第7話 萌加 「放課後 」
私は寮生だから、学校が終わると遊びにでも行かない限り、
同じ敷地内にある徒歩一分の寮へまっすぐ帰る。
龍聖もナツミも健次郎もそうだけど、最近は、
龍聖は1ヶ月くらい前から付き合い始めた彼女と頻繁にデートしてるし、
ナツミは頻繁どころか、毎日「本屋さんの彼」に会いに行っている、いや、見に行っている。
お陰で私はすっかり暇人だ。
健次郎が遊びに誘ってくるけど、二人じゃつまんないし。
「じゃーな、神楽坂」
「さよなら」
と、言ってから気づいた。
本城だ!
しまった!もうちょっと何か話そう・・・
そう思った時には、本城はもう廊下の向こうに歩いて行ってしまっていた。
ああ・・・せっかく声をかけてくれたのに。
でも、それもそのはず。
「今日は何しようかな」とか考えながら、ボーっと教室の入り口に突っ立っていたんだから、
本城もさすがに無視しては行けなかったんだろう。
だけど嬉しい。
私は教室の窓から、
本城が校門へ歩いて行くのを見つめた。
今日は部活がないのか、まっすぐ帰るようだ。
本城は、堀西では珍しい、と言うか、多分本城だけだと思うけど、電車通学だ。
校舎から校門までも、校門から駅までもかなりあるけど、
本城は毎日歩いている。
これもきっと、お世話になっているお家の人の負担を減らすためだろう。
だけど、ランチといい徒歩通学といい、本城は嫌な顔一つしない。
私だったら恥ずかしくて、もう学校に来れないだろうけど。
でも、それが本城のいいところ。
そうだ・・・!
私は鞄をつかむと、急いで教室を飛び出した。
「萌加。どっか行かね?」
「行かない」
健次郎をスルーして、私は階段を駆け下り、校舎を出て校門めがけて走った。
・・・いた!
校門から少し行ったところに、本城はまだいた。
でも、「そうだ」と思いついてここまで来たのはいいものの、
この後どうするか特に考えていた訳じゃない。
「一緒に遊びに行かない?」って誘ったら、来てくれるかな?
「金ないから」って断られちゃうかな?
「お金なら私が出す」って言ったらOKかな?
でも、そんなの嫌がるかな?
ううん。私がそうしたいんだから、本城は嫌がらないはず。
折り詰めだって、喜んで受け取ってくれるもの。
問題はお金じゃなくって、本城が私とデートしてもいいと思っているかどうか。
私は、まるで怪しい人のように本城の後ろをつけ、
ジリジリと距離を縮めた。
・・・よし、声をかけよう。
そう思った瞬間。
ふいに本城が足を止めた。
気づかれた?
でも、本城は腕時計を見ると、今度は急にパッと駆け出した。
え?何?何なの?
訳がわからず、私は本城の後を追った。
足には自信がある。
でも、本城のスピードは半端なかった。
別に全力疾走している風じゃないのに、滅茶苦茶速い!
私は本城の姿を見失わないようにするので精一杯だ。
だけど本城の行き先はわかっている。
学校の最寄のK駅だ。
私は電車なんか使ったことないけど、本城が電車通学を始めてから
(中学2年までは、本城も送り迎えしてもらっていた)
学校の近く・・・と言っても、歩いて20分程もかかるけど・・・にK駅という駅があるのを知った。
案の定、本城はK駅の改札に向かって走っていた。
もう私との間にはずいぶん距離ができてしまったけど、かろうじて本城が見分けられる。
私はK駅に近づくと、なぜだか近くのお店の看板の陰に隠れた。
どうしよう。さすがに電車の中までついていったら変だよね?
でも、せっかくここまで来たんだし・・・
本城が歩調を落とし、制服のポケットに手をつっこんだ。
そうか、本城は電車通学だから定期を持ってる。
きっとポケットから定期を出して、このまま電車に乗るんだ。
私も後を追うなら、切符を買わないと。
ちなみに「定期」やら「切符」やらの知識が私にあるのも本城のお陰だ。
龍聖たちはその存在も知らないだろう。
だけど、本城はポケットから手を出さず、そのまま改札へ向かった。
そして・・・
改札の前に立っている女の人が、本城に向かって手を上げた。