第11試行 ツールハブ、崩壊
暗い地下施設の入り口で、四人は最後の打ち合わせを行っていた。
「内部構造はこっちで把握済みだ」
げーみんぐが端末を操作しながら説明する。
「物理サーバーは最下層。中央セクションの隔壁を越えたらすぐだ」
「問題はSTだな」
ハルが警戒の目を細める。
「奴らもツールハブの破壊を阻止するために動くはずだ」
「STが本格的に動くのは明日以降だろう」
げーみんぐが分析する。
「だが下っ端や巡回ボットは既に配置されている可能性が高い」
「僕が案内する」
ねぐが前に出る。
「ツールハブに操られていた時の記憶……システムの脆弱点が分かる」
「よし、行くぞ」
四人は暗闇の中へと踏み出した。内部は予想通りSTの小型ドローンが巡回していたが、げーみんぐの遠隔操作によってシステムに偽装情報を流し込み、彼らの存在を隠した。
「ここだ……」
最下層に到達すると、巨大なサーバーラックが立ち並ぶ部屋が広がっている。その中心に鎮座するのはツールハブの物理コア──球体型の金属装置だった。
「パスコード認証が二重になってる」
げーみんぐが言う。
「普通なら解除に最低15分はかかるが...」
「僕に任せて」
ねぐが前へ進む。
「ツールハブと同調していた時の感覚……まだ残ってる」
彼が端末を装置に接続すると、青いライトが激しく明滅し始めた。複雑な数字とアルファベットが画面を踊る。
「来た……!」
突然、通路のスピーカーからSTの警告音が響いた。
「侵入者検知。セキュリティレベル3。武装ドローン発進……」
「まずい!」
なゆが叫ぶ。
ハルが即座にスタンガンを構える。
「ここは俺が食い止める。げーみんぐ、サポートを!」
「了解!」
通路から黒いドローン群が現れる。鋭利な刃と光学センサーを搭載した最新鋭モデルだ。ハルは最小限の動きで初撃をかわし、電流を込めた一撃で一体を撃墜する。
「二体目も来るぞ!」
げーみんぐの声。
空中で回転するドローンを紙一重で避けながら、ハルは再びスタンガンを振るう。高電圧が金属装甲を貫き、機体が火花を散らして墜落した。
その間、ねぐの作業は順調に進んでいた。
「第一認証解除完了……第二認証は……」
彼の額には汗が滲んでいる。極度の集中が要求される作業だ。
「あと30秒で完全ロックダウンが始まる!」
げーみんぐが警告する。
「急げ!」
「分かってる……!」
ねぐの指が高速でキーボードを叩く。画面に最後の暗号が表示され、彼は迷うことなくコードを入力した。
「認証突破……!」
装置全体が赤く発光し始めた。
「破壊プロセスを開始……」
最終コマンドを打ち込んだ瞬間、サーバールームの非常灯が点滅し、隔壁が急速に閉まり始めた。
「撤収だ!」
ハルが叫ぶ。
四人はドローンを振り切りながら通路を駆け抜けた。背後で轟音が響き、赤い光が膨張して消えていく。
「ツールハブ、完全停止確認」
げーみんぐの端末に通知が表示された。
「やったな……」
ハルが安堵の息をつく。
「まだまだ終わりじゃない」
ねぐが言いながらも、緊張から解放された顔には笑みが浮かんでいた。
「とりあえず拠点に戻ろう」
なゆが提案する。
「今日はみんな休んだ方がいいと思う」
地下施設を脱出し、夜の街を走り抜けてげーみんぐの拠点へと戻る。古びた倉庫の扉が閉まると同時に、全員が床に座り込んだ。
「なんとか乗り切ったな……」
ハルが壁にもたれかかり、天井を見上げる。げーみんぐは端末をチェックしながら頷いた。
「STの追跡網はしばらく誤作動するはずだ。奴らが真実に気づくまで数日は稼げる」
「よかった……」
なゆが膝を抱えて呟く。
「ねぐも無事で」
「おかげさまでね」
ねぐは妹の頭を優しく撫でた。
「ありがとう」
沈黙が流れる。張り詰めていた空気が緩み、疲れが一気に押し寄せた。げーみんぐが立ち上がる。
「今日はもう休もう。明日からは……」
「日常が戻ってくるんだな」
ハルが笑う。
「久しぶりにまともな睡眠が取れそうだ」
「僕はお茶でも淹れるよ」
ねぐが立ち上がった。
「みんな疲れてるだろうから」
「ありがと……」
なゆが小さく微笑む。
外は朝日が昇りかけていた。長い一日が終わったが、それは同時に新しい一日の始まりでもあった。
ツールハブの脅威が去り、STの追跡も一時的に抑えられた今、束の間の平穏が訪れようとしていた。




