表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
quartet  作者: 田中タロウ
2/28

第2話 龍聖 「彼女」

「毎日毎日、よくやるよなー」


健次郎がため息をついた。

でもそれは嫉妬から来るため息ではなく、本当に呆れている、という感じだ。


いや、呆れられるのはお前の方だから。

鈍いったらありゃしない。


でも俺は、わざわざ健次郎の機嫌を損ねる必要もないと思い、

適当に「ほんとだな」と、相槌を打った。


だってこいつ、キレたらちょっとヤバイ。


それなのに、健次郎に負けず劣らず鈍いナツミが首を傾げて言った。


「でも、萌加、どうして『餌付け』なんてしてるんだろ?」

「そりゃアイツを、自分のペット、つーか、便利屋にしておくためだろ」


健次郎が鼻を鳴らした。

おいおい、本気でそう思ってるのかよ。


「そう?でも、萌加がアノ子に命令してるのとか聞いたことないなあ」


そりゃそうだ。

「コイツは私のペットよ」みたいな雰囲気をわざと振り撒いてはいるけどな。


だけど相変わらず鈍い健次郎は「そーかあ?」とか言ってる。



村山健次郎は、堀西の中でもちょっと特殊な存在だ。

親がホテル王・・・正確にはラブホテル王だから、ってのが大きな理由。

早い話が、ちょっとヤクザな家なのだ。

いや、家自体は立派に普通の大金持ちだけど、親父さんの仕事上、

ヤクザなんかと関係があったりするらしい。

「由緒正しい」の手本みたいな俺の親からみたら、健次郎の家はかなり野蛮だろう。


だけど、俺はなんだかんだ健次郎といることが多い。

バカだし鈍いし、どうしようもない奴だけど、

自分と違うタイプ過ぎて、見ていて面白い。

口さえ開かなきゃ、見た目はそこそこいいんだけどな。



もう一方の鈍いお嬢様・寺脇ナツミは、それこそうちの親も「これは、これは」

と頭を下げるほどの「由緒正しい」お嬢様。

それも、神楽坂萌加みたいな高飛車なお嬢様じゃなくて、正真正銘の箱入り娘だ。

世間を知らなさ過ぎるって言うか、純粋過ぎるって言うか。


まあ、俺から見ればナツミも健次郎同様「バカ」の部類に入る。

そういう意味じゃ、萌加は頭がいい。いや、計算高い。

例の「餌付け」を見ていてもわかる。


だけど、さすがの萌加もこればかりは相手が悪い。

一見、萌加が主導権を握っているようで、実はアイツが萌加を操っているんだと思う。

萌加もそれに気づいているだろうけど・・・ま、惚れた弱みってやつだな。


って、俺も人のことは言えない。



「ねえ、そういえば、龍聖は彼女とどうなの?」

「・・・」


ほらきた。

ナツミって、ボケボケしてるくせに、たまにこうやって鋭いこと言って来るんだよな。


でも俺はいつも通りの「王子様スマイル」(萌加がそう呼んでいる)で答える。


「ああ、うまく行ってるよ」

「さすが、龍聖だな。5歳も年上なんだろ?えーっと、今、大学2年生?」

「3年生だ」

「あ、そっか」


足し算くらい頑張れよ、健次郎。


「でも龍聖はかっこいいから、彼女も龍聖に夢中なんだろうね」


ナツミがまた無邪気にドキッとすることを言ってくる。


夢中?彼女が?俺に?

そんな訳ないだろ。

夢中なのは俺の方だ。

彼女にとっては俺なんて、コレクションの一つに過ぎない。


だけどやっぱり俺は相変わらずの笑顔で「もちろん」と答えた。



ちょうどその時、彼女からメールが来た。

俺は一応二人に断ってから携帯を開く。

別に何も言わずに携帯いじったっていいんだけど、

こういうことをきちんとしないと、俺はなんか嫌なんだ。


「今日、会える?」


会える?だって?

もちろん!

俺が彼女からの呼び出しを断ったことなんて、一度だってない!


彼女だってわかってるくせに、「会いましょ」じゃなくって「会える?」とメールしてくる。


彼女の本心は俺も知ってるのに・・・

それでも彼女のこんなところをかわいいと思ってしまい、

心底喜んで「会えるよ」と返信してしまう俺。




ほんと、萌加のことは言えないよな。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ