も言っていない」
「仕訳いたしますから、団長印はご自分で押してください」
仕方なさそうに書類に向かうシルヴァン様が少し可愛い。一昨日よりは空気の柔らかくなったシルヴァン様にキュッと胸が締め付けられる。
このままこの方の傍にいられる? いていいの? 戸惑いが期待に変わっていく。
でも好きだとは言われてない。部下の窮地のためにここまではしないわよね? 期待と不安でぐちゃぐちゃだ。
午後になって会食の終わったシルヴァン様が、不機嫌そうに戻ってきた。
「今日の夜は開けておけ」
「はい? どうしましたか」
「俺の両親に会って貰う。仕事帰りだから、そのままでいい。晩餐用のドレスは屋敷で着替えれば問題ない」
「……何かあったのですか?」
「たいしたことはない。会議で聞かれたから、ナタリナと結婚すると答えただけだ」
結婚!? しかも何か色々省かれた気がする。会議で何が? 今まで浮いた話のなかったシルヴァン様なので注目の的なんだろう。
「成人同士だ。書類を出してしまえば文句は言わせない」
「公爵閣下の結婚がそれでは問題が……」
「ないからな」
一足飛びに結婚なんて他人事みたいに聞こえる。
「ナタリナ?」
シルヴァン様が名前を呼ぶ声でやっと我に返った。
「私は、プロポーズされておりません!」
気持ちが限界になって、執務室から逃げ出した。
「ナタリナ!」
だけど私は逃げ出したことを数秒後に後悔することとなるなんて気が付かなかったのだ。騎士団の訓練所から庭園に抜けようというところだった。
腕を掴まれたと思ったら、耳をつんざく大声が降ってきた。
「ナタリナ! 結婚してくれ! 異論は認めないっ」
誰かの拍手の音が小さく聞こえて、それから歓声と大きな拍手になった。そうだ、シルヴァン様は暴走しがちな方だった。
このまま気絶する、か弱い令嬢なら良かったのにと思う瞬間だった。皆に祝われて、満足げなシルヴァン様は、にこやかに笑い、周囲に驚かれていた。
そうして迎えた公爵邸の晩餐では、もろもろバレていて、前公爵様と夫人に謝られてしまって困った。密偵でもいるのかしら。しかも婚姻届の用意までしてあった。手配が早すぎる。
「今日は泊まって、明日の朝に届けを出せばいいと思うわ。これでもう貴女のお義母さまね!」
という、夫人の言葉を断ることは出来なかった。公爵家、強引すぎます! いくらシルヴァン様が三十歳手前で、結婚を待ち望んでいたとしても、驚きの展開だ。でも、反対されなくて良かった。シルヴァン様の傍にずっといられるなんて夢みたい。
シルヴァン様は、私の気持ちの確認はしなかった。誰でもいいという私の言葉を真に受けたんだろうか。そこだけは気がかりだ。いつかはちゃんと気持ちを伝えたい。
◇ ◇ ◇
からかわれるかと思った公開プロポーズだったけれど、シルヴァン様の睨みが怖かったのか、静かだった。ドニーには『おめでとう』と言ってもらった。心配してくれて感謝だ。
「俺も訓練場でプロポーズしようかな」
などと真面目な顔で言うので止めておいた。恋人が気の毒だ。
そしてプロポーズ騒動から四日目の夜、ホテルのレストランで両親とシルヴァン様と会っている。お父様はシルヴァン様を見て冷や汗が止まらないのか、ハンカチを手放さない。
「ナタリナが手紙を置いて出て行ってから心配しない日はなかったんだ」
「もっとすぐにメリーは結婚すると思っていたのよ」
妹のメリーと元婚約者と私の三人は幼馴染で、二人が思い合っているのは知っていた。だけど跡取りが私だからと、私との婚約になったのだ。
「姉の元婚約者とすぐ結婚できるわけがないだろう。メリーもナタリナを心配していたし、もっと連絡をよこして欲しかった」
「それは……ごめんなさい」
「それでナタリナの婚約だが……」
「そのことだけど、私もうシルヴァン様と結婚していて。だから、お断りして」
そう言うと、お父様は明らかに困惑して言いづらそうな複雑な顔をした。
「あ、ああ……」
「そんなに断りにくい相手なの?」
「それなら俺の方から圧力をかけて……」
やり取りを眺めていたお母様が不思議そうに、だけど朗らかに言い放った。
「もしかしてシルヴァン様は何もご存じないの?」
「何のことですか」
「お相手のことを書かなかったこの人も悪いけれど、縁談があったのはルバスール公爵家ですよ」
「「は???」」
シルヴァン様も私も絶句するしかなかった。
「伯爵家の我が家には破格の良いお話だし、それなら安心だからメリーも結婚すると言って良かったと思っていたのに、あなたときたら恋人がいるとか言うから……」
「面目ない……」
「ごめんなさい……」
お父様が項垂れ、私も縮こまった。
「父母のこと、事情を知らず申し訳ないです」
やっぱりシルヴァン様も大きな身体を縮こませていた。母親が一番強いという事だろうか。公爵家で反対されなかった理由を知ることとなった。
「ところでナタリナはどこに住んでいるの?」
「近々、引っ越しさせますので、ご連絡は公爵邸におねがいします」
代わりにシルヴァン様が答えてしまった。結婚したから、そうなんだ。書類だけでまだ実感がない。
「婚約式は無理だったけれど、結婚式はしたいわね」
お母様の言葉にシルヴァン様が頷いていた。気を張って生きてきたけれど、これからはもっと周りを見よう。
私はシルヴァン様の袖を引いて耳打ちした。
「後で伝えたいことがあります」
シルヴァン様は少し驚いたようだけど、甘く微笑んだ。
今回のことで、あり得ないすれ違いってあるんだと実感した。だから勇気が萎まないうちに伝えたい。
仕事を辞めたくなかったのは、シルヴァン様の近くに居たかったからだと。
本物の恋人は誰でも良かったわけじゃないと。
シルヴァン様をお慕いしています。
その時の私はまだ知らない。
一週間後に結婚を理由に異動になって、その配属先が大層おモテになる第三騎士団長様の下で、シルヴァン様が一暴れするなんて。
ここまで、読んでくださりありがとうございます!
シルヴァン強引すぎ(笑)とかスレ違いに笑っていただけたら幸いです
ブックマークや★で評価いただけたら励みになります
こちらの作品は、オープンチャットの企画で七里様よりタイトルをいただきました。ありがとうございます。
七里さまの代表作は泣いちゃうような話で、とても素敵な話です
翠緑の司令官と金の指輪 〜戦地へ赴く天才司令官が「もし僕が帰れなくても」と弱音を吐いたので、腰に巻きつく腕を振りほどいて、窓の外にぶん投げました〜
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