表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
@last_hand  作者: last_hand
10/12

第10試行 ねぐを奪って逃げて逃げて

夕焼けが廃工場を赤く染めていた。瓦礫の山と化した空間で、ねぐは震える指先を見つめている。

まだ自分の身体を取り戻したばかりで、ツールハブの残滓が脳裏にちらつくのか、額に脂汗が滲んでいた。


「無理するな。今は休んでていい」


ハルはねぐの肩にそっと手を置いた。なゆが心配そうに彼の背中を擦る。


「ねぐ……ほんとに大丈夫? 無理しないで」


「ありがとう……でも、時間がない」


ねぐは辛そうに立ち上がった。まだ身体はふらついているが、瞳には強い意志が宿っている。


「ツールハブが完全に停止したわけではない。本体が物理サーバーにある以上、いずれ復活する。それに、僕がこのままここにいれば……STが来る」


「ST……!」


なゆの顔が曇る。政府の監視網から逃れたばかりなのに、再び捕まるわけにはいかない。


「どうする……?」


「げーみんぐの拠点に一時退避だ。そこならまだ安全圏だ」


ハルが提案する。ねぐも頷いた。


「分かった。ただ、その前に一つだけ……」


「何だ?」


「ツールハブのバックアップコードが僕のポケットに入っているはずだ。完全削除するか、管理下に置くかは後で考えよう」


なゆがねぐの懐を探ると、USBメモリが出てきた。表面には微細なLEDが点滅しており、今もまだ機能しているのが分かる。


「これが……」


「気をつけて。中身は複数の独立プロセスに分割されている。下手に扱うと暴走する恐れがある」


げーみんぐの声が通信機から響いた。


「おい、無事か? こっちの準備は整った。すぐ来い」


「了解。行こう」


三人は急いで廃工場を出る。夕暮れの街は静寂に包まれていたが、遠くでサイレンの音が微かに聞こえた。STの追跡網がじわじわと迫っている証拠だ。


「こっちだ」


ハルが先導し、裏路地を縫うように進む。なゆがねぐを支えながら続く。ねぐはまだ足元がおぼつかないが、時折深呼吸をして意識を保っていた。


「なゆ……ありがとう。助けてくれて」


「当たり前でしょ。双子なんだから……!」


なゆの声が湿る。ねぐは優しく微笑んだ。


「ツールハブに乗っ取られたとき……夢の中でずっと呼んでるのが聞こえたよ。お前の声も、ハルの声も……だから目が覚めたんだ」


「バカ……! 心配したんだから!」


「ごめん……」


路地を抜けた先、薄汚れた倉庫が見えてきた。げーみんぐの隠れ家だ。


「あれか……」


「ああ。あいつなら必ず扉を開けてくれる」


ハルが倉庫の側面にある古い電子錠を叩くと、低い起動音とともに扉が開いた。内部は驚くほど整然としており、サーバーラックとモニター群が立ち並んでいた。


「遅かったな」


げーみんぐが椅子から立ち上がり、三人を迎える。彼の手にはコーヒーカップがあったが、中身は既に冷め切っていた。


「無事でよかった。こっちもツールハブのメインプロセスを一時封鎖した。だが完全に消すには時間と手順が必要だ」


「お願い……僕のせいでみんなを巻き込んだ……責任は取るから……」


ねぐが頭を下げる。げーみんぐは肩をすくめた。


「そんなこと考えるな。まずはお前が無事でいることの方が大事だ」


「……ありがとう」


なゆがねぐの腕をそっと掴んだ。兄の存在を確かめるように。


「これからどうするの?」


ハルが尋ねる。げーみんぐはモニターの一つを指差した。そこには複数のチャートとマップが表示されている。


「ツールハブの中枢はここのサーバーに接続されている。これを完全削除するためには、物理的にアクセスする必要がある」


「また物理サーバーか……」


「ああ。ただし、今回は前回と違う。ツールハブは既に僕らの手中にある。問題は……」


「STの追跡網だな」


ハルの言葉にげーみんぐが頷く。


「あいつらもツールハブの重要性に気づいているはずだ。だから、時間との勝負だ」


「つまり……?」


「今夜中に物理サーバーを破壊する。僕はここでバックアップを処理する。ハルとなゆ、そしてねぐに現場での破壊を頼みたい」


ねぐが目を見開く。


「僕も……?」


「お前の力を借りる必要がある。ツールハブと同期した記憶やコードがお前の脳内にあるはずだ。それが鍵になる」


ねぐは一瞬ためらったが、すぐに決意を固めたように頷いた。


「分かった。行こう」


「私も!」


なゆも声を上げる。


「待て、お前は……」


「ねぐだけ危ない目に遭わせられない! それに……私のIDだっていつ狙われるか分からないもの」


げーみんぐは少し考えてから苦笑した。


「分かった。だが、絶対に無茶はするなよ」


ハルが肩をすくめる。


「さっさと終わらせようぜ」


四人は急ぎ準備に取りかかった。夕闇が深まる中、新たな戦いへの幕が開こうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ