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quartet  作者: 田中タロウ
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第6話 龍聖 「完璧な女」

放課後、ナツミが凄い勢いで教室を、いや、学校を飛び出して行った。

何から何まで鈍いナツミにしては、信じられないスピードだ。


萌加に聞いたけど、どうやらナツミはどっかの一般庶民に一目惚れしたらしく、

けなげにも毎日その男に会いに行っているらしい。


いや、本当に「会ってる」のか?

単にナツミがこっそり見てるだけじゃないのか?

それって所謂ストーカーだと思うんだが。


ま、俺には関係ないけど、普段オトボケキャラで場の雰囲気を明るくしてくれるナツミが落ち込んだりすると

昼飯食ってる時つまんないんだよな。


それとなく注意してやった方がいいかもしれない。

どうせそんな恋は報われないんだし。


それに、俺の恋も・・・



「龍聖」


待ち合わせのレストランの中に彼女の声が響いた。

と言っても、彼女は大きな声を出した訳じゃない。

声が響いたように聞こえたのは俺だけだろう。


だって彼女の声だから。


彼女は店員に案内されて、俺がいるテーブルにやってきた。


白い半袖のニットにタイトスカート。

それに薄いピンクのコートを羽織っている。

胸元には、小さな、それでいて強く輝く宝石のネックレス。

どれも一目でそれと分かる、高級ブランド品だ。


彼女はラフな格好をしない。

いつもOL風のきちんとした格好をしている。


そして・・・美人だ。

萌加も美人だとは思うけど、彼女にはとても敵わない。


今まで俺が見た女の中で、ダントツで一番。

これは俺の欲目じゃない。


「愛」

「ごめんね、遅れて。講義の後、教授と話していたの」


教授って男?

そう聞きたかったけど、そんなのは余りにも子供染みた発言だと思い、なんとか思い留まった。


俺は無意識にネクタイの位置を正した。

制服のネクタイじゃない。

きちんとしたスーツのネクタイだ。


こういうスーツ姿じゃないと愛には釣り合わない。


自分でも、背伸びしてるな、と思う。

だけど何もかも完璧な愛と付き合うには、これくらいの努力は必要だ。



愛は、間宮財閥という財閥の一人娘。

同じ財閥でもナツミの家の寺脇コンツェルンとは訳が違う。

間宮財閥は日本で一番大きな財閥だ。


当然愛も堀西高校の卒業生だけど、堀西短大にも堀西大学にも進学せず、

外部の普通の大学を受験し、合格した。

しかも、かなりレベルの高い大学だ。


どうしてそんなことをしたのか愛は教えてくれないけど、

そういう訳で愛は頭もいい。

顔もスタイルも完璧。


俺は初等部の時から、愛に憧れていた。

でも5歳も年上の愛が、俺なんて相手にしてくれる訳もなく。



愛の唯一の欠点、というか、まあ仕方のないことだけど、愛は男の回転が速い。

まさに「次から次へ」と言う感じ。

それも男のタイプは様々で、どう見ても色んな種類の男との付き合いを楽しんでいる。

その証拠に、同じタイプの男とは絶対に付き合わない。


そんな「愛の男コレクション」の中で欠けていたのが「年下の男」だった。

そこにちょうど俺が当てはまった。


1歳や2歳どころじゃなくて5歳も年下。

金も持ってる。

どんなもんか、ちょっと付き合ってみるか。


愛にしてみれば、そんなところだろう。


いついきなり「もう別れましょ」と言われるか気がきじゃない。

だけど、それでもいい。

例えほんの一瞬でも、愛と一緒にいられるのなら。


ダメ元で、春休みに告ってみて本当によかった。

今まで散々「遊び人」と言われてきた俺だけど、ようやく本命をモノにできたんだ。

先のことは考えず、とにかく今を楽しもう。



「龍聖?オーダーしないの?」

「あ。ゴメン」

「私が頼んでいい?」

「もちろん」


ここは普段愛が使っているようなお高いレストランではない。

俺がデートに使うレベルのレストランだ。

(もちろん、普通の高校生が入る店じゃないけど)

だから愛にとって、店のサービスも味も満足行くものじゃないだろう。


でも、愛は俺に合わせてこういう店に付き合ってくれる。


そして注文する料理も、一応フルコースではあるけど、これも俺レベルのコース料理。



俺が支払いに困らないように気を使ってくれている・・・訳ではない。

いくら俺の家が愛の家に比べて金がないとは言え、

愛とのデートくらい、どれだけ贅沢しても俺は支払える。


愛が俺にこうやって気を使ってくれるのは、

俺が変に緊張したり、

愛について行けなくなることが、ないようにだろう。


実際に、デートの支払いは全部愛持ち。

いくら俺が払うと言っても、1円たりとも出させてくれない。

愛が払うなら、それこそどんな高い店でもいいだろうに、

敢えて安い店を選んでくれている。



やっぱり愛は、俺が想像してた通り完璧な女だ。





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