第2試行 改行者
春日は夜の街を歩いていた。
いつもと変わらない、暗いネオンと薄汚れた路地。しかし、@22822を取った後だからだろうか。心なしか世界が明るく見える気がする。
ID探しに疲れた後ふと、ハルはただ気晴らしに散歩していた時だった。
そんなとき、黒いフードを深くかぶった女が目に入った。
誰にも気づかれないように、周囲を警戒しながらスマホを操作している。
春日は何となく気になって、その女をちらっと見た。
女がスマホをしまおうとした瞬間、春日の目にスマホの画面がわずかに映った。
そこには、二文字のIDが表示されていた。
「……二文字だと...?」
思わず声が漏れた。
女は振り返り、鋭く春日を見つめた。
「......」
春日は少し言葉を選びながら答えた。
「二文字で...その様子だと"改行者"か」
女は一瞬だけ動揺を見せたが、ハルに害意がないとわかると安堵した。
「……そうよ」
沈黙が少し流れた。
「私はなゆ、時間がないの。」
女はそう言って、周囲を警戒し始めた。
「俺はハル。手動者だ。手動でIDを探してる」
「そう...珍しいね」
なゆはさっきの不安そうな顔が嘘のように微笑んだ
自己紹介をしたそのすぐ後、遠くからエンジン音が近づく。
「セキュリティ・チーム、STが来たわ」
女の表情が一気に硬くなった。
「私は逃げなきゃ。」
女は振り返りざまに言った。
「さようなら、"手動者"さん」
春日は眉をひそめた。
「でも、お前、怪我してるだろ?あんた、一人じゃ無理だ」
なゆは首を横に振る。
「大丈夫。放っておいて」
だが、遠くから近づくエンジン音が明らかに迫っていた。
「そう言われても、見過ごせない」
春日は勝手に動き出した。
「一緒に逃げるぞ!」
なゆは驚いた表情で彼を見たが、抗う余裕はなかった。
二人は暗い路地を走り始めた、がSTが近づいてくるのを感じる。
「これでしばらくは追跡をかわす」
通信妨害装置、VPNを起動し、STの目をくらます。
なゆはしばらく静かに息を整え、やっと言った。
「……ありがとう。でも、これ以上は迷惑かけたくない」
春日は苦笑いを浮かべた。
「助けるのに迷惑なんてないさ」
彼女の持つ、改行で取得した二文字IDを知っている春日。
「お前のID、ただの二文字じゃないだろ。だから見過ごせなかった」
「で、助けてくれたのは嬉しいけどアテはあるの?」
「この辺に仲間の拠点がある。そこに当分は隠れられるはずだ。」
ようやく暗い路地を2人は抜け、工業地帯に駆け込んだ。




